ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平

第1話 俺、冒険者になります!

「えっ!? ダンジョン!? おばあちゃんの家にダンジョンが出来たの?」

「そうなの! 朝起きたら庭に大きな穴が空いているのよ。あの穴はダンジョンじゃないかしら?」

 俺は天地駆《あまち かける》、二十六才。
 二年前に会社を辞めてから、実家住まいのニートをしている。

 今日は一月一日。
 母が祖母から電話だというので、電話に出た。
 年始の挨拶だろうと思ったら、『ダンジョンが庭に出来た!』と祖母は言う。

「ばあちゃん! 間違いないの!? 本当にダンジョンなの!?」

「たぶん、ダンジョンだと思うわ。この前、TVで見た穴と似ているのよ!」

 五年前から世界のあちこちにダンジョンが発生した。
 世界中の科学者が研究をしているが、ダンジョンが発生した原因は不明だ。

 ダンジョンの中には魔物と呼ばれるモンスターが現れ、魔物を倒すとドロップアイテムが手に入る。
 このドロップアイテム目当てにダンジョンを探索する『冒険者』も誕生した。
 今やちゃんとした仕事として、世間に認知されている。

 だが、ダンジョンは良いことばかりではない。
 魔物は強力で、冷やかしでダンジョンに入った人が、魔物に殺される事件が何件も発生している。

「ばあちゃん! ダンジョン省に電話した?」

「そういう手続きがわからないの。どうすればよいのか……、困ったわ……」

 ダンジョンは、突然発生する。
 山の中、駅前、個人宅、いつ、どこに発生するかは誰にもわからない。
 ダンジョンが発生したら、すぐに役所に届けてくれと政府が呼びかけている。

 だが、祖母は七十才を超えている。
 そういった手続きが、わからないのも無理はない。

「かけるちゃん! おばあちゃんを助けておくれ!」

「わかった! 今から行くから!」

 俺は電話を切ると急いで身支度を整えて、祖母の家に向かった。


 *


 実家の最寄り駅から電車で十五分、到着した駅から徒歩で十分ほど歩いた東京郊外の住宅地に祖母の家はある。
 祖父は二年前に他界してしまい、今は祖母が一人で住んでいる。

「まあ、まあ、かけるちゃん! よく来たわね! あけましておめでとう!」

「ばあちゃん! あけましておめでとう!」

「これ、お年玉よ!」

「ありがとう!」

 祖母の家に着くと、祖母はお年玉を俺に渡した。
 もう、二十六才でお年玉をもうら年ではないのだけれど、俺は現在無職で収入がない。
 素直に、ありがたく、いただくことにした。

「それで、あれがダンジョンだね?」

「そうなの! 朝、年賀状を取りに出たら、庭に穴が空いていたのよ!」

 庭には大きな穴が空いていた。
 石の階段が穴の中に続いていて、穴の奥はうっすらと光っている。

 ネットの情報通り……この穴は、ダンジョンだ!

「ばあちゃん! この穴は、ダンジョンだよ!」

「ひええ! 恐ろしいね!」

「後は俺がやるから、ばあちゃんは家に入って!」

「わかったわ。じゃあ、お願いね。お昼は、お雑煮だからね」

 俺は物置にしまってあったブルーシートをダンジョンの穴にかけた。
 四方に重しを置いて、とりあえずダンジョンをふさいでおく。

 近所の子供がダンジョンに入りでもしたら大変だからだ

 そして、ネットで調べておいた連絡先に電話を入れる。
 連絡先は、日本政府のダンジョン省が運営している緊急コールセンターだ。

「もしもし、祖母の家にダンジョンが出来たのですが――」


 *


 こたつに入って祖母と雑煮を食べていたらインターフォンが鳴った。

 コールセンターに電話をしてから、二時間しか経っていない。
 早いな!

 お正月にもかかわらず、ビシッとスーツを着た仕事の出来そうな女性が玄関に立っていた。

「ダンジョン省から参りました。片山と申します」

「まあまあ、お正月早々ありがとう! 助かるわ!」

 祖母はホッとして、肩の荷が下りた雰囲気を出している。
 いきなりのことで、本当に困っていたんだろうな。
 来て良かった。

「この子は、孫の駆です。孫に任せているので、後はお願いします」

「承知しました。それでは駆さん。早速ダンジョンを確認させてください」

「わかりました。ダンジョンは庭です」

 俺は片山さんを庭へ案内しつつ、ちょっと後悔していた。

(髪の毛切って、もう少しちゃんとした格好をしてくれば、よかったなあ……)

 もう二か月も美容院へ行っていないので、俺の髪は伸びてボサボサだ。
 着ている服は、お手頃価格のカーゴパンツに、着慣れたヨレヨレの黒いニットだ。
 片山さんみたいな美人が来るなら、サラリーマン時代に来ていたスーツを着てくればよかった。

 片山さんは、ブルーシートを持ち上げて、穴の中をチラリと確認した。

「間違いありません。ダンジョンですね」

「やはりダンジョンですか!」

「今後の手続きなど説明をさせてください」

 片山さんはテキパキと話を進めた。


 *


 ――二時間後。一月一日の午後二時。

 工事業者のトラックが到着して、トラックについたクレーンで鉄板を下ろし始めた。
 あの鉄板でダンジョンの入り口に、仮の蓋をするそうだ。

 俺は食堂のテーブルで片山さんと向かい合いながら打ち合わせているのだが……。
 俺は片山さんの説明を聞いて困っていた。

「五百万円ですか……」

「はい。工事費用で五百万かかります」

 ダンジョンの所有権は、ダンジョンが発生した土地の所有者にある。
 だから、祖母の家に発生したダンジョンの所有者は祖母だ。

 ダンジョンの魔物を倒せば、様々なドロップアイテムが得られ、物によっては高値で取引される。
 その売り上げの二十パーセントが、ダンジョンの所有者に入ってくる。
 つまり、ダンジョンは儲かるのだ。

 片山さん曰く――『油田と一緒ですね』――だそうだ。

 だが、ダンジョンがあるだけでは、お金を生まない。

 油田から石油をくみ上げて、初めてお金になる。
 ダンジョンも同じだ。
 ダンジョンに冒険者が潜って、魔物を倒してドロップアイテムを地上に持ち帰ることでお金になる。

 冒険者がダンジョンに入れるように、入り口に設備を整える必要があるらしい。
 設備設置の工事費用が五百万円なのだ。

「高いですね……」

「これでも国の補助が出ていて、かなり安くなっていますよ」

 片山さんが提示した書類を見る。
 わかりやすく写真入りで、どんな設備が必要か書いてある。

 ・駅の改札にあるようなゲート
 ・非常用の封鎖扉
 ・自宅とダンジョンの入り口を区切るフェンス
 ・道路からダンジョンに入るための通路
 ・照明
 ・標識

 これらダンジョンの入り口に設置する設備は、法律で設置が義務づけられているそうだ。

 祖母は年金暮らしなので、五百万円など到底払えない。
 母に電話して、俺の両親が払えないか聞いてみたが、そんな大金は払えないそうだ。
 もちろん、俺はニートなので、五百万円なんて大金はない。

 俺は片山さんに事情を説明した。

「なるほど……。では、駆さんが冒険者になっては、いかがですか?」

「えっ!? 俺が!? 冒険者!?」

「駆さんが冒険者として活動するなら、『オーナー冒険者向け貸付制度』が利用出来ますよ」

 貸付制度……つまり借金か……。
 俺は迷った。

 国が相手とはいえ、借金を背負うのは気が重い。
 とはいえ、『ダンジョンは儲かる』とネット情報に書いてあった。

 必要な費用は五百万円。
 五百万円は大金だが、ちょっと高級な車なら五百万円くらいだ。
 ローンを組めば、払えない金額ではない。

(五百万円のために、儲かるダンジョンを手放すのもバカバカしいよな)

 俺はチラリと祖母を見た。
 祖母は居間のこたつに入って、みかんを食べながらテレビのお正月特番を見ている。

(ばあちゃんや両親に、ちょっとは孝行したいな……)

 俺は貸付制度を利用する気になってきた。
 片山さんに説明を求めた。

「冒険者でダンジョンのオーナーであれば、ダンジョンに必要な費用を国が貸します。駆さんは、オーナーの代理人ですので、オーナーと同じ扱いが可能です。無利子、無利息で、返済期限は二十年です。繰り上げ返済も可能ですよ」

 貸付制度は、好条件だった。
 五百万を借りるのに問題はなさそうだ。

 後は、俺の覚悟……。
 冒険者は、魔物との戦闘で大怪我をする危険があり、最悪死亡する場合もある。

 自分に出来るだろうか?
 正直、自信はない。

 だが、前の会社を辞めてから二年が経った。
 このままズルズルと惰性でニートを続けているよりは、思い切って冒険者をやってみた方が良いのではないだろうか?

 それに、ダンジョンを探索するなんて、ゲームみたいで面白そうだ!

 俺は決断した。
 ダラダラと実家でニートする暮らしとは、おさらばだ!
 冒険者になって、活躍しよう!

 俺は決意を込めて、宣言した。

「俺、冒険者になります!」

コメント

  • ノベルバユーザー

    意外と設定がしっかりしていて、ダンジョンが急に出来るっていうのも斬新ながら今までに無くて面白い設定です!

    1
コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品