現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

黒点

 ユノの皇太女任命式から数日が経ち、もうすぐ魔法運動会が実施される事になっていた。ユノの本体は秀人達と一緒に暮らしてレベル上げに勤(いそ》しんでいるが、分身(アバター》は毎日、王宮から直接学園に通っている。そして、その警備もとても厳重なものとなっていた。ただ、今までのような急激なレベルの上昇はある段階で止まっていた。討伐モンスターの獲得経験値の問題である。  

 王子達が起こした騒動から始まり王宮での出来事などで忘れていたが、学園に禁書を盗んだ犯人がいるかも知れない事、そして、秀人達なりの見解で、それはサンタナとミミカである可能性が高いとしていた。学園の宝物庫にあった禁書は、初代ユートピア王が残した時空属性の魔法である。時空魔法は対応する精霊などの存在がいない。その為にエレメンタルマスターでもないと発動する事は不可能とされている。

 だが、禁書にある魔法は数分先までの未来を視るだけなので属性変換率も魔力の消費も少なくて済む為に、エレメンタルマスターでなくとも発動が出来る。そして、その魔法を取得する為には、禁書と共にユートピア王家の血が必要になる。ユノが皇太女になる少し前、ユノの分身(アバター》が何度かサンタナとミミカに拉致(らち》されていた。その度に分身(アバター》を解除していたので問題は無かったのだが、秀人達は彼らがユノの血を必要とした可能性は高いと考えた。その結果、ヴラドが言っていたように学園に紛(まぎ》れ込んだ犯人はサンタナとミミカであると判断したのだ。 

 ただし、今はユノの警備に3人のAランク冒険者が雇われているので、分身(アバター》でさえ簡単に捕まる事は無い。  

「師匠のおかげでせっかくAランク冒険者になれたんですから、次はA級ダンジョンに行きましょう。また、いろいろとアドバイスして下さい。」  

「フランツさん。年上なんですから師匠も敬語も止めて下さい。じゃあ。魔法運動会も控えているみたいだし、レベルも上がりずらくなったし、先生に許可を貰って、来週いろいろなA級ダンジョンに行ってみますか?」  

 そのAランク冒険者の三人というのは、以前B級ダンジョンの時に秀人達がお世話になったフランツ ミューリー男性25才とメイテル スプラット女性24才アンモ男性28才だった。あれからまだ日は浅いが3人はAランク冒険者に昇格していた。三人は実習の時間にもその訓練に参加し秀人の究極鑑定で得た情報を基にして自分達の腕を鍛え直していた。むしろ、この頃には仲間のスキルの効果を分析し全員が秀人のアドバイスを基にして戦闘訓練を行っていた。 

「師匠ありがとうございます。師匠に指導して貰ってからの数日はかなり濃い時間になりました。今まで俺達はAランクを最終到達地点として目指していました。でもBランクでも伸び悩み、もはや落ちこぼれの部類に属していたんです。ですが、たった数時間指導を受けただけで自分達の適性のあるクラスがわかっただけでなく、モンスターの討伐効率が飛躍的に上がりました。A級ダンジョンでのレベルの上昇もなぜか早いし、新たなクラスで覚えたスキルがとても強力で数日でAランクの昇格試験に受かるまでに成長したんです。今は新たな目標を設定し、まだまだ、これからも成長したいのでご指導の程をよろしくお願いします。むしろこの為に、ユノ殿下の護衛に飛びつきましたからね。」  

「はあ。なるほど。ですが、私の方が圧倒的に弱いんですけど。レベルもそうですが、もはや、戦闘の適性が無いんですから。」 

「またまたご謙遜(けんそん》を。師匠は防御も攻撃も目も達人の域です。それに師匠が作ったこの装備。本当にこれは神が作った一品ですよ。それに師匠は出逢ったあの時点のレベルでさえ私達のステータスを超えていましたからね。あえて基礎値を最大に上げるまでレベルを上げなかったのだと推測しています。」 


「基礎値ですか。偶然ですが重要ですよね。」 


「はい。王族や一部の貴族、強者の家系などはレベル1の時にあえてレベルが上がらない農民以外のアルチザンのクラスにします。それで鍛錬すると基礎のステータス値が少しは上がりますよね。ただ、基礎値を上げるのはなかなか難しくて根気もいるので、普通は我慢しきれずに良き所でレベルを上げちゃいます。実は私も筋力と素早さと守りだけは2です。一番良いのはユノさんみたいに全ての数値が2に上がっている事ですよね。」 

 ここで初めて自分達だけが特別でない事が明かされた。それでも2だというなら秀人達はある程度は優遇(ゆうぐう》されている。秀人は守りの基礎値が異様に高く、陽菜は日々の鍛錬で満遍(まんべん》なく基礎値が高かった。今の所、秀人と陽菜だけに確認されるオーラやAPなどもそんな物理系の基礎値が影響しているのかも知れないと感じていた。心愛は魔法に重要な関りがあるであろう知力がずば抜けていたからだ。

 だが、異世界にも基礎値を上げる者がいるのだとしたら、他にもAPやオーラを持っているかもしれないと秀人は思った。 


   

 *** 

   



 その日、秀人の本体の方はというと、こんな事を考えていた。  


 ――俺は戦闘職になんの威力補正も無い。と、今まではそう思い込んでいただけだった。――
 先程、出来上がった太刀『鬼丸』を眺めながらそんな事を思っていたのだ。秀人が武器を剣にしていたのは大好きな祖父が剣術を嗜(たしな》んでいたからで、この世界に来た時に漠然(ばくぜん》と剣士を選んだ。だが、今日の究極鑑定で自分の事を鑑定し、今まで気にも留(と》めていなかった一つのアビリティーに注目したのだ。そのアビリティの説明で、それが完全にこの世界にな無い秀人固有のアビリティーだと理解出来た。なぜならそのアビリティー・究極刀匠のジョブ『刀鍛冶』で作れる武器の種類が日本刀だったからだ。

 そして、通常の生産チートに加えて、日本刀を生成する事に於(お》いては更なるチートが加算され生産ダブルチート状態になる。実際に『鬼丸』はB級ダンジョンで集めた材料で作成したが、そのランクは1ランク上のAではなくS級以上の代物になった。そして、これが秀人にとっては最大の魅力とも言うべきか、アビリティー・究極刀匠のおまけの効果で日本刀による攻撃威力にAランク天性(ネイチャー》くらいの威力補正が加わる事が判明したのだ。ランクによる威力の補正は、同ランクでも当たり外れがあったりランクについた+の数でも全然違うので一概に同じとは言えない。

 秀人は刀を装備した際の攻撃威力が3倍になる。秀人にとっては嬉しい事だが、この異世界に日本刀を装備した時のスキルがあるかどうか少し怪しい気がしていた。

 とは言え発動すれば秀人としては唯一の戦闘職に適正がある事になる。秀人は『様斬侍(テストサムライ》』にジョブチェンジし『鬼丸』を装備する。

 そのジョブレベルを上げた結果は、Lv10までに何のスキルも発動しなかった。だがスキル獲得無しを確認した後、秀人は祖父が庭で稽古をしていた事を思い出し、その技の一つをイメージした時にウインドウから微(かす》かな音がした。

 秀人はイメージする事で突然スキルを一つだけ獲得したのだ。ここで『様斬侍(テストサムライ》』のジョブは、レベルの上昇では無く、技を具体的にイメージした時にスキルを獲得出来るという可能性が生まれた。
 秀人は考える。――もしかすると、ジョブレベルが上昇している事もスキル獲得の条件になっているのかも知れない。または、この世界に存在しないであろう侍の技が日本で伝わっていれば、それを学べば『様斬侍(テストサムライ》』の新たなスキルを覚えるかも知れない。とは言え、侍装備は、まだスキルが一つしか無い。――

 秀人は『様斬侍(テストサムライ》』は【副(サブ》職業(ジョブ》】でしばらくは剣士クラスで行く事にした。  



 秀人が新たに獲得したスキルは【黒(ツミヲ》点(ウガツ》】。
 刀で相手の弱点を突く、鬼宮流剣術。  

  



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    

※ここからは後書きです。興味の無い場合は読み飛ばして下さい。 




天性(ネイチャー》のランクにより攻撃威力やスキル威力、獲得経験値などに倍率があった場合  

SSS 20倍   
SS 10倍   
S 5倍   
A 3倍   
B 2倍   
C 1.5倍  
D 1.2倍  
E以下 威力倍率無  

スキルや魔法を使用する際の一回に獲得する熟練度の上昇値  

SSS 5倍 or 獲得時から熟練度マスター  
SS 2倍  
S 1.5倍  
A 1.2倍  
B以下に熟練度の補正無し  

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