現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

あばたもえくぼ

 七三に分けられた白髪に整った白いチョビひげ。だからといって彼が老人と言う訳では無い。髪と言葉づかいだけは、そう思われても仕方ないが、実年齢はまだ40代後半で、顔つきにいたってはそれよりも若い。髪色は生まれつき、そうゆう色なのだ。王立第一魔法学園 教頭 アルトゥール ハインリッヒは、妹に頼まれて、甥のホワイルの部屋に来ていた。威厳のある風格で怒っているようにも見えるのだが、その実、とても優しい気持ちで妹と甥の事を心から心配していた。視線の先には、王宮から追い出され、学生のそれも平民用の狭い個室で膝を抱えて俯いている甥っ子がいる。 

「ホワイル。いつまでも、部屋に閉じこもっていないで、学園に顔を出したらどうなんだ?」 

「嫌だ。行きたくない。父上に平民にされたんだぞ? もう誰も俺を相手にしない。」 

「お前は今まで欲が深すぎたんじゃ。これからは、富や名声という外にある物を求めるより、内にある心を磨きなさい。もう誰も相手にしない? 別に良いではないか。孤独こそが自由というものじゃ。」 

「ユノが恐ろしいんだ。今までの仕返しをされてしまう。」 

「それはお前自身の本質だ。ユノ皇太女は、お前が考える事と同じ事をするはずがない。あの子は本当に優しい子だからな。」 

「叔父さん。何でユノの味方をするんだよ。」 

「ホワイル。人を敵と味方だけに区別するな。損をしておるぞ。とにかく、エリーが心配しておる。学園に顔を出しなさい。そして、これからはまっとうに生きるんだ。平民になれた今だからこそ、欲にまみれた、これまでのお前と違うはずだ。」 

「意味がわからないよ。学園なんかに行ったらユノが何をするかわからない。」 

「ユノ皇太女は謝れば許してくれるはずじゃ。欲は捨てて、実の妹と仲良くするんじゃぞ。」 

「嫌だ。」 

「そうか。では、仕方ない。お前にはハインリッヒ国に行って貰う。お前のことは兄上に任せよう。」 

「ちょっと、待ってくれ。……分かった。明日から学園に行くよ。」 

「それで良い。ひとつ忠告じゃ。ユノ皇太女の事は、ライバルでは無く、かわいい妹だと思って接してみなさい。」 

 ホワイルは、ハインリッヒ国にだけは行きたくなかった。東に位置するサイバースの更に東にある小国。商業の国ハインリッヒ。そこの王は、ホワイルかキヌハをユートピアの王にする為、今までユートピアに対して莫大な支援を続けてきていた。そして、王になった時に自分に従いやすくする為、ホワイルには幼い頃からハインリッヒ王に対する恐怖心を植え付けていたのだ。ましてや、継承権を失った今の状態、ハインリッヒ王が財産を投じた分だけ、それが無駄になっている。それこそユノよりも恐ろしいのだ。 

「失礼します。アルトゥール教頭。そろそろ、魔法運動会の打ち合わせに間に合わなくなります。」 

 アルトゥール教頭とそれに付き添った講師は、学生寮から出て打ち合わせに向けて歩いていた。それが学園の校庭に差し掛かると、アルトゥール教頭はまた頭を悩ませる。校庭にはとても巨大な2つの大穴が開いている。身を乗り出して確認をすると、とても深い地層にまで達している事が分かる。 

「しかし、ひどいもんだのお。これでは、魔法運動会の開催は難しいであろう。」 

「おそらく、これは古代魔法。それをLv428のエレメンタルマスターが使っています。闇魔法の根源、破壊のエネルギーが残留ざんりゅうしておりまして、土魔法の専門家達ですら整備出来ませんでした。」 

「王族や貴族達が視察に来るから中止には出来ぬが、彼等の目的である闘技場で行う種目だけの開催とするか。おっと、いかん。会議じゃったな。」 




***



  午前中の実習授業の途中で、学園教師のキュリオンとカインズがSSクラスの生徒達をいったん集めていた。

「これより魔法運動会のチームを発表します。と、言いたい所ですが、今年は校庭が大変な事になっている為、個人戦と団体戦の決闘トーナメントのみ開催になります。観戦をする王族と貴族のスケジュールの都合上、これを延期する事が出来ない為です。団体戦に参加したい人は5人の登録メンバーをカインズ先生に申告して下さい。」 

 秀人は、魔法運動会と言うイベントをとても楽しみにしていた。なぜなら、仲の良い仲間との学園イベントは人生で初めて経験する事だからだ。しかし、その競技のほとんどがキルダークのせいで中止になってしまった。 

「くそっ。あいつ。こんな所にも迷惑かけやがって。」 

「まあ良いんじゃない。メインイベントは残っているみたいだし。それで団体戦の五人の登録メンバーはどうしようか?」 

 陽菜は仲間と共にバトルに参加が出来る事の嬉しさで頭がいっぱいだった。秀才として孤独に生きて来た陽菜にとっても、この仲間達との学園生活は楽しいものだった。絶対に団体戦に出るという強い意志を持ち、質問をした陽菜自身が一足先に手をあげて参加を表明した。ライバルのユノもそれにつられて反射的に手をあげる。

「私、出たい。」「私も!」 

「女子二人はレディーファーストでこれで決まりね。後は男子三人。」 

「おい陽菜。それはずるいぞ。公平に全員でジャンケンにしない?」 

 そんな会話を楽しんでいる秀人達の所に副担任のカインズがやってくる。 

「秀人君。君は今回、参加は出来ないからね。今回と言うより、格闘系のイベントは全て出れないと思った方が良い。ついでに中央大陸の各国が、それぞれ代表を戦わせる交流戦なんかにも出れないから。どちらかというと、先に実行委員からのお断りがあって、そうゆう事ならと学園側も認識を改めたんだ。君は学生同士の格闘に参加するには強すぎる。」 

 秀人は精神攻撃でも受けているかのようにカインズの言葉が頭の中でぐるぐる回転していた。周囲の人間はカインズの言葉を受け何もなかったようにメンバー選考を再開している。今まで最弱人生をひた走って来た秀人が、ようやく努力した分の普通の成長を感じられるかもしれないと思っていた矢先だった。勝手に過大評価をされそのチャンスを奪われてしまったと思っている。
 秀人以外は至極当然の事なので、さっさと選考を始めたのだ。もちろん秀人が過大評価をされているわけではない。この期に及んで自分が普通だと思っているのだ。

「カインズ先生。ちょっと、待ってください。おかしいでしょ。何ですかそれは?」

「秀人。私のせいでごめん。」

「いや。ユノは気にしなくていいから。これはただの勘違いだし……。」

 カインズへの反論だったのだが、ユノが申し訳なさそうにした事で反論する言葉が徐々に小さくなる。この件でユノが責任を感じるのは秀人の本意ではない。秀人は先生方の誤解は後で解こうと考える。ユノの頭をポンポンと撫でてから、親指を立てて笑ってみた。するとユノもニッコリと微笑み、顔を赤くしながら輪の中に戻って行った。

「目立っちゃったから仕方ないよね。むしろ、世界最強を倒した男を、たかだか学生の闘技イベントに参加させる方がおかしいよね。」 

「それは、相手が魔導士だったからという……ただの相性の問題なんです。」 

「相手がLv428なら、それこそ相性も何もないだろ。Lv428に通用する攻撃なんて、学生が受けたら死んでしまうぞ。」 

「それも、あの時はピンチで実力以上の力を使えたんですけど、まだ不安定というか……。」 

「君は自分の力を正しく理解していないんだな。恐ろしいのはその攻撃力だけではない。それに副担任の私にどんな言い訳を言っても無駄だ。それよりも、もう卒業した方が良いんじゃないか? 学園長の指示で、君に来ている数々のスカウトを教頭先生が全て断っているぞ。王国騎士団、真貴族騎士団、貴族の私兵、更には国外からもスカウトがたくさん来ている。どれもお前の力に相応しいポストを用意しているのだぞ。本当にこれで良いのか?」 

「たしかに魔力0なんで学園で学ぶ事はもうないんですよね。でも仲間集めが学園生活の大きな目的の一つなんで、しばらくはこのままで良いかな。俺、昔はいじめられっ子でずっと一人だったんです。その時を考えたら、この学園の仲間達との交流が本当に楽しいんですよ。」

「不思議な男だ。それだけの力がありながら、キャリアや役職よりも仲間との楽しい時間を取るか。お前は野望を持たないのか?」

「野望? ちゃんとありますよ。ある程度のお金を稼いで、なるべく早く遊んで暮らせるようになる! ふっ。俺の野望はそれだけです。」 

「あははは。それは無理な話だな。貴族というだけで国から仕事を与えられる。」

「そんな事をされたら、この国を出て行きますよ。身分なんていらないです。身近な奴隷は解放出来たけど、どうにか考えて、世界の身分制度そのものを無くしちゃおうかな。不自由です。」

「…………本当か?……いや、なんでもない。……卒業の話は考えてみると良い。」

「はい。でも、たぶん卒業はしないです。」

 秀人の本心は絶対にまだ学園を卒業したくない。現実世界では9才から虐められるだけの学校生活しか送って来なかった。それが今は異世界で好きな人達と共に笑いながら楽しく過ごす経験を積んでいる。分身アバターだが記憶は共有している。異世界での学園生活は秀人にとって何ものにも代えがたい至福の時間となっているのだ。 

「変わった奴だな。とりあえず、魔法運動会はおとなしく客席で観戦していてくれよ。」 

「はい。」 

 秀人は素直に返事をするが、正直に言うと観客席では不安だった。というのも、禁書をうばった犯人の可能性が高いサンタナとミミカ。秀人達の中ではその二人が王家の血を狙っている可能性が高いからだ。その場合、ユノかモーリス。二人のうち、どちらかが彼等と戦う事になった場合、大量に出血させられる可能性も考えられる。 それにより、命に危険が及ぶかと言ったら、それは秀人には予想出来ない。だが用心しておいた方が良いと考えていたのだ。 

 試合なので、その日ユノは本体を出す事になる。これまでのように分身アバターが襲われるわけではないのだ。 

 そんな事を考えている秀人は、もはや仲間達の蚊帳の外だった。個人戦と団体戦に出る人はすでに決定し、カインズに申告するまでが全て終わっていた。


 その日、SSクラスの男女のクラスメイト二名が、学園を辞める事になった。だが退学などのたぐいでは無い。二人はいたく精神を病み学園に来れなくなってしまったのだ。そのうちの一人は、モルガン伯爵家のご令嬢、ジェシカ モルガン15才。この間までキヌハの取り巻きだった女だ。誰かに、よほどひどい目に遭わされたのか、秀人は学園を去る時にすれ違ったのだが、それを彼女だとはとても思えなかった。目は虚ろで髪は真っ白に染まり、保護者らしき人物に対しても怯えていて全身の震えがひどかった。秀人は一瞬キヌハを疑ったが、ユノいわく、キヌハとは関係が無い出来事だと断定された。今のキヌハにはそれをする程の力が無いのだと言われる。キヌハには辛うじて婚約者のゲロと取り巻きのキャリーが残ってはいるが、とても、肩身の狭い生活をしている。むしろ、ジェシカの方が、キヌハへの態度を180度変えていて、新しい仲間達と共にすれ違う度に皮肉を浴びせていた。それをユノが発見し止めさせたのだ。 



 ――秀人が抜けたメンバー選考時の陽菜とユノの会話。

「それくらい当然よね。むしろ、どの大会でも参加を表明した時点で殿堂入りや、不戦勝の扱いにして欲しいくらいだわ。秀人はようやく心の強さに力が追いついた。とりあえず、私もそこに並び立つつもりだから参加は絶対よ。」

「そうね。秀人には悪いけど、世界の偉大な英雄をこんな学園の闘技大会に参加させようものなら、私の方が不当な扱いだと抗議をしている所だったわ。私も当然参加するわ。英雄を支える仲間だもの。」


「現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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