現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

極大爆炎魔法【メガフレア】

 その暗い空気を一変させたのは、笑顔で近づいてきた2人の少年だった。金髪を肩まで伸ばした細見で色白のクラスメイトと先程、秀人と少し会話をしたフレイド オイモだ。     

「お話し中で悪いんだけど、ちょっと良いかな? 君達がグループを作るなら、僕とこのフレイド君もそこに参加したいんだけど、どうだろう? SSクラスは秀人君達を入れても35人。ユノの派閥に7人も参加していたら、いくら王族や貴族でも迂闊うかつに手が出せないと思うよ。自由を求めるなら今がチャンスじゃない?」「うっす。おいらもよろしくっす。」     

 秀人達が関わる事に難色を示していたケイニーが今度は表情を明るくした。もし、それが本当の話だとしたら、これは間違いなく転機だと思ったのだ。だが、すぐにその興奮は冷める。相手にはメリットがない。意図が読めないのだ。    

「人数はともかく、公爵家のモーリス殿下が入ってくれるなら、王子殿下や王女殿下達も表立って手が出しづらくなると思います……。でも、今までは王室や貴族達の争いには、蚊帳かやの外と言いますか、我 関せずの立場をつらぬいてきた感じに見えました。失礼ですがモーリス殿下もまた継承権を持つ王子の一人、その立場上、適度な距離を保っていたという事ではないのですか?」     

「殿下って言うな。友達になりたいとこうして接触せっしょくしているんだからモーリスで良いぞ。あと、たまたま親父が王弟なだけで、うちの財力や権力は他の公爵や侯爵と比べるとかなり見劣みおとりするからそれは当てにするなよ。それに僕は権力争いにはまったく興味が無い。王位継承争いなんてくだらないと思うし、強い弱いより優先するべき事は他にたくさんあると思っている。そして、SSクラスは、やれ貴族だやれ身分だと上辺だけで物事を判断する連中が多くてうんざりしていたんだ。僕はユノや君よりも秀人に興味が湧いた。王族に一歩も引かない平民なんて楽しすぎるだろ。どうかな秀人?」     

「俺はもちろん快諾かいだくするよ。モーリス。フレイド。こんなに早くたくさんの仲間が出来るとは夢にも思わなかった。よろしくお願いします。ユノ。もう覚悟を決めよう。皆で強くなってしいたげられないように頑張ろう。」    

 秀人達やモーリス、そして、態度の変わったケイニーを前にユノは決心した。     

「決めたわ。これから私は堂々と胸を張って生きる。兄さんや姉さんに二度と忖度そんたくしないし必要なら何だってする覚悟よ。ケイニー。私達もみんなと一緒にやってみようよ。学園生活を楽しいものに塗り替えるなら、本当に今しか無いと思う。」     

 ケイニーは思わず目頭が熱くなった。ケイニーの脳裏のうりに焼き付いた本来のユノの姿は、何者にも物怖じせず忌憚きたんのない意見をする誇り高い王女。学園に入学する前の自分に救いの光を当ててくれたユノが帰って来るかも知れないと思った。     

「……ユノ殿下。」     

「モーリスが王族や貴族に少なからず不快感を持っているみたいなので、殿下と言うのも敬語もやめてね。私は今まで何度も言って来たけど、あなたは部下では無くて友達なの。今日も私が秀人の所に迎えに行こうとしてたら、強引に……。」     

 ユノの言葉を待たずに、ケイニーが食い下がる。     

「しかし! 私は生涯しょうがいを殿下の騎士として生きると決めております。」     

「しかしじゃない! あなたが身分を重視するせいで、折角せっかく来てくれたモーリスが離れて行っても良いのかしら? 私の騎士だと言うのなら、それこそ、私の身を守る行為とは思えないわね。」    

「はい。わかりまし……わかった。」     

 ここに、これから学園生活を楽しむ仲間が結成された。秀人や陽菜にとって、仲間と共に過ごす学園生活は初めてであり、この生活が、今まで得る事の出来なかった青春という物である事に間違いはない。いくらこの先に悲劇が待ち構えていようとも、その思い出は確実に秀人にとって最高の財産になるのだ。     

 そして、実習の時間が始まる。王子は謹慎きんしん。王女は先程のわずかかな舌戦ぜっせんで精神を病み、取り巻きと共に帰宅していた。

 教師のキュリオンが体育座りの生徒達に向かって話を始める。実習室は教室より何倍も広く、中央の奥に三体の人形が並べられていた。   

「それでは、特待生にとって、今日が初めての実習という事もあり最初に、それぞれのスキルや魔法の威力と実戦がどれ程かその実力を試させて下さい。秀人 鬼宮。陽菜 西園寺さいおんじ。心愛 鬼龍院。3名には前に出て来て順番に、あそこに3体ある防御人形に攻撃をして貰います。攻撃を当てると人形の頭上にある板にその威力が表示されます。あれは魔法運動会で使う量産型とは違い、高度な技術で作られたオリジナル品です。防御や魔防を高める魔法陣が何重にも施されているから、王国騎士団長クラスが本気で攻撃しても壊れる心配はまったく無いです。」

 キュリオンの丁寧な説明とその目つきが変わる。キュリオンは秀人を睨んでいた。

「そして、これは俺がお前らの実力を考査こうさする意味がある。出し惜しみせずに思いっきりやれ。このクラスで学ぶ実力がないとかった場合、俺の権限でクラスを落としてやる。特待生がSSクラスを落とされたら、推薦したユノや学園長も立場を失うものと思え。」     

 いつもは基本的には敬語で話をするキュリオンだが、最後だけ挑発の意味を込めて荒々しい言葉を放つ。だが特に恨みがあるわけではない。一教師として特待生とされた3人の本当の実力を知りたいという欲求。その一点のみで挑発していた。    

「はい。」「はーい」「はい。」     

 まずは、秀人が前に進んだ。

 この一週間で覚えた剣士のスキル。そのうち、単体に効果のある4連コンボを防御人形に当てる。

【袈裟斬り】【逆袈裟斬り】【薙ぎ払い】【急所突き】の4連コンボ。特に【急所突き】は剣士クラスの職業Lv40で獲得出来る。
 それは、学生の標準を大きく上回っている為、一般生徒が見たら普通に驚くような光景だと言える。しかし、当然、一週間だけの付け焼き刃である。(正確には携帯ダンジョンで40日分)ダンジョン分は、ほぼ心愛の範囲魔法での討伐。
 どのスキルも熟練度は低レベルで、天性ネイチャーによる威力補正も無い。故にガイアの基準で測ると威力が最弱だと言える。防御人形もそう判断した。

『30』『39』『20』『52』    

 999までの測定が可能な測定器なのだが、これはスキルの威力ではなく出力を測定する機械。
 秀人のレベルは現段階で37に達している。たかが一週間の成果だが、卒業間近の学生のレベルとしても遜色そんしょくない程だ。大人の国民の平均がLv24大人の貴族の平均がLv43なので入学した段階で既にLv37なのは異様と言えるだろう。    

 ガイアではその戦闘に天性ネイチャーとアビリティーという各戦闘クラスのスキル威力に大幅な補正が掛かる素質的な要素が関係してくる。だから根本的に生産職に補正が掛かっている秀人が、通常の剣士のクラスでスキルを放ってもたいした威力は出ない。ただし、今の秀人は、一般人には手に入れ難いかなりレアな剣を装備している為に、その素質のアドバンテージを多少埋めているのだが、防御人形が測定しているのはスキルや魔法自体から感知した数字でしかない為関係が無かった。    

 学生では優秀な部類かつLv30程度の生徒が自分の才能に適したスキルで防御人形を攻撃した場合。威力が低い攻撃でも『20』3連コンボの最終攻撃で出すスキルなら『50』は固い。秀人の結果はギリギリ優秀な部類に入る所だ。今回、手渡された学生服は本物の学生服なので、秀人のチート級装備ではない。生徒達からすれば特待生としては微妙な結果である。
    
 だが防御人形の測るスキルの出力は本当の威力とは異なっている。天性ネイチャーでの戦闘力威力補正が実際よりかなり大きく反映されてしまうのだ。そして、秀人の場合は威力の補正がまったくない。補正が無いのにも関わらず、生産チートの装備の恩恵をまったく受けていない。つまり、何もない素の状態で、測定の不利を飛び越えて、優秀な生徒の有利な結果と同等。この結果は十分過ぎる程に異常なのだ。だが、それをちゃんと理解出来ているものは殆どいない。

 秀人自身も数字を見てなんか弱そうと肩を竦めている。

「うーん。本当にすみません。これはどうなんだろう。なんか恥ずかしい。」

 SSクラスには、それぞれの事情で基準を逸脱した化け物が何人か潜んでいた。そして、それらの何人かと先生達だけはその真実を見据えていた。 

 それはほこりほどに極小で微々びびたる事象じしょうに過ぎない、だがわずかに秀人の攻撃で防御人形が削れた事への違和感である。大した威力では無い事は数値で明らかだが、その大した事のない攻撃が、多重魔法陣の防御・魔法防御も、防御人形自体に施された防御性能をも突破した事は事実である。そして、それは本体が削れる程の威力があった。今の時点で脅威きょういにはならないが、成長次第ではその未知の力が開花かいかする可能性も否定できないと考えている。特にそのうちの一人は全てを見通していた。

「生産系の天性ネイチャーで、スキル出力を過大に評価する防御人形に対してあの数値か。素であの数値だとしたら、おそらく実際の威力は倍以上だな。だがそれより本当に恐ろしいのは、それが多重魔法陣を突破したという事実だ。これは絶大な威力に正攻法で防御人形を壊す事よりもよっぽど危険だ。やつの攻撃の威力は未知だが、それは相手の防御力を貫通するという事になるからな。今の段階では脅威きょういとは言えないが、一応はマークしておく必要があるか。」

 そんな事を考えていた実力者とは対照的に、他の生徒から秀人や特待生をののしる声が多数あがっていた。       

「なんだよ。4連攻撃とか使うからもっと凄いのかと思ったら、威力がまったく追いついてねぇー。見掛け倒しじゃねーか。」「たしかに俺よりは強いけど、特待生のくせに普通じゃね?」「もしかして、自己紹介で誇張こちょうしてただけで、お友達の平民も同じなんじゃない?」「下民風情ふぜいいきがっておいてこれかよ。」       

 次は、陽菜の順番だった。そして、陽菜と心愛は秀人を誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうする声が聞こえていてかなり苛立っていた。学園長達との会議で、秀人は最低でもガイアやユートピアの実情が分かるまでは、自分達の能力は隠す必要がある事を主張した。陽菜も心愛も先刻までは先生が下すであろう自分達の評定も無難ぶなんな程度にあしらおう思っていた。でも、陽菜も心愛も秀人に投げかけられる心無い言葉に怒りが頂点に達していた。

 そして、二人は本気を出す事になる。       

「【闇降し 奇々怪々】【気合溜め】【冥王粉砕拳】」       

 スキルにより陽菜の全身が真っ黒に包まれ、一拍、力を溜めるとその質や量が大きく変動する。真っ黒なかたまりから放たれる強烈な一撃は、防御人形の胴体を貫通していた。頭上の板からは数字がピクリとも表示されない。これは出力を測定しようとした回路が膨大なエネルギーにより一瞬で焼き切れた為だった。陽菜はその光景に満足してすぐに振り向きツカツカと心愛のいる場所まで歩いて行った。「ナイスよ。陽菜。」彼女達はハイタッチして入れ替わる。         

「【極大メガ爆炎魔法フレア】」         

 教室にいる全ての人間が心愛より後ろにひかえていた事が、唯一の救いだった。爆炎に包まれた目の前の空間、その煙が徐々じょじょに無くなると、全ての防御人形は跡形もなく消え去り、それどころか心愛より1メートル前方、実習室の約半分が崩壊ほうかいしている。実習室は戦闘にもちいる為に、何重もの結界や魔法陣がほどこされている。Lv100の魔法師がギガフレアをつかってもびくともしない位の設計にはなっている。だが、防御関係の効果の全てが破壊され、余剰分の威力だけで教室の内装を粉砕し、辛うじて耐熱合金で出来た強力な外壁と柱だけがむき出しになっていた。 

 生徒のほとんどが涙目になり、放心状態になっていた。        

 秀人達は学園長が言っていた事を思い出す。そもそも、エレメンタルマスターは、精霊や天使や悪魔と契約し属性魔法を発動するよりも上位の存在。周囲の魔素をも取り込み普通の魔法の何倍もの威力になる。


 だが、心愛は、嬉しそうにテヘペロをしていた。まだ先程の秀人への侮辱ぶじょくの言葉に怒っている。大きな罪悪感もある、だが秀人を想う気持ちと理不尽に屈しない正義感が勝ったのだ。

 陽菜も心愛に近づきハイタッチしている。「バッチリよ。心愛。」

 そんな二人に慕われている秀人だけが、二人にツッコミを入れていた。

「ぐはっ。ちょっと、やりすぎでしょっ! それに二人共何で喜びあってるの。この大惨事どう見ても失敗だからね。」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇   

※ここからは後書きです。興味の無い場合は読み飛ばして下さい。 

防御人形

多重魔法陣により攻撃・魔法に耐性持つ人形型の測定器。
測定方法は、実際の威力ではなく、①攻撃力or②魔力ステータス×スキル出力値×③戦闘職用の天性ネイチャーのランクと影響力。
製作者が③の大小を測りたいが為にその設定値が通常よりも高く、非戦闘用の天性ネイチャーで威力を測った場合は数値が限りなく低い。尚、世界にはSSまでしか確認されていない為、高いステータス、高レベルのジョブスキル、SSSランク天性ネイチャーなどを測ると回路が焼き切れる。
また、魔力回路や魔力循環などは測定の範囲外でステータスを数値でしか判断していない為、測定は目安にしかならない。

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