『問』の答えと、その問いに関するもの。
しかるのちに
或声 それで、お前の微笑はどこへ行つた?僕 さあ、どこでしょうか? 或声 そんなものはどこにも無いのだ。そんなものは最初から存在しないのだよ。
僕 そんなことはありませんよ。現にあなたは今も僕の前にゐるではないですか。
或声 さうだ。私は今お前の前にいる。だがお前はそれに気附いてゐないではないか。お前が見ているのは私の幻に過ぎないのだから。
僕 そんなことはありません。僕はあなたのことをよく知つてゐます。あなたほど僕のことを理解してゐる人はいませんから……。
或声 いいや、違ふよ。お前は私のことを何一つ知らないのだ。それなのに何故、私のことを信じることが出来るのか?
僕 それはあなたが優しい人だからです。
或声 どうしてそう分るのかね? 私の言葉に嘘がないとどうして分かるのか? 私の言葉は嘘ばかりだといつたらどう答へるのだ? 私の言葉を信じることが出来ぬなら、どうして私の言葉を信じようと思ふのか? 私の言うことは全て出鱈目かも知れないのだぞ。
僕 それでも信じませう。
或声 信じない方がよい場合もあることを知れ。
僕 それでは信じません。
或声 それではどうする積りかね? 僕 僕はただ待ちます。
或声 いつまで待つのだ? 僕 いつまでもです。
或声 それではお前は死ぬまで待つことになつてしまふ。
僕 それでいいのです。僕は死んでも待つつもりでゐます。
或声 馬鹿な奴だ。
僕 僕は馬鹿です。
或声 お前は死ぬことが怖くないのか? 
僕 死ぬことは怖ろしいです。しかしそれより怖いことは、僕が何も出来ず、誰も助けることが出来ないことです。
或声 何も出来ないことはない。お前は今まで充分過ぎる程によくやつて来たではないか。
僕 そんなことはありません。僕はただ自分一人の力で何とかして来ただけです。もし僕が何も出来なくなれば、その時は本当に終わりだと思ひます。そして僕の周りの人たちに迷惑をかけることになるでしょう。しかしその時、もしも僕が死んでしまえば、何の問題もなくなつてしまひます。僕が死んだ後では何も困ることはあり得ませんからね。だから僕が死んだら、それは本当にいいことなのです。しかし僕が死ぬ訳には行きませんので、今の儘では僕が死んで終ふといふことは絶対にあり得ません。ですから僕の死は永遠に来ないかも知れませんね。
或声 そんなことはないだろう。お前は自分が死んだ後の世界に希望を持つことは出来ないのかね?僕 そんなことがあり得るのですか? 
或声 ああ、それは可能だらう。だから私がお前を死なせてやろうとしても、無駄骨に終はることになつてしまう訳だ。
僕 それならあなたのお力を借りるわけにはいきませんね。
或声 そうだな、私はもう帰ることにしよう。お前も早く帰った方がいいぞ。
僕 僕も帰らなければならないのですか? 或声 ああ、そうだとも。早く帰らなければ、また大変なことになるかも知れんからな。
僕 あゝ、分かりました。僕もそろそろ帰ります。今日はどうも有り難うございました。
三 或声 私はもうお前に会うこともないだらう。
僕 僕ももう二度とお目にかかることはないでせうね。
或声 それがよいのだ。お前とは二度と会はないだらう。
僕 あなたとは二度会う機会もなさそうですね。
或声 さうだ。お前と会うことは、私にとっても、お前の友達にとっても、良い結果を齎さないだろうから……。
僕 どうして僕と会ったら、あなたのお友達も良くない結果になるとおっしゃるのですか? 或声 いや、それは何でもないことだ……。
僕 そうですか……。
僕 そんなことはありませんよ。現にあなたは今も僕の前にゐるではないですか。
或声 さうだ。私は今お前の前にいる。だがお前はそれに気附いてゐないではないか。お前が見ているのは私の幻に過ぎないのだから。
僕 そんなことはありません。僕はあなたのことをよく知つてゐます。あなたほど僕のことを理解してゐる人はいませんから……。
或声 いいや、違ふよ。お前は私のことを何一つ知らないのだ。それなのに何故、私のことを信じることが出来るのか?
僕 それはあなたが優しい人だからです。
或声 どうしてそう分るのかね? 私の言葉に嘘がないとどうして分かるのか? 私の言葉は嘘ばかりだといつたらどう答へるのだ? 私の言葉を信じることが出来ぬなら、どうして私の言葉を信じようと思ふのか? 私の言うことは全て出鱈目かも知れないのだぞ。
僕 それでも信じませう。
或声 信じない方がよい場合もあることを知れ。
僕 それでは信じません。
或声 それではどうする積りかね? 僕 僕はただ待ちます。
或声 いつまで待つのだ? 僕 いつまでもです。
或声 それではお前は死ぬまで待つことになつてしまふ。
僕 それでいいのです。僕は死んでも待つつもりでゐます。
或声 馬鹿な奴だ。
僕 僕は馬鹿です。
或声 お前は死ぬことが怖くないのか? 
僕 死ぬことは怖ろしいです。しかしそれより怖いことは、僕が何も出来ず、誰も助けることが出来ないことです。
或声 何も出来ないことはない。お前は今まで充分過ぎる程によくやつて来たではないか。
僕 そんなことはありません。僕はただ自分一人の力で何とかして来ただけです。もし僕が何も出来なくなれば、その時は本当に終わりだと思ひます。そして僕の周りの人たちに迷惑をかけることになるでしょう。しかしその時、もしも僕が死んでしまえば、何の問題もなくなつてしまひます。僕が死んだ後では何も困ることはあり得ませんからね。だから僕が死んだら、それは本当にいいことなのです。しかし僕が死ぬ訳には行きませんので、今の儘では僕が死んで終ふといふことは絶対にあり得ません。ですから僕の死は永遠に来ないかも知れませんね。
或声 そんなことはないだろう。お前は自分が死んだ後の世界に希望を持つことは出来ないのかね?僕 そんなことがあり得るのですか? 
或声 ああ、それは可能だらう。だから私がお前を死なせてやろうとしても、無駄骨に終はることになつてしまう訳だ。
僕 それならあなたのお力を借りるわけにはいきませんね。
或声 そうだな、私はもう帰ることにしよう。お前も早く帰った方がいいぞ。
僕 僕も帰らなければならないのですか? 或声 ああ、そうだとも。早く帰らなければ、また大変なことになるかも知れんからな。
僕 あゝ、分かりました。僕もそろそろ帰ります。今日はどうも有り難うございました。
三 或声 私はもうお前に会うこともないだらう。
僕 僕ももう二度とお目にかかることはないでせうね。
或声 それがよいのだ。お前とは二度と会はないだらう。
僕 あなたとは二度会う機会もなさそうですね。
或声 さうだ。お前と会うことは、私にとっても、お前の友達にとっても、良い結果を齎さないだろうから……。
僕 どうして僕と会ったら、あなたのお友達も良くない結果になるとおっしゃるのですか? 或声 いや、それは何でもないことだ……。
僕 そうですか……。
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