現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

忍者の暗殺者②

秀人はそのやり過ぎた威力に気付き、慌てて魔法師団達に声を掛ける。 

「すいません。どなたか、回復魔法が使える方はいますか?」 

 王国魔法師団に所属する回復術師が、手を挙げながらノートルの方に歩き出した。 

「私、回復魔法を使えます。」 

 団員は、ノートルの倒れている所に進み、しゃがんで手をかざすと、治癒魔法を連続で使用した。 

「【ヒール】【ヒール】【ヒール】」 

 団員は、まったく、手ごたえが感じられないので、ノートルの心臓に耳をあてる。 

「…駄目です。これは死んでいます。回復魔法は意味がありません。」 

「嘘だろ。やばい。どうしよう。」 

 ここで、秀人はノートルを究極鑑定する。すると、そこには状態異常、心臓停止との記載があった。それは心臓に直撃した際の状態異常だったのだ。秀人はミノスに同じ技を使った時に、マァムが悪人であれば死んでいたという言葉を思い出す。それでこの状況を見てやっと理解する。【ツミヲウガツ】は攻撃を止めなくて貫通した場合でもHPを必ず1は残す弱点攻撃。悪い因果があればそれすらも断ち切る。しかしHPの残りが1になった場合、悪人であれば何らかの悪い状態異常により死ぬ事になる。今回の場合は心臓を狙ったので心臓停止。ただし、キルダーク戦では、キルダークのHPが高く、残りHPが1よりも高かったため殺されるだけの状態異常には達しなかったという事だ。

 秀人はノートルに向かって手をかざすと、アビリティー・システム操作で心臓動くと念じてみる。 

「…う。」 

 その瞬間、先程のヒールで何の効果も得られなかったノートルが意識を取り戻した。死の状態異常中に回復魔法は効かないが状態異常を解除すればHP1の状態だが復活する。 

「信じられない! オニミヤ英雄伯は、強いだけでなく死者を蘇生する魔法まで使えるのか?」 

「奇跡だ。私は神の奇跡をこの目で見てしまった。」 

「馬鹿な……死者を蘇らせる魔法なんて、そんなもの聞いた事が無いぞ。」 

 最初は、魔法を良く知る王国魔法師団が、続いて、王国騎士団達が、その奇跡を目の当たりにして動揺を口に出していた。そして、ノートルが起き上がり秀人に抱き着いている。 

「秀人。凄いわ。私の事を倒したのね。でも、どうしよう。秀人の事を見ているとなんだか心がギュっとするの。」 

「……あ。……うん。なんかごめんな。すいません。どなたかもう一度ノートルに回復魔法をお願いします。」 

 秀人はとりあえず謝っておいた。なぜなら、心の中では心臓動くと書き換えたつもりだったものが、心高鳴る(魅惑)に上書きされていたからだ。そして、ノートルの現在の状態は、いかなる魔法でも解く事が出来ない。なぜなら胸の高鳴りは、ノートルの中にもうすでに浸透しんとうし、ステータス画面からも消えてしまったのだ。 

 騎士団達に囲まれた少女と少年の戦い。その激しい光景を見守っていた会場中が、観客達の歓声と拍手で埋め尽くされた。王も貴族も平民も、誰もが英雄伯に希望を抱いていた。それは、今日行われたプログラムの中で断トツで一番のにぎわいになった。

 ユートピア王国で随一の王立第一魔法学園。そこに集まっていた、たくさんの観客達の手により、秀人 鬼宮 その活躍はまたも国中に知れ渡る事になる。 

  

 そして、この殺人が絡んだ大事件のせいで魔法運動会は中止となった。 

 秀人の天性ネイチャーシステムを使っても、既に死んでいたジェネトールは蘇らなかった。ノートルの場合は、HPが1残っていたから助かったのである。ただし、今後は最悪の場合は【ツミヲウガツ】が対人戦でも安全に使用出来る事が判明した。

 ノートルは、捕縛ようの魔法具で縛られ、騎士団長により連行される。それには学園内で事件解決に動いていたマクレナシルも同行して、一緒に闘技場を後にした。 

  
 選手席の方に戻ると、消えたヴラドの事について、仲間達からたくさんの質問があったが、秀人はみんなが意識を失っていた時間に自分が見た事を正直に話した。秀人は仲間達の顔を見ながら話す事で、改めて、ヴラドの死を実感しそれを悼み、怒りの感情により抑え込んでいた深い悲しみで自然と涙が溢れる。これまで一緒に行動していた友達の原因不明の裏切りと、その死について、仲間達の誰もが涙を流していた。

 ヴラドを騙った彼がなんの為に学園の禁書をうばったのか、そして、ヴラドの言葉や自分達に対する友情は偽物だったのか。その事を尋ねようにも本人はもうこの世界には存在しない。悲しみで沈んだ秀人達の心と、遠くからそれを見つめるルージア。

 ルージアはジェネトールがノートルに殺された瞬間を知らない。意識を失っている間にもう死んでいた。むしろ、ルージアは気付けば闘技場内で倒れていて、死んでいるかどうかすら確認する事さえ出来なかった。
  
 意識を取り戻した時、秀人が倒れていたジェネトールを抱えた後で、再び地面に寝かせ手でジェネトールの目を閉じる所作を見た。秀人がジェネトールの裏切りに怒り、やりすぎて殺してしまったのだと思い込んだ。それから、秀人に対して、ずっと憎しみの視線を送っていたのだ。
  

 *** 

  

  

 そして、その事件から3日が過ぎた頃。 

 学園の放課後、マクレナシルが秀人の家を訪れる。その後ろには、先日、秀人に倒されたノートルの姿があった。 

「マクレナシル先生。どういう事ですか? なんでノートルが……ここに。」 

「それがね。この事件で動いていたのが、やっぱり闇ギルドだったの。闇ギルドは、たかが一国が相手に出来るような組織では無いのよ。もう禁書は戻ってこないわね。そして、ノートルちゃんは、国に賞金が掛けられていた、犯罪者を殺しただけって扱いになったの。実際に禁書を奪って逃げたのは、闇ギルドの他の暗殺者だしね。でも、いくら罪が無くなったからって、こんなに強い暗殺者を野放しに出来ると思う? また、闇ギルドに戻りでもしたらとても厄介だわ。」 

「はあ。」 

「そこで、秀人君にお願いがあるの。ノートルちゃんの事を預かってくれないかな? この国でノートルちゃんより強いのは、学園長、ガッシュ先生、冒険者ギルドのギルドマスター。そして、秀人君だけだと思うのよ。この四人の中からノートルちゃんが秀人君を選んだわ。むしろ、全員の状況を考えると預けられるのは秀人君しかいないけどね。」 

「だが、断ります。俺はこいつが大嫌いだ。」 

「そんな事を言わずに、これからよろしくね。秀人。」 

「ノートル。お前にはまだ聞きたい事がある。なんで、ヴラドを殺したりした。」 

「だって、私はヴラドに計画を邪魔されたんだよ。そのおかげで、もう少し遅かったら、闇ギルドに私の方が殺されるところだった。」 

「だからって、人を殺して良いわけが無いだろ。結果的に禁書は闇ギルドに渡ったわけだし、うばい返した時点でもう間に合ってたんだよな?」 

「うーん。それでも私は人を殺すように育てられたの。私にとって邪魔者を殺す事は、とても普通の事なんだよ。」 

「……マクレナシル先生。前言撤回します。やっぱりノートルは俺が引き取ります。こいつの事はまだ許せませんが、間違った教育を受けて育った事が原因にあるようです。こいつの価値観を正しい方向に変えなければ、同じ過ちを繰り返す。」

「いいわよ。私は秀人色に染まっても。ちゅ。」

「や……やめろー。ほっぺただからまだセーフだが、お前12才だろうが。いや。年齢とか関係ねえ。そういうのはやめろ。」

「いいじゃん。硬いなー。ただの挨拶だからさ。秀人。これからよろしくね。」 

「……ああ。よろしく。不安しかないが。」

 こうして、秀人の仲間としては、初の闇ギルドの『暗殺者』が加わった。

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