現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。
魔法運動会 トーナメント編①
「それでは、闘技トーナメント。個人戦。第一試合、はじめっ。」 
第一試合 ケイニーVSサンタナ。 
ケイニーは槍使い。ジョブ【阿修羅・槍】巨大な大身槍『呑取』を軽々と扱い。そのリーチの長さは、A級の魔物、ダイアウルフに騎乗する事で戦闘を有利に運ぶ事が出来る。 
対するサンタナはナイフ使い。ジョブ【ダブルナイフ・重】ククリナイフ『バジリスク』と鉈『玄武』を使う特殊二刀流。二刀ゆえに攻撃回数に優れ、彼の天性に合わせた特注品で極太の刀身は防御にも応用できる。刀身が短い事で小回りもきくという万能型。そして、2本の刀身には猛毒が塗られている。リーチは短いが、抜群の瞬発力と本気の戦闘では土属性魔法で自分に都合の良い足場を作る方法でそれをカバーする事もある。もちろん、それ自体が長・中距離の攻撃にもなる。 
 
ケイニーは、秀人と会うまでは、ずっと剣のみの訓練をしていた。自分に槍の天性がある事は、学園に入学した時に分かった事だが、それがどれ程、戦闘に影響をもたらすのかを知らなかった。ましてや、自分が所持するアビリティーの効果、槍装備と騎乗する事で、さまざまな特典を二重に得られる事など、予想もしていなかった。 
 
「悪いな。サンタナ君。これは、俺の力のお披露目なんだ。騎士団はもうどうでも良いが、観客席にいる自分の家族には知らしめてやりたい。」 
「は? 悪いとは、俺に勝てると思っているのか?」 
「ああ。俺の器に念願の力が宿ったんだ。たかが学生に負ける気がしないね。」 
「なら、やってみろ。受けてやる。」 
 
観客席には王国騎士団用の一角がある。その中に座る、デイジー サウザントは、横にいる父親、アンドレ サウザントに対して、弟が乗っている魔物について言及していた。やや薄い目に薄い唇、緑髪を後ろで束ねている。顔や髪形に至るまで、そっくりの親子である。 
「父上。サウザント家の者が剣以外で戦う事も恥ですが、あの狂暴そうな狼はいったい何ですか? いくら自分が弱いからと言って魔物の力に頼るとは、まったく情けない。」 
「ケイニーが弱いから皇太女殿下に支給されたんだろう。それにしても、あれが我が家門の者であると気付かれる訳にはいかんな。デイジーもう騒ぐな。」 
この異世界の闘技には、テイムした魔物を戦闘に参加させる事が認められている。それと契約する為に、最低でも討伐に参加している必要があるからだ。ただ、実際に戦闘に参加させる人は少ない。主な理由は天性を持たねば魔物の躾が難しい。その上でずるいと思われる。しかし、こと騎乗に於いては、そうゆう英雄がいた為に、歴史の初歩を知る段階でもうケイニーを馬鹿には出来なくなる。むしろ、共闘と騎乗の明らかな違いを理解出来ない事の方が、この異世界では馬鹿なのだ。この場合、この脳筋で無知な親子がそれに当てはまる。 
「ですが、父上。あいつはアレで皇太女殿下の騎士だと言うのですから、家門が傷つく事は無いかと思いますよ。」 
「馬鹿かお前は。あんな弱い奴は見捨てられるに決まっているだろ。次期女王だぞ。しかし、あの時の少女が、ここまで上り詰める事になるとはな。」 
 
 
――ケイ二ー10歳の時 
 
 
父親と5歳年上の兄が剣士のAランク天性を所持していた事と家門が剣を使う事を理想としていた為に、ケイニーは剣の修行を受けて育っていた。しかし、ケイニ―は剣の天性を持たない為、剣の修行では兄のように上手くいかず、その上達も威力も凡人以下だった。騎士団一家のそれも剣の強さのみが求められる家で育ち、ケイニーは幼い段階から一族の恥さらしなどと罵られる事になる。それでも、毎日、兄以上に自主的な修行を励んで過ごしていた。 
ある日、いつものように庭で剣の稽古をしていると、一人の少女が、門の外から自分を見ている事に気が付いた。ケイニーはその女の子に会釈をした後、また、稽古を続ける。 
それが、何日か続いたので、ケイニーは勇気を出して、少女に話しかけてみる事にした。 
「こんにちは、お嬢さん。君は何で毎日、僕の修行を見ているの?」 
「うん。私は、あなたにとても興味があるの。私は、お兄様やお姉さまみたく、自分の専属の騎士がいないから、少しでもお2人に近づきたくて、私の騎士を探しているのよ。」 
兄妹に専属の騎士がいるという事で、ケイニーは咄嗟に少女がとても高い身分にいると判断し態度を変える。 
「それなら、他を当たった方が良いですよ。僕は落ちこぼれなんですから。」 
「じゃあ。なんで、毎日、朝から晩まで、剣を振っているの?」 
「僕の家族は、代々騎士団員ですから、例え入団出来なくとも父上達に恥をかかせるわけにはいきませんので。」 
「優しいのね。とても気に入ったわ。騎士団に入らないのなら、私の騎士にならない?」 
「ですが、私は落ちこぼれだと…。」 
「あのね。この国には人を思いやれる人は少ないのよ。それに、あなたは弛まぬ努力を続けられる人。とても貴重な人材だわ。是非、私の騎士になって欲しい。」  
ケイニーは、剣の修行を開始して以来、家族にも褒められた事が無い。だから、この言葉はケイニーの心にまっすぐに突き刺さった。 
「お嬢さん、お名前は何ですか?」 
「ユノ シエスタ ユートピアよ。」 
「ユートピア? ……まさかユノ殿下という事でよろしいでしょうか?」 
「まあ。一応、王女ではあるわね。」 
その時、ケイニーの父と兄が家の玄関から出て来た。そして、門の前で話をしているケイニー達に気付くと、異性と話をしている事が癪にさわった兄が近づきながら嫌味を言った。 
「おい、愚弟。何してやがる? 剣の腕はなかなか上達しないのに、女遊びを覚えるのは早いんだな。」 
「うむ、ケイニー。お前にはほとほと愛想が尽きた。剣の才能が無いんだから、もうそれを置いて家の雑用でもしていろ。」 
「おいクズ。父上の命令だぞ。返事はどうした?」 
ケイニーの父親は、ケイニーの目の前まで来ると、その手から木刀を奪い、小突いてから蹴り飛ばした。それを見たユノはケイニーの父親に向かって意見をする。 
「ケイニーに才能が無い? 剣術だけを見てレッテルを貼ったり、その可能性を奪わないでくれるかな。ケイニーはあんた達と違って、清い心という器があるの。それを持つ者だけが本物になれる。 」 
「なんなのだ。貴様は?」「小娘。人の家庭に口出しをするでない。引っ込んでろ。」 
ケイニーは今まで父と兄に何をされようが口答えをした事が無い。自分を貶されても、虐待されても、自分が悪いのだから仕方が無いと思っていた。だが、今、目の前の彼女に悪態をつく彼らに対しては、仕方が無いでは済まされなかった。自分には果たすべき使命がある。そして、父と兄を初めて睨みつけその言葉を言い放った。 
「アンドレ! デイジー! こちらのお方はユノ殿下、この国の王女であらせられる!そして、私はユノ殿下の騎士である。殿下への無礼は、この私が絶対に許さぬぞ!」 
父アンドレと兄デイジーはこの言葉に口をパクパクさせたかと思うと、すぐに土下座をして謝るのだった。ケイニーは誇らしかった。それは父と兄を土下座させたユノの権力に対してでは無い。自分と同じくらいの年の女の子が、自分よりも明らかに年上の男性達に尻込みもせずに意見をした事。その内容が自分の事を信じてくれたものだった事。そして、これからは、自分がその親愛なるお方の騎士でいられる事がとても誇らしかった。 
「……王女様。も……申し訳ございません。」「……失礼いたしました。ユノ殿下。」 
「ケイニーありがとう。引き受けてくれるのね。これから、よろしく。私の小さな騎士さん。」 
その日から、ケイニーはいくら家族に侮辱されても、自分に自信と誇りを持った。ユノだけが自分を褒めてくれる。それだけで満足だった。ユノと共に学園に入学し、兄妹にユノが心を折られる事になっても、いつか、この頃のユノが帰ってくる日を、自分が信じて貰えたようにケイニーもユノを信じていた。 
――そして、秀人のおかげで、再びあの頃のユノを取り戻し、自分には力とそれに裏付けされた本物の自信まで付いていた。秀人には尊敬と感謝の気持ちが尽きない。 
「ダイちゃん。やるよ。いくよ。サンタナ君。」
「ああ来い。」 
「【阿修羅・弐突】」 
ケイニーの騎乗するダイアウルフが前に進み、サンタナの斜め前に移動する。その瞬間にケイニーがその大身槍を構え、ジョブ『阿修羅・槍』のスキル【阿修羅・弐突】を繰り出す。下方への強烈な突きとその閃光が轟音と共にサンタナの喉元に襲い掛かるが、サンタナはククリナイフでその軌道をずらす。と、同時にサンタナは火花を散らせながら、ククリナイフをその刀身に滑らすようにして前進し、飛び跳ねて一気に間合いを詰める。次いで反対の手に持つ太い鉈をスキルも無しにケイニーの頭部に振り下ろした。鈍器でうち付けられた様な衝撃が痛みと共にケイニーの頭を襲う。
圧倒的なレベルの差。更に強者であるサンタナは、例の如く基礎値が常人よりも高い。レベル差に加えて圧倒的なステータスの差だった。ケイニーはその一瞬に何が起こったのか、まったく理解出来なかった。 
「ぐぁっ。」 
もし、これが頭に直接当たっていれば、この程度では済まない。更に刀身に塗られた猛毒が全身に回る事になる。幸いな事に、ケイニーの頭には高ランクで最高の品質『至高品質』の兜がある。秀人のアビリティー【究極変換】で、他人にはそれが見えないだけだ。それなのに、受けたダメージは非常に高い。これをあと何発か喰らえば戦闘不能になる事くらいは自分でも分かる。だが、それゆえにサンタナをトーナメントでこれ以上進めさせる訳にはいかなくなった。それはユノに危険が及ぶ事だからだ。ケイニーは禁書の犯人の可能性、その情報を秀人達と共有しているのだ。 
「ユノの為に、絶対にお前を勝ち上がらせる事はさせない。」 
「……ユノの為? お前、何か知って……。言え。ユノの為とはいったい何の事だ?」 
珍しくサンタナが狼狽する。――コイツ……もしや気付かれたか? 殺す? ―― 
「お前が勝ち進めば、ユノと対戦させる事になるだろ。そんな事はさせない。お前が禁書の犯人の可能性が高いからな。」 
その答えを聞き、サンタナは笑い出した。それはただの見当違い。まったく身に覚えがない言い掛かりだ。
「……フ。……フハハハハハッ。なんだ。……そんな事か。では、降参だ。それで疑いが晴れるんだろ?」 
「へ?」 
「いや。俺は降参する。そもそもミミカが勝手にエントリーしただけで、すぐに降参しようとしていた。それを、お前の力のお披露目だったか? 家族がどうのと、お前の方が引き留めたんだろうが。」 
――わざわざ力を隠しているのに、こんな大会で勝ち進むわけないだろ。くそっ。こいつ思った以上に強くて、つい反応してしまった。――
「……あ。すまん。では、お前は犯人では無いのか?」 
「当たり前だ。そんなものは知らん。審判! 降参だ!!」 
「勝者。ケイニー サウザント。」 
レフリーの判定の言葉に、司会を務めるカインズが続いた。 
「両者お疲れ様でした。勝者はケイニー サウザント選手でした。それにしても、いったい今のは何だったんでしょうか。ケイニー選手の攻撃も迫力がありましたが、サンタナ選手が人間技とは思えない速度で飛び跳ねましたね。そして、なぜ降参したのかも謎です。いったい、二人は試合終了間際に何の会話をしていたのでしょう。……それでは、次の試合に出場する選手は準備を始めて下さい。」 
 
 
秀人は思う。――これで、サンタナが犯人では無い可能性が少しだけ高くなった。となると、最初にヴラドが言っていた、次の試合のノートルが俄然怪しくなるな。――その結果を見てそう思っていた秀人の隣にマクレナシルが現れる。 
「秀人君。おはよう。」 
「マクレナシル先生。おはようございます。」 
「突然だけど、急ぎで君にお願いがあるの。」 
「何でしょうか?」 
「前に学園の宝物庫から禁書が盗まれたのは、知っているわよね?」 
「はい。知ってます。」 
「学園内に限り、この捜査を私が担当しているの。そして、禁書は、それだけがあっても王室の血がなければ、コモン魔法をステータスに刻む事が出来ない。簡単に言うと初代ユートピア王の時空属性の変換率を子孫の血を使って禁書から少しだけ取り込む必要があるの。もし、生徒の中に犯人がいたなら、今が血を採取する為の最大のチャンスだと思わない?」 
「実は俺もその事が気になっていたんです。」 
「なら、話が早いわね。秀人君。選手席で観戦してくれないかしら? 騎士団が露骨に動くと犯人が警戒するだろうけど、君なら生徒だしね。」 
「是非そうしたいですが、先生には観客席で大人しくしてろって言われましたよ?」 
「参加しなければ、選手席だろうと問題無いわよ? 選手の仲間がアドバイスの為に、セコンドにつく事だって認められているのだからね。」 
「そうでしたか。知りませんでした。それなら、次のモーリスの試合はセコンドとして、間近で観戦しても良いですか?」 
「それは、目立つからやめときましょう。あなたは生徒だとしても、今やこの国の英雄なのだから。選手席でも十分だわ。その替わり何かが起きたら素早く対応出来るようにしておいて。一応、観客席からは騎士団長、選手席隣の救護席からは、私が注意深く観察して早急に動けるようにしてあるわ。騎士団員は団長に続いて観客席から動く事になる。」 
「……分かりました。」 
 
こうして、次の対戦モーリスVSノートルの準備が進められている中。秀人は仲間のうち、陽菜、ユノ、ケイニー、ヴラド、ミノスがいる、闘技場前の選手席に移動する事になった。 
第一試合 ケイニーVSサンタナ。 
ケイニーは槍使い。ジョブ【阿修羅・槍】巨大な大身槍『呑取』を軽々と扱い。そのリーチの長さは、A級の魔物、ダイアウルフに騎乗する事で戦闘を有利に運ぶ事が出来る。 
対するサンタナはナイフ使い。ジョブ【ダブルナイフ・重】ククリナイフ『バジリスク』と鉈『玄武』を使う特殊二刀流。二刀ゆえに攻撃回数に優れ、彼の天性に合わせた特注品で極太の刀身は防御にも応用できる。刀身が短い事で小回りもきくという万能型。そして、2本の刀身には猛毒が塗られている。リーチは短いが、抜群の瞬発力と本気の戦闘では土属性魔法で自分に都合の良い足場を作る方法でそれをカバーする事もある。もちろん、それ自体が長・中距離の攻撃にもなる。 
 
ケイニーは、秀人と会うまでは、ずっと剣のみの訓練をしていた。自分に槍の天性がある事は、学園に入学した時に分かった事だが、それがどれ程、戦闘に影響をもたらすのかを知らなかった。ましてや、自分が所持するアビリティーの効果、槍装備と騎乗する事で、さまざまな特典を二重に得られる事など、予想もしていなかった。 
 
「悪いな。サンタナ君。これは、俺の力のお披露目なんだ。騎士団はもうどうでも良いが、観客席にいる自分の家族には知らしめてやりたい。」 
「は? 悪いとは、俺に勝てると思っているのか?」 
「ああ。俺の器に念願の力が宿ったんだ。たかが学生に負ける気がしないね。」 
「なら、やってみろ。受けてやる。」 
 
観客席には王国騎士団用の一角がある。その中に座る、デイジー サウザントは、横にいる父親、アンドレ サウザントに対して、弟が乗っている魔物について言及していた。やや薄い目に薄い唇、緑髪を後ろで束ねている。顔や髪形に至るまで、そっくりの親子である。 
「父上。サウザント家の者が剣以外で戦う事も恥ですが、あの狂暴そうな狼はいったい何ですか? いくら自分が弱いからと言って魔物の力に頼るとは、まったく情けない。」 
「ケイニーが弱いから皇太女殿下に支給されたんだろう。それにしても、あれが我が家門の者であると気付かれる訳にはいかんな。デイジーもう騒ぐな。」 
この異世界の闘技には、テイムした魔物を戦闘に参加させる事が認められている。それと契約する為に、最低でも討伐に参加している必要があるからだ。ただ、実際に戦闘に参加させる人は少ない。主な理由は天性を持たねば魔物の躾が難しい。その上でずるいと思われる。しかし、こと騎乗に於いては、そうゆう英雄がいた為に、歴史の初歩を知る段階でもうケイニーを馬鹿には出来なくなる。むしろ、共闘と騎乗の明らかな違いを理解出来ない事の方が、この異世界では馬鹿なのだ。この場合、この脳筋で無知な親子がそれに当てはまる。 
「ですが、父上。あいつはアレで皇太女殿下の騎士だと言うのですから、家門が傷つく事は無いかと思いますよ。」 
「馬鹿かお前は。あんな弱い奴は見捨てられるに決まっているだろ。次期女王だぞ。しかし、あの時の少女が、ここまで上り詰める事になるとはな。」 
 
 
――ケイ二ー10歳の時 
 
 
父親と5歳年上の兄が剣士のAランク天性を所持していた事と家門が剣を使う事を理想としていた為に、ケイニーは剣の修行を受けて育っていた。しかし、ケイニ―は剣の天性を持たない為、剣の修行では兄のように上手くいかず、その上達も威力も凡人以下だった。騎士団一家のそれも剣の強さのみが求められる家で育ち、ケイニーは幼い段階から一族の恥さらしなどと罵られる事になる。それでも、毎日、兄以上に自主的な修行を励んで過ごしていた。 
ある日、いつものように庭で剣の稽古をしていると、一人の少女が、門の外から自分を見ている事に気が付いた。ケイニーはその女の子に会釈をした後、また、稽古を続ける。 
それが、何日か続いたので、ケイニーは勇気を出して、少女に話しかけてみる事にした。 
「こんにちは、お嬢さん。君は何で毎日、僕の修行を見ているの?」 
「うん。私は、あなたにとても興味があるの。私は、お兄様やお姉さまみたく、自分の専属の騎士がいないから、少しでもお2人に近づきたくて、私の騎士を探しているのよ。」 
兄妹に専属の騎士がいるという事で、ケイニーは咄嗟に少女がとても高い身分にいると判断し態度を変える。 
「それなら、他を当たった方が良いですよ。僕は落ちこぼれなんですから。」 
「じゃあ。なんで、毎日、朝から晩まで、剣を振っているの?」 
「僕の家族は、代々騎士団員ですから、例え入団出来なくとも父上達に恥をかかせるわけにはいきませんので。」 
「優しいのね。とても気に入ったわ。騎士団に入らないのなら、私の騎士にならない?」 
「ですが、私は落ちこぼれだと…。」 
「あのね。この国には人を思いやれる人は少ないのよ。それに、あなたは弛まぬ努力を続けられる人。とても貴重な人材だわ。是非、私の騎士になって欲しい。」  
ケイニーは、剣の修行を開始して以来、家族にも褒められた事が無い。だから、この言葉はケイニーの心にまっすぐに突き刺さった。 
「お嬢さん、お名前は何ですか?」 
「ユノ シエスタ ユートピアよ。」 
「ユートピア? ……まさかユノ殿下という事でよろしいでしょうか?」 
「まあ。一応、王女ではあるわね。」 
その時、ケイニーの父と兄が家の玄関から出て来た。そして、門の前で話をしているケイニー達に気付くと、異性と話をしている事が癪にさわった兄が近づきながら嫌味を言った。 
「おい、愚弟。何してやがる? 剣の腕はなかなか上達しないのに、女遊びを覚えるのは早いんだな。」 
「うむ、ケイニー。お前にはほとほと愛想が尽きた。剣の才能が無いんだから、もうそれを置いて家の雑用でもしていろ。」 
「おいクズ。父上の命令だぞ。返事はどうした?」 
ケイニーの父親は、ケイニーの目の前まで来ると、その手から木刀を奪い、小突いてから蹴り飛ばした。それを見たユノはケイニーの父親に向かって意見をする。 
「ケイニーに才能が無い? 剣術だけを見てレッテルを貼ったり、その可能性を奪わないでくれるかな。ケイニーはあんた達と違って、清い心という器があるの。それを持つ者だけが本物になれる。 」 
「なんなのだ。貴様は?」「小娘。人の家庭に口出しをするでない。引っ込んでろ。」 
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「アンドレ! デイジー! こちらのお方はユノ殿下、この国の王女であらせられる!そして、私はユノ殿下の騎士である。殿下への無礼は、この私が絶対に許さぬぞ!」 
父アンドレと兄デイジーはこの言葉に口をパクパクさせたかと思うと、すぐに土下座をして謝るのだった。ケイニーは誇らしかった。それは父と兄を土下座させたユノの権力に対してでは無い。自分と同じくらいの年の女の子が、自分よりも明らかに年上の男性達に尻込みもせずに意見をした事。その内容が自分の事を信じてくれたものだった事。そして、これからは、自分がその親愛なるお方の騎士でいられる事がとても誇らしかった。 
「……王女様。も……申し訳ございません。」「……失礼いたしました。ユノ殿下。」 
「ケイニーありがとう。引き受けてくれるのね。これから、よろしく。私の小さな騎士さん。」 
その日から、ケイニーはいくら家族に侮辱されても、自分に自信と誇りを持った。ユノだけが自分を褒めてくれる。それだけで満足だった。ユノと共に学園に入学し、兄妹にユノが心を折られる事になっても、いつか、この頃のユノが帰ってくる日を、自分が信じて貰えたようにケイニーもユノを信じていた。 
――そして、秀人のおかげで、再びあの頃のユノを取り戻し、自分には力とそれに裏付けされた本物の自信まで付いていた。秀人には尊敬と感謝の気持ちが尽きない。 
「ダイちゃん。やるよ。いくよ。サンタナ君。」
「ああ来い。」 
「【阿修羅・弐突】」 
ケイニーの騎乗するダイアウルフが前に進み、サンタナの斜め前に移動する。その瞬間にケイニーがその大身槍を構え、ジョブ『阿修羅・槍』のスキル【阿修羅・弐突】を繰り出す。下方への強烈な突きとその閃光が轟音と共にサンタナの喉元に襲い掛かるが、サンタナはククリナイフでその軌道をずらす。と、同時にサンタナは火花を散らせながら、ククリナイフをその刀身に滑らすようにして前進し、飛び跳ねて一気に間合いを詰める。次いで反対の手に持つ太い鉈をスキルも無しにケイニーの頭部に振り下ろした。鈍器でうち付けられた様な衝撃が痛みと共にケイニーの頭を襲う。
圧倒的なレベルの差。更に強者であるサンタナは、例の如く基礎値が常人よりも高い。レベル差に加えて圧倒的なステータスの差だった。ケイニーはその一瞬に何が起こったのか、まったく理解出来なかった。 
「ぐぁっ。」 
もし、これが頭に直接当たっていれば、この程度では済まない。更に刀身に塗られた猛毒が全身に回る事になる。幸いな事に、ケイニーの頭には高ランクで最高の品質『至高品質』の兜がある。秀人のアビリティー【究極変換】で、他人にはそれが見えないだけだ。それなのに、受けたダメージは非常に高い。これをあと何発か喰らえば戦闘不能になる事くらいは自分でも分かる。だが、それゆえにサンタナをトーナメントでこれ以上進めさせる訳にはいかなくなった。それはユノに危険が及ぶ事だからだ。ケイニーは禁書の犯人の可能性、その情報を秀人達と共有しているのだ。 
「ユノの為に、絶対にお前を勝ち上がらせる事はさせない。」 
「……ユノの為? お前、何か知って……。言え。ユノの為とはいったい何の事だ?」 
珍しくサンタナが狼狽する。――コイツ……もしや気付かれたか? 殺す? ―― 
「お前が勝ち進めば、ユノと対戦させる事になるだろ。そんな事はさせない。お前が禁書の犯人の可能性が高いからな。」 
その答えを聞き、サンタナは笑い出した。それはただの見当違い。まったく身に覚えがない言い掛かりだ。
「……フ。……フハハハハハッ。なんだ。……そんな事か。では、降参だ。それで疑いが晴れるんだろ?」 
「へ?」 
「いや。俺は降参する。そもそもミミカが勝手にエントリーしただけで、すぐに降参しようとしていた。それを、お前の力のお披露目だったか? 家族がどうのと、お前の方が引き留めたんだろうが。」 
――わざわざ力を隠しているのに、こんな大会で勝ち進むわけないだろ。くそっ。こいつ思った以上に強くて、つい反応してしまった。――
「……あ。すまん。では、お前は犯人では無いのか?」 
「当たり前だ。そんなものは知らん。審判! 降参だ!!」 
「勝者。ケイニー サウザント。」 
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秀人は思う。――これで、サンタナが犯人では無い可能性が少しだけ高くなった。となると、最初にヴラドが言っていた、次の試合のノートルが俄然怪しくなるな。――その結果を見てそう思っていた秀人の隣にマクレナシルが現れる。 
「秀人君。おはよう。」 
「マクレナシル先生。おはようございます。」 
「突然だけど、急ぎで君にお願いがあるの。」 
「何でしょうか?」 
「前に学園の宝物庫から禁書が盗まれたのは、知っているわよね?」 
「はい。知ってます。」 
「学園内に限り、この捜査を私が担当しているの。そして、禁書は、それだけがあっても王室の血がなければ、コモン魔法をステータスに刻む事が出来ない。簡単に言うと初代ユートピア王の時空属性の変換率を子孫の血を使って禁書から少しだけ取り込む必要があるの。もし、生徒の中に犯人がいたなら、今が血を採取する為の最大のチャンスだと思わない?」 
「実は俺もその事が気になっていたんです。」 
「なら、話が早いわね。秀人君。選手席で観戦してくれないかしら? 騎士団が露骨に動くと犯人が警戒するだろうけど、君なら生徒だしね。」 
「是非そうしたいですが、先生には観客席で大人しくしてろって言われましたよ?」 
「参加しなければ、選手席だろうと問題無いわよ? 選手の仲間がアドバイスの為に、セコンドにつく事だって認められているのだからね。」 
「そうでしたか。知りませんでした。それなら、次のモーリスの試合はセコンドとして、間近で観戦しても良いですか?」 
「それは、目立つからやめときましょう。あなたは生徒だとしても、今やこの国の英雄なのだから。選手席でも十分だわ。その替わり何かが起きたら素早く対応出来るようにしておいて。一応、観客席からは騎士団長、選手席隣の救護席からは、私が注意深く観察して早急に動けるようにしてあるわ。騎士団員は団長に続いて観客席から動く事になる。」 
「……分かりました。」 
 
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