現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

A級ダンジョン攻略①

 
「師匠ー。お待たせしました。」  

「フランツさん。ありがとうございます。これで全員が揃いましたね。」  

「師匠何ですか? その羽の生えた小さな青い狼は?」  

「俺の天性ネイチャーから出た能力の一部です。このマルコは戦闘面で補助してくれます。」  

Aランク冒険者のフランツは、その返答に驚きを隠せない。天性ネイチャーから能力の一部としてモンスターが出現するなど、これまで聞いた事がなかった。だが、すぐに師匠の事であれば普通なのだと気持ちを切り替える。

「さすがっ師匠っす。天性ネイチャーからモンスターが出るなんて聞いた事ありませんよ。」  

「いえいえ。では、予定通り2手に別れてダンジョンを攻略しましょう。A級のダンジョンには、心愛が【空間転移テレポート】出来るんで、俺達も行きは送ってもらいましょうね。」  

 突然の【空間転移テレポート】発言に全員が驚きを隠せなかった。Aランク冒険者の弟子たちに至っては驚き過ぎて悲鳴を上げ全員が尻餅をついている。こちらの情報に至ってはハッキリと伝説の魔法だ。転移する場所が1つだけの地図魔法でも入手難易度が高く、人間の寿命で到達するのはとても難しい。ただしサイバース国が貿易に地図魔法を使うので、極稀に王都に転移をする人を見たとの情報が入る。だが、それが地図魔法ではなく【空間転移テレポート】であれば驚くのも当然だ。それが本当の話なら世界中どこにでも一瞬で移動出来るなんて、異世界でもとんでもない話なのだ。

「て……ててて空間転移テレポート!」「ひぎゃ~。」「おえっ。」

「メーテルさんは女性だから仕方ありませんが、フランツさん。アンモさん。そんなに驚かないであげて下さい。レディーへの対応として、それは紳士ジェントルマンではありません。」

「「すみません師匠。」」

「なぜに紳士ジェントルマンだっ! 初めて空間転移テレポートを聞かされたら驚くのは当然だろ。」

師匠と弟子達の会話にヴラドがたまらずツッコミを入れる。秀人は話を早く進める為に適当に言っただけだったが、予想外に話が広がってしまった。秀人はヴラドのツッコミ体質が好きで、よく言葉遊びをしている事が仇になった。

「ヴラド君。非常に良いツッコミですね。だがそれもまた紳士ジェントルマンではないと言えるでしょう。」

「紳士になりたくないわっ。紳士って何なんだよ。」

「それは高貴なものがノブレス果たすべき責務オブリージュの精神です。」

「あほか! 俺は身分制度に問題意識を持ってるのを知ってるよな。それが紳士ジェントルマンなら俺は正反対だわ。」

「ふふふ。ヴラドさん甘いですね。私の言う高貴は、身分ではなく醸し出す気品にあります。どうです? 私から高貴な雰囲気を感じませんか?」

秀人はヴラドに脇を差し出す。ついでに変顔をしている。

「ふむ。なんとも言えない芳ばしい男臭さであるな。ぎゃはは。秀人。なんなのよその変顔。」

秀人とヴラドの頭を陽菜が引っ叩いた。

「じゃれ合いが長いっ! 早くダンジョンに行くわよ。」


 秀人は陽菜に急かされチームを分けた。秀人のチームは、陽菜、ユノ、ケイニー、フランツと5人で。心愛チームは、心愛、モーリス、フレイド、ヴラド、メーテル、アンモの6人に別れた。モンスターの殲滅せんめつ時間として、心愛がいるチームの方が早いだろうと人数が多くなっている。代わりに攻撃力が高い陽菜とユノが秀人のチームに入っている。

 マルコも大戦力になるのだが、この時点で秀人達はまだそれを知らない。マルコ自体は秀人の能力の一部なのでマルコが倒した敵も秀人が倒したとして判定される。そしてマルコにはレベルが無く、秀人のステータスがマルコの強さに比例する。  

 心愛の【空間転移テレポート】で秀人達は、ダマーヴァンド山に到着した。深い霧に包まれ、緑生い茂る森の中央に佇む大きな山だ。深い緑の山はふもとに一部分だけ山肌が岩でゴツゴツしている。その真ん中に風景とはミスマッチな紫色のダンジョンの扉がある。この扉が繋がっている地下鉱脈がダンジョンとなっている。  

「心愛ありがとう。とりあえず、帰りは歩いて帰るからね。」  

「うん。では、皆さん頑張って下さいね。【空間転移テレポート】」  

「じゃあ。さっそく、ダンジョンに入ろうか。」  

 A級ダンジョン。ダマーヴァンド山・地下鉱脈。ここでは地下30階のボス巨大蛇ヴリトラを倒す事が最終目標になる。攻略自体は3日くらい掛かるが、帰りの事も考えると追加で3日掛かる事になる。B級のダンジョン攻略の時とは比べ物にならないくらい皆が緊張している。  

 紫の扉を開けると壁に散りばめられた魔石が青い光を放ち、鉱脈の奥まで照らされていた。ダンジョンは鉱脈で階層は下へと続くのだが、まるでトンネルの様に平らな地面が奥へと続いている。そのダンジョンで最初に遭遇したモンスターは、犬の様な頭部をした剣士コボルト、その群れだった。通路はやや広がり、バトルを想定されたフィールドの様な場所だった。  

「マルコ攻撃してくれ。」「ウォン。」  

 全員が戦闘態勢に入ると同時に、マルコが翼から炎のつららを出し、その一本一本が翼から離れマルコの正面に展開されると、より一層大きな火炎となりそれが全てのコボルトに向かって発射される。その攻撃を喰らったコボルトはひとたまりもなかった。丸ごと爆炎に包まれ消し炭となる。その1撃で全てが終わった。

 秀人達はマルコの能力を知らなかった為に、全員の顔が引きつっている。 男子に至っては口をあんぐりと開け鼻水が垂れている。秀人がいち早く冷静になり言葉を絞り出した。

「レベルは上がるけど、これだと全員が戦闘を体験出来ないから、最初はマルコに任せるとして、俺達のレベルの上がり方が落ち着いてきたら俺達だけで倒してみようか? みんなはどう思う?」  

「そうね。流石さすがに初めからだと危険は大きいかもだけど、ある程度レベルが上がったら私も挑戦してみたいわ。」  

 陽菜が秀人の言葉に反応して、真っ先にそう答えた。通常、携帯ダンジョンで秀人達のレベル上げは心愛の範囲魔法に任せきりになっている。だが陽菜は学園でSSランクの冒険者ガッシュに個人的な指導を受けている。たかが数日だが、当然、その攻撃の技術は格段に上がっている。

 それに指導により取得したコモンスキルの数が激増していた。陽菜は秀人に全体のスキルが格段に増えた事を自慢していた。元から戦闘技術を持っていた陽菜が、異世界でスキルや魔法を織り交ぜた戦闘の訓練を受けた時その成長の度合いは秀人の成長の比では無い。普通であればすぐにその技術を試したい思考になる。

 だが、陽菜は現実世界で格闘技を学び、それで日本一にまでなっていた。しかし、それでも剣崎にまったく敵わなかったという過去のトラウマがあるので、こういう場面でも慎重になっていた。

 それに対して、ユノは自分の意見をまるで主張しなかった。これまで、秀人に何度も救われ完全に自分の全てを預ける様になっていた。  

「私は、秀人の意見にお任せするわ。いつも任せっきりでごめんだけど。」  

「ユノがそう言っている以上、騎士の私もそれに従う。」  

「流石、師匠の能力マルコさんです。私達は、まだまだ、成長出来ますね。」  

 そんな話し合いの結果、単純にマルコだけの力だけで、なんの苦労もせずにたった半日で地下25階まで進んでいた。そして、秀人は絶対に対人戦でマルコを使用する事は無いなと思った。その威力はエレメンタルマスターである心愛程に絶大すぎるのだ。

「現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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