話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

回光返照①

―― 七年前、ラヴュレス国

 

独特な真っ黒い外装と青い屋根、太古から続くラヴュレスの王宮。西に位置する小さな離れは、王が会食をする為に増築した2部屋の寝所付きの建物があった。ラヴュレス王のアレクサンダー ラヴュレスは臣下のリアム デイビーズ公爵とヒューゴ マントル侯爵と、いつものように、その親交を深めていた。彼等は臣下である前に幼馴染の友であり、たびたび三人だけで無礼講の酒席を設けていた。貴族の中でも例外として、デイビーズ公爵とマントル侯爵のみが、酒を呑んだ日はこの王宮内にある離れでの就寝を許可されている。 宴の開催から2時間が経ち3人は、いい具合に出来上がっていた。アレクサンダーが杯を、リアムとヒューゴに向けながら話をする。

「酒は知己に逢って飲み、詩は会する人に向って吟ず。お前らが居なかったら、この酒はいったい誰と呑めと言うのだ? 」 

正直、この問いは、本日二回目だ。しかし、言った方も言われた方も覚えてはいない。今回もリアムがアレクサンダーが嫌がるであろう意地悪を言う。

「アルマランで良いのでは無いか? あれは堅物だけど、お前にとても忠実だ。」 

それに続き、ヒューゴは、アレクサンダーの方に同調する。

「詩の理解は俺達は無理だが、たしかに、お前等が居なかったら、俺もこんなに酒を愛する事も無かったかもな。」 

「リアム。ヒューゴ。お前等は俺の親友だ。アルマランは良い部下だが、どこまで言っても宰相さいしょうという立場でしか接してくれん。お前等だけが唯一の俺の知己なのだ。」 

アレクサンダーは、酔っ払っているから、こんな臭いセリフを吐いたのでは無い。少しだけ表現が直球になってしまったが、元来、友や家族をとても大切にする男なのだ。

「アレク。それもそうだな。一生、楽しく馬鹿な事をやっていこうぜ。」 

アレクサンダーの言葉に流されるリアムに対して、ヒューゴの方は、ここで自分が置かれている立場の本質に気付いてしまう。

「俺の政務の疲れストレスも、お前等とこうして、酒を酌み交わす事で発散出来るってもんだ。ん? 本来アレクの分も俺達が気を張っているのだから、プラマイゼロなんじゃないか?」 

「そうだよな。アレクの方針が、貴族任せだから俺達の仕事が増えている。そればかりか俺達が細部まで、目を光らせなきゃならないんだぞ。」 

「そこは協力してくれよ。俺は国も大事だが、家族との時間が一番大切なんだ。」 

ラヴュレス国は、宰相さいしょうのアルマラン リシリュー侯爵を中心に貴族達が政治を行い、王は決定するだけの役目になっている。もちろん、国の大きな指針ししんなどは王が考える。それに沿ってリシリューが具体案を作り上げ、貴族達がアイデアを出し合うのだ。そして、形になった物を王が裁決し、その進行は任された貴族が、それぞれ自分達の裁量でこなしていく。ラヴュレス王は家族との時間を大切にし、必要最低限の仕事しかしない。

そして、家族というワードに、ヒューゴが今話題の人物を思い出していた。

「そうだ。家族と言えば、デストピア卿の息子の件なのだがな。これが、まったく人の心を持たぬ怪物だと言うのではないか。まだレベルは低いので、脅威きょういと言うわけでは無い。ただ、天性ネイチャーが強力なので、何か対策を考えないと国にとって危うい存在になるぞ。」 

デストピア伯爵は、凄腕の魔導士として世界的に有名な人物だ。そして、今は大人しいが貴族達にとっての脅威きょういでもある。直接的に関係の無いラヴュレス王だけが、その存在を軽視していた。

「……化け物か。人の子でありながら、そのような評価を受けるなど可哀想な事だな。マントル。デストピア伯爵に命じ、キルを王宮に住まわそう。これからは、俺と俺の家族でその少年を育み、真っ当な大人にすれば良い。」 

それに驚いたのは、リアムだった。デストピア伯爵の息子を奪うなんて、君主として考えられない程の愚行なのだ。

「それは不味いだろ。デストピア卿に敵対されたらどうするつもりなんだ? だいたい、アレクサンダーは人が良すぎるんだよ。子供とはいえ、円卓の騎士の息子だぞ。助けるのは危険だ。」

「嫌。駄目だ。俺がキルを救う。危険であろうとなかろうと放っては置けない。あの人が亡くなってデストピア伯爵家とは疎遠になってしまったが、キルはあの人の子供なんだ。それに円卓とはいえ、情報ではまだ下位だろ。万が一には友好国でも頼れば良い。」

ヒューゴが暗い顔をしながら俯いて答える。

「下位とはいえ、今のラヴュレス国では最強だ。話さなければ良かったよ。それとな。臣下の動きにも十分注意しておけよ。さすがに臣下に任せ過ぎだ。」 

「ヒューゴにリアム。俺の親友であるお前達が居れば安心だろう?」 

リアムに関しては、そこまでその問題に興味が無かった。どちらかと言えば、他の貴族との関係はアレクサンダーに近い。権力があり過ぎて、下にはまったく興味が無いのだ。

「まあ。それはそうだわな。俺達は臣下であって臣下ではない。親友であるお前の補佐をする仲間なんだ。アレクサンダー。良き友に感謝しろよ。」 

「ヒューゴ。どうした? あまり心配するな。」

「……決断はしたは良いが、なるべく恨まれないようには気を付けろよ。ソフィアや子供の事を考えろ。」
 



***

 


数日後、キルダークとデストピア伯爵は、王宮でラヴュレス王の家族達と対面していた。 

「よく来たね。キル。これからは、君を俺の家族として迎え入れる。キルには父親がいるから、俺のことは……アレクとでも呼んでくれ。それから、妻のソフィアと息子のカーマイン。娘のルシエラだ。みんな、仲良くしてくれよ。」 

「ぎゃははは。…………うぜぇ。殺すぞ?」 

「コラッ! キル!! 陛下に失礼だぞ。申し訳ありません陛下。きつく教育を……。」
「……クッ。」 

キルダークの頭を殴りながら、話を続けるデストピア伯爵に、ラヴュレス王は目を見開いて怒鳴りつける。

「黙らんか! デストピア伯爵。これはお前の責任だ。調査済みだぞ? 問題はキルでは無く、お前が間違えて育てた結果だ。あの人が亡くなってから、キルの心に優しさを向けた事はあるのか? たった一人の息子に、お前は教育と称してただ殺す事だけを覚えさせた。これからキルは余が愛情を持って育てる。デストピア伯爵はすぐに立ち去れ。」 

「申し訳ございません。ラヴュレス陛下、それでは失礼いたします。」 

「……。」 

 

顔面蒼白で退室するデストピア伯爵。だが、その表情は退室後に醜悪な怒りの表情に変わっていた。恐れは全て演技、それは大事の前の小事に過ぎない。だがその醜い心とおぞましい狂気だけは止められない。強さを持ちながらへりくだる事で、その屈辱くつじょくは闇を深くする。

 

「おのれ! おのれ! おのれ! 人の家庭に干渉しおって。なぜ、私が謝らなければならないのだ。とてつもない屈辱くつじょく。ラヴュレス王、お前は絶対に許さんぞ。計画を早めてやる。この恨み晴らさでおくべきか。」 

この日、デストピア伯爵は、計画の最終段階の為、家来達を連れ西の孤島に修行へ向かった。結果的に、その憎悪がデストピアの力を確固たるものに至らしめる事となる。 

「現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く