現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。
生産チートは馬鹿に出来ない
――秀人は小学三年生の頃を思い出す。
秀人は学校に行くことがとても苦痛だった。祖父の部屋でオタクのような趣味を楽しんでいたが、学校に行くといじめっ子達が秀人を馬鹿にしていた。
ある日、秀人は学校で特にひどいいじめを受けた。自分を責め、傷つけられた心を抱えて帰路につくと、道端で泣き崩れてしまった。
通りかかった人たちは秀人を無視し、見て見ぬふりをして過ぎていった。秀人は完全に孤独になったように感じた。
家に帰ると、祖父が秀人の様子を見て心配そうに話しかけてきた。
「学校に行くの。もう嫌だよ。」と秀人は嘆いていた。
祖父は秀人に「人生にはいいこともあるし、悪いこともある。それを受け入れて前に進まないといけない。秀人は誰に何を言われても決して屈しない強さがあるだろ。大丈夫。きっと素晴らしい未来が待っているんだからな。明日からも頑張って学校に行こう。」と言った。
しかし、秀人はその後も学校でのいじめが続き、ますます心を閉ざしていった。家では異世界転生のラノベやアニメの趣味に没頭することができたが、それによってますます孤立していくような気がしていた。
「【ファイアーボルト】……ぐっ。」
学校の帰り道、思わず魔法の呪文を唱えるがそんなものが使えるはずがない。人生が苦しくて、他の人たちが自分を理解してくれないのは当たり前だった。だが、魔法が使えれば何かが変わりそうな気がしたのだ。声に出した後で、虚しくなって道端で俯く。この広い世界を、自分一人で進むしかいないのだと実感した。
「何を落ち込んでいるのよ。あなたらしくないじゃない。」
だがそれは杞憂だった。秀人には、たった一人だけ友達がいたのだ。その存在にどれだけ救われたのか自分でも分からない。
そして、これは秀人にとって、祖父という心強い味方のいる間の幸せな期間だった。
――幼い頃の魔法を使おうとした記憶を思い出した後で、秀人はスキル『究極鑑定』で自分の持つ能力やアイテムを一通り確認した。
「やっぱりここでも魔法は使えないのか。俺の能力は生産職特化って事だよな。」
秀人は宿屋を出て宿屋前の商店街、土色の硬いブロックが敷き詰められた大通りにいた。
「すごい。これが本物の異世界かよ。」
部屋と同じように文化レベルは中世のヨーロッパといった所で、遠くの方には馬車なども見える。秀人は心からその光景に感動していた。はじめて見る異世界の街を堪能しながら、街をぶらついていた。
街を歩いていた秀人がふと横を見ると、年が近そうな女の子が、壮年の男性の前で膝をついて泣いている所に遭遇する。
大きな鍛冶店。剣と盾の木製の看板があり、鍛冶屋サンシータと書いてある。秀人は異世界の文字が読める事に驚いたが、それよりも店頭でのやり取りの方が気になった。耳をすましながら会話が聞こえるくらいにまで近づく。
「クソガキが。店先で泣いてんじゃねーよ。この国に幻銀なんて扱える職人がいる訳ないだろ。」
「それでは困るんです。ゲロマムシさん。どうかお願いします。この国の鍛冶屋はもうここが最後で……ぅうっ……私には、どうしても……ミスリルの剣が必要で……」
女の子は絶望した様子で泣きながら、店の主人に必死になって頼み込んでいた。店の主人であるゲロマムシは迷惑そうに少女を足蹴にした。
ここは異世界。だが秀人はその姿を見て、どうしても素通りする事が出来なかった。虐められているような姿が、現実世界の自分とリンクしていた。
そして、秀人にはそれが解決出来る可能性がある。
「すいません。俺がその剣を作りましょうか?」
「あっ!?」
ゲロマムシは、苛立ちながら疑惑の視線を秀人に向ける。
女の子が立ち上がると泣きながら秀人の方に駆け出してきた。
「作れるんですか?」
「たぶんですけどね。良かったら俺がやってみますよ。困ってるんでしょう? すいません。ご主人。ここの作業場を使わせて貰えませんか?」
ゲロマムシは、秀人を睨み声を荒げた。
「なんだごらっ。うちがお前の作る武器の為に店を貸すわけねーだろ。それにやるまでもねえ。お前何歳だ? 無理に決まってんだろうが。」
「十五歳です。ですが出来ます。」
「お前、舐めてんのか?」
ゲロマムシは秀人の胸ぐらを掴むと顔面を殴りつける。秀人はそれが、おかしくてたまらない。
「ふふっ。ふははは。こっちでもやられる事は一緒か。」
だが、現実世界とは少し違う。少女が目に涙を溜めながらゲロマムシの腕を掴んでいるのだ。
「店主。その人を殴らないで下さい。私の唯一の希望なんです。」
「だったら、お前が代わりに殴られるか? この生意気なクソガキは、鍛冶師の俺を侮辱したのと一緒だぞ。」
ゲロマムシは、少女を殴ろうと拳を振り下ろすが、そこには秀人の顔があった。秀人が少女を庇い飛び出してきたのだ。
「ゲロマムシ。やめろっ。そこまでだ。」
となりの小さな店から、一部始終を見ていた店主が顔を出した。
「リンドブルクッ。ふん。やってられるか。」
「でかい店なのに相変わらず狭量な奴だな。」
ゲロマムシが店に戻っていくと、小さな店から出て来た店主が二人に声を掛ける。店の看板には小さく鍛冶屋バロンと書いてある。
「……坊主、本当に出来るってぇならうちでやってみやがれ。」
「ありがとうございます。お嬢さん。」
「はい。これが素材です。よろしくお願いします。」
リンドブルクは、一見して不愛想だが鍛冶屋サンシータのゲロマムシとは違って、秀人の言葉を疑わなかった。無言で作業部屋まで案内する。
秀人は作業部屋でアイテムボックスから生産職用の装備一式を取り出し、それに着替える。アイテムボックス持ちは最低限必要な生産職を持っている必要がある。店主は生唾を飲み込んで真剣な表情になった。
秀人は深呼吸をすると作業台で幻銀を持ちアルティメットハンマーを構える。
まるで熟練の鍛冶師のように、秀人には鍛冶スキルの使い方が手に取るように理解出来る。そして一心不乱にミスリルの剣を打っていた。
――作業終了
「信じられん。幻銀を打った事もそうだが、その過程のスキル回しがまさに神の技巧だった。俺の作業工程にも応用できる。」
「それ程ではありませんよ。」
「何を言うか。素晴らしいにも程があるよ。」
鍛冶師のリンドブルクは興奮している。大満足の店主とは対称的に落ち込んでいる様子の秀人。なぜなら、実際にはミスリルの剣が打てなかったのだ。
「すみません。お嬢さん。出来たのは出来たんですが、実は大事なお話があります。」
店頭に座っていた少女は、秀人に近づき虫眼鏡の様な使い捨てのアイテムで手渡された剣を見つめていた。そして、プルプルと体を震わせている。
秀人は、それを見て頭を抱えていた。とても申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「本当にすみません。」
「……こんな事が現実に起きるなんて。はっ。まさか!!」
秀人は少女に頭を下げる。
「ミスリルの剣が打てると言ったのに、本当にすみません。」
「すみませんだなんて、何を誤っているのですか!
冒険者だった母上から聞いた事があります。超一流の職人が、本気で打った剣の中にはランクが上がりまったく違う剣になる事があるんだとか。私は今回、母上が冤罪で被った極刑を免除してもらう為に、ミスリルの剣を用意するという考えに至りました。
それがこのオリハルコンの剣この『王者の剣』であれば……こんな国宝レベル以上の代物であれば間違いなく母上を許して貰えるはずです。」
「納得して頂けるのですね。それは良かったです。それでは失礼します。」
「ちょっと待ってください。貴方様にはなんてお礼を言ったらいいのか。お代はいくらでしょうか? 万が一の為にSランク品の最低金額を用意して来ましたが、足りない分は後で必ずお支払い致します。」
天性【究極生産】は、全ての生産職のスキルを熟練度Maxで使用する事が出来る。武器防具の作成は常に素材のランクが1つ繰り上がる。最強クラスのチートなので他にも能力や効果はたくさんある。
ただ、秀人はランクが上がる事で鉱石の種類が変わるとは思ってもいなかった。
リンドブルクが前に出て来て、震えながら少女の肩を掴んだ。
「お嬢ちゃん。俺はこの兄ちゃんの中に神を見た。この剣は、武器ランクが上がってオリハルコンになっただけじゃねえぞ。普通のオリハルコンの剣なら攻撃力が100だが、この『王者の剣』は違う。
この『王者の剣』は品質『至高』スロット4。攻撃力が500で推定攻撃力になると600。
推定攻撃力500~750はSSSランクの世界級に該当する。少なくとも10億セガ以上で取引されるんだよ。つまり円卓の騎士が使うような世界の秘宝レベルの品ってわけだ。」
「店主さん。通りがかりにお助けしようと思っただけなので、値段はそんなに気にしなくても。」
「見過ごせねえ。俺には最高の仕事を見せて貰った恩がある。あんたは貴族様だろ? 少なくとも10億セガ。貴族様でも払える額では無いと思うが、一生をかけてでも恩を返すという覚悟がなきゃ絶対に受け取っちゃならねえ。」
秀人は、店主が興奮しているので慌てて抑えようと試みる。
「ご主人。いくらなんでも大袈裟ですよ。それなら、お約束していたミスリルの剣の代金で結構です。」
だが、リンドブルクと少女の議論はここから白熱していく。
「もちろんです。こちらは母上の命を助けて貰ったのと同じです。私の残り少ない人生ですら、この方に捧げても構わない。例えお支払い出来ない金額だとしても一生かけて恩を返します。」
「まあ。その気持ちがあるなら俺からの妥協案だ。素材を自分で用意して製作を友人に依頼したって事なら、ワンランク下の相場で手を打つって事がある。支払いは1億セガで気持ちだけは一生を掛けてでも恩を返せ。ただし、この場合は、まず友人でないと話にならん。友として好かれるように努力をするんだな。」
「はい。ですが10億ですらも交渉スタートの金額です。流石に1億セガでとは言えません。」
「そうだろうな。本当にその気持ちがあるっていうなら、今回は俺が介入しないでも大丈夫そうだな。」
「いやいや。お2人とも、当初はミスリルの剣の予定だったんですから、ミスリル用の金額で構いませんよ。それでも手間賃としては十分なんじゃないですか?」
「駄目だっ!!!」「駄目ですっ!!!」
物凄い熱い視線と二人の怒鳴り声の中、秀人はやり過ぎてしまった事にとても後悔した。二人の剣幕に気圧されて当事者の秀人がお伺いを立てる事になる。
「では、どうすれば納得してくれるんですか?」
「とりあえず、1億セガは一年以内にはお支払します。このご恩と残りの9億セガも一生をかけて支払えるように努力します。これは少ないですが手付金の1000万セガです。すみません。白金貨1枚か大金貨100枚なら持ち運びもしやすいですが、急いで集めた為に金貨と大金貨が混ざっています。お名前と年齢、簡単な自己紹介なんかを教えて頂けますか? お金以外にも何か私に出来る事があれば、何でも仰って下さい。」
「俺は鬼宮秀人。15才。この国には来たばかりであんまり常識を知らないけど、訳あって、戦闘とか共に成長出来る仲間を作りたいと思ってるかな。」
「鬼宮さんが名前ですか? とても変わってますね。オニミヤさんは魔法学園とかって興味がありますか? 今後お金をお支払する事や恩を返すにあたり、私と近い環境にいた方が便利です。学園長に伝手があるので私の通う学園に通ってみませんか? 海外から来たのでしたら、ギルドは登録をお済みですか?」
「名前は秀人の方です。母国は苗字が先なもので、この国では逆なんですね。ギルド登録はしていませんが、学園というのは興味があります。先程も言ったように仲間を作りたいのです。因みに学園に通うのはおいくら位かかりますか?」
「すいません。私、焦っていて自分が名乗るのを忘れていました。ユノ シエスタです。お金は前払いで約200万セガ。寮付きで2年間は通えます。その後は1年毎に100万セガを支払い更新ですね。ですが、それは『王者の剣』の代金で私が全てお支払しますよ。学園に入学する為に一緒にギルドに登録に行きませんか? それと学園の方は1週間は待って頂きたいです。その間に話を通しておきます。」
ユノは、ここで秀人に出会うまで王都にある全ての鍛冶屋、そして、装備を売る販売店、個人で武器を制作している全ての人間の元へ足を運んでいた。泣いていたのはそれが最後の希望だったからだ。断られた時に深い闇の奥底に沈んでいた。
ユノが母を助ける為に、どうしても引き換えにする対価が必要だった。母が死ぬという絶望を秀人が救ってくれた。ユノが秀人に対する胸が締め付けられるような気持ちが何なのか。それをハッキリと理解するまでに時間は掛からない。なぜなら、母の処遇が改善された時、ユノの頭の中は秀人を考える事で埋め尽くされる事になるからだ。
しかし、ユノが秀人を想えば思う程、同時に自分の運命を嘆く事になる。
ユノには親が勝手に決めた許嫁がいる。涙ながらに何度も拒否したが結果は変わらなかった。それにその絶望にも残された時間は無い。秀人を愛する程にユノの悲しみは大きくなる。
店を出る時にリンドブルクが秀人の肩に手を置いて忠告をした。
「俺から一言。最初に幻銀は打てないって言ったけど、幻銀以上の武器を打てるって事は絶対に隠しておいた方が良いぞ。
それは長寿の種族が、長い年月を掛けて最後に至る領域だ。もしくは世界で最高峰の天才とかだな。
このユートピア王国でそんな技術を持っている事を知られれば、良くて国家に軍事利用され、悪くて監禁され一生武器生産をさせらる事になるだろう。この国にいる分にはまだ良いが、そんな力を持つ者が国外に出られたら脅威になる。そして、最悪の場合は、武器の輸出だけで国を運営している機械国家サイバースに命を狙われるかも知れない。」
「ご忠告をありがとうございます。」
秀人は店主にお礼を言うと、ユノと二人でギルドへの冒険者登録に向かった。
一方リンドブルクは、サンシータの店に入った。秀人に自分で注意しておきながら、ゲロマムシの態度が気に入らなかった。
「おい。ゲロマムシ。俺は鍛冶神の御業を目の前で見て、店を閉める事にした。だが、それは希望を見出し修行をする為だ。お前も、すぐに店を閉める事になるぞ。神を粗末に扱った者がどういう末路になるか。それが見れなくて残念だ。」
「はっ? 成功したのか? ……馬鹿野郎が。そんなわけがあるかっ!」
「そう思いたければ思っているが良い。どこまでも愚かな奴だな。」
「そんな事を言って、うちがこの場所に来たから経営が苦しいんだろう。ずいぶんとしぶとかったな。」
「ふっ。金を持っているだけのエセ鍛冶師が脅威になんてなるかよ。じゃあな。」
秀人の言葉を信じた者と信じられずに邪険に扱った者。この後二人の鍛冶師の運命は両極端に進んで行く事になる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  
※ここからは後書きです。興味の無い場合は読み飛ばして下さい。
素材による製作した武器、攻撃力と該当ランク(一部防具適正素材有、未記入の素材多数有)
布3 革4 木5 (最低ランク素材。布革木は複数有)
銅15 
青銅20 鉄25 
鋼30 悪魔の木35 ダマスカス鋼38 
ミスリル50  世界樹50
生命の樹100  オリハルコン100 ヒヒイロカネ110 アダマンタイト120
Eランク 故障品 攻撃力1~10  取引価格 100セガ以上
Dランク 普通攻撃力10~19 取引価格 千セガ以上 銅は鉄よりも柔らかいが高値で売れる 
Cランク 特殊攻撃力20~29 取引価格 一万セガ以上
ここまでが、ユートピア国内で生産できる物。以降2つのランクは、サイバース国のドワーフ製作。
Bランク 希少 攻撃力30~49 取引価格 十万セガ以上
Aランク 貴重攻撃力50~99 取引価格 百万セガ以上 
ここまでが、サイバース国で生産できるもの。以降製作者不明のおそらく伝説的な名工の製作物。
Sランク 唯一級攻撃力100~299 取引価格 一千万セガ以上 
SSランク支配者級攻撃力300~499 取引価格 1億セガ以上 
SSSランク世界級攻撃力500~750 取引価格 十億セガ以上  
Lランク 伝説級攻撃力750~999 取引価格 百億セガ以上  
武器の品質による攻撃力の上昇値
『普通品質』1倍
『上品質』 2倍
『優良品質』3倍
『上級品質』4倍
『至高品質』5倍
ただし、通常は『普通品質』であり、『上品質』すらも出回る事が少ない。あるとしても万に一つくらいの確率。『優良品質』の場合は世界に100本『上級品質』が世界に10本くらいと言われている。
『至高品質』も、歴史上の伝説的な武器と言われているがある所には確実に存在する。
※品質はクラスやジョブに直接影響し、非戦闘職の場合、品質による倍率の上昇無し。
効力(エフェクト)結晶による攻撃力の上昇値
Eランク1~5 Dランク6~10 Cランク11~15 Bランク16~20 Aランク21~25
効力(エフェクト)結晶を装着するスロットの数は最大で4つとされている。
推定攻撃力はスロットの数×25が加算される。(Aランクの最高数値)
秀人は学校に行くことがとても苦痛だった。祖父の部屋でオタクのような趣味を楽しんでいたが、学校に行くといじめっ子達が秀人を馬鹿にしていた。
ある日、秀人は学校で特にひどいいじめを受けた。自分を責め、傷つけられた心を抱えて帰路につくと、道端で泣き崩れてしまった。
通りかかった人たちは秀人を無視し、見て見ぬふりをして過ぎていった。秀人は完全に孤独になったように感じた。
家に帰ると、祖父が秀人の様子を見て心配そうに話しかけてきた。
「学校に行くの。もう嫌だよ。」と秀人は嘆いていた。
祖父は秀人に「人生にはいいこともあるし、悪いこともある。それを受け入れて前に進まないといけない。秀人は誰に何を言われても決して屈しない強さがあるだろ。大丈夫。きっと素晴らしい未来が待っているんだからな。明日からも頑張って学校に行こう。」と言った。
しかし、秀人はその後も学校でのいじめが続き、ますます心を閉ざしていった。家では異世界転生のラノベやアニメの趣味に没頭することができたが、それによってますます孤立していくような気がしていた。
「【ファイアーボルト】……ぐっ。」
学校の帰り道、思わず魔法の呪文を唱えるがそんなものが使えるはずがない。人生が苦しくて、他の人たちが自分を理解してくれないのは当たり前だった。だが、魔法が使えれば何かが変わりそうな気がしたのだ。声に出した後で、虚しくなって道端で俯く。この広い世界を、自分一人で進むしかいないのだと実感した。
「何を落ち込んでいるのよ。あなたらしくないじゃない。」
だがそれは杞憂だった。秀人には、たった一人だけ友達がいたのだ。その存在にどれだけ救われたのか自分でも分からない。
そして、これは秀人にとって、祖父という心強い味方のいる間の幸せな期間だった。
――幼い頃の魔法を使おうとした記憶を思い出した後で、秀人はスキル『究極鑑定』で自分の持つ能力やアイテムを一通り確認した。
「やっぱりここでも魔法は使えないのか。俺の能力は生産職特化って事だよな。」
秀人は宿屋を出て宿屋前の商店街、土色の硬いブロックが敷き詰められた大通りにいた。
「すごい。これが本物の異世界かよ。」
部屋と同じように文化レベルは中世のヨーロッパといった所で、遠くの方には馬車なども見える。秀人は心からその光景に感動していた。はじめて見る異世界の街を堪能しながら、街をぶらついていた。
街を歩いていた秀人がふと横を見ると、年が近そうな女の子が、壮年の男性の前で膝をついて泣いている所に遭遇する。
大きな鍛冶店。剣と盾の木製の看板があり、鍛冶屋サンシータと書いてある。秀人は異世界の文字が読める事に驚いたが、それよりも店頭でのやり取りの方が気になった。耳をすましながら会話が聞こえるくらいにまで近づく。
「クソガキが。店先で泣いてんじゃねーよ。この国に幻銀なんて扱える職人がいる訳ないだろ。」
「それでは困るんです。ゲロマムシさん。どうかお願いします。この国の鍛冶屋はもうここが最後で……ぅうっ……私には、どうしても……ミスリルの剣が必要で……」
女の子は絶望した様子で泣きながら、店の主人に必死になって頼み込んでいた。店の主人であるゲロマムシは迷惑そうに少女を足蹴にした。
ここは異世界。だが秀人はその姿を見て、どうしても素通りする事が出来なかった。虐められているような姿が、現実世界の自分とリンクしていた。
そして、秀人にはそれが解決出来る可能性がある。
「すいません。俺がその剣を作りましょうか?」
「あっ!?」
ゲロマムシは、苛立ちながら疑惑の視線を秀人に向ける。
女の子が立ち上がると泣きながら秀人の方に駆け出してきた。
「作れるんですか?」
「たぶんですけどね。良かったら俺がやってみますよ。困ってるんでしょう? すいません。ご主人。ここの作業場を使わせて貰えませんか?」
ゲロマムシは、秀人を睨み声を荒げた。
「なんだごらっ。うちがお前の作る武器の為に店を貸すわけねーだろ。それにやるまでもねえ。お前何歳だ? 無理に決まってんだろうが。」
「十五歳です。ですが出来ます。」
「お前、舐めてんのか?」
ゲロマムシは秀人の胸ぐらを掴むと顔面を殴りつける。秀人はそれが、おかしくてたまらない。
「ふふっ。ふははは。こっちでもやられる事は一緒か。」
だが、現実世界とは少し違う。少女が目に涙を溜めながらゲロマムシの腕を掴んでいるのだ。
「店主。その人を殴らないで下さい。私の唯一の希望なんです。」
「だったら、お前が代わりに殴られるか? この生意気なクソガキは、鍛冶師の俺を侮辱したのと一緒だぞ。」
ゲロマムシは、少女を殴ろうと拳を振り下ろすが、そこには秀人の顔があった。秀人が少女を庇い飛び出してきたのだ。
「ゲロマムシ。やめろっ。そこまでだ。」
となりの小さな店から、一部始終を見ていた店主が顔を出した。
「リンドブルクッ。ふん。やってられるか。」
「でかい店なのに相変わらず狭量な奴だな。」
ゲロマムシが店に戻っていくと、小さな店から出て来た店主が二人に声を掛ける。店の看板には小さく鍛冶屋バロンと書いてある。
「……坊主、本当に出来るってぇならうちでやってみやがれ。」
「ありがとうございます。お嬢さん。」
「はい。これが素材です。よろしくお願いします。」
リンドブルクは、一見して不愛想だが鍛冶屋サンシータのゲロマムシとは違って、秀人の言葉を疑わなかった。無言で作業部屋まで案内する。
秀人は作業部屋でアイテムボックスから生産職用の装備一式を取り出し、それに着替える。アイテムボックス持ちは最低限必要な生産職を持っている必要がある。店主は生唾を飲み込んで真剣な表情になった。
秀人は深呼吸をすると作業台で幻銀を持ちアルティメットハンマーを構える。
まるで熟練の鍛冶師のように、秀人には鍛冶スキルの使い方が手に取るように理解出来る。そして一心不乱にミスリルの剣を打っていた。
――作業終了
「信じられん。幻銀を打った事もそうだが、その過程のスキル回しがまさに神の技巧だった。俺の作業工程にも応用できる。」
「それ程ではありませんよ。」
「何を言うか。素晴らしいにも程があるよ。」
鍛冶師のリンドブルクは興奮している。大満足の店主とは対称的に落ち込んでいる様子の秀人。なぜなら、実際にはミスリルの剣が打てなかったのだ。
「すみません。お嬢さん。出来たのは出来たんですが、実は大事なお話があります。」
店頭に座っていた少女は、秀人に近づき虫眼鏡の様な使い捨てのアイテムで手渡された剣を見つめていた。そして、プルプルと体を震わせている。
秀人は、それを見て頭を抱えていた。とても申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「本当にすみません。」
「……こんな事が現実に起きるなんて。はっ。まさか!!」
秀人は少女に頭を下げる。
「ミスリルの剣が打てると言ったのに、本当にすみません。」
「すみませんだなんて、何を誤っているのですか!
冒険者だった母上から聞いた事があります。超一流の職人が、本気で打った剣の中にはランクが上がりまったく違う剣になる事があるんだとか。私は今回、母上が冤罪で被った極刑を免除してもらう為に、ミスリルの剣を用意するという考えに至りました。
それがこのオリハルコンの剣この『王者の剣』であれば……こんな国宝レベル以上の代物であれば間違いなく母上を許して貰えるはずです。」
「納得して頂けるのですね。それは良かったです。それでは失礼します。」
「ちょっと待ってください。貴方様にはなんてお礼を言ったらいいのか。お代はいくらでしょうか? 万が一の為にSランク品の最低金額を用意して来ましたが、足りない分は後で必ずお支払い致します。」
天性【究極生産】は、全ての生産職のスキルを熟練度Maxで使用する事が出来る。武器防具の作成は常に素材のランクが1つ繰り上がる。最強クラスのチートなので他にも能力や効果はたくさんある。
ただ、秀人はランクが上がる事で鉱石の種類が変わるとは思ってもいなかった。
リンドブルクが前に出て来て、震えながら少女の肩を掴んだ。
「お嬢ちゃん。俺はこの兄ちゃんの中に神を見た。この剣は、武器ランクが上がってオリハルコンになっただけじゃねえぞ。普通のオリハルコンの剣なら攻撃力が100だが、この『王者の剣』は違う。
この『王者の剣』は品質『至高』スロット4。攻撃力が500で推定攻撃力になると600。
推定攻撃力500~750はSSSランクの世界級に該当する。少なくとも10億セガ以上で取引されるんだよ。つまり円卓の騎士が使うような世界の秘宝レベルの品ってわけだ。」
「店主さん。通りがかりにお助けしようと思っただけなので、値段はそんなに気にしなくても。」
「見過ごせねえ。俺には最高の仕事を見せて貰った恩がある。あんたは貴族様だろ? 少なくとも10億セガ。貴族様でも払える額では無いと思うが、一生をかけてでも恩を返すという覚悟がなきゃ絶対に受け取っちゃならねえ。」
秀人は、店主が興奮しているので慌てて抑えようと試みる。
「ご主人。いくらなんでも大袈裟ですよ。それなら、お約束していたミスリルの剣の代金で結構です。」
だが、リンドブルクと少女の議論はここから白熱していく。
「もちろんです。こちらは母上の命を助けて貰ったのと同じです。私の残り少ない人生ですら、この方に捧げても構わない。例えお支払い出来ない金額だとしても一生かけて恩を返します。」
「まあ。その気持ちがあるなら俺からの妥協案だ。素材を自分で用意して製作を友人に依頼したって事なら、ワンランク下の相場で手を打つって事がある。支払いは1億セガで気持ちだけは一生を掛けてでも恩を返せ。ただし、この場合は、まず友人でないと話にならん。友として好かれるように努力をするんだな。」
「はい。ですが10億ですらも交渉スタートの金額です。流石に1億セガでとは言えません。」
「そうだろうな。本当にその気持ちがあるっていうなら、今回は俺が介入しないでも大丈夫そうだな。」
「いやいや。お2人とも、当初はミスリルの剣の予定だったんですから、ミスリル用の金額で構いませんよ。それでも手間賃としては十分なんじゃないですか?」
「駄目だっ!!!」「駄目ですっ!!!」
物凄い熱い視線と二人の怒鳴り声の中、秀人はやり過ぎてしまった事にとても後悔した。二人の剣幕に気圧されて当事者の秀人がお伺いを立てる事になる。
「では、どうすれば納得してくれるんですか?」
「とりあえず、1億セガは一年以内にはお支払します。このご恩と残りの9億セガも一生をかけて支払えるように努力します。これは少ないですが手付金の1000万セガです。すみません。白金貨1枚か大金貨100枚なら持ち運びもしやすいですが、急いで集めた為に金貨と大金貨が混ざっています。お名前と年齢、簡単な自己紹介なんかを教えて頂けますか? お金以外にも何か私に出来る事があれば、何でも仰って下さい。」
「俺は鬼宮秀人。15才。この国には来たばかりであんまり常識を知らないけど、訳あって、戦闘とか共に成長出来る仲間を作りたいと思ってるかな。」
「鬼宮さんが名前ですか? とても変わってますね。オニミヤさんは魔法学園とかって興味がありますか? 今後お金をお支払する事や恩を返すにあたり、私と近い環境にいた方が便利です。学園長に伝手があるので私の通う学園に通ってみませんか? 海外から来たのでしたら、ギルドは登録をお済みですか?」
「名前は秀人の方です。母国は苗字が先なもので、この国では逆なんですね。ギルド登録はしていませんが、学園というのは興味があります。先程も言ったように仲間を作りたいのです。因みに学園に通うのはおいくら位かかりますか?」
「すいません。私、焦っていて自分が名乗るのを忘れていました。ユノ シエスタです。お金は前払いで約200万セガ。寮付きで2年間は通えます。その後は1年毎に100万セガを支払い更新ですね。ですが、それは『王者の剣』の代金で私が全てお支払しますよ。学園に入学する為に一緒にギルドに登録に行きませんか? それと学園の方は1週間は待って頂きたいです。その間に話を通しておきます。」
ユノは、ここで秀人に出会うまで王都にある全ての鍛冶屋、そして、装備を売る販売店、個人で武器を制作している全ての人間の元へ足を運んでいた。泣いていたのはそれが最後の希望だったからだ。断られた時に深い闇の奥底に沈んでいた。
ユノが母を助ける為に、どうしても引き換えにする対価が必要だった。母が死ぬという絶望を秀人が救ってくれた。ユノが秀人に対する胸が締め付けられるような気持ちが何なのか。それをハッキリと理解するまでに時間は掛からない。なぜなら、母の処遇が改善された時、ユノの頭の中は秀人を考える事で埋め尽くされる事になるからだ。
しかし、ユノが秀人を想えば思う程、同時に自分の運命を嘆く事になる。
ユノには親が勝手に決めた許嫁がいる。涙ながらに何度も拒否したが結果は変わらなかった。それにその絶望にも残された時間は無い。秀人を愛する程にユノの悲しみは大きくなる。
店を出る時にリンドブルクが秀人の肩に手を置いて忠告をした。
「俺から一言。最初に幻銀は打てないって言ったけど、幻銀以上の武器を打てるって事は絶対に隠しておいた方が良いぞ。
それは長寿の種族が、長い年月を掛けて最後に至る領域だ。もしくは世界で最高峰の天才とかだな。
このユートピア王国でそんな技術を持っている事を知られれば、良くて国家に軍事利用され、悪くて監禁され一生武器生産をさせらる事になるだろう。この国にいる分にはまだ良いが、そんな力を持つ者が国外に出られたら脅威になる。そして、最悪の場合は、武器の輸出だけで国を運営している機械国家サイバースに命を狙われるかも知れない。」
「ご忠告をありがとうございます。」
秀人は店主にお礼を言うと、ユノと二人でギルドへの冒険者登録に向かった。
一方リンドブルクは、サンシータの店に入った。秀人に自分で注意しておきながら、ゲロマムシの態度が気に入らなかった。
「おい。ゲロマムシ。俺は鍛冶神の御業を目の前で見て、店を閉める事にした。だが、それは希望を見出し修行をする為だ。お前も、すぐに店を閉める事になるぞ。神を粗末に扱った者がどういう末路になるか。それが見れなくて残念だ。」
「はっ? 成功したのか? ……馬鹿野郎が。そんなわけがあるかっ!」
「そう思いたければ思っているが良い。どこまでも愚かな奴だな。」
「そんな事を言って、うちがこの場所に来たから経営が苦しいんだろう。ずいぶんとしぶとかったな。」
「ふっ。金を持っているだけのエセ鍛冶師が脅威になんてなるかよ。じゃあな。」
秀人の言葉を信じた者と信じられずに邪険に扱った者。この後二人の鍛冶師の運命は両極端に進んで行く事になる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  
※ここからは後書きです。興味の無い場合は読み飛ばして下さい。
素材による製作した武器、攻撃力と該当ランク(一部防具適正素材有、未記入の素材多数有)
布3 革4 木5 (最低ランク素材。布革木は複数有)
銅15 
青銅20 鉄25 
鋼30 悪魔の木35 ダマスカス鋼38 
ミスリル50  世界樹50
生命の樹100  オリハルコン100 ヒヒイロカネ110 アダマンタイト120
Eランク 故障品 攻撃力1~10  取引価格 100セガ以上
Dランク 普通攻撃力10~19 取引価格 千セガ以上 銅は鉄よりも柔らかいが高値で売れる 
Cランク 特殊攻撃力20~29 取引価格 一万セガ以上
ここまでが、ユートピア国内で生産できる物。以降2つのランクは、サイバース国のドワーフ製作。
Bランク 希少 攻撃力30~49 取引価格 十万セガ以上
Aランク 貴重攻撃力50~99 取引価格 百万セガ以上 
ここまでが、サイバース国で生産できるもの。以降製作者不明のおそらく伝説的な名工の製作物。
Sランク 唯一級攻撃力100~299 取引価格 一千万セガ以上 
SSランク支配者級攻撃力300~499 取引価格 1億セガ以上 
SSSランク世界級攻撃力500~750 取引価格 十億セガ以上  
Lランク 伝説級攻撃力750~999 取引価格 百億セガ以上  
武器の品質による攻撃力の上昇値
『普通品質』1倍
『上品質』 2倍
『優良品質』3倍
『上級品質』4倍
『至高品質』5倍
ただし、通常は『普通品質』であり、『上品質』すらも出回る事が少ない。あるとしても万に一つくらいの確率。『優良品質』の場合は世界に100本『上級品質』が世界に10本くらいと言われている。
『至高品質』も、歴史上の伝説的な武器と言われているがある所には確実に存在する。
※品質はクラスやジョブに直接影響し、非戦闘職の場合、品質による倍率の上昇無し。
効力(エフェクト)結晶による攻撃力の上昇値
Eランク1~5 Dランク6~10 Cランク11~15 Bランク16~20 Aランク21~25
効力(エフェクト)結晶を装着するスロットの数は最大で4つとされている。
推定攻撃力はスロットの数×25が加算される。(Aランクの最高数値)
「現実世界で虐められ続けた最弱の俺は、剣と魔法のファンタジー世界でMP0の生産チートで無双する。落ちこぼれ王女と親に生き方を決められた公爵令嬢との人生逆転物語。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
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