御解迦説話集

ふかふかね

それから三年目のこと

このようにして、迦葉尊者のお師匠である芽連尊者と、阿易尊者のお師匠である迦葉尊者とは、やっと悟りを開いて、弥勒仏を礼拝する事が出来たのでございます。その後、お二人は約束通り、それぞれ自分の家に帰りましたが、その途中、ある山の上で休んでいましたところ、ふと下を見ると一人の女が赤ん坊を抱いて泣いておりました。何でも訳を聞くと、夫は山賊に殺されてしまい、自分も命を落とす寸前だという事でした。それでお二人は同情し、いろいろ相談の上、その女を助けてあげる事にしました。女は喜び、毎日一生懸命働いてくれたのですが、それでも日々の生活はとても楽ではなかったので、ある日のこと、二人は女に申されました。『私たちの寺へ来て一緒に暮らしなさい』と。ところが女は、自分はとてもそんな身分ではないと言って断わり、それから後も二人のために働き続けました。
さて、それから三年目のことでございました。ちょうどその頃、天人が天竺にある帝釈天の像を運んで来ることになっておりました。そのため、帝釈天の像を安置する部屋を作るために、たくさんの木材が必要になったのです。ですから二人が住む家のすぐ前を流れる川の土手を切り崩す事になったのですが、それを知って女は悲しみました。なぜなら女の家は川の近くにありましたから、川の水量が減ったり流れが速くなったりしたら、たちまち水に浸かって家を失ってしまうからです。そこで女は二人に申し上げました。『私をどうか菩薩としてお迎え下さいませ。そうすれば私もあなた方と同じ立場になることが出来ますから』と。そこで二人は考え、この女を連れて行きました。そして三人で、いつもお世話になっている寺の境内で、如来様の仏像を拝み、経文を唱えて、供養をしたのでございます。そうしますと不思議なことに、三人の周りにあった草木がどんどん枯れてしまったのです。まるで土までカラカラになってしまったように……。
三人はそれを見て驚きました。そして三人の中で、一番年上だった迦葉尊者が尋ねました。「これはどうしたことでしょう。もしや私たちは、何か間違ったことをしてしまったのでしょうか」と。すると目連尊者が答えられました。「いや、そうではないよ。ただお前が知らなかっただけだ」と。
実はこの川は、昔から竜神の通り道でした。つまり龍の道なのです。したがって水が干上がるということは、すなわち川が涸れるということなのであります。そして三人が行ったことは、まさにその逆のことをしていたのであります。つまり川を枯らすのではなく、逆に水を溢れさせたのでありました。それというのも、三人ともたいへん徳の高い僧だったからです。そしてそのことが天に知れ、やがて帝釈天の像が到着いたしました時、御解迦様は彼らにおっしゃいました。「あなたたちはどうして、こんな所にいたのですか?」と尋ねられたのです。すると彼らは申しました。「はい、私たちが住んでおりますところは、すぐそばの山の下でございますので、もし洪水などが起こったら大変でございますから、こうしてお願いしておりました次第です」とお答えになりました。
それを聞いて、御解迦様は大層喜ばれまして、「あなたがたのような立派な人たちが居てくれたおかげで、私の願いも叶ったも同然だ」と言われました。というのは、彼らの住んでいる近くに、大きな池があったのですが、それがすっかり乾いてしまい、魚も一匹も棲んでいないような状態だったのでございます。そこで人々は困り果てておりましたところへ、彼らがやって来たというわけでした。そこで御解迦様がおっしゃった事は、次のようなものでした。「これからはいつでも、好きな時に私の所へおいでなさい。そして私によく仕えるように……」と言われたのでございます。その時以来、彼ら三人の僧侶たちは、このお寺に住むことになったのでございます。

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