御解迦説話集

ふかふかね

王様と

ある時、ある国の王様がある山へと狩りにやって来られました。そしてそこに住んでいる一人の猟師と出会ったところ、その王様はある事に気が付きました。その男は王様よりも一回りも二回りも若く、身なりも非常に立派であったにもかかわらず、王様の方がはるかに富んでいるように見えたからです。それで王様は尋ねてみました。「何故お前はそんなに裕福なのか?」すると若者は答えたものです。「王様には私の持ち物が見えていないのでしょうか? 私にはたくさんの財産があります。それもすべて私の父が遺してくれたものなのでございます」王様はこの言葉にすっかり腹を立ててしまいました。「ふん、生意気な奴だ! わしより豊かな暮らしをしているくせに生意気だ!」王様はそう言って怒り狂いながら帰って行かれました。そして自分の宮殿に着くと、さっそく召使いを呼びつけ、言いつけました。「誰かこの者の首を刎ねよ!」ところがその召使いがいくら探しても、どこにも見つかりません。それで仕方なく、別の召使に命じて探させました。ところがこの者も見つけられないものですから、とうとう王様は自分で探しに行くことにしました。
王様はまず最初に宝物庫の中を調べてみることにしました。ところがどの宝玉を見ても一つとして欠けたところがなく、全く磨かれたように美しく輝いています。次に金の杯などを見ましたが、こちらもピカピカ光っていますし、これも一つとして割れていません。次に銀食器や宝石箱なども調べましたが、どれも同じように綺麗で素晴らしいものばかりです。最後に一番奥にあった棚を開けてみたら、その中に立派な木箱が置かれており、その中には黄金の剣が入っておりました。それは鞘から抜いてみると、まるで鏡のように光り輝いているではありませんか。つまりこの国で一番高価な品物である金や銀の品々でさえ、ここではくすんで見えるほどなのです。
そこで王様はすっかり機嫌を直して、さっきの出来事を笑い飛ばすことができました。それから今度は町に出て行って、人々が持っている様々な品物を調べて見ることにしたのです。けれどもどこへ行っても、みんな一様に輝きを失っており、中には色あせているものもあるのです。そこで今度は家々を訪ね歩いてみることにしました。するとそこも同じように暗く沈んでいるのです。やがて王様は一つの家に辿り着きました。そこの主人はちょうど庭の手入れをしていたのですが、やって来た王様に気が付いて挨拶をしようとしたところ、その王様の顔を見るなり震え上がってしまいました。なぜなら王様の顔は青ざめていて、血走った目をしていたからです。そこで主人は恐る恐る尋ねました。「一体どうなさったのですか?」すると王様は答えました。「わしは今とても腹が立っているのだ! わしの城でもそうだ! 全てのものが汚れてしまっておる! 何もかもがくすみきっているのだ!」そしてさらに続けて言ったものでした。「わしがあれほど大切にしてきた黄金までが! あれはこの世に二つと無いものだというのに! それが今やあんな汚い色に染まってしまった!」そしてさらに続けて言いました。「お前の家には何があるのか見せてみろ!」そこで主人は家の扉を開け、中へ入りました。するとそこには見事な家具や美術品が置かれていたのですが、それらはみな茶色く変色しており、さらにはひどく錆びついているのでした。

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