レジスタンス 〜日本興亡史〜

中村幸男

束の間の休息 2日目 ♯2

「え、ベルが来るの!?」
 夏目に事情を話しすべてを理解してもらった。
 しかし夏目が最も気にするところはクトネシリカの開発主任であるベルという人物のようだ。
「は、もう既に現場にて準備中です。」
 斉木が答える。
 斉木と朝倉の二人はそこまで重く怒られなかったようである。
「では、早速試験場へ参りましょう。」
 夏目は立ち上がり、そそくさと出口へと歩いていった。
 俺たちも後をついて行く。


「ベル!久しぶり!」
「おぉ!夏目!元気!?」
 合うなり唐突にはしゃぎだす。
 先程まで怒っていたのが嘘のようだ。
「あれがベルさんか。」
 遠目からでよく見えないが金髪のロングで白衣を着ている外人のようである。
 夏目曰く彼女は10年間の隠遁生活の間の数少ない友人だという。
「どうも、自分は小田三郎、本名を近衛三郎といいます。10年間夏目と仲良くしてくださり、ありがとうございました。」
「あ、俺は山崎隼人、本名は藤原隼人です。取り敢えず連絡先交換しましょう。」
 ケータイを取り出し連絡先を交換しようとする隼人。 
 こいつのこういうところは少し尊敬する。
「あぁ、どうも、私は安達ベル、父親が日本人で母はアメリカ人。いわゆるハーフだ。宜しくね。」
 すると隼人の方に目をやり。
「君が藤原さんの息子さんだね、お父さんには大変お世話になっていてね、君の話もたくさん聞いていたんだ。連絡先、交換しようか。」
 ケータイを取り出し操作する。
「え。」
 隼人のほうはいつも断られるので、逆に困惑している。
「どうしたんだい?交換しないの?」
「し、しますします!」
 連絡先を交換している二人を見ていると案外お似合いなのではと思えてくる。
「で、ベル今回はクトネシリカの試験だって?」
「あぁ、やっと完成したからね、パイロットの二人にデータを取ってほしくてさ。」
「あ、じゃあさ。」
 夏目が手を挙げる。
「私乗ってみたいです!」
 周りの視線が集まる。
 何がじゃあなのかわからない。
「大丈夫かい?試験だから危険も付き添うけど。」
「うん。それに二人じゃないデータも欲しいでしょ?」
 するとベルは閃いたような様子を見せ。
「確かに……それはありだな。うん、頼むよ!」
「やった!」
 ガッツポーズを取る夏目。
 もはやこうなっては誰にも止められない。
 それを知っているから周りのものは見守っているしかなかった。


「本当に大丈夫なのか?」
 機体に乗り込もうとする夏目を見ながら言う。
「大丈夫!一応私も訓練はしてきたから!」
「まぁ、いざとなったら俺がいるから大丈夫だ。」
 夏目が下半身で隼人が上半身の操縦をすることになっている。
 これまでとは違ったデータを取るためとのことだ。
「さぁ、準備が出来たら始めてくれ!」
 ベルが声をかけるとクトネシリカが動き出す。
 2足歩行型になっているようだ。
 しかし人間の脚には似ておらず、膝は猫の脚のように反対側に折れ曲がっている。
「あれで大丈夫なのか?」
「大丈夫!そのための試験だから!よし、歩いてみてくれ!」
 果たしてそれは大丈夫だと言えるのか。
 クトネシリカはゆっくりと数歩歩き出す。
 起伏の激しい地面に対応し、特に問題無く歩けている。
「おーい夏目大丈夫か?」
『だ、大丈夫!』
 大丈夫との声が帰ってくるが、少し不安な感じに聞こえる。
「よし!次は走ってみてくれ!」
 そう言われるとクトネシリカは走り出す。
 が、とても遅い。
 一応歩くよりは早いが、82式や89式に比べるととても遅い。
「うん、やっぱり駄目か。」
「やっぱり?」
 やっぱりということは予測されていた結果ということだ。
「うん、あの脚にすると不可が凄くてね、あまり派手な動きはできないんだ。」
「じゃあなぜあの脚に?」
 そのような点がありながらもあの脚にしたということは何か理由があってのことだろう。
「まぁ、見ててくれ、よし!二人共右側にある赤いレバーを起こしてくれ!」
 そう言われるとクトネシリカは変形し、太ももに当たる部分が膝から下方に滑り落ち、接地面が足と膝の4つになった。
 するとそれぞれの接地面からタイヤが出てきた。
「つまりこの機体の特徴は82、89式のような二足歩行の不整地での行動、64式の装輪走行による市街地等での高機動戦闘の2つの特徴を併せ持つ機体を作ることが今回のコンセプトだ。」
 確かにクトネシリカは二足歩行時よりも早い動きで走っている。
「よし、ではそろそろ本来の二人のデータをとりたいから戻ってきてくれ。」
 しかしクトネシリカは戻ってくる様子はない。
『あのーブレーキが効かないんですけど……。アクセルからも足は離してるよ……。』
『ちなみに変形するレバーも全く効かないZE☆』
 爽やかに言う隼人。
「ベルさん、これは?」
「……うん、マシントラブルだね。」
 目の前のクトネシリカのスピードは緩まることはなく、走り回っている。
『一か八か壁にぶつかって止まれるかやってみる!壁の薄いところなら止まれなくても少しくらいスピードも緩まるだろ!』
「分かった!このポイントは壁が薄い!そこにいってくれ!」
 そう言いながら端末を操作するベル。
 クトネシリカもその地点に向かって進み、壁に突撃する。
 が、止まることはなくそのまま試験場の外まで走っていった。
「あれ、やばくね?」


「どーいうこと?」
 柏木は目の前の光景に混乱していた。
 何故ならクトネシリカが町中を走り回っているからである。
「三郎くん達はいったい何を……。」
 するとそこに斉木と朝倉が乗った車がやって来た。
「柏木!試験でトラブルだ!姫と隼人君が乗った機体が暴走状態にあるらしい!既に近くの警察も動いている!お前はそのまま学生の避難誘導をしろ!」
 そういい残すと即座に走り去っていった。
「柏木先生!」
「三郎くん!」
 そうすると次はベルが運転する車に三郎が搭乗する形で現れた。
「いったいどういうことなの!?」
「詳しくは後で説明します!先生は避難誘導を!」
「う、うん!」
 柏木は方々に散らばっている生徒を避難誘導するため電話を取り出し、何やら話している。
 クトネシリカの速度も少しは押さえられたようだが、まだ走り回っている。
「どうするんですか?」
「あの機体はまだ防水加工していないから水に浸かれば恐らく動かなくなると思うから近くの川まで追ってもらう必要がある。そのためには警察が邪魔だ。」
 先程から既に警察が辺りを囲っており、徐々に行動可能範囲が狭くなっている。
 しかもパワーメイルまで出してきているので夏目達も無事ではすまない可能性もある。
『三郎君!警察はこちらに引き寄せる。残りの警察はそちらでなんとかしてくれ!』
 連絡を取り合いやすいように常に電話を繋いでいる。
「念のため持ってきた非武装の82式がある、あれなら1人乗りだし、撹乱ならなんとかなるんじゃないか?」
「それだ!すぐそこにつれてってください!」
 恐らくもうそれしかないだろう。
 ため息をつきながら82式のもとへと向かう。


「動かし方は分かるかい?」
「はい、大丈夫です。」
 コックピットに乗り込み準備する。
「警察の包囲の後ろで動き回るだけでいい、発砲されても、一応その盾なら防げるはずだからそれを使うといい、では頑張ってくれ。」
 そう言うとコックピットのハッチを閉められた。
「はぁ。」
 さっきからため息しか出ない。
 少しナイーブになりながらも現場へと向かう。

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