現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

鬼宮義十郎①

 その日は、ある目的の為に、珍しく本体で現実世界にやって来た。現実世界でも3体の分身アバターを常に活動させているがこれは本体での出来事である。 

  

 七光総合病院 

 秀人はその病院の一室に眠る老人に用があってお見舞いに来ていた。 

 神様への願いが聞き届けられて、たまたま異世界に行く事が出来た訳だが、香織を救う事以外にも、秀人にはとても叶えたい願いがあった。 

 それは秀人の祖父、鬼宮義十郎の病状の回復である。祖父は約三年前から病気をわずらい、病院で意識不明となっていた。最初の頃の命が危うい状態からは脱しているが、今でも意識不明のまま眠っている。 

 そして、今日は、秀人だけではなく心愛と一緒にこの場所に来ている。 

「それじゃあ。心愛。お願いします。」 

「ええ。【キュア】」 

「……やっぱり効果無しか。簡単な病気には効いたから、もしかしたらと思ったんだけどね。」 

「じゃあ。次、行くね。【ヒール・シリアス・ウーンズ】」 

「……駄目か。心愛ありがとう。こっちの魔法はタエさんの過去の怪我にも効いたから、結構、期待してたんだけどな。とりあえず、アビリティのシステム操作でアイテムの効果を書き換えた、この3つのブレスレット。自然治癒ちゆ力と自己再生能力と免疫めんえき力が向上する効果のある物。これを爺ちゃんに付けて、今日の所は帰ろうか。」 

 三つのブレスレットを、点滴てんてきが付いていない方の腕に装着し、秀人はその部屋から出て行こうとする。 

「そんなに直ぐに帰らないで、もうちょっとここに居てあげても良いんじゃない?」 

「そっか。……爺ちゃんには本当に良くして貰ったのに、俺はただ目的を果たしたらすぐに帰るって、ホントに最低だよね。」 

「そんな事は無いよ。どうせ秀人の事だから、次の方法を探す為に急いでるんでしょ?」 

「……うん。」 

「たまには、肩の力を抜いて、普通にお爺ちゃんと一緒に過ごすのも良いんじゃないかな。秀人は異世界に行ってから、レベル上げもそうだけど、少し急ぎ過ぎだと思うんだよね。余裕を持つ事も大切だと思うよ。」 

「心配してくれて、ありがとう心愛。異世界に行くまで、問題があっても何も対策していなかった自分に腹が立っていて、焦るのはその反動だと思う。少なくとも陽菜は、空手やキックボクシングでずっと自分を磨いて努力してたからさ。俺は最初から何の行動も起こさなかったんだよね。あの日、両親が事故で亡くなってからずっとだよ。」 
 

 両親が亡くなったのは秀人が七歳の時だった。葬儀の日、秀人は怪我で入院していたのでよく分かっていないが、当初は祖父が秀人の事を引き取ろうとしていた。秀人は叔母がそれを阻止していた事を後に香織から教わる。叔母は最初、秀人の事を可愛がってくれていたのだ。叔母の対応が変わったのは、一緒に生活を始めて一週間ぐらいが経った頃だった。 

  
 秀人は、七歳だった頃。桃園一家と暮らし始めた時の事を思い出していた。 
 

  

  

 ――秀人が桃園家に引き取られてからの約一週間、叔母の舞佳は落ち込んで話しをしない秀人を心配し、身重みおもの中、つきっきりで世話をしていた。 

「ねえ秀人。秀人がうちに来てもう一週間だよ? そろそろ、元気を出しなよ。お兄ちゃんだって秀人が落ち込んでいたら天国に行けないんだよ?」 

「……。」 

「また何も話さないのね。……仕方ないか。じゃあ。これからは、叔母さんの事をママだと思って良いよ。あんたはお兄ちゃんに似てとっても可愛いし。私が母親になってあげる。」 

「……嫌だ。お母さんは、お母さんだけだ。叔母さんは叔母さんだよ。」 

 それは幼いながらに秀人の地雷だった。両親の事が大好きだった秀人は、代わりの母親なんていらないと思った。でも、この事がきっかけで叔母の態度が豹変ひょうへんする事になる。 叔母にとってもまた、自分から兄をうばった、秀人の母の存在が絶対に踏んではいけない地雷だったのだ。

「……ちっ。可愛くないね。やっと、話したと思ったらあの女の事かい。なんであの女の話なんかするんだよ。私からお兄ちゃんをうばったあの女を……。よく見たら少し面影があるね。憎たらしい。思い出したくもない。」 

「あの女なんかじゃない。お母さんだ。」 

「うるせー。何だよ。だったらお前は私の敵だ。お兄ちゃんに似ているからって、もう甘やかしたりなんてしてやらないからな。うわー。あんたの顔を見ると、あの女の顔がちらつく様になったわ。本当にむかつく顔ね。」 

 秀人にとって嫌な思い出なのだが、それがきっかけで秀人は元のように言葉を話せるようになっていた。そして、その日の晩飯時。香織が叔母さんに対して一つの疑問をぶつけていた。 

「ちょっと、お母さん。なんで秀人の食事だけお味噌汁だけなの?」 

「うるさい。他所よそのクソガキなんてそれで十分だ。こいつは見ているだけでイラつくんだよ。」 

「秀人。これを食べてね。私は大丈夫だから。」 

「駄目だよ香織。それを渡したら、明日からは、あんたの分も味噌汁だけにしてやる。そして、こいつの食事は味噌汁も出してやらない。」 
「……。」

「……香織姉ちゃん。……俺は大丈夫。喧嘩しないで。」 

 それから、秀人の体は数日を掛けて徐々にやせ細り、餓死寸前の生活を余儀よぎなくされる事となる。香織はその事で、毎日のように叔父の源助げんすけと叔母の舞佳まいかに抗議をしていた。 

  
 だが、この時は、秀人はまだ平気だった。 

 それは、桃園家の兄弟達がみんな優しかったからだ。 

 まずは長女で一番年上の香織。香織は秀人の為に叔母の目を盗みこっそりと食べ物を調達する事があった。バレない程度なのでごく僅かだったが、それでも香織がいなかったら、秀人は今頃、存在していないかも知れない。常に優しくて、秀人だけでなく他の兄弟達にも気が配れるとても優しいお姉さんだった。 

 長男の玄一。玄一は両親が亡くなった秀人に対して、本当の弟の様に接しようとした。ある時までは、秀人にとって、とても頼れる本当に良いお兄さんだった。秀人が玄一から貰った言葉の中で、今だに覚えているものがある。

「秀人。お前とは従兄いとこだけど、一緒に暮らすからには、これから兄弟なんだからな。だから、本当は大切にしている物なんだけど、これをお前にやる。兄弟って言うのはな。大切な物でも分かち合うような関係なんだぞ。」 

 そう言って渡されたのは、その当時、玄一がお小遣いを使って集めていた、アニメの激レアカード3枚だった。 

 次男の厳次げんじ。秀人と厳次は年が同じという事もあり、家と学校、毎日のほとんどを一緒に過ごしていた。そして、好きなタイプが似ていた。同じクラスの好美を同時に好きになった事がある。まだ、七歳だった為に、二人とも告白などはしなかったが、好美の事について一緒に話す事がとても楽しかった事を秀人は記憶している。 

 次女の穂乃果ほのか。当時はまだ5歳だったけれど、とても、人懐っこくて、秀人や厳次が座って話していると、そこにやって来て「にぃに。しゅわらして。」と言い、よく秀人のひざの上に座っていた。とても可愛いくて秀人は妹みたいに思っていた。 

 そして、この時点では、三女の香澄 かすみはまだお腹の中で、三男の弦蔵げんぞうは生まれてもいない。  

  

 この関係が崩れたのは、約半年後だった。


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