現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

灯台下暗し

「母さん。昔の話してよ。父さんと出逢った頃の話とかでも良いよ。」 

「そうじゃなー。父さんとの話はもう忘れてしまったけど、あんたがまだ小さい頃な。街の外でモンスターに遭遇そうぐうしてしまったんじゃよ。私は怖くて体が震えておった。そしたら、あんたが『大丈夫だよ。お母さん僕がやっつけてやるから隠れてて』そう言って前に出て行ってしまった。そんなあんたの勇気に私は救われてな。なんとかあんたを連れて逃げる勇気が湧いたんじゃ。あんたは本当に昔から優しくて良い子じゃった。」 

「……俺の話なんて、どうでも良いんだよ。……お父さんの話は何かある?」 

「そうじゃな。あんたは、よく小さい頃に『僕は大人になったら、お母さんみたいな人と結婚して、お父さんみたいになる』と言っていたよ。本当にかわいい事を言う息子だった。」 

「……俺の事なんてどうでも良いって言ったのに。……母さんはいつも俺の事ばっかりじゃないか。こんな酷い俺に、そんな事言うなよ。……母さん。……ごめん。もう着いたよ。俺達はもう母さんの面倒を見てやれない。こんな事をして本当にごめんなさい。ここでお別れだ。」 

「そうか。今まで私の面倒を見てくれて。本当にありがとうな。どうか元気で暮らしておくれよ。さようならシン。たっしゃでな。」 

「……母さん。ごめんな。」 

 シンは、最後に母の涙をハンカチでぬぐうと、それを渡し走り去った。

 シンも泣きながら、森を走り抜けていた。シンの稼ぎでは、妻と子供3人を養うので精一杯だった。むしろ、それでも、足りないくらい。働けない母をダンジョンの入口の前に置き去りにする事で、なんとか自分達だけで生活していこうと考えたのだ。 

 ユートピアの平民は、生活の苦しい家庭が多かった。王国が戦争を危惧きぐし軍事費を集める為に、税金をたくさん貪っていたからだ。それでなくとも、各領地では領主が民から巻き上げたお金を横領おうりょうし、差額だけを国に支払う事が当たり前だった。だから、働けなくなった者をモンスターのいるような場所に捨てに行くことは、なんら珍しい事では無かった。 

 30分後、シンは母親が片足を引きずるようになった原因をやっと思い出していた。それは、先程、母親がモンスターと遭遇そうぐうした時の話をしたのがきっかけである。その時、母親は前に出た自分を必死に抱き上げ、代わりに足にモンスターからの攻撃を受けていた。それにも関わらず、自分を抱えながら、必死で街までの長い道のりを逃げ延びた。その直後から、母親は足を引きずって歩くようになっていたのだ。 
  
 それに対して、シンは母を置き去りにしていたのだ。そして、シンはダンジョンまで戻る事となる。それはもう必死で走っていた。自分のしてしまった事は完全に間違っていた。自分がもっと一生懸命、働けば良いだけの事だった。 シンの母に対する愛。母のシンに対する愛。どちらもかけがえのない、とてつもなく大きい物だとやっと気が付いていた。


 そして、シンがダンジョンの入口に着くと、母の姿はもうどこにも無かった。その場所には、涙に濡れた黄色いハンカチだけが残っていた。 

  

  

 *** 

  事件の数日後、秀人、陽菜、心愛、ユノの4人は、いつものようにレベル上げをしていた。それがひと段落してソファーで休んでいた所で、秀人が心愛に話しかける。

「心愛ちょっと良いかな?」 

「なあに。秀人。」 

「ちょっと二人だけで話があるんだけど。」 

「「何で二人だけ?」」 

「いや。大人にしか相談出来ないんだよ。」 

「……馬鹿秀人。」「……ずるい。」 

 秀人は心愛と二人だけで話す為に、陽菜とユノを置いて、自分の部屋に心愛を連れて行く。一方、陽菜とユノは気が気じゃなかった。気をまぎらわせる為に二人だけで携帯ダンジョンに挑む。 

 そして、秀人と心愛は、秀人の部屋に着いた。秀人達が住む家は、ほとんど、電気が魔石エネルギーに変わっただけで、現実世界にある簡単な家電などなら置いてある。ただ、生活が楽になる物はあるが、娯楽系はない。それら全ては、秀人の能力で生産したのだ。 

 アイテムボックス無限を右手に装備する伝説級のジョブ 【生成オブジェクトクリエーター】 

生成オブジェクトクリエーター】のスキル無限インフィニティ生成ジェネレーション。アイテムボックスの中で自分が想像するアイテムを作成出来るという優れもの。そして、これはステータスの上昇により作れる品の精度とその体積が増えていく。秀人の現在のステータスだと、2㎥までの物が制作可能で、今まで制作した中には、電子レンジや冷蔵庫、エアコン、魔石コンロ、お風呂などがある。ただし、制作する物がこの世に存在しない場合は、それを作る為の原理をある程度は勉強し、魔石エネルギーについても勉強し、それを応用した結果である。秀人は心愛にお茶を振る舞う為に魔石ケトルでお湯を沸かしていると、心愛の方から話を切り出した。 

「で、話って何なのかな?」 

「……あのさー……。」 

「うん。」 

「最近っていうか、ずっと……だけど、陽菜って、ガッシュ先生と仲が良いんだけど、それについてどう思う? 陽菜はガッシュ先生の事が好きなのかな?」 

「いやいやいや。冷静に第三者の立場から見ると、陽菜は最初から最後まで、秀人に気があると思うよ。」 

「そんなわけ無いから。だって、俺だよ?」 

 秀人も陽菜も全くの鈍感だと心愛は思った。心愛は最初に秀人が陽菜を連れて来た時には、彼らが相思相愛であると気づいていた。だが、若者の青春は、自分が頑張って掴む何かに意味があると思っているので、あえて、二人に伝えなかった。むしろ、秀人に限った事ではあるが、陽菜に会う前から、陽菜の事が好きであると気づいていた。だから、陽菜を初めて見た時に、秀人が愛してる人はこの人の事だったのねーと、そんな気持ちでの初対面を迎えたのだ。

「何か問題でもある?」 

「俺は不細工だし。」 

「ないない。」 

「え?」 

「昔ならともかく、今の容姿は美男子かな。秀人は陽菜の事を好きなんでしょ?」 

「え? う……うん。実は前からずっと好きだった。」 

「それなら、私の言う事を信じなさい。とりあえず、デートに誘ってごらん。そこで、自分の気持ちを伝えつつ、サプライズプレゼント作戦でもやってみようか。」 

「……わかった。やってみるよ。」 

  

 それから、秀人は心愛直伝の告白大作戦を実行する事になった。 

  

 ……が、今すぐに誘う勇気がなく、後日、おりを見て実行する事になった。 

  

 *** 

  

 その日、ユートピア王は秀人を王宮に召喚した。そして、秀人は王から正装として贈られたスーツを着てユノと一緒に玉座の間にいる。 

  

「秀人殿、先日ユノを俺の女と言ったそうだな。余は国の新たな英雄、秀人殿に、ユノ皇太女との婚約の許可を与える事とする。また、秀人殿をオニミヤ公爵とし、王都から西に位置する一部の領土をふうずる。そして、学園周辺にある王都の一等地に土地を与える事とする。」 

「いや。王様ちょっと待って下さい。それは、キルダークを諦めさせる為についた、ただの作戦です。それと、貴族なんて、それも公爵なんて貴族で一番偉い身分じゃないですか。分不相応ぶんふそうおうです。ハッキリ言って困ります。」 

「じゃが。秀人殿は国を救った英雄じゃぞ? 褒美を与えぬわけにはいかんのじゃ。それも、一定以上の高い報酬でないと。」
  

 王と秀人のこのやり取りは、つい先刻行われた事である。王と秀人はよく話し合い、秀人は王が許した最低限の叙勲にまで引き下げる事に成功した。ガイムス宰相の段取りで叙勲じょくん式が開催された。 

「それでは、国の新たな英雄。秀人鬼宮の叙勲じょくん、及び、褒章ほうしょう伝達式をはじめる。…………秀人 鬼宮を英雄伯とし…………王都プレバティの一等地と建物を与える事とする。……そして……コホンッ。王様。一回だけ秀人のお願いを聞いてね。の券を与える事とする。」 

  叙勲じょくん、及び、褒章ほうしょう伝達式は、大変なにぎわいだった。秀人は貴族達から、ある程度の敵視を覚悟していたのが、ユノいわくユートピアの戦力として大歓迎されているという事で逆に怖かった。むしろ、貴族に敵視されているのは、ユノの方だった。


 そして、今、秀人とユノは式の帰りに、騎士団長のガイエルに案内された土地に着いていた。 

「この御殿は何です。でか過ぎるでしょ。100人くらい住めるんじゃないですか?」 

「何をおっしゃいますか。ロードオニミヤ。あなた様の功績に対して、少なすぎる褒章ほうしょうです。」 

「はぁ。ガイエルさん。どうも、ありがとうございました。」 

「いえ。オニミヤ英雄伯。今後とも、是非よろしくお願いいたします。それでは、失礼いたします。」 

 ガイエルは秀人に深々と頭を下げ、そして、歓喜かんきしていた。

 今回の件で国の貴族達が秀人に取り入ろうと必死だったので秀人は精神的に疲れていた。秀人は人に好意を持たれる事にまったく免疫が無い。それに加えて始めてあった時のガイエルと態度が180度違っていたのでとても気持ちが悪かった。正確に言えばガイエルは前回の王と秀人のやり取りで既に秀人を敬愛していた。だからこその態度の変化だったのだ。そして、ガイエルは騎士団員全員にこの英雄のエスコートをしばらくの間、自慢する事になる。

 こうして、今仲間達と一緒に住んでいる学生寮という一軒家から、この新たに手に入れた大豪邸に引っ越しをしたのだった。

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