お嬢様の演技

宿の部屋の扉が開くと、僕は思わず目を見開いた！！

《あ……！？お嬢様？？

片眼鏡を外してなんと可愛らしい！！しかも服も一番良い服を着ている！？何故！？

めちゃくちゃ可愛いです！！》

そこには、なんとも可愛らしいお嬢様がいた！！

お嬢様が持ってきた服の中でも一際、綺麗な服に着替えており、髪も綺麗に梳かして、リボンをつけ、片眼鏡を外して綺麗なアメジストの瞳を潤ませ、少し怯えていた。

な、なんだこの可愛い生き物！！
ヤバイ……！！本当に心が鷲掴みだ！！

まるで昔、旦那様達の後ろに隠れていたお嬢様だ。

あの頃は確か、演技をしていたと聞いたが。い、一体、お嬢様に何があった！！？

ともかく、この状況を勘違いされないよう、僕は心の中で具合が悪くも必死で説明した。

《違うんです！この人達は…！無理矢理僕を離してくれなくて！

この人達は一緒に恐ろしい中級ヴァンパイアを倒してくれ、なんとか教のヴァンパイアハンターみたいなんですけど…、僕はこの人達あんまり信用できなくて…》

しかしそこで怯えて甘えた声で

「…エレン…。その人達は誰？具合悪いの？顔が真っ青よ？」
と声をかけられた。

「あ、シンシア…」
《そうか…。僕達の名前は伏せるんだった…。

そ、そして僕達は今、恋人同士という設定だ。

恋人らしく振るまわねば！

……本当のに早くなりたいけど！》

お嬢様との恋人同士を想像して、一瞬具合が悪いのを忘れかけたが、両脇にいて胸を押しつけてくる双子は

「初めまして私ココ！！よろしくねーん！」
とココは元気よく自己紹介して、ミアも更に胸を押しつけ

「初めましてミアよ。うふっ。貴方あなたが金髪きんぱつ美形くんの恋人なの？」
と言う。おいこら！いい加減離せ！あんたら！！両方からそんなに押されると内臓にダメージが来る！！

…うぐ！気持ち悪い…。
宿の効果が更に追い打ちでかかってくる！！

マジでもう吐きそう……。
いやいや、お嬢様の前では絶対吐かないぞ……！

「き…、エレン…！大丈夫？？とにかくこっちへ！」
お嬢様が具合の悪い僕を心配してくれるなんて演技でも嬉しい！！

「ふううん？エレンくん？名前、やっと今聞いたわ……！教えてくれないし」
ミアはやっと聞けたと喜んでいるようだった。あんたらに話す必要がないから偽名ですら、黙っていたのに。

「あの！エレンが具合が悪そうだから離してくれませんか？」
とお嬢様は少しだけ怒った声を出した。

「……そうね……。ダンピールには、具合悪いかしら？ね？私の血でも飲む？少し良くなるわよ？」
とミアがなんと胸から銀のナイフを取り出した！
どこに入れてんだ！？このハンターは！

「……そのナイフは何？怖い！！」
と正面から、お嬢様が僕の胸に飛びついてシャツを握った！

え？ええええ？

いきなりで訳がわからないが、両脇に双子達が胸を押しつけているから、お嬢様を抱きしめられないじゃないか！！な、なんて邪魔な双子達だ！！

するとお嬢様は上を向き、可愛らしいアメジストの瞳をこちらに向ける。

うっ！！ほ、本当に可愛い！！好きだっ！！

「エレン…。もしかして、この人達に脅されてるの？？」
と怯えた瞳を向けられた！

「あ、あの…」
しかし宿の効果でまた吐き気が。

ああ、本格的にヤバいって！！これは！！

僕はとりあえず双子の腕を、力で振り解いたふりほどいた。そしてお嬢様の肩を掴み、青ざめながら

「すすす、少し失礼します！！」
と情けないことに、トイレにダッシュした！！
そして盛大に吐いた！！何とか間に合った！！お嬢様の前で吐いていたら絶対に嫌われてしまう所だった！！

「うおええええええ！！」
気持ち悪さは治らないが、何度も吐いた。
口を何とか濯いで、フラフラしながら戻ると…。

「エレン！」
とお嬢様がかけてきて僕を支えた。後ろから双子達も走ってくるが、その前にお嬢様が僕の顔を引き寄せて耳元で囁いた。

「おい金髪！大体事情はわかってる！あいつらを騙して、ここから何とか去るぞ！私と恋人のフリをしろ！！」
と言われた。

お嬢様もこいつらが何者かは、もうとっくにわかっているのだろう。だからそんな事を。そして追いついてきた双子に向き直ると

「エレンを、お医者様のとこに連れて行きますね。エレンのこと助けて？くれてありがとうございました。

…エレンのことは、恋人の私が付いておりますから、もう大丈夫です」
と言う。
すると双子達は

「あら？でも私達、そのエレンくんに用があるのよねぇ。ここじゃ気持ち悪そうだから…。

他のカフェで一度お話ししましょう？ね？」
とミアが言う。
お嬢様は

「……わかりました…」
と返事をして、一旦部屋に戻り、鞄を持ち、宿の親父さんに挨拶し、部屋を出た。

やっと外に出れた。