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現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

魔蟲卵の儀②

 秀人が魔蟲卵に血を垂らした瞬間に、卵は大きく変化し成虫に孵っていた。二m級の大きな蟻型のモンスターが現れる。

「何だこれは! 速すぎる。それに孵るのは小さな蟲のはずだぞ。こんな巨大なモンスターが孵るわけがない。」

「いや。これも一応は蟲の分類じゃよ。ミルメコレオ。蟻がライオンの性質を持った伝説上の生物じゃ。そして、この生物は雑食とされている。通常の魔蟲卵の儀では考えられない希少な性質じゃ。孵る速さや大きさといいこれだけでも秀人君は間違いなく傑物と言える。」

「だからって、魔蟲卵の儀はてのひらの上に収まれば上等な結果だと言われています。これは何かの間違いでしょう。ひあ~。」
 
 ミルメコレオはアムの左手を食いちぎる。ザームは、店内で魔法を行使した。

「【聖なるホーリーアイス流星メテオ】」

 ザームが叫ぶと天井を埋め尽くす程の氷がモンスターに一斉に降り注ぐ。聖なる光を帯びた氷の威力は凄まじく、モンスターは一瞬で凍り付き粉々に砕けていた。これだけの大魔法を使いながら、何事もなかったように店内はまったく乱れていない。氷はモンスターの屍ごとすぐに蒸発して消えていた。

「いでぇ~~~。」

 床で泣き叫ぶアムにザームは移動しながら回復魔法を掛けそのまま退出した。秀人にはザームが口にした冷ややかな呟きが聞こえていた。

「雑魚が。策士、策に溺れるとはこの事じゃな。」

 秀人は今も床で泣き叫ぶアムに近寄る。

「アムさん。大丈夫ですか?」

 アムは失った左手を押さえながら、立ち上がっていた。その表情は今まで笑顔の下に隠していた暴力性を剝き出しにしている。

「ちくしょう。貴様のせいだ。絶対に許さんからな。こうなった以上は徹底的に潰してやる。」
 アムは、店を飛び出していった。


 秀人は全員分のお金を支払い、喫茶店の外に出ると、もはや本性を現した斬撃のアムドともう一人静寂のマーズが待ち構えていた。遠くの方でザームが見守っている。

「秀人。クソガキ。お前にはここで痛い目をみて貰う。」

 秀人は現実世界で不良に囲まれる事にとてもなれていた。リンチを受ける事にも。だが、今は、またこれかと昔の様に嘆いているわけではない。ここが異世界で、少しだが準備もしてある。相手のレベルが60を超えていてもまったく問題はない。

 自分のステータスの力と装備の力を調べる為にはうってつけの相手に思えた。

 これは現実世界で体験してきた、あの頃の嫌な記憶とはまったくの別物。その証拠に秀人はほんの少しだけ笑っていた。

「それが本性ですか。良いですよ。やりましょう。」

 静寂のマーズに、静寂の二つ名がついているのは、沈黙ちんもくという魔法師殺しの特殊なスキルがあるからだ。それは基本であるランクEではなく、ランクDに分類される専門クラス。
 ジョブではないが戦闘職としては数が少ない部類。マーズは特殊な妨害系サポーター『封術師』だった。

 Dランクとはいえ、それは攻撃特化のアタッカーや防御特化のディフェンダーでは無い。だが魔術師に対しては当然有利になる。

 鍛冶師が生産職である以上、攻撃はコモンスキルやコモン魔法になると踏んでの戦闘での戦闘試験でのマーズの選択。鍛冶師であれば、最低限ディフェンダーにコモン魔法の一つでも使えれば、鍛冶師をメインで育てた結果、戦闘が弱い場合でも攻守のバランスは良い事になる。

 アムドにとって一番都合が良かったのは、現在のクラスが育成途中の鍛冶師であった場合。だが、同時にそれらの考えは無意味にも思っていた。学生ごときの低レベルであれば、どんなクラスだとしても元Bランク冒険者に敵うわけがないのだ。だからこそ、マーズを戦闘試験に組み込んだ作戦は、直感的で粗く考えられた低レベルの作戦だった。ただし、激昂げきこうしている

今のアムドは戦闘にも参加する。

 斬撃のアムドの二つ名は、アムドがマーズの二つ名を羨み、自分自身が広めさせた剣士の異名。

 『剣士』アムドと『封術師』マースのコンビはこの戦いに於いて最適に近いものであると感じていた。

 対する秀人は現在は『剣士』。

 剣を装備した事で秀人の戦闘クラスは一目瞭然だが、アタッカーだというのはアムドにとって少し意外だった。
 
「行くぞ。秀人。くたばりやがれ。」

 最初に動きだしたのは、アムド。アムドの動きに秀人が警戒けいかいした所でマーズが沈黙ちんもく効果のある呪術を使った。

 だが、それで全てが終わっていた。

 秀人の何の変哲もない剣での攻撃。まずは右手を振り上げて襲い掛かってくるアムドの胴体を秀人の剣が高速で打ち抜く。アムドの重装の鎧は破壊され肉が少し抉れている。そのまま衝撃で吹き飛ばされ気絶していた。

 秀人はそのまま延長上にいるマーズに向かって進む。

 マーズはあまりの衝撃で逆に固まっている。文字通り静寂のマーズを杖ごと胴体を同じように打ち抜いた。杖は折れ、肉を少し削り取り、吹き飛ばされて壁にぶち当たり気絶していた。

「あっけないな。おじさん達、これに懲りたら、こういう事はもうやめなよ。意識がないか。」

 秀人は宿屋に戻って行く。

 秀人は現在Lv34だがレベルの上昇しない世界で生活していた分基礎値が高く、レベル上昇時のステータス上昇は常人の倍以上。更に装備は自分で製作した低レベルモンスターや素材を使って製作したもの。武器一つ。防具五つ。全てに四つの効力エフェクト結晶クリスタルがついている。

 対する相手はほぼ全てのステータスが60前後のB級冒険者。

 Lv34の2倍以上のステータスに、一つの装備に対して100以上ステータスが上昇している秀人にこの程度の相手は雑魚でしかない。だが秀人は固有アビリティー【究極変換】の力で、軽装にしか思えない。これを見てアムド達が油断するのは当然の話だった。


 秀人がいなくなると、全てを見守っていたザームこと、学園長のザムガトルスが魔道具での変装を解く。アムド達に近づくと回復魔法を掛けていた。学園長の意識を復活させる刺激的な魔法でアムドとマーズが目を覚ます。

「……ここは?」

「試験とはいえ教師が二人掛かりで戦闘するとは、まったく大人げないな。その対戦結果も酷いものだった。」

「……私達は負けたんですね。」

「ああ。そして、約束通り学園はクビじゃ。問題あるか?」

 アムドからは毒々しい雰囲気が削げ落ちていた。それほど圧倒的な敗北だった。

「問題はありません。臨時試験は文句無しの合格ですよ。自分の失敗で左手を失い、少年には手も足も出せずに惨敗しました。私はもう王都から離れ引退します。」

「もちろん私も合格で良いです。自信を失いました。静寂のマーズなどと呼ばれ、専門クラスを持っている事だけが私の誇りでした。ですが、その力はまだ学園にも入学していない少年に負ける程に弱い。何が教師か。もう一度ダンジョンで冒険者として鍛えなおします。」

 学園長が、言質を取った所で、何も言わずに学園の方に帰っていく。

 生徒や真面目な教師には優しい学園長だが、貴族のスパイとして潜入したこの二人には氷の如く冷たい態度だった。


「しかし、秀人君。Lv1でLv60前後を撃退するとは、儂が思っていた以上の力じゃったの。やはり、あの方向でしか考えられぬが、それだとしても遅咲きの説明がつかん。となると、それすらをも凌駕する、よからぬ者が動き出しているのかもしれんのお。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇   

※ここからは後書きです。興味の無い場合は読み飛ばして下さい。 

魔蟲卵の儀

魔力回路のタイプ
肉食性:生きた動物を食べるもの。主に攻撃タイプの戦闘職で大成する。
植物食性:生きた植物を食べるもの。ディフェンダー。サポートの支援型に多いタイプ。
腐食性:動植物の死体や腐敗物、排泄物を食べるもの。サポートの妨害型及び生産職タイプ。

歴史に欠けていた特別な魔力回路のタイプ

雑食性:肉 ・植物・ 腐のうち2つ以上を食べるもの。存在しないはずの第四の魔蟲。最高の適正てきせいが複数ある場合。

「現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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