現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

真貴族会議①

 ユートピア国 王宮にある玉座の間には、王と騎士団長とその部下数名、そして、宰相さいしょうのガイムスがいた。その日は、同じ中央大陸にあるサイバース国から、現国王の妹ミユル王女が率いる使節団が訪れる予定だったのだが、その謁見えっけんをを阻止した男がいる。「ぎゃはははは。お前等邪魔だ。立ち去れ。」ミユルは生産を生業とするサイバース国のドワーフの王女。当然上級鑑定が使える為に、その男を一目見て引き返す事態となった。
 因みにガイアで亜人とされるのは半獣と半魔のみ。ドワーフは矮人、エルフは森人と呼ばれ、それが神聖な物との混じりであるとされている。迫害どころか天界からは人よりやや上位であるように扱われている。

 話は戻るが、このミユル率いる使節団は、偶然王宮の廊下で遭遇した一人の男の身勝手な要求で、ユートピア王との謁見えっけんを後回しにさせられ、そこから引き返したのだ。

「よう。ユートピア王。久しぶりだな。」 

 予期せぬ男の訪問に、騎士達が剣を抜いたが、王が右手でそれをいさめた。

「キルダーク。予定の無い者は、ここには入れないはずなのだがな。近衛兵はいったい何をしておるのじゃ?」 

「ああ。ここに来るまでに邪魔だった奴は全員半殺しにした。俺は王に次の事を要求する。ユノと結婚してやるから、この国の兵を全てよこせ。」 

「なるほど。これが最年少で成った円卓の騎士の実力。だが許可する事は出来ない。そんな事が許されるわけなかろう。」 

「円卓どころじゃない。今は世界の頂点だ。お前にも利があるんだから俺の要求を素直にめ。この国の兵を連れて隣国デストピアを滅ぼす。……と言っても、俺が殺したいのは王と元帥だけだがな。他も邪魔をすれば殺すのは変わらない。デストピアの国は終わったらお前にくれてやる。どうだ? 長年のうれいが晴れるんじゃないのか? ぎゃはははは。」 

「自国を滅ぼそうなどと……狂っておる。だが、無理じゃ。この国は余より、真貴族の方が力は上。だから、そう簡単に……。」 

「そうか。デストピアがその内政を整えたらどうなるかぐらい馬鹿でも分かる。逆に喜ばれるものだと思っていたのだがな。……また来る。次はお前にとって良い土産を持ってきてやるよ。ぎゃははは。」 

 キルダークが玉座の間を出て少し歩いていると、廊下で一人の少年にすれ違う。いつものくせで少年を鑑定すると彼は、見た事もない未知のランクの天性ネイチャー『システム』と、とても見覚えのある天性ネイチャー究極アルティメット生産クラフター』を持っていた。咄嗟とっさに身構えるが、そのレベルを見て今はまだ取るに足らない雑魚だと思い直し素通りした。キルダークがよく知る・・・・究極アルティメット生産クラフター』はとても危険だが、それは同じステージに立っている場合だけだと言える。そう考え、その力量を測りかねた。その人物が自身のライバルになり得る器だとは知らずに。


 意気消沈しょうちんするユートピア国王とそのやり取りを見ていた騎士団長とその部下は終始唖然あぜんとしていた。いまだに、第一王子 ホワイル ハインリッヒ ユートピアを推している宰相さいしょうのガイムスは、この一件に、とてつもない危機感を持っていた。そして、部下からの言伝で使節団の訪問がキャンセルされた事に気付くと急いでこの場を後にする。宰相さいしょうがいなくなった事で、騎士団長のガイエルが王に確信を突いた質問をする。

「国王陛下。これはむしろ良い機会なのではありませんか? 不穏な世界情勢と、最も我が国をおとしめる可能性の高い隣国デストピア。その中にいるはずの世界最強、円卓の騎士が一人。彼が加勢してくれるのならあるいは……。」

「そうゆう問題では無い。ユノをあの男に預ける事は絶対に出来ない。例えこの国が滅びようとも、最愛の娘を悲しませる決断は二度としない。国より娘の方を優先するのは国王として駄目な事くらい余にも分かる。じゃが、ユノをこれまで不幸にして来たのはほかならぬ余自身なのじゃ。これ以上、辛い思いはさせたく……。」

 そんな国王とガイエルの前に第二の来訪者が現れる。王はその姿を見てかつてない程の希望を抱いていた。この国にはそれがいたのだと。途方もない絶望の淵に差し込んだ一筋の光。彼に会うのは二度目だが、娘の危機を何度も救ってくれたという神託の勇者。それどころか、王の権力を取り戻してくれた大恩人でもあった。

「陛下。突然申し訳ありません。ユノ皇太女の態度がおかしいのですが、何かお心当たりはございませんか?」 

「秀人殿。本当に良い所に参られた。その原因はキルダークだろう。実は先程、ユノと婚約中のデストピア国の王子が余を訪れたのじゃ。今すぐ、ユノと結婚すると申しておったので、なんとか理由を付けて断ったのじゃ。当時ユノとその母親はキルダークとの縁談を拒んでおってな。今は余も断る方向でそれを進めておった。」

 王は玉座から降りると、秀人の前に歩き出した。ガイエルと部下の騎士達は何事かと様子を見ていると、続く信じられない光景に全員の体が硬直していた。

「秀人殿。頼む。この通りじゃ。ユノには余のせいで今まで散々辛い思いをさせて来た。もう二度と悲しい思いをして欲しくない。この婚約を破棄はきする為に余にその力を貸してはくれぬか? 」 

 ガイエルは国王が土下座する姿をはじめて見た。そして、キルダークがやって来た事よりも更に驚いている。止めるべきだと考える心の余裕もなかった。体が動かず言葉も出ない程の衝撃だった。今の王は真貴族の意見ですら跳ね返す程の力を持っている。それが、一国の国王がただの少年に突然、頭を下げてお願いをしているのだ。何も知らされていなければ驚くのも無理のない出来事だった。

 ガイエルは自分達騎士団がなぜ国宝級以上の最高の武器を装備出来ているのかをまったく知らない。それは秀人により王が口止めされているからだ。
  
 少年は王の体を優しく起こすと微笑んでいた。

「王様。そんな当たり前の事で頭を下げないで下さい。私はユノ皇太女の友達です。彼女の幸せを願う気持ちは王様と一緒なんです。大丈夫ですよ。頼まずとも、王様の願いは必ず叶う事になります。」

 王だけでなく、少年の所作と清い心はガイエル達も見惚れる程の美しさだった。ガイエルと騎士達の瞳から自然と大粒の涙が零れ落ちる。その奇跡の瞬間に立ち会った騎士達は、後に誕生するユートピア国の英雄を最初に崇拝する事になる。



 ***




 ――ジェネトール バインド クラシュは、全ての計画を練り直さなければならない事を痛感していた。それでなくとも馬鹿な王子と王女の為に、散々計画は狂っていた。何もせずにあと数日過ぎればチャンスはいくらでもあったのだ。

「くそっ。あと数日待てばおそらく達成できたのに。ルージア。このままだと、キヌハだけになるぞ。」 

 その気持ちは、ルージアも同じである。むしろ、自分のせいでジェネトールを巻き込んでいる分、余計に腹ただしかった。 そして、もうこの計画は破綻はたんしたとも思っている。これ以上ジェネトールを危険な目にわせるわけにはいかない。

「キヌハはあれが守っているみたいだからね。私達じゃとても太刀打ち出来ないよ。もう良いんじゃないか?」 

「駄目だ。何の為にこれを手に入れたと思っている。あと少しなんだ。やつらが共倒れになれば、まだ、チャンスはあるけど、どう考えてもそれは無理だろうな。キヌハをあれから引き離す線で考えよう。もしくは、王宮に忍び込むかだ。今となっては、そっちの方が現実的かもしれない。」 

「ジェネトール。ごめんね。私の為に。」 

「それは言わない約束だろ。俺達じゃなく、この世界の方が間違っているんだ。それと計画の難易度が上がった。俺に何かがあったら、この場所を頼ってくれ。」 

「ダンジョンの場所じゃない。なにこれ?」 

「ルージア。お前を守ってくれる存在の居場所さ。今はあいつらが状況を探っている。怪しまれるからお互いに実習室に戻ろう。」 


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