シークレット解放

　秀人、陽菜、心愛、ユノの４人の本体が携帯ダンジョンでいつものようにレベル上げをしている時、突然地面に２つの卵が出現する。１つは白地に黄色の斑点はんてんがある卵。１つは白地に青の斑点はんてんがある卵。初めは理由が分からなかった為にダンジョンに出現した魔物だと思った。だが、出現位置がいつものそれと違い、秀人の周囲であった事、丁度ちょうどダンジョン内の全ての魔物を討伐し勝手にダンジョンの扉が開いた事、15体ずつ出現するはずが２つの卵だけだった事、いろんな理由で卵を攻撃するに至らなかった。   

　そして、秀人は自分の近くに卵が現れた事もあり、とりあえず自分の事を究極鑑定した。するとレベルが50になった事でシークレットだった天性ネイチャーの１つが解放していた。   


　天性ネイチャー　   
　システム　【 G 】   

　アビリティ　   
　システム操作　   
　システム追加   

　また新しいランクは【G】秀人が最初から持っていたのが、自分で選んだという【L】だった。そして秀人は天性ネイチャーの法則として、後天的に取得する方のランクが高いと聞いていた。
　秀人が知るガイアでのランクの概念は学園の図書館で調べた時に
　伝説レジェンドランク以上のものは
　喪失級ロストROST 
　幻想級ファンタジーFANTASY 
　神話級ミシカルMGOD 
　神級ゴッド　GOD 
　の順番と、なっていた。

　そのどれもが、世界的に確認が取れていない空想の話だとされていた。実際に女神様が残した手紙にも天性ネイチャーは伝説レジェンドのLランクが最高位だと書いてあったのだ。
　この中で【G】として考えられるのは神級ゴッドGOD。しかし、それは全てを飛び越えた最高ランクになるので、秀人にはいまいち実感が無い。 

　秀人は思う。――あらかじめこの天性ネイチャーが女神に用意されていたか、秀人が自分自身で選んだアルティメットクラフターの天性ネイチャーに影響を受けて最適な高ランクの物を神に選ばれたのか――と。考えた結果、後者の可能性が高い様に感じられた。効果の規模がとんでもないので、これ自体が物凄く価値の高い天性ネイチャーだとは秀人にも理解出来るが、この天性ネイチャーもどこか戦闘向けに感じないと思ったからだ。   
　 
　 秀人は究極鑑定の後で天性ネイチャーの性能をザックリと知りたかった為、あえて究極鑑定からランクを落とした真鑑定をする。  

『天性ネイチャー　システム   
　効果　
　世界の法則そのものにある程度干渉    
　２つの補助能力が起動
　知識と戦闘を補助する二体の眷属を従わせる

　アビリティー　システム操作   
　効果　
　世界の理を書き換える   

　アビリティー　システム追加   
　効果　
　世界の理に要素を追加する』   

「この卵さ。俺の能力の一部みたいよ。」   

「え？そうなのー。」「卵が能力ってどうゆう事？」「卵だから何かが産まれるってことじゃない？」   

　陽菜、心愛、ユノの３人がいろんなリアクションを取る中、秀人は説明の続きをする。  

「うん。俺の知識と戦闘を補助する目的の魔物かな。まあ、でもそんな事よりちょっと休憩しないか。ユノと一緒に試してみたい事があるんだ。」   

「え？　ちょっと何でユノだけなの？　ずるいよ。」   

　陽菜が変な所に食いついたので秀人はお茶を濁にごす。   

「ユノは全体のステータスがみんなより少し低い。だから新たに獲得した能力をユノでしか試せないだけだよ。」   

「そっか。なら良いけど。」   

　秀人は部屋で扉アイテムを出し２人だけで携帯作業室に入ると、秀人はユノの事を究極鑑定する。実は新しく獲得したアビリティ、システム操作で試してみたい事があった。   

　やり方はわからないが秀人の心が反応している。ユノのステータスに表示された死の呪いを別の物に書き換える事が出来るかも知れない直感したのだ。 そして、秀人は実際に何に変えたいのか具体的にイメージしてみる。――死の呪いだから、生命の祝福とか反対の効果はどうだろう。――そう考えてユノに向けて手をかざす。秀人にも理由はわからないがそうした方が良いような気がした。すると、すぐにユノの死の呪いが永遠の祝福に変化した。少しイメージした物と実際の名前に差異が生じたが、その効果は悪い影響を与えるデバフから良い影響を与えるバフに変化したようなものだった。秀人にはぶつけ本番で試す必要は無かったとの考えが一瞬頭を過るが、終わりよければ全て良しと思いなおす。   

　 
「ユノ。死の呪い解けたみたい。良かったね。」   

「え？」   

「……だから、死の呪いが解けたんだよ。」   

　ユノは自分を鑑定する。死の呪いは永遠の祝福に変わっている。

「噓でしょ。何で？　何でいきなり解けたの？　当時はまだ父上が優しくて、たくさんの高名な魔術師の人達が解呪する方法をいろいろと試して、それでも無理だったのよ。」   

「さっき獲得した新しいアビリティーの効果かな。死の呪いを永遠の祝福に変えたって事だね。効果が反転した事に近いかもしれない。永遠の祝福には２つ大きな効果があって。まずは、永遠なる命の祝福、病気になりにくく長寿になりやすい。次に、永遠なる神の祝福、レベルアップする度に上昇する運の数値がランダムで5倍から50倍の数値になり、これらの効果は永遠に続く。」   

　ユノは腰が抜けたように床にへたり込み泣き出してしまう。   

「どうして。どうして秀人はいつも私を助けてくれるの。母上の時もそう。学園でだってホワイルやキヌハ達に抗あらがう方法を示してくれて、父上に進言までしてくれて、その上今度は死の運命まで変えてくれた。寿命まで延びちゃったら、もうとてもあなたの事を諦められないわ。こんなの好きにならない方がおかしいよ。」   

「仲間だから当然だし。俺も友達として大好きだよ。でも、ラブじゃ無いからそれはごめんね。」   

「ははは。そこだけはいつもハッキリしてるね。秀人、毎度の事だけど本当にありがとう。この恩は一生をかけて返していくから。」   


「参ったな。別に恩だなんて思わなくて良いのに。」  



　＊＊＊




『鬼宮冒険総合百貨』で働いている、秀人の分身アバター。分身アバターは現在の本体と能力や記憶が常に同期されているので、先程行われたユノの呪いの書き換えを知っている。  

　鬼宮冒険総合百貨はユートピア王都プレバティで冒険者ギルドの向かいの立地という事もあり、今や多くの冒険者に利用される繁盛店となっていた。これをたくさんの冒険者に勧めたのは、先日秀人の商品を実際に頂き、その性能を良く知るフランツ達だった。ただし、店頭に並ぶのは、フランツ達が持つチート装備とは違いかなりの劣化版。それでも現在の王都で取引されている武器や防具と比べると破格の性能だった。値段はこの国に出回っている装備より少し高めに設定されているが、それでも、商品は次々に売れて行った。  

　今やDランク以上の冒険者には必須となったその装備のせいで、冒険者ギルドの依頼がこれまで以上に簡単にこなせるようになり、ギルドはランクの依頼難度を少しだけ引き上げる。そうして、今まで手が出せなかった依頼などが全て達成される事となり王都の冒険者ギルドの評判は、みるみる上がっていく事となった。 そして、これらは、ほんの数日の出来事だった。  

　鬼宮冒険総合百貨の評判は冒険者の中でも、EランクやFランクの冒険者達、冒険者証を身分証代わりに使っていた一般人にも広く知れ渡る事となる。今やユートピア国民に大人気の継承権第一位のユノ皇太女が、店主の仲間であり高確率で店員をしているという噂だ。という流れから最近では、お店に長蛇の列が並び、秀人、カイン、シエナ、陽菜、ユノの５人のフル稼働で何とかお店を回している状態だった。  

「カインとシエナ。その会計が終わったら、交代するから、ちょっとだけ裏に行ってくれるか？」  

　カインとシエナがお店の奥にある作業場に入ると絶賛装備制作中の、もう一人の秀人の分身アバターが待っていた。そして、カインとシエナが来た事を確認すると秀人はカインのその首筋に手を翳すかざ。そして10秒も経たないうちに次はシエナに同じ動作をする。  

「2人とも奴隷の呪印じゅいんを解呪した。正確には呪印じゅいんの色を肌の色と合わせて、その内容も呪い無効に書き換えたと言った方が正しいかな。だから、もう２人は奴隷では無いし、二度と奴隷にされる事もないから安心してくれ。」  

　カインとシエナがお互いの首筋を確認し、その瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

「秀人様。本当に、秀人様には、なんとお礼を言ったらいいか。今までも私達兄妹に奴隷とは思えない生活をさせて頂き、本当にそこから解放して下さるなんて。私は一生秀人様に着いて行きます。これからも、精一杯がんばるので、よろしくお願いします。」  

「秀人様。ありがとうございます。例え奴隷で無くなったとしても、私はあなただけのものです。どうぞ、これからも何でも言う事を聞くので、何でもご命令下さい。」  

「お店の裏なんだからそこは友達対応で良いんだけど。ちょっとシエナに聞き捨てならない部分もあったけど、二人とも、これからもよろしくね。居なくなったらどうしようと考えていたから凄く助かるよ。２人の天性ネイチャーは商売に向いているから、俺達の中で一番活躍もしているしね。今日はもう休むかい？　その顔じゃあ無理だろう。」

「いいえ。やらせて下さい。精一杯頑張ります。」「少しでもご恩に報いたいです。」

「じゃあ。少しだけ休もうか。」

　秀人は泣きじゃくる二人の頭を優しく撫でている。二人のこれまでの苦労の事を考えると、秀人も涙が出そうなのを堪えていた。  

　カインとシエナ。秀人は二人に錬金術で作った精神が安定する作用のある薬を毎日飲んで貰い、今は前の生活、奴隷時代の苦しい精神の傷が癒いえてきている。その証拠に最近プライベートの生活ではカインは秀兄ちゃん。シエナは秀サマ。と呼び、奴隷としてではなく、仲間として本当の家族の様に面白おかしい生活を充実させていた。