レジスタンス 〜日本興亡史〜

中村幸男

衝撃

 俺達はその後、夏目の乗って来た船、航空機動母艦『神川』に回収された。
 全軍が回収されてわかったが損害は再起不能レベルでは無いようだ。
 それに、格納庫には今回使われなかった少数の89式があった。
 恐らく作戦が失敗する事も想定して戦力を温存していたんだろう。
 そして、格納庫で俺達は夏目と話すことが出来ていた。
 そこで俺達は衝撃の事実を知ることになった。
「そんな……。」
「まじかよ……。」
 夏目と藤原から聞いた話はにわかには信じ難い物だった。
 まず、帝が存命だということ。
 まるで想定していなかったその情報は俺達を困惑させた。
 さらに藍染明が内通しており、今回の作戦は俺達を殲滅するための物だったということだ。
 どうやら北部方面軍が手薄になるという情報も奴からもたらされた物らしく、まんまと嵌められたということだ。
 そして、夏目達を逃がすために斉木大尉が犠牲になった事。
 あの人からは父の話をもっと聞きたいと思っていたし、まだまだ教わる事がたくさんあった。
 さらに、無線を復活させたのは朝倉大尉とのことだったが、戦死したとのことだった。
 恐らく、あの建物の爆発は、そういうことだったのだろう。
 本当に惜しい人達を亡くした。
「……ごめんなさい。私が……。」
「いや、お前は何も悪くない。あの人達は、自分の仕事をしたんだ。お前を守るために命を賭けたんだ。」
 こちらを直視しない夏目の肩に手を置く。
「それよりも、人の死に慣れろ。」
「……え?」
 夏目はそんな事を言われるとは思っていなかったのか、多少困惑しているようだった。
「わ、私は10年前に沢山見てきました!慣れています!」
「……じゃあ、何で泣いてるんだ。」
 夏目の瞳からは涙が溢れてきていた。
 これまで我慢していたのだろうが、限界が来たのだろう。
「良いか。これから先、お前の指揮で俺達旧日本軍は動く事になる。それで生まれた死の責任はお前にのしかかるんだ。一々泣いていられないぞ。」
「おい!三郎!いくらなんでも……。」
 隼人に肩を掴まれるが俺はそれを振り払う。
「俺達は死んでもお前を守る。だが、それで足踏みをしていたら死んでいった者達が浮かばれないぞ。」
 すると、夏目は涙を拭った。
「……そうですね。分かりました。ごめんなさい、取り乱して。」
 これで、夏目も大丈夫だろう。
 今回の出来事で夏目にかなり負担がかかっているだろうと思って今のうちに立て直しておかなければと思ったが、なんとか上手く行ったな。
「で、夏目。あの北米連合は一体どういうことなんだ?」
「それについては私から話させてもらう。」
 夏目の隣に控えていた藤原が前へと出てくる。
 その方面は藤原が担当しているのか。
「実は北米連合とはパワーメイルの情報を引き渡すことを条件に我々と同盟関係を締結する事を約束していたんだ。彼らの支援があれば日本を取り戻せる。向こうからしても友好国を増やしたいだろうしな。全力で支援してくれると言っていた。だが、これまではゲリラ活動しか出来なかったから直接的な支援は出来なかったんだが、今回の蜂起でやっと直接軍を派遣してくれたんだ。」
 成る程。
 つまり中華連合の太平洋進出を防ぎたいから日本に防波堤となって欲しいのか。
 ならば納得だ。
「……彼らは何処に?」
「彼らは潜水艦でここまで来たようでね。既に撤退した。合流地点で正式に顔合わせする予定だ。合流地点まではこの船に戦力を多少は預けてくれるらしい。」
 ということはあのパイロットもいるのだろうか。
 一度、お礼を言いたい。
 ……いや、どんな人なのか話をしてみたい。
 あの一言。
『守れる者も守れんぞ。』
 あの言葉には何かを感じた。
 彼も何かを守れなかった過去があるのだろうか。
「……彼らのいる部屋まで案内しよう。今後、共に作戦行動を取ることになるかもしれんのだ。一度顔を出しておくと良い。」
「分かりました。行こう、隼人。」
「お、おう。」
 すると、夏目はついてこなかった。
 てっきりついてくるものだと思っていたが。
 夏目はそのことに気付いたようだった。
「私は将兵の元へ顔を出してから行きます。先に行っていて下さい。」
 数名の護衛を連れ、夏目は格納庫へと進んでいった。
「……三郎君、隼人。」
 夏目がいなくなったのを確認すると、藤原が口を開いた。
「姫はこちらの状況が確認出来なかった時、かなりお前達二人の事を心配していた。恐らく、お前達二人のどちらかが欠けただけで姫の心は壊れるだろう。斉木大尉や朝倉大尉。それに今回の作戦の死者についてかなり責任を感じている。今後、沢山の死人が出るだろう。そして、いつかは国を背負って生きて行くというプレッシャーに押しつぶされてしまうかもしれない。その時に君達が必要だ。絶対に死ぬんじゃないぞ。」
 恐らく、藤原はそれを伝えたかったのだろう。
「勿論です。死ぬつもりはありません。」
「おうよ!殺されても絶対に死んでやらねぇ!」
 隼人はいまいち何を言っているのか分からないが、その粋だけは伝わった。
 だが、これだけは言っておかなくては。
「でも、俺達はいや、俺はあいつを守る事に命を掛けています。状況によっては……。」
 そこから先は言わなかった。
 言わなくても伝わるだろう。
 そして、帝を守るという使命は近衛家の使命だ。
 そこに隼人を巻き込む訳には行かない。
「……分かった。」
 藤原は静かにそう言うだけであった。

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