現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

魔法運動会 トーナメント編④

「それでは、闘技トーナメント。個人戦。第四試合、はじめっ。」 

 

ヴラド VS キヌハ 

ヴラドは魔法陣から発動する魔法を得意とする。クラス【魔法師】秀人が制作した杖『ドリュアスの杖』を扱い、木属性魔法を使った多種多様な攻撃をする。 

キヌハはナイフ使い。クラス【短剣士】十字架のような形をした少し大きめの短剣『スティレット』を使う。殺生を目的として作られた武器だが、刃はついていない為、キヌハは【短剣士】クラスのスキルよりも、突きさす系のコモンスキルを多用する。 

 

「【迷いのセデュースフォレスト】」 

 

開始と同時に闘技場の範囲に草木が出現し辺り一面が緑で埋め尽くされた。ヴラドは木属性魔法を使う為、あらかじめこれらが生えていた方が戦闘する際に都合が良い。そして、この魔法は術師が自分を守る為の結界の役目も多少は果たすコモン魔法。だが、それはLv18のキヌハに対してはとても大げさな魔法でもあった。ヴラドは嬉しそうに笑いながらキヌハに聞こえるように話をした。 

「いやー。全員が馬鹿過ぎで助かったよ。書類で見たけど、だいたいヴラドって生徒は剣士なんだろ。気づけよなー。」 

「え? どうゆう意味? あんた。……何者なの?」 

「俺か? 言う訳ないだろ。それとも、名前を言って口封じに殺されたいか?」 

ヴラドこそが宝物庫に忍び込み禁書を奪った本人だった。本名はジェネトール バインド クラシュ 現在Lv95のA級冒険者。秀人達とのレベル上げのおかげで学園に来た時よりも、かなり強くなっている。SSS級魔道具『模倣イミテーション偽物フェイク』でヴラドをコピーし、名前やレベル・ステータスは鑑定結果すらもこれで偽装していた。 

ヴラドが秀人達に近づいたのは、ユノと仲良くなる為だったのだが、結果的に先にキヌハと二人きりになるチャンスを手に入れた。これまでも、たくさんの機会を狙っていたが、唯一脇が甘いホワイルが休学しホワイルの血を手に入れる事が困難となった。今回は魔法運動会でキヌハとユノのうちどちらか一人と戦う事を狙っていた。  

ちなみに、今日からはホワイルが復学した事と、モーリスが王族である事も気付いてはいない。モーリスなどは会話の内容でわかるようなモノだが、本人が天然である事と、他の考えなどで手一杯だった為に気付かなかった。 

「……。あんた、いったい何が目的なの?」 

「お前の血だ。【木々のウッズ足枷フェターズ】」 

ジェネトールのコモン魔法で、周りに出現している木々がキヌハの足に絡みついた。

「ちょっと。降参するわ。離して!」

「駄目だ。少し血を分けて貰おうか。」 

ジェネトールは、魔法でキヌハを拘束した状態で、ふところから秀人に作って貰ったナイフを取り出し、キヌハの腕を切るとその血を自分の精霊紋に浴びせる。その手には禁書が開かれていた。 

それを見た秀人、マクレナシル、ガイエル騎士団長が一斉に、ヴラドの姿をしたジェネトールに向かって走り出す。 

マクレナシルは、走りながらずっと引っ掛かっていた違和感の正体にやっと気が付いた。マクレナシルが初めてヴラドにあった日、ヴラドは犯人によって先生が殺された恐怖で気絶をしたわけではない。犯人に攻撃され、その恐怖で気絶したと言っていたのだ。だが、その傷はとても浅いものだった。もちろん痛みはあっただろう。だが少年にとって気絶する程ショックを受ける場所が、目の前の惨殺でなく、犯人に攻撃された自分の浅い傷である事が違和感の原因だったのだ。もちろん目の前で惨殺をした犯人の攻撃は怖いだろう。でもそれくらいで気絶する精神力なら、その前の段階で気絶する方が自然である。ただ、これは犯人を目撃したという方に気を取られ、違和感を追求しなかったマクレナシルの落ち度だった。だが、これはジェネトールが使ったSSS級魔道具『模倣イミテーション偽物フェイク』のあらゆる疑念から術者を守る効果と術者の言葉に真実を匂わせる効果だった。疑いが確定していれば効果は無いが疑念などの感情はこれで緩和され、言葉に説得力を持たせる。
マクレナシルは走りながらを自分の無能さを嘆き、悔しさから拳を握りしめていた。マクレナシルはヴラドの言葉を完全に信じ込み、小柄で闇ギルドに所属しているであろう学生を探していた。だが、闇ギルドという下手したら天界を敵に回してしまう相手を、マクレナシルの権限で捜査をするのは不可能に近かった。


秀人はヴラドが大好きだった。身分制度の理不尽をいつも一緒に語り合っていた。ヴラドを信じ込んでいた。だからこそ、初動がかなり遅れてしまった。そもそも、レベルの低いキヌハに対して最初に大規模魔法を使った時点でそこに乗り込むべきだった。今、秀人はヴラドから本当の話が聞きたかった。何を思い、これまで何をしてきたのか。なぜ、自分達を騙していたのかを。そして、もし、秀人が納得する理由ならヴラドになりきっている何者かを支援しても良いとさえ思っている。止めたいもあるが、それよりも理由が知りたいという思いで走っていた。 

窃盗犯ジェネトール。そこに一番近い距離にいる犯人捕獲の為のメンバーは、マクレナシル。ただ、彼女は回復魔法のスペシャリストであるが、戦闘に使える魔法はそこそこでしかない。次いで、初動が遅れた秀人。その大分後から、観客席から走り込む騎士団長と、それに続くよう命令された騎士団の面々。更には王様と一緒だった王国魔法師団の団長が、魔法師団がいるブースに駆け込み団員達と一緒に動き出した。

サンタナは動き出したい状況をぐっとこらえていた。選手席を覆いつくす程の強大な殺気。陽菜やユノ達はそれを察知しサンタナを見るが、恐怖でそこから動くことが出来なくなった。サンタナの顔は狂気でゆがみ目が血走り、握りしめた拳から血が流れてる。ステータスに大きく開きのある者が感情を剥き出しにすると、特にそこに殺気を込めた場合は周りにいる人間は威圧される。ただし精神力が一定以上高い場合はこの威圧にも耐えられるが、陽菜やユノレベルでもサンタナとは大きなステータスの開きがあり、精神力が少し足りなかった。 

秀人、マクレナシル、騎士団と魔法師団。飛び出した全員が一足遅かった。ジェネトールはここで時空魔法を使用する。 

「【未来ユーチャービジョンディム】」 

その瞬間、ジェネトールの頭の中にわずか数分先の未来が流れ込んでくる。しかし、この禁書が禁書である理由は、これではない。ジェネトールは次の瞬間に、会場中に聞こえるくらい大声で数分後の未来に起こる出来事を叫んだ。 

すると、会場にいる全ての人間の頭の中に、自動発動した神による記憶の消去が発動する。
時空魔法を制作した神は、時空魔法の未来を知るという強力な力に一つの制約を付けた。時空魔法により未来を知ったものが、それを他者に話した場合、もしくは文字などで伝えた場合も、術師以外は神からの直接的な攻撃を受ける。それが部分的な記憶の消去である。 

その瞬間、そこにいる全ての者が抜け殻となる。わずか数分先の未来を知る。その副産物として、他者に掛かる神からの防御不可の絶対攻撃。それによる数十秒の行動不能。未来を恐れた制作者の意図とは裏腹に、しくも、これこそが、この魔法にいての、最も強大な手段として利用されていた。 

「ははははは。これは最強じゃねーか。これでもう絶対に負ける事はあり得ない。俺が何をしても。いつ、どこで、誰といても、俺は絶対に逃げ切る事の出来る力を手に入れた。」 

しかし、ジェネトールの目の前に突然現れた、まだ12歳の少女。その存在にジェネトールは恐怖していた。ジェネトールはその少女をよく知っている。それどころか、ジェネトールは闇ギルドの存在や彼女の計画を知り、それに便乗する形で美味しい所だけを頂いていたのだ。そして、今、目の前にいるのは、限界突破を成し遂げたSランク暗殺者。通称ベアークロウ。絶対にかないであろう強者だった。 

「ヴラド。あんただったのか。練りに練った私の計画に横入りしやがって。私が魔道具を破壊して現場に行ったら、その前に、それをあんたが持ち去ったで良いんだよな? ご丁寧に、私の武器と同じ物まで証拠として残してくれた。そのせいでとても動きづらかったわよ。やってくれちゃったな。」 

「ベアークロウ、何でお前は、動ける?」 

「はん? 何言ってんだ? 全然聞こえない。あ。そっか、耳栓で対策してたんだった。まあ、いいや。死ねよ。」 

「やめろ。待ってくれ。俺はもう目的を果たした。禁書ならくれてやる。見逃してくれ。」 

「はん? 何なの? だから、聞こえないって。」 

少女、改め、SSクラスのノートルは、アイテムボックスから本来のメイン武器である手甲鉤を取り出した。これは犯人の証拠だと疑われていた、本当の自分の武器。これをさらけ出したのは、もうこの学園には用が無い為。鉄扇をアイテムボックスにしまうと、ノートルは手甲鉤を両腕に装備し、それを使って、装備の無い部分、ジェネトールの喉を狙い時間にして約20秒、連撃スキルを叩き込んだ。そうして、ジェネトールの喉を搔き切ると、手に持った禁書をうばっていた。 

ジェネトールはその場にうつ伏せに倒れ込み、ゆっくりと本来のジェネトールの姿に戻って行く。ジェネトールはその一瞬で絶命していた。そして、会場のみんなより数十秒早く正気に戻った秀人が、そこに走り込みながらその様子をハッキリと見ていた。 

「ヴラド―――――――!!!!!!」 

秀人は、その圧倒的な防御力よりは劣るが、そのすばやさも基礎値が高かった為、レベルが上昇した今はそのレベル以上に相当に早い。ノートルが去ろうとする前に、ダッシュでヴラドの所まで移動し、そして、ヴラドを抱きかかえる。 

その間に、ノートルは会話が出来るように耳栓を外している。先程の秀人の走る姿を見て、逃げ切るには会話が必要だと判断したからだ。 


「おい。ヴラド、大丈夫か? お前そんな顔だったのかよ。起きろ。」 

「秀人君、そんなに揺さぶっても死んだ者は生き返らない。無理だよ。」 

「ノートル貴様!! 殺す必要なんてなかっただろうが。」 


闘技場のノートルは、秀人の言葉に不気味に笑っている。

「なんだ。やるのか? 私は暗殺者だぞ。やめておいた方が良い。お前はキルダークをやったって話だが、どうせハッタリなんだろ? たしかお前は【L】ランクだがクラフターだったよな。ん? 天性ネイチャーが増えてる? そのシステムって天性ネイチャーはなんだ? この星の特徴とくちょうと何か関係がありそうだな。」 

「その禁書を渡せ。断るならお前を倒す。」 

「渡さねーし、戦闘もやめとくわ。鑑定結果が未知過ぎる。じゃあな。もう一生会わないと思うけど。」 

秀人はすぐにジェネトールを地面に降ろし、去ろうとするノートルに向かって突きを打つ構えをする。そして、ノートルに向かって前に進んだ。

「【ツミヲウガツ】」 

ノートルが攻撃を受けた、左胸を手で押さえる。あまりの痛みからそこに穴が開いていないかを確認したのだ。

「ぐはっ。おー。かなり効いたわ。やばいなその禍々しいスキル。シャドーのおっさん。いつまでも、観客席で寝てないで、戦闘に参加してくれ。」 

そこにシャドーが風魔法を応用した独自の高速移動で、倒れている騎士団達を追い抜き、ノートルの前に出現する。そして、ノートルの手から禁書を奪い取った。 

「くそガキ。俺に命令するな。それに、俺はコレを手に入れたらそれで良い。後は勝手にやってろ。」 

出現した時と同じように高速移動で闘技場を後にする。次いで騎士団長が起き上がり闘技場に向かって走り出した。ノートルは当てにしていたシャドーに置いて行かれた事を悔しがっている。 

「おっさんの馬鹿ー! 秀人君、禁書はどっかに行っちゃったけど、これからどうしよっか?」 

行動不能から徐々じょじょに回復していく会場にいる人達。闘技場に向かって走っていたマクレナシルが、やっと秀人達の前に到着した。 

「秀人君。この状況はいったい?」 

「そこで死んでいる男がヴラドに化けていて、禁書はそっちのノートルの仲間にうばわれました。殺したのはノートルです。」 

「不味いな。これでまた振り出しに戻ったわ。王族は今後も狙われる事になる。私はキヌハさんの様子を見て来るわね。ノートルちゃんは重要参考人だから、絶対に逃がさないでね。」 

その間に、王国騎士団と王国魔法師団の面々がノートルと秀人の周りを取り囲んでいた。 

「オニミヤ英雄伯。遅れてすみません。ここは私達が逃がしません。その子供は英雄伯にお任せしてよろしいのでしょうか? あの闘技場を森みたいにしてしまうような、とんでもない生徒を殺したって事は、その子も私達では相手にならないでしょう。」 

「ガイエルさんわかりました。ノートル。大人しく捕まる気はあるか?」 

「参ったね~。仕方ないな。秀人君、私は捕まりたくは無い。だからやろうか。」 

こうして、秀人は黒い陰謀いんぼうの渦中で、その問題に巻き込まれる事になった。次の相手はLv99の限界を超えた限界突破者。ノートルは闇ギルドLv124のSランク暗殺者である。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇   
いつも私の作品を読んで頂き誠にありがとうございます。またいつも応援して頂きましてありがとうございます。

※ここからは解説です。興味の無い場合は読み飛ばして下さい。 

魔法と Eランク クラス【魔術師】と【魔法師】の違い。

魔術師も魔法師もそれぞれ自分が契約した属性の魔法を職業レベルの上昇で覚える。属性が複数ある場合は覚える魔法の量が多くなる。ただし、融合魔法は特別なジョブかコモン魔法。 

Eクラス【魔術師】は、手に刻まれた精霊紋か天魔紋から魔法を放出する。(または、装備した杖から。)
Eクラス【魔法師】は精霊紋か天魔紋から得た契約属性の魔力を、展開した魔法陣から放出する。 

これらが昇格し、その系統のジョブになった場合も同じ。
※ただし、学園長や心愛のように高ランクのジョブの場合は、どちらも扱える。

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