現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

オニミヤ商会

 先日、秀人がダンジョンの前で偶然に知り合ったお婆さん。タエは長年の足の怪我と最近では病気を患い、息子には捨てられたとの事だった。 

 体もやつれているので、すぐに心愛の空間転移テレポートで街まで移動して、秀人はタエに食事をご馳走した。 

「タエさん。体は大丈夫ですか? おかわりしたかったら、遠慮えんりょせずに言って下さいね。」 

「本当にありがとうございます。人生の最後に、こんなに親切にして頂けるなんて思ってもみませんでした。息子にも食べさせてあげたかった。」 

「そんな縁起えんぎでもない事は言わないで下さい。これから、一緒にどうするか考えましょうよ。」 

 食事が終わると、心愛の【キュア】と【ヒール・シリアス・ウーンズ】で、タエの体の調子は整い、すっかり健康体となる。過去にわずらった足の怪我までも完治していた。それからはタエと一緒に住む事になり、現在は給料を支払い秀人のお店を手伝ってくれている。

 そして、なんと言っても、タエを究極鑑定したその結果が凄かった。 

「タエさん。生産や商業のスキルをたくさん持っていますが、どうやって獲得したんですか?」 

「若い頃から、たくさんのお店を転々としていてね。そこで学んだ技術じゃよ。」 

 実際、生産スキルは各お店で学んだ事だが、商業スキルはベースとしてアルチザンとビジネスマンに関わるSSSランク天性ネイチャーを持っていたので、経験の他に補正の効果がいろいろあった。驚くべきは一つのジョブからコモンスキルとして、それらを取得している事だった。 

 SSSジョブ『プレミアムワーカー』
 Eランク『アルチザン』とDランク『ビジネスマン』のスキルを全てコモンスキルとして制限なく取得出来る。また、SSランクまでの生産スキルを昇華させ『プレミアムワーカー』の固有スキルとして、任意で取得出来る。

 タエは初級の生産スキルを全てマスターした上で、【四則演算】【複式簿記】【財務会計】【制度会計】【人材マネジメント】など、その他複数の見た事も無い、仕事に役立つ固有スキルを取得していたのだ。 

 そして、タエをダンジョン前で見つけた事で、秀人はもう一つとても有用ゆうような情報を得られた。ダエの話では、ユートピアの平民の現状げんじょうは、働けなくなった人達が路頭ろとうに迷ったり、捨てられたりと、本当にひどい扱いを受けている事だった。

「もしかすると、その人達もタエさんみたいに、長い経験で仕事に役立つスキルをたくさん身に着けている可能性がありますね。」 

「そうですね。年老としおいた人が多いですから、体が動くなら即戦力になる人材ばかりだと思いますよ。」 

「例え動かなかったとしても、タエさんがいればスキル技術を伝える事で人材の育成は出来ると思いますよ。その方達を実際に鑑定してみないと分かりませんが……。暮らしに困っているという平民の人達が技術を取得する場所。低価格で通える、商業や生産スキルの夜間学校的な物も作りたいですね。」 

 タエの『プレミアムワーカー』のジョブの中に【スキル伝授】という生産スキルの技術をコモンスキルとして伝授するというものがあった。伝授するにはコモンスキルのように学ぶ必要があるが【スキル伝授】自体を伝授してしまえば、生産スキルの学校も作れると秀人は考えたのだ。


 そして、秀人はタエの知り合いの伝手を辿り、王都に住んでいる平民の中から働けなくなった老人達を集めた。集まった老人達はどの人も経験豊富で、いろんなジャンルのスキルをたくさん身に着けていた。そして、心愛とユノの回復コモン魔法によって、その全員が健康体になったのである。いざ健康体となったなら、その人材達は宝の山の様な存在に変わる。 

 現在の心愛の回復コモン魔法は、旅先での学園長の個人レッスンにより、エレメンタルマスターの出力でそれを使う事で高ランクの効果がある。ユノのジョブで覚える聖属性魔法やスキルは今は攻撃の方が種類が多い。だがユノは回復系コモン魔法を獲得すれば天性ネイチャーの補正が受けられるので、今では学園長と心愛の分身アバターの旅にユノの分身アバターも参加している。 

 話は老人達に戻り、老人たちは経験豊富な分、あらゆる分野の各種スキルの獲得量が豊富だった。そして、主に適材適所で新たなスタッフの指導をしながら働いて貰う運びとなる。 

 現在までのお店で得た純利益の合計。ユートピア国での秀人の総資産額は13億セガ。ここにはユノから貰ったオリハルコンの剣の残り代金も入っている。ただしオリハルコンの剣のお金は秀人の説得で途中から支払いを止めて貰っていた。

 お店が大成功し、働いてくれた人には還元もしたが、秀人の手元にはかなりまとまった金額が貯まっていた。老人達21名を雇い秀人は次なる計画を進めようと考える。その為に新たな奴隷も35人購入した。購入したと言っても解放と同じである。購入した奴隷は、アビリティー・システム操作で奴隷契約の基になっている呪印じゅいんを呪い無効に書き換え、その上で自ら望んだ人にだけ従業員になって貰った。その事で秀人は全員に感謝され提案も快く引き受けた。そして、従業員のうち現在、帰る家が無い人は豪邸で一緒に住んでいる。 今後、給料が発生し、自分の住む場所を確保出来るようになるまでの同居だ。


 ――秀人はツヴァイス商会が管理する建物と新たに契約し、4店を出店、合計で5店舗の経営が始まった。 

 オニミヤ商会全体の店舗をゼネラルマネージャーとして、タエにお願いする。 

「本当に私でよいのですか?」 

「良いですよ。もちろん全体の売り上げを気にして貰うんですから、全体の売り上げが高ければ高い程、固定給+歩合でお支払します。」 

「なんてありがたい事じゃ。もし成功したら、息子夫婦の生活が安定する事になるかもしれません。本当に本当にありがとうございます。」 

「タエさん。タエさんのお金を本当に息子さん夫婦に渡してしまって、良いんですか? もちろん、タエさんのお金はタエさんの自由ですが、事情も事情ですし、良いのかなって。」 

「あれは仕方の無い事だったんじゃよ。きっと息子も妻や子供達の為に断腸だんちょうの思いで決断した。息子は昔から本当に優しい子でね。息子が幸せでいてくれるなら私はそれで良いんじゃ。」 

「そうですか。そういう事なら、もう口出しはしません。」 



 ――オニミヤ商会5店舗の中で、唯一最初からあった店舗。鬼宮冒険総合百貨は街で流通しているものよりワンランク上の装備やアイテムなどが手に入るお店だった。秀人は店長をカインに任せ、老人5名と若者7名が働いている。カインは秀人が最初に出逢った双子の元奴隷で、今は秀人の弟分として働いている。カインが順調にタエの指導を受けたら、ゆくゆくは秀人の事業のかなめになって貰いたいと考えていた。そんなカインの天性ネイチャーは2つ。 

 天性 大商人SS+ 

 アビリティ 
 経営術 
 商談の極意 

 天性 王家の護身剣SSS  

 アビリティ 
 カリスマ 
 己を守る聖なる剣 

 ある日の食事中、秀人はカインに自分の気持ちを伝えていた。 

「今日もシエナのご飯美味しいね。なあカイン。タエさんから商業スキルをたくさん学んでくれよ。もしカインが良かったら、ゆくゆくは事業全体のかじ取りをして欲しいんだ。」 

「秀にぃ。ありがとう。俺、精一杯頑張るからね。」 

 秀人とカインの仲は前よりも更に良くなり、秀兄ちゃんから秀にぃに変わっていた。これは奴隷だった頃の悪い精神状態が、やっと落ち着いて来た事も関係している。それは秀人にとっても、気の許せる家族が増えたみたいで、とても嬉しい事だった。 



 ――次に鬼宮冒険バフレストラン。これをカインの双子の妹シエナに任せた。シエナは天性ネイチャーが 

 天性 オーナーシェフ SS++ 

 アビリティ 
 付与栄養学 
 万能コック  

 秀人はシエナと一緒に暮らしてから、料理を作る度に 
 秀人の天性ネイチャー究極アルティメット生産クラフターの効果で得ていたジョブ『料理の鉄人』から、料理用のレシピをたくさん教えていた。料理人系は生産スキルだけでなくレシピがある。そしてレシピの方は他人に教えられる。シエナも今では『ジョブマスター』を覚え、 料理の際は『料理人』にクラスチェンジしている。

 そして、秀人やシエナが作った料理を食べた後は、一定時間、経験値上昇や移動速度向上など他にも料理によって各種様々なバフ(能力上昇など有利な状態が発生)がつく。街に出店している冒険者用の食堂もバフが付くことが多いが、秀人とシエナは天性ネイチャーによる適正職業なので、バフが付く数やその上昇率が他よりも高い。まさに冒険前の食事にピッタリになっている。 

 ――秀人は食事中カインへの気持ちを伝えた後に、シエナには別の意見をした。 

「シエナの方は天性ネイチャーがオーナーシェフだから、自分のタイミングでいつでも独立して良いからね。」 

「秀サマ。それは絶対に嫌だからね。私は、秀サマとずーーーっと一緒にいるって決めてるんだから。」 

「なんか言い方がアレだから困ります。陽菜とユノのジト目を見ろ。勘違いされちゃうぞ。」 




 ――秀人達と一緒に暮らして、今は同じ学園に通っているミノスが、クレープをいたく気に入り、放課後は鬼宮冒険バフレストランの店員として働く事になった。鬼宮冒険バフレストランは、店内と店先でのスイーツの販売がある。そのクレープなどの販売の方だ。それも同じ食卓で決まった。 

「秀にぃ。この食後の食べ物、凄く美味しいよ。気に入った。なんて言うの?」 

「お。ミノス気に入ってくれたんだ。それはクレープって言ってお店の目玉になってるよー。」 

「ほんとかー! だったら、俺、放課後にそこで働く。そしたら、食べられる??」 

「いいぞー。でも、栄養が偏るから1日に多くても1回にくらいするんだよ。」 

「わかった。ありがとう秀にぃ。」 

 ミノスは、なぜかカインと馬が合うようで、カインとすぐに打ち解け、一緒に秀にぃ呼びになっていた。 

  

 ――そして、残りの三店舗 

 鬼宮種店  
 秀人が現実世界から持って来た種を研究しその生産を実現。地球の野菜の種を売るお店。 

 鬼宮魔家具店 
 現在、秀人達が部屋で使っている魔石で動く、家電の販売。 

 鬼宮上級装備店 
 街に出回っている装備の2ランク上の装備を販売するお店 



 こうして、これら5店舗の経営が始まっていた。従業員が増えた分、接客に分身アバターを使う必要が無くなった。その分、全ての商品の製造は、秀人の分身アバターを常時発動させ、その生産チートでまかなう事になる。 

 そして、カインとシエナに続き、タエとの出会いから、この後、秀人の異世界生産ドリームは加速度的にふくれ上がっていく事になった。



 全ては早期リタイアの為に。  








 オニミヤ商会の種・装備・家具の販売が、今後、異世界ガイアにとんでもない問題を巻き起こすのだが、その問題はまだまだ先の事である。

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