現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

延長戦

 マァムが喜びながら小さく飛び跳ねている。

「ピー。その前に、ダンジョンコアの前で、踏破とうは報酬を受け取ると良いですよ。実は戦闘職のジョブは取得条件にこれがあるんですよ。能力特性クラス職業特性ジョブに昇格出来るようになります。次からは条件のクラスを極めればジョブに転職できますね。その上で全員に新たなダンジョンのジョブが装備している武器依存で追加されます。マスターがダンジョンコアの情報である踏破とうは報酬を初回・・・踏破とうは報酬にする事が条件ですけどね。あ! でも、マスター、ミノス君は本当に大剣装備で良いんですか?」  

「A級以上の初回踏破とうは報酬は、ユートピアでは取得禁止されています。まさか、それがジョブ解放の条件だったなんて。道理どうりで一部の強者しかジョブに成れないはずです。」 

このフランツの言葉にマァムの表情が劇画タッチに変わる。

「フランツ君。ジョブの取得方法はそれだけでは無いよ。例えば、高ランクの天性ネイチャーを持つ者や、運よく最初にジョブだった場合などね。」 

「マァムさん。ご指導ありがとうございます。」

「マァム。なんでフランツさんにだけ偉そうなんだよ! それは可愛くないぞ。」

「ピィー。」

 秀人が気を取り直しミノスを鑑定するとに天性ネイチャーが短剣に適正を持っている。

「ミノス。その姿になってから、大剣より短剣に適性があるけど、どうする? 転職させようか?」 

「良いんですか? お願いします。」 

「じゃあ。短剣装備とそれに合わせて、効力(エフェクト)結晶クリスタルを素早さ重視じゅうしで付けておくね。それと、一応仲間で敬語を使わないようにしているのでフランクにいこう。フランツさんは仲間だけど、学園の友達じゃないから使うけどね。」 

「うん。ありがとう。」 

 ミノスの着替えの後で、全員でダンジョンコアの前に行き、秀人はこのダンジョンを誰も踏破とうはしていない状態に書き換える。手を前に出してその改変内容をイメージすると紫色のダンジョンコアが深紅に染まった。それから、ダンジョンコアに触ると初回踏破とうは報酬が手に入る事になった。 

『パーティー全員に初回踏破とうは報酬をインストールします ダンジョン固有ジョブ【阿修羅】 インストールが完了しました』  

 秀人が自分のジョブ欄を確認すると、ジョブ【阿修羅・侍】を新たに取得していた。いつまで経っても【様斬侍テストサムライ】 のスキルを覚えなかったので、秀人はこのスキルが本当に有難かった。秀人は剣士をジョブチェンジする為に、全ての近接アタッカーを半月ハーフムーンにまで上げていた。剣士も満月なので、初回踏破報酬で条件が揃い『剣豪』にジョブにチェンジ出来るようになっていた。 

「マスター。ここに扉があります。スキル可視化ビジュアリゼーションを使用して下さい。」 

 続いて、秀人はダンジョンコアの隣にあるはずの扉に向かいスキル可視化ビジュアリゼーションを使う。そこに紫色の扉が現れた。今度は扉に手を翳しかざ、異空間にダンジョン同士がつながるように念じてみる。すると、扉が独りでに手前側に開き始めた。 

 扉の向こう側に宇宙空間の様な景色が広がっている。秀人達はそのまま四角い透明の通路を宇宙の中を歩いているような感覚で足を進める。 

「マスターここが、 裏ダンジョン 異空間迷宮クワルナフ です。階層毎にボスが出現し地下100階に大ボスの魔竜が居ます。ここは世間では人外の領域とされるS級ダンジョンですが、10層降りる毎に更にランクが1つずつ上がると思って下さいね。」  

「マァム。貴様。騙しやがったな。」 「ピー。」 

 マァムは惚けているが、その新たに加わった驚愕きょうがくの難易度に誰しもが目を見開き絶句している。 

 しかし、秀人達は引き返す間もなく、迷宮にモンスターに襲われる事となる。 

 3つ頭の巨大な黒い犬。地獄の番犬ケルベロスだった。ケルベロスは秀人達を見るととてつもないスピードで先頭にいる秀人に向かって、噛みつき攻撃を仕掛けて来る。更に頭が3つあるので、それぞれが別の仲間達に向かい攻撃をしている。闇魔法だった。それを受けているのは、陽菜とユノ。ユノは仲間全員に【聖なるホーリー加護プロテクション】を掛け、その身体能力と耐久能力が上昇する。ユノは戦棍メイスを装備した聖女系のジョブ。闇には強いが、逆に最も苦手の相対関係。すぐさま、ケイニーがその場所を変わった。 

 秀人が盾役にてっする事が出来たなら、先程のヴリトラ戦の様に他が時間を掛けてでも削れば良いだけ。だが、3つの頭がそれぞれ攻撃をするので、秀人一人の盾役では対処が追いつかない。 

「ユノ拘束こうそくスキルは使えるか?」 

 ユノが【聖女セイントの束縛バインド】を使い、秀人は究極鑑定でケルベロスの状態異常を確認する。 

「バインド。残り時間およそ20秒。ユノは18秒経ったら、もう一度同じスキルを使用してくれ。他は捨て身で弱点である中央の頭部に攻撃を、ユノが再び拘束こうそくするから大丈夫なはずだ。」 

 秀人は弱点である中央の頭に【ツミヲウガツ】を打つ。しかし、打ったと同時に弱点が左の頭に移動するのが分かった。ケルベロスは弱点である核を頭部間で移動させながら戦うモンスターだった。 

「【聖女セイントの束縛バインド】」 

 もう一度、秀人がケルベロスを究極鑑定をすると、【聖女セイントの束縛バインド】に対して耐性を付けている事が確認できた。今度の効果時間はおよそ15秒。この作戦では早急に詰んでしまうのは明白だった。

 秀人は効力方法を考えていた。

「皆、俺の後ろに一列で並んで、バインドの効果時間が減っている。攻撃の合間をって、中・遠距離攻撃にしよう。ケルベロスは弱点を3つの頭で移動させている。俺の合図で3つの頭に同時に攻撃しよう。ユノ、ケイ二ー左。陽菜、フランツさん右。お願いします。」 

 そして、その指示通りに、真ん中は秀人。左は陽菜とフランツの中距離攻撃。右はユノとケイニー。マルスだけがひたすら炎のつららでの全体攻撃をしていた。そうして約15分間の消耗戦が終わった。ケルベロスには弱点部分への攻撃しかダメージが通らず、かなりの時間が費やされたのだ。 これが今日一番のダンジョンでの戦闘らしい戦闘だった。マァムの言うように今までの雑魚達と違いHPの数値が尋常じんじょうじゃなかったと秀人は考える。

 戦いが終わると、座っていたり、倒れていたり、と秀人以外の全員がぐったりとしていた。 

 だが、その15分の時間と引き換えにしても、お釣りが来るような莫大な経験値を獲得する。前ダンジョンでの上昇もあるが、気が付けば秀人のレベルは74にまで上昇していた。 

「マァム。これが階層ボスなのか?」

「いいえ。この階層の一般モンスターです。」

「どう考えても、SSとかそんな感じに思えるんだが。」

「ケルベロスはSです。ただし、この個体は、一般S級ダンジョンのボス級でありとても珍しい個体である為にただのSかと言えばそれは嘘になります。本来であればこのクラスの一般モンスターが出る予定ではありませんでした。あくまでも推測ですが、このままだとここの階層ボスはSS級の最上位個体くらいにはなるかも知れません。」

「ちょっと待ってくれ。話が違うじゃないか。」

「申し訳ありません。どうやらこのダンジョンは、世界から隔離されている為に情報が古いようです。ミノス君の話から、アジ・ダ・カーハがスカウト行為をしていた事をマスターもご存じですよね? この特殊なダンジョンはモンスターのアップデートの頻度が異常に高い。それが原因かと。」

「そうゆう事か。正直かなりキツイね。でも、みんな自分のレベルを確認するとたぶん驚くと思うよ。」 

「ちょっと、やる気が出て来たかも。さっきまでの私と全然違うんだもん。」 

 陽菜だけが、元気を取り戻した。陽菜は元から毎日、何時間もの練習を積み重ねて来ていた。そして、現実世界から基礎値をバランスよく積み重ねた陽菜は、レベルアップする事にみんなより強くなっている。防御力や精神力だけなら、毎日酷い虐めを受けていた秀人の方が高い。それに、みんなより優位である真農民のジョブで得たポイントをほぼ運に振っていたので、それを合わせても防御力と精神力以外はやや秀人の方が陽菜より高いくらい。

秀人以外では陽菜が一番強いと言える。その陽菜に自分の力を試す本当のチャンスがやって来た。前方から黒い影が忍び寄る。 

「敵が来ました。あれが今回の目的。悪魔種デビルです。本当は階層ボスだったものですが、どうやら格下げで一般モンスターになったようですね。陽菜さん。仮の主従契約をしてから一人で倒して下さい。通常契約では無く直接悪魔を従えれば、闇魔法や陽菜さんのスキルの威力はけた違いに上昇しますよ。ケルベロスで経験値を稼いだ今の陽菜さんなら十分に討伐可能です。ピー。」 

「マァムちゃん。私の為にここに連れて来てくれたのね。この試練を乗り越えたら私もちゃんとした魔法が使える様になると言う事か。それなら絶対に勝ってみせる。」 

 マァムが皆を騙してまで、このダンジョンに連れて来たのはこれが原因だった。陽菜の魔法とスキル威力の増加は絶大。しかも今の所は近距離最強である陽菜。その戦闘に多くのバリエーションを持たせる為の絶好のチャンスだった。

 闇魔法を使うデビルに対して、闇属性スキルを含んだ陽菜のジョブ。それにガッシュから学んだ数々のコモンスキル。どちらの攻撃もとても強力で、小細工無しのシンプルな魔法と打撃のぶつかり合いになった。約10分間の長い戦闘が終わる。

陽菜はデビルという悪魔憑き・・・・になった。

 デビルは掌サイズに小さく変化し、これから直接的に陽菜の魔法やスキルをサポートする事となる。

「デビちゃん、これからよろしくね。」

「なんだよ。俺は悪魔だぞ? 可愛らし過ぎる呼び名じゃねえか。ふん。まあいいけどな。マスター。これからよろしく。」

「やばっ。見た目がかわいくてツンデレキャラとか、天使じゃん。」

「馬鹿を言うな。天使は宿敵の悪魔じゃぼけ。」

 こうして、秀人達の濃い一日は終わった。

 その後、一週間、新たなA級ダンジョンに挑みたくさんの宝や仲間のそれぞれがレベルを上げた。レベルが上昇した事により、レベル上げの効率は大きく下がったが、約1週間後、秀人のレベルは82まで上昇していた。

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