現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。

漆黒の炎

魔蟲卵の儀①

 秀人が泊る宿屋に、突如とつじょ招かれざる客が訪れた。

 王立第一魔法学園教師。
 斬撃のアムド。二つ名を持つ元Bランク冒険者の変装した姿だった。そして、その後ろから着いて来たザームという中年風の男性。


 彼等が秀人と接触せっしょくしたのは、臨時試験を行う事と秀人と交流を持つ事にある。
 なるべく難解な試験を行い不合格にした上で、鍛冶屋バロンの元店主、若き天才リンドブルクと接点を持つ為、秀人とも仲良くならなければならない。だが、仲良くなる方がより重大である為に最悪の場合は他のヒートアイル侯爵の部下に任せる事になっている。
 アムド達にとって最重要な任務は、臨時試験で不合格にする事。

 そこで、アムドが考えた試験内容は、同じくヒートアイル侯爵から雇われ教師として学園に潜入していた静寂のマーズの戦闘試験。
 アムド自身が行う試験は、面接試験だった。
 どちらにしてもその試験の内容は難しく絶対に受からせる気など無い。
 アムドは、それを考えながら無理やり笑顔を作り宿屋の扉をノックしていた。

「おはようございます。私はアムという旅の商人です。少しお時間をよろしいでしょうか?」

「え? どちら様でしょうか?」

 秀人は、アムの事を視た瞬間に身構える。だが、アムはその緊張を解きほぐす為に、口角をより一層吊り上げている。逆に不自然極まりない。

「私は少しお話がしたいだけです。そんなに警戒けいかいをしないで下さい。私は旅の商人のアム。此方は同僚のザームと言います。」

「話ってなんですか?」

「少し長いお話になるので、喫茶店でお茶をしながらという事でよろしいですか? もちろん此方でお支払をしますし、空腹であれば食事をなさっても結構です。」

「少しお待ちください。」

 秀人は、隣の部屋に入り、装備を整え、アビリティー究極変換で見た目を普通の服に変えた。アムの前に戻ると案内されるまま喫茶店に向かった。
 喫茶、エア。三人は他に客のいない高級な喫茶店で話を始めた。

「お名前は秀人さんでしたね。秀人さんはたしか生産職でしたか?」

 秀人は、またもやアムを警戒けいかいする。秀人の脳裏に過ったのはオリハルコンの剣。その生産者である事がばれたのではないかという不安だった。鍛冶屋の店主に、絶対に言わない方が良いという事を忠告されていたからだ。そして、このアムという男。本名アムドの鑑定結果が不気味だった。称号の欄にシリアルキラーという項目がある。最初の警戒けいかいはこの称号が原因だった。

「なぜそう思うのです?」

「だって、あの鍛冶の天才のお弟子さんなのでしょう?」

「……。」

 秀人は言葉に詰まる。心配とは微妙に違う意見に思考を張り巡らせる。

「まあ。言いたくないのならそれで構いませんよ。今日お聞きしたい事はあなたがこれから何をしたいのかについてです。私には非凡な才能を雰囲気で感じる力があります。先日、あの宿屋の前で、あなたを拝見した時に少し興味を持ちましてね。問題が無ければ若者の才能に投資がしたいと思ったのですよ。もしそれが駄目でもあなたの事に興味があるんです。」

 秀人はやはり言葉に出さず思考を続けていた。――オリハルコンの剣でなければ、いったい何が目的なんだ―― それを知る為に、この会話を続けようと考える。
 そして、出来るだけ自分の強さをアピールする事で、無駄な争いを避けようと思っていた。

「俺は、今、とても強大な敵と戦おうと考えています。その為の仲間も強力な武器もあります。」

「ほう。やはり強力な武器ですか。それはどんな敵ですか?」

「世界で魔王と呼ばれるもの。おそらくそれ以上の敵です。」

「それは壮大な敵ですね。では志は高いという事で納得いたしました。次にこの国の権力に対してはどうお考えですか?」

 秀人は権力と言われてユノの事を考える。それはこの世界に出来た新しい友達。友達が一人しかいなかった秀人は出来る事なら守ってあげたいと考える。

「実は国外から来たので、この国の王族や貴族の事をよく知りませんが、既存の勢力に与する気持ちは特にありません。ただし、友達が困っていたなら助けるくらいはするでしょう。」

「なるほど。野望はあるが欲はないと言えますね。最高の環境で指導されるべき実に立派な志をお持ちだ。では、次に、戦闘の技術についてお聞きしたい。あなたは同年代の子供達の中でどの程度の実力があるとお思いですか?」

「子供? 大人であっても負ける気はしませんよ。」

「ずいぶんと自信がおありのようで。天才はじつに良いお弟子さんをお持ちだ。優秀な生産職は、優秀な戦闘職を修めているという伝説もありますしな。おそらくリンドブルク殿も達人の域に達しているのでしょう。」

 ここで、秀人の頭はクエスチョンマークでいっぱいになる。秀人はリンドブルクという人を知らないと感じていた。

「そうだ。最後に一つ良いでしょうか? 実は魔力にはいろいろとありましてね。これは、鑑定の結果には出ない部分。いわゆる魔力回路と魔力循環の速度を測ると言われている魔蟲卵です。血を一滴垂らすとその血を吸い上げて孵化します。孵化する速度が魔力循環の速さ。幼虫なのか成虫なのか、大きさやタイプが魔力回路の質を現しています。」

 取り出した卵にザームが渋く唸っていた。

「ほむ。魔蟲卵か。よくそんな高価なものを持っておったな。幼虫や成虫。肉食性:生きた動物を食べるもの。主に攻撃タイプの戦闘職で大成する。植物食性:生きた植物を食べるもの。ディフェンダー。サポートの支援型に多いタイプ。腐食性:動植物の死体や腐敗物、排泄物を食べるもの。サポートの妨害型及び生産職に最も適正てきせいがあるものじゃな。」

「ザームさん。説明ありがとうございます。秀人君、これに血を垂らしてくれないか? 君にどんな才能があるのかを知りたいんだ。」
 
 アムの狙いは腐食性の生産型だった。それが最も学園に相応しくないとされているからだ。リンドブルクがその才能を見抜いたであろう弟子は間違いなく腐食性だと思っていた。
 そして孵化するまでの時間が遅ければ遅い程、小さければ小さい程にそれが不合格の理由になる。アムはこの詰みの状況に思わずにやけてしまう。
 ザームは、その笑顔に何かの企みを感じ呆れている。だが、アムの思い通りになるとはまったく思っていない。ザームは既に秀人の潜在能力を信じているからだ。

「わかりました。でも、これをやったら帰っても良いですか?」

「ええ。それで良いです。頼みます。」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇   

※ここからは後書きです。興味の無い場合は読み飛ばして下さい。 

ステータスには表示されない魔力回路と魔力循環。
一般的に魔力は魔法を使う為のものだが、その威力には魔力回路や魔力循環も深く関わって来る。そして、魔法だけに影響を及ぼす魔力とは違い、魔力回路や魔力循環はステータス自体に関わって来ると言われている。

魔力回路:体を流れる魔力の道
魔力循環:魔力が流れる速度

この魔力の流れる質と速さで、同じステータスでも最大で約2倍くらいの差が出ると言われている。ガイアの強者の中でステータスだけで相手を判断出来ないのはこれが原因になる。

魔蟲卵の儀

血を一滴垂らすとその血を吸い上げて卵が孵化する。孵化するまでの速度が魔力循環の速さ。大きさやタイプが魔力回路の質を現していると言われている。
孵化した卵が幼虫だった場合は魔力回路の質が悪く成虫だった場合は上質。
孵化した蟲が小さければ魔力回路は細く、大きいほどに太い。ただし、大きい幼虫よりも小さい成虫の方が良い魔力回路だと言われる。

魔力回路のタイプ
肉食性:生きた動物を食べるもの。主に攻撃タイプの戦闘職で大成する。
植物食性:生きた植物を食べるもの。ディフェンダー。サポートの支援型に多いタイプ。
腐食性:動植物の死体や腐敗物、排泄物を食べるもの。サポートの妨害型及び生産職タイプ。

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