レジスタンス 〜日本興亡史〜

中村幸男

脱出戦

「あれ、夏目が乗ってるのか?」
 機体のカメラを上空へ向ける。
 その先にはかなり巨大な船が空中に浮いていた。
 あんな兵器があったことなど耳にしたことが無い。
「まぁ、そうなんだろうな。」
 隼人も流石に驚いているようである。 
 しかし、あんなに巨大ならいい的になるだろう。
 こんな低空だと射撃も届いてしまう。
 一体夏目は何を考えてここまで来たのだろうか。
 正直、助かってはいるが夏目がここまで来ているということは向こうにも襲撃があったということだろう。
 果たして皆無事なのだろうか。

「直接照準射撃、始め!」
 この船には対地攻撃用のミサイルや船体下部には主砲が搭載されている。
 これで陸上の目標も対応可能である。
 というのもCドローンは直接攻撃には全く対応出来ないのだ。
 だから敢えて低空に船を持ってくる事で周囲に潜伏している敵をあぶり出し、攻撃を加える。
 さらに地上の味方に攻撃が集中しないようにという意味もある。
 それに、熱源探知で敵の大体の配置はわかっている。
 全砲門が射撃を開始し周囲に潜伏している敵は無力化されていった。
「広域放送を。」
「はっ。」
 藤原に指示を出す。
 今は無線封鎖されているので直接語りかけるしかできない。
 因みに柏木には両親の側近だったという男から情報を聞き出してもらっている。
「全軍!この船が向かう方向へ撤退を開始してください!道中の敵はこの船で無力化しつつ撤退します!」
 藤原に目配せをする。
「艦首回頭。目標へ向け前進!」
「了解!」
 これで取り敢えずはなんとかなるだろうか。
 でもまだ気は抜けない。
 私をわざと生かして旧日本軍ごと殲滅しようとした藍染明がこんな所で私達を諦めるとは思えない。
 それに、彼には軍事的な才能は無い。
 恐らくバックには有能な将がついているのだろう。
『……め。……姫!聞こえますか!?』
 すると、聞き覚えのある声が突如として艦内に響く。
「その声、朝倉ですか!?」
『はい。敵の無線妨害装置を破壊しました。ついでに敵の司令官も予定通り無力化しました。かなり苦戦しましたがね。』
 正直、朝倉とは話したくは無かった。
 一体どうやって斉木の事を伝えれば良いのか分からないのだ。
 だが、今は変に不安にさせるわけには行かない。
「流石ですね。早くあなた達も離脱してください。」
『……あー、それは出来そうにありません。』
 それは出来ないとは一体どういうことだろうか。
『……現況報告いたします。我が部隊は私と数名の部下を残し、壊滅状態にあります。更に、無傷な者は誰一人居らず部隊長である私もこのままでは出血多量で死ぬでしょう。』
「……え。」
 今、死ぬと言ったのだろうか。
 聞き間違いであって欲しい。
『我々は敵の罠にハマりましたが味方部隊救援の為全力で任務を遂行。まぁ、私は撤退を指示したのですが別行動してた他の奴らも同じく味方のために司令部目指して戦闘を継続しました。そのおかげもあって本来の任務を達成。更に敵の無線妨害装置の破壊にも成功。最後の戦果としては上々でしょう。』
 よく聞くと銃撃の音が無線の先から聞こえてくる。
 まだ戦闘の最中だったのか。
『さ、我々の事は気にせず撤退してください。』
「……でも!あなた達は……。」
 すると、無線の向こうから笑い声が聞こえてくる。
 朝倉のものだけでは無い。
『隊長!予想通り、心配してもらえましたね!』
『よし!俺の勝ちだな!おい、約束通りお前の弾倉1つよこせ!』
 何やら大騒ぎしている。
 私の反応で賭けをしていたのだろうか。
『まぁ、姫。さっきは死ぬとは言いましたがね。死ぬつもりはありません。共に離脱は出来ないでしょうがこっちはこっちでなんとかしますよ。』
「……分かりました。絶対に死なないで。敵にとらわれることになっても、いくら惨めでも生き抜いて下さい。必ず助けます。」
 すると、朝倉は軽く笑った。
『……ま、頑張りますよ。姫、ご武運を。』
 その言葉を最後に無線が切れた。
 朝倉には隠遁生活のときにもよく構ってもらっていた。
 近衛護の側近ということもあり、人一倍責任を感じていたのだろう。
 私は大事な忠臣を二人も失う事になってしまった。
 ……必ず日本を再興して見せる。
 
「さ、これが最後の弾倉ですよ。」
「おう。」
 仲間から弾倉を受け取り弾倉を交換する。
 体は穴だらけで止血処理はしているが血は止まることは無い。
 この司令部からはこの基地の様子がよく見える。
 あの二人が乗っている64式もよく見える。
 歩兵部隊や戦車部隊に射撃が集中しないように上手く立ち回っている。
 俺と斉木も昔はあんな風にパワーメイルを乗り回していた。
 が、それももうできないだろう。
 あいつは無事だろうか。
 状況によっては足止めの為に残って敵と戦っているかもしれないな。
「隊長!こっちは弾が切れました!」
「おう。お前らは休んどけ。」
 この司令部には扉は1つ。
 敵の暗視ゴーグルを使っていた部隊はここを取り返す為に必死に攻撃を続けている。
 ここを取るのにも沢山の仲間が死んだ。
 そう簡単に奪取はさせない。
 体を半分壁で隠しつつ射撃を続ける。
「おい!準備は良いか!?」
「いつでも行けます!」
 残った仲間達はほんの数名。
 全員が重症だ。
 勿論ちゃんと治療すれば死にはしないだろうがこの状況ではもはやそれは無理だろう。
 なので、司令部に持ってきていた爆薬をたんまり仕掛けておいた。
「よし、弾切れだ!やるぞ!」
 俺は扉を閉め、倒れた机の裏に隠れた。
 音から敵はすぐに扉のすぐそばまで来たのがわかる。
 恐らくすぐに突入してくるだろう。
「覚悟は?」
「ばっちりっす!」
 仲間は満面の笑みを浮かべる。
 俺も覚悟は出来ている。
 すると、扉が蹴破られ敵が突入してくる。
 が、俺達の姿が無いので、捜索を始めた。
「よし、点火!」
 俺はスイッチを押した。
 後の事はあの二人に託そう。
 日本を再興してくれよ。

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