レジスタンス 〜日本興亡史〜

中村幸男

束の間の休息 3日目

「帰ったら忙しくなりそうです。」
「え?」
 帰りのバスの中、夏目が話しかけてきた。
 他の人たちは皆、疲れはてたのか眠っている。
「藤原から連絡がありました。戦力が整ったのでいつでも決起が可能とのことです。」
 口調は帝の孫娘バージョンだ。
「別に急いで決起しないでも良いんじゃないか?」
 すると夏目は少しうつむきながら答えた。
「私は家族や友人を殺され、私自身も殺されそうになった、そして私を守ってくれたもの達も皆目の前で死んで行きました。」
 少し泣きそうな顔をしている。
「この10年間私は復習のために生きてきました、準備が整ったのなら、今すぐにでも決起しなくては皆に会わせる顔がありません。」
 夏目は突如としてこちらを向き訴えてくる。
「貴方もそうでしょう!?家族や友人貴方を守ってくれた人たちをあいつらは殺したんです!悔しくはないんですか!?」
 少し情緒が不安定な気がする。
 俺は夏目の肩に手を置き落ち着かせる。
「お前の気持ちも分かる。確かにあいつらは憎い、でも憎いのはクーデターを起こした奴だ。今の一般兵の中には新たに志願したやつや、もともと旧日本のやつもいるだろ?全音が憎いわけじゃない。それに、あのあと俺を匿ってくれた小田家の人たちにも心配をかけたくないからな。」
 小田家は近衛家とは深い繋がりがあり、古くから仲良くしていた家であったが、明治維新の頃に没落した。
 それ以降も近衛家とは親しくしていたので、匿って貰うことが出来たのだ。
「でも!」
「落ち着け、皆が起きちまうぞ。」
 回りを見るとまだ寝ている。
 隼人なんてイビキかいて寝ている。
 柏木先生は寝ているように見えるが、恐らく護衛として起きているだろう。
「うん、分かった。」
 いつもの調子に戻る夏目。
「でも帰ったら決起は起こすからね。」
「あぁ、俺はお前を命を懸けて守るそれだけだ。」
 夏目の顔を見ると少し顔をあからめている。
 が、すぐにいつも通りの笑顔を見せてきた。
「頼りにしてるからね!」  


「やっと計画が進みそうです。」
 藍染明は自室にて電話をしていた。
「はい。少し嫌われてしまっていますが、今のレジスタンスには私は必要な存在ですからね。えぇ、そうですね、そこまで期間は空かないと思われます。まずは札幌辺りの北部方面軍の司令部辺りでしょうね、それも奇襲。」
 藍染明は手に持っていたコーヒーを一気に飲み干した。
「この作戦は成功させて構わないのですよね?はい。わかりました。ではそのようにいたします。では失礼します。」
 電話を終え、夏目が帰ってくる準備を整える。
「メイド!」
 呼ぶと自分専用のメイドが即座に出てきた。
 所々から見える肌にはアザのようなものが見える。
「な、なにようでございましょうか?」
 怯えながら言う。
「もうすぐ姫殿下がお帰りになられる。支度をしておけ。」
「かしこまりました。」
 頭を下げ部屋をあとにしようとしたが藍染明に呼び止められる。
「ちょっと待て。」
 足を止めるメイド。
「今夜も俺の部屋に来い。」
「わ、わかりました。」
 明はメイドのそばへと近寄り肩に手を置く。
「それとこの事を誰かに言えばお前の家族の命は無いからな。」
 そう言うと明は部屋をあとにした。
 部屋に残されたメイドはその場に崩れ落ち静かに涙を流すことしかできなかった。

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