円卓の騎士

　学園の放課後。新たに入学した短剣使いのミノスとヴラドが実習室で模擬戦を行っている傍かたらで、モーリスとケイニーが話をしている。ケイニーは今朝の騒動でやられた精神がまだ万全とは言えない。拘束こうそくと共に、絶望の精神攻撃を味わった事でいつになく弱気だった。 


「で。そのキルダークって奴はどんな奴なんだ？」 

「モーリスは王族なのに、そんな事も知らないのか？」 

「俺は権力争いにまったく興味ないからね。この国や世界の重要人物の知識なんかは少ない。今まで遊び惚ほうけてたんだから何も知らないさ。」 

「昔も恐ろしく強いとは感じていたけど、今のキルダークはまるで別物だったよ。校庭を見たら今朝の惨劇さんげきが想像出来るだろ？　思い出すだけでも体が震える。」 

「じゃあ。昔はどうだったの？」 

「昔、キルダークとユノの婚約が決まった時。一度だけ奴がユノを視察に来たんだ。その時は殴り飛ばされて気絶したけど、まさかあの腕力で魔導士になっているとは思わなかった。それでその後で調べたんだけど、キルダークの住むデストピアは元々国ではなかったんだ。6年前ラヴュレス国をクーデターで奪ったラビュレスの継承国。」 

「国の簒奪さんだつ。それくらいは知ってるよ。恐ろしく強い6人の部下を従えた貴族の話。今の元帥と５大将軍ね。」 

「そうそう。それでキルダークも父親に強い事を求められていて、Lv1の時に父親があらゆる種族を100人集めた部屋に閉じ込め殺し合いをさせたらしい。考えられるか？　その時はレベルの上がらない生産職にされていたんだよ。キルダークの事は気になってたから、古い書物でそれを調べたんだけと、蟲道という禁術がそれだった。その効果は魂魄こんぱくの質と基礎値を上げ天性ネイチャーのランクも後天的に上がる事があると。キルダークはそれで実際に生き残ったんだよ。あの狂気に満ちた性格と怖さがその影響だとしたら、あり得る話なんだよな。」 

「目的は基礎値を上げる事だけじゃないな。……天性ネイチャーの格上げ？　……その莫大なリスクを冒してでも釣り合うとしたらそれくらいだが、そんな事が可能なのか？　でもデストピア王とその部下６人の異常な強さといい、デストピア家には他にも強者を作る何か特別な方法があるんじゃないか？」　 

「だろうね。1人だけなら天才で済ませられるけどさ。それに今はデストピア建国６年目だ。内政が落ち着いた所で戦争の危険性があるとされているよね。近年の世界情勢の緊迫感にデストピアは筆頭として関わってる。たった7人で国を簒奪した者が軍を率いたらどうなるか。考えただけで本当に恐ろしいよ。そこにあのキルダークだろ。」 

「それで、ユノは結婚を嫌がっていたんだろ？　ケイニーはこれからどうするんだ？」 

　モーリスのその質問にケイニーは肩を落とした。俯うつむきながらあらゆる想像をしたが、そのどれもが良い結果を生まない。そうして、しばらく考え込んだあとに返事をする。


「俺に出来る事なんて、何一つ無い。さっきその事を思い知らされた。」 

「だっさー。いつも俺がユノの騎士だって息巻いていた癖くせに、肝心かんじんの所でこれかよ。ユノが嫌いな相手と結婚しても良いのか？　秀人が言うには、キルダークは国に兵を出せって要求してきたらしいぞ。もし、そんな事になったら本当に戦争になるぞ。」 

「でも、ガッシュ先生すら一撃で倒す相手に何が出来るって言うんだ。」 

　モーリスは、ふさぎ込んでいるケイニーの背中を叩き、応援する意味で喝かつをいれる。その後で笑顔でケイニーに提案をする。

「じゃあ。ユノと一緒にほとぼりが冷めるまで逃げちゃえば？　流石さすがにどこにいるか分からなければ、キルダークも追っては来れないだろ。」 

　ケイニーはその言葉に目を輝かせる。ケイニーにとっては、ユノが幸せになれるのなら他がどうなっても構わなかった。だからこそ、その提案は最善の策。ユノと一緒に世界を周っても良い。それならば自分でも力になれる。

「モーリス！　それは名案だ。恩に着るよ。ちょっとユノや秀人を探してくる。」 

「……頑張れよ。」 

　だが、その後、ケイニーが持ち掛けた提案は、ユノや秀人達全員に、即却下される事となる。逃亡ではユートピアの危機は何も変わらない為である。 

　 

　＊＊＊ 

　 

　円卓の騎士 

　第一席　【キルダーク　デストピア】 

　第二席　【ラーマ　ジャマダニャ】 

　第三席　【ベオウルフ】 

　第四席　【ラーンスロット　ベンウィック 】 

　第五席　【ジャン】 

　第六席　【モルドレッド　メフィストフェレス 】 

　第七席　【ガラハッド　ベンウィック 】 

　第八席　【ステイン　デストピア】 

　第九席　【ガウェイン　アースガルズ 】 

　第十席　【カルデイン　ルミラベル】 

　第十一席【カルナ】　　　 

　第十二席【ムーラン】　 

　 

　その円卓の騎士の石板に記載された名前を見ながら、ランキング協会会長フィリッポ　マリーア　ヴィスコンティ公爵は、副会長兼秘書と雑談をしていた。 

「トルトナ。とうとうキルダークが第一席に記載される事になったが、本当にランキングは間違い無いんだろうな？　奴はまだ17才、成長が早すぎる。」 

「間違いありません。私の天性ネイチャー【世界ワールド格付レイティング】円卓の騎士の方・・・は世界中の人と亜人の中から、そのレベルが高い順番に12人を記載しています。それはもう確認済みです。」　 

「そうだな。お前の作る此方の石板・・・・のおかげで稼がせて貰っているんだ。しかし、ラーマが抜かされる事になるとは思ってもみなかったよ。奴が悔しがっている顔が見てみたいな。世界中でギルドを運営している手前、その象徴しょうちょうが2番手に甘んじる事になろうとは、誰も予想出来なかったろうに。」　　 

「そうですね。それに長年に渡って、円卓の数を多く持つ帝国も、もはや、うかうかはしていられません。新興勢力のデストピアから円卓が3人も出ていて、その一人が第一席なのですから。帝国VSギルドを含む中央大陸から、帝国VSデストピアに変わっていくかも知れません。」 

「うむ。デストピアの王と王子、そして、王キング殺しスレイヤーカルデイン　ルミラベル。新進気鋭のデストピアが世界に波乱を巻き起こす日は近いのかも知れんな。」 

「しかし、ここに神託の勇者達の名前がまだ一つも入っていないとは……。いくら勇者達が大器晩成であるとはいえ、世界は本当に大丈夫なのでしょうか。」
　 

　＊＊＊ 

　 

　 

　王立総合医療センター、その大きな建物の一室には、危篤きとく状態のガッシュ　ロイヤル　フィールドが眠っていた。 

「ガッシュ先生。何で……何でこんな事に。マクレナシル先生。ガッシュ先生はどうなるんですか？」 

「強力な破壊の闇魔法で、全身が破壊されているの。ユノさんが、すぐに回復魔法を掛け続けたから、なんとか生きているけど、死んでもおかしくない状態だったわ。私やこのセンターの回復術師も定期的に治癒ちゆしている。絶対に助けるから、あなた達はもう帰りなさい。」 

　マクレナシルは、学園からガッシュを連れて来て、医療センターの回復術師達と共にガッシュの治療に携わっていた。陽菜やマクレナシルの言葉を受け、ユノは自分の責任を改めて感じ胸が押しつぶされそうになっていた。

「ごめんなさい。全部わたしのせいだわ。」 

「ユノは悪くない。悪いのはそのキルダークってやつだ。」 
　 
　秀人はそう言うと、ユノの涙をハンカチで拭ぬぐい、怒りの表情を浮かべる。その秀人の顔に心愛が心配する目を向ける。

「心愛。分かっているよ。憎むのはキルダークの強引なやり方と犯した罪だけだ。俺は選択を間違えないよ。」 

「秀人は本当に良い子。うん。そうね。」 

　そして、先生の事を心配していた陽菜は、今度はユノの方を向いた。

「ユノ。ちょっと一緒に来て、謝りたい事があるの。」 

「何。陽菜？」 

　陽菜がユノを連れ、廊下に出る。扉を閉めてから、ユノの手を握りその目を真剣な眼差まなざしで見つめていた。 

「ちょっとだけ、ユノが結婚しても別に良いかもって思ったの。でも、やっぱりユノが嫌な奴と一緒になるのは私も嫌だ。……その……私達は友達だから。だから私達は正々堂々と戦いましょう。光栄に思いなさい。正式に恋のライバルと認めてあげるわ。」 

「陽菜。……ありがとう。勝てそうな気がしないけど、私も精一杯頑張る。」 

「弱気になってるんじゃないわよ。ライバルなんだから。」 

「ふふふ。」「へへっ。」 

　 
　数分後、ガッシュ先生の病室では、秀人、陽菜、心愛、ユノの四人がその決意を改めて固めていた。陽菜がそれを声に出す。 

「先生……絶対に敵は取ってあげるからね。」 

「それじゃあ。俺達はやれる事は全部やろう。まずは時間いっぱい修行をしようか。それから作戦も考えなくちゃな。」 

「うん。」「頑張ろう。」「ありがとう。」