レジスタンス 〜日本興亡史〜

中村幸男

裏切り

 数時間前。
「作戦は順調です。」
 私は藤原から作戦の進行状況を聞き、安心する。
「そうですか。」
 この作戦が失敗すれば日本の再興はあり得ない。
 失敗するわけには行かないだけあって司令部の者達もかなり緊張している。
「そう言えば斉木についてですが……。」
 藤原が思い出したかのように口を開く。
 薬物検査で異常が出たとかで今は再検査の最中だ。
「どうだったんですか?」
「再検査も陽性でした。やはり、新日本は部下の者達に判断力を鈍らせる薬物を少量ずつ投与しているのでしょう。」
 ならば、私が日本の再興を掲げた所で新日本の内部からの同調者はあまり期待出来ないかもしれない。
 でも、北海道以外にもレジスタンスとして新日本に抵抗を続ける者たちがいる。
 それに今回の作戦で全戦力を投入している。
 どちらにせよ負けるわけには行かないのだ。
「取り敢えず斉木大尉には休息を与えました。薬物が完全に抜けるまでは任務は与えないつもりです。」
「それで構いません。」
 彼ほどの指揮官が居ないというのは不安だが、仕方が無い。
 すると突然異常を知らせるブザーが鳴り響く。
「何事ですか!?」
「侵入者です!対象は警備に取り押さえられました!」
 ということは1人という事か。
「その者は何を?」
「は。ここに夏目様がいるのだろうと。早く合わせてくれと言っています。」
 ここはクトネのあった倉庫から少し離れた場所の地下にある司令部だ。
 ここの存在はあの二人も知らない。
 というのにその男は何故ここの存在を知っているのだろう。
「身体検査をして盗聴器や発信機が無いかを調べて連れてきてください。人間爆弾の可能性も考慮してしっかりと体内も調べてください。」
「よろしいのですか?」
 藤原はあまり良い顔をしていない。
 怪しすぎるのは確かだが、それよりも確かめたいことがある。
「何故私の事を知っているのか、それを問いたださなければなりません。」
「……承知しました。」

 男は尋問室へと連れて行かれた。
 尋問と言っても何も包み隠さず全て教えてくれたのだが。
 そして、この男はとても重要な情報を持ち込んでくれた。
「お父様とお母様が……?」
「はい。生きておられます。」
 私はにわかには信じがたいその話を聞き、周りから危険だからと止められたが、制止を振り切って直接話を聞きに来ていた。
 もし、帝が生きているというのならば一大事だが、何も証拠は無い。
「私は帝の側近として仕えていました。帝が新日本に捉えられた後も身辺の世話係として働いておりました。そこで、他の者が夏目様の事をお話ししておりましたので……。そうでした!今すぐ作戦を中止してください!」
 男は突如として顔色を変える。
「……何故作戦の事を?それになんで敵の者が私の事を?」
 私の存在については徹底して隠蔽されていた。
 娘がいるという話自体は広まっていたが名前までは知られているはずが無い。
 というか生きていること事態、知られていない筈である。
 それに、この作戦も極秘である。
 ……まさか。
「そちらのお仲間に内通者が居ます!名前は……。」
 名前を聞こうとすると突如として地面が揺れた。
「じ、地震!?」
「いえ、これは砲撃です!」
 つまりは敵襲。
 彼がどうしてここに来れたのかと思ったが、向こうの組織内ではもはや私達の事は筒抜けだったのだろう。
 何処かで私達の基地の事や私達の決起の事も知り、命懸けで私達にその事を伝えに来てくれたのだろう。
 彼からはまだまだ情報を聞き出さなくてはならない。
「藤原!部隊を招集しなさい!斉木にも声をかけて!」
「はっ!姫はいかが致しますか?」
 ここは地下の更に地下にある尋問室。
 砲撃はよほどのことがない限りここまで来ることは無いだろう。
「ここなら安全です。敵の侵攻ルートや規模が分かり次第彼の地へ脱出します。」
「……あれを使うのですね。」
 私は頷き、肯定を示した。
「実地試験はまだですが、理論上は使えるはずです。」
「分かりました。」
 藤原は尋問室を出ようとする。
 が、そこであることに気が付いた。
「……藤原!藍染殿は!?」
「っ!暫く見ておりません……。」
 藤原も掌握していなかった。
 いや、この襲撃のタイミングで居ないということは……。
 男の方を見る。
「内通者の名は藍染明。こちらの陣営の作戦、向こうが知らないことはもう何も無いでしょう。」
 これではここからの脱出すらも厳しいかもしれない。
 死を覚悟しなければならないかもしれない。
 最悪の状況である。

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