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現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

それぞれの想い①

 翌日、王宮にいるキルダークの元に、実の父親デストピア伯爵が現れる。明らかに前より格段に強くなっている父親の出現に、キルダークは悪寒と冷や汗が止まらなくなった。その表情を見たデストピア伯爵は、ニッコリ微笑む。 

「キル。ここから北に3kmいった所に、A級ダンジョンがある。そこのダンジョンの最深部に生えているマンドラゴラという草を取ってこい。」 

「嫌だ。もうあんたの指図は受けない。」 

「そうか。別にかまわんぞ。それなら、王を殺す。王妃と王子と王女も殺すか。」 

「……待ってくれ。わかった。やるよ。」 

「物分かりが良いな。キル。まさか、反抗されるとは思わなかったが帰ってきたら躾をやり直さないとな。」 

 キルダークが見えない速さで、デストピア伯爵はそこから姿を消した。それだけの出来事で、この命令を果たすしかないという理由になる。今のキルダークからしてデストピア伯爵は化け物だった。 

  

 キルダークが、王の寝所に行き王と王妃に挨拶をする。 

「アレク。ソフィア。すまないが、俺は今から外出しなければならない。当分帰って来れないと思う。カーマインやルシエラにも伝えておいてくれ。それじゃあ。」 

「待ちなさい。キル。何をしに行くかは知らないがなるべく早く帰ってくるんだぞ。お前がいないと俺は寂しいんだ。」 

「うん。私も寂しいわ。今のうちに抱きしめておかなきゃ。」 

 ソフィアがキルダークに近づき後ろから抱きしめる。キルダークは彼等家族から教えられた、この温もりを絶対に手放したくないと思っていた。だからこそ父親からの指令を追行するしかない。 

「俺は、実の父親に強く生きる事を叩き込まれた。本当の父親の事は大憎いだ。だけど、俺はあんた達の事を家族みたいに思っている。アレクは父として家族を大切にする背中を、王妃は母の愛情を教えてくれた。カーマインとルシエラは兄妹というものを教えてくれた。あんた達のおかげで俺は人間っていいなって考え直したんだ。何日か出掛けるけど、帰ってきたらまたいろいろと教えてくれ。」 

 ソフィアが、キルダークから離れその頭をヨシヨシする。同時に王から 

「キル。私もお前の事も本当の息子だと思っている。何があってもお前を愛してるからな。キルが俺達に愛されている事、それだけは絶対に忘れるなよ。すぐに帰ってくるとは思うけどな。」 

「私の愛する息子、キル。いってらっしゃい。」 

「ありがとう。いってきます。すぐに戻るよ。」 

  

  

  

  

 *** 

  

  

  

  

  

 奴隷解放計画開始の連絡を受けたベオウルフが、現場に到着すると全ての亜人達が殺されていた。ベオウルフは、急いで他のニ箇所にも足を運ぶが全ての地点で亜人たちは亡くなっていた。 

 ベオウルフはこの時まで、ラヴュレス国内にいる亜人達全員を助けられると希望に満ちていた。リシリューに感謝しラヴュレス国に対しても多大な恩を感じていた。しかし、そこに待ち受けていたのは、希望ではなく奴隷だった時よりも悲惨な死。ベオウルフが怒り狂いリシリューの屋敷を訪れる。  

「リシリュー! 同胞が全員殺されていたぞ。いったいどういう事なんだ?」  

「そんな。馬鹿な。計画は私達しか知らないはず。」  

 それを聞いたデイビース公爵はリシュリュー侯爵に怪訝な表情を向ける。  

「たしか、失敗した時に責められるのはリシリュー卿だけだと言う話だったな。いったい、この事態をどう挽回するつもりなんだ?」  

 ベオウルフは怒りで、そこにある机を破壊する。そして一言。  

「挽回だと? 今後一切ラビュレス国を信じる事はない。そしてリシリュー。お前の事は絶対に許さぬからな。」  

「ベオウルフ殿。本当に申し訳ない。だがちょっと待って頂きたい。これが何者かによる陰謀いんぼうだとしたら、ベオウルフ殿の力を欠いた我々だけで対抗出来るものなのか。」  

「それこそこっちの知った事じゃない。自分達だけでなんとかするんだな。」  

「だが、これは我々の共通の敵なのかも知れぬのですぞ?」  

 食らいつくリシリューをデイビース公爵が片手で制止する。そしてベオウルフに近づき頭を下げた。  

「ベオウルフ殿。お見苦しい姿を見せて申し訳ない。リシリューは私が叱っておく。陰謀いんぼうも何もこいつしか知らぬ情報が漏洩ろうえいしたんだ。こいつが黒幕の可能性すらある。例えば、元から亜人が嫌いとか殺すつもりだったとかな。」  

 ベオウルフが仁王立におうだちで、拳に力を入れる。  

「ガルルル。証拠が無いから今は殺さぬ。だが、万が一証拠があがったらその時命は無いと思え。」  

 ベオウルフが怒りを抑えそこから立ち去った。それよりも、まずは原因を調べる事を先決したのだ。そして、リシリューはこのような事態になった事に落胆していた。軍事政策の一端いったんがこれ程までも簡単に崩れてしまったのだ。  

「デイビース公。なぜ、あのような事を言ったのですか?」  

「なぜだと? お前が情報を漏らしたのが悪いのだろう。」  

 一部始終のやり取りを見ていたペネロペは、ある恐ろしい考えが頭を過る。昨晩、自分が漏らしてしまった情報がこの結果を招いた原因ではないか。だとしたら、これをどう償えば良いのか。しかし、とても償いきれない程のミスだ。ペネロペは顔面蒼白で体をふるわせる。 

「ペネロペ。どうした?」  

「すみません。マイロード。私が言ってしまったんです。昨晩、デストピア卿に助けられ完全に信用してしまい、つい口をすべらせてしまいました。」  

  「デストピア卿だと? 最近姿を見せぬと思ったが……。とにかくデストピア卿の所に行って直接問いただすしかあるまい。」  

 リシリューが、部屋を飛び出そうとした所デイビース公爵がその腕をつかんだ。 

  「まあ、待て。その前にその弓を私が修繕しておこう。物騒な事になったんだ。装備くらいはちゃんとしておけ。」  

  リシリューが持っている狩猟教の特製弓をリアム デイビーズ公爵が修繕すると言って、持って先に出掛けてしまう。リシリューも続いて部屋を出た。  

   

  

  

 *** 

  

  

  

 カルデインの騎士団の元に5人の部下が合流していた。炎魔戦士 グレン アーノルド。氷武術家 センスイ レイン。 土魔導士ゴレム パンダス。雷槍帝 デンキ ガイタン。大神官 シャーウ エルドランド。彼等はデストピアとカルデインと共に西の孤島、桃源郷で1年間の壮絶な修行をした忠実な部下だった。デストピアとカルデインという世界最強の12人、円卓とまではいかない。Lv199でその成長を止めてしまったが、それでも、この世界では、そうとうの猛者である。  

  「カルデイン様。我ら五人も修行を終えて到着致しました。ですが、やはり創具天様の言うように、私達では、レベル200の壁は超えられませんでした。」  

  「十分だ。それくらいで良いだろう。私とデストピア様が居れば今はそれで事足りる。それに、次世代には、キルダーク様と言う天才がいるんだ。」  

  「そうですね。いよいよ。念願の国盗りですね。」  

  「ああ。デストピア国の誕生だ。」 

  

  

  

  

 *** 

  

  

  

 リシリューとペネロペが向かったデストピア伯爵の邸宅の庭には、デストピアの他に聖都教の騎士団と神父、そしてラーンスロットがいた。デストピア伯爵が、駆け付けたリシュリュー侯爵に対して質問を投げかける。 

「これはこれは、リシリュー宰相さいしょう。血相を変えてどうしました?」 

「いったい。どういう事だ? なぜ、亜人解放の邪魔をした?」 

 笑うだけで答えないデストピア伯爵とは違い、ラーンスロットが険しい顔をしてリシュリュー侯爵を睨む。 

 南の巨大な大陸。その覇者、アースガルズ帝国。帝国の騎士達の頂点にいるラーンスロットは、闇ギルドと同様奴隷解放などは絶対に許さない。なぜなら、それは帝国の真上に位置する天界という浮島の主、神龍の意向に背く行為になるからだ。アースガルズ帝国は、同じ神を崇め神龍の思想を体現する事から、規模の大きな闇ギルドとも呼ばれている。そして、ラーンスロットの隣にいる聖都教の神父達は、その神龍を神と崇める宗教である。ラーンスロットは、一転して表情を緩めリシュリュー侯爵に話しかけた。 

「おや。亜人解放とは聞き捨てなりませんね。我々、帝国と聖都教を敵に回すおつもりですか?」 

「帝国? 貴殿は何者だ?」 

「私は円卓の騎士第三席のラーンスロットだ。そして帝国所属の最高の騎士。」 

「あなたが、あのラーンスロット様ですか?」 

「いかにも。まあ。先程の言葉は忘れましょう。そして、友好のしるしとしてこの杖を与えます。さあ装備しなさい。あなたは自国を守る兵力が欲しいんでしょう?」 

 デストピアは自分の持つジョブで勝手にリシリューをクラスチェンジさせる。
 リシリューはラーンスロットから友好の証に渡されたドラゴンメイスを手に取ると、それが装備の状態になっていた。 

「話が呑み込めません。いったいどういう事ですか?」 

「リシュリュー侯爵。あなたを聖都教司祭に任命します。」 

 ラーンスロットの言葉の後で、聖都教の信者達がリシリューの前に整列し跪いた。 

「リシリュー司祭様、どうか私達をお導き下さい。」 

 リシリューに跪いているラヴュレス国民は、全員が生粋の聖都教の神父達だった。そして、その後方に本部から来た聖都教の騎士達も跪いている。 

 そこに、デストピア伯爵の部下に案内され、狩猟教の騎士であり、同時に枢機卿カーディナルのオリバーが現れる。 

「いったい。これはどういう事なのだ? それは聖都教司祭の持つドラゴンメイスだ。アルマラン。何故それを装備している? 裏切ったのか? これは言い逃れできぬぞ?」 

「違うのです。テイラー猊下。これはたった今ラーンスロット殿に渡されただけなのです。」 

「リシリュー司祭様、どうか私達を見捨てないで下さい。」 

 弁明をするリシリューに対して、聖都教の神父達がすがりつく。その光景に目を細めるオリバー。 

「では、狩猟教の弓はどうした? お前がこの状況でまだ狩猟教の司祭だと言うならば、持っているはずだよな?」 

「あれは只今、修繕中でして……。」 

 リシリューは、家を出る前にデイビース公爵に弓を取られた事を鮮明に思い出す。あの時はこんな事を想定もしていなかった。 

「そんな言い訳が通じるか!! アルマラン。見損なったぞ。この事は本部に報告させて貰う。否!! 私の判断で、今すぐこの国から撤退する。」 

「待ってください。本当に誤解なんです。」 

「黙れ! これ以上、その二枚舌を使うな。帰るぞ、アタランテ。」 

 リシリュー宰相さいしょうを罵倒するオリバー。アタランテと共にすぐに来た道を引き返した。アタランテもこれにはドン引きしていた。 

「おじさん。尻軽すぎるでしょ。これはもう国交断絶レベルの話だな。」 

 オリバー達がいなくなった所でラーンスロットがデストピア伯爵の肩を叩いた。 

「デストピア。これは貸しだからな。新国家の内政が整った時に、ここを帝国の中央進出の拠点にする。」 

 そのまま、ラーンスロットが帰り、入れ違いでデストピアの部下達6人が現れる。ベオウルフやラーンスロットとまではいかないがデストピアが率いるその6人は圧倒的な強者達だった。今のラヴュレス国で対抗出来るとは思えない程の力を、全員が見せつけるように解放していた。リシリューとペネロペは発汗と震えが止まらなくなる。 

「お前のカードは騎士団長と亜人と狩猟教だよな? 全部手放した気持ちはどうだ? ところで、俺の傘下に降る気はあるか? 今、お前以外の貴族九割が俺の部下だ。」 

 デストピアがリシュリュー侯爵の肩に手を置くとリシリューは、腰が抜けて座り込んでしまう。 

「ペネロペ。鑑定してくれ。」「もう、やってます。Lv99の私でも全員が鑑定不能です。」 

 リシリューは、最悪のシナリオを頭の中で考えた。それはラヴュレス国の王家全員の死。せめて、それだけは守る為に自分がやるべき事。それは王に対する裏切りだった。 

「デストピア様。私はあなた様に従います。」 

「現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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