レジスタンス 〜日本興亡史〜

中村幸男

平和のために

『敵はそこの突き当りを曲がったところに1機、更にその奥の交差点を左に曲がったところに1機いる。』
 無線から声が聞こえる。
 俺たちは実働部隊である対パワーメイル部隊の隊長に支援についてもらっていた。
「三郎!曲がるぞ!」
「おう!」
 操縦担当の隼人の声で構える。
 敵がすでにこちらに気づいて待ち構えている可能性もあるので身構えながら急カーブで敵の前に飛び出す。
 敵は64式で突然のパワーメイルに驚いているのか対応が遅れていた。
「遅い!」
 クトネが右手に装備していた35ミリ機銃で敵の足を狙う。
 こちらの放った弾丸は見事命中し、相手はバランスを崩した。
「今だ!」
 隼人が相手が怯んでいると見て、すかさず敵の後ろに回った。
「ナイス!」
 すかさず敵の背部にある通信機を直接殴打で破壊し敵を旋回出来なくするために上半身と下半身の接合部分にも攻撃を加えた。
「敵を無力化しました。あとは頼みます。」
『了解した。』
 どこか付近で待機していると思われる歩兵部隊に敵のパイロットは任せておいてこちらは付近にいるもう1機に専念する。
「行くぞ!」
 隼人がそう言うと前進し奥の交差点を曲がる。
 しかしそこには先程の情報にあった筈の敵は居らず、すでに移動しているようだった。
『後ろだ!』
 先程の部隊長の声が聞こえる。
 無線から聞こえた声に反応し、すぐさま後ろに振り返る。
 しかし少し振り向くのが遅く敵の砲撃が左腕部に命中してしまった。
「くっ!」
「まだ動かせるか!?」
 隼人が聞いてくる。
 一応まだ動かせるが前腕部についてはぶら下がっているような状況で全く動かない。
「動きはしないが問題ない!」
 そう言うとともに反撃する。
 コックピットは狙わず脚部と腰部を狙い戦闘を不可能にする。
 隼人も反撃の効果があったことを確認すると即座に移動し背後に回った。
 そして俺は先程と同様に通信機を破壊した。
『大丈夫!?』
 無線から夏目の声が聞こえてくる。
「問題ない。」
「異常なしであります!」
 2人して問題ないことを伝える。
 隼人に関しては少し軍隊風に答えるほどの余裕もあるようだ。
『絶対に無理はしないでね。』
「わかってるって、心配すんな。」
「危なくなったらとっとと逃げるから。」
『うん、頑張って。』
 無線が切れる。
 敵もあと1機、82式ということだが十分やれるだろう。
 そう思いつつ前進を開始する。
『聞こえるか?敵は歩兵部隊を撤退させたようだ。つまり残るは敵のパワーメイル1機のみだ。』
「了解!」
 そう返答するとともに目の前の横道から敵が飛び出してきた。
 敵はこちらを確認すると同時に即座に手に持っていた機銃を発砲、左腕部に命中し衝撃でぶら下がっていた前腕部ごと左腕が吹き飛ばされた。
「くそ!」
 即座に反撃するが、敵はすぐに後退し命中しなかった。
「三郎!82式を相手にしたことは無いぞ!どうする!?」
「取り敢えず今まで通りにやるぞ!」
「わかった!」
 そう言うと隼人は後退を開始。
 しかしそれを見越したかのように今度は後ろの横道から敵が飛び出してきて、こちらの頭部を殴打で攻撃してきた。
「ぐ!」
 衝撃が来る。
 明らかにこれまでの敵とは一味違う。
 あの一瞬で背後に回ることが出来る地理感覚と操縦技術があるということか。
「大丈夫か?」
「あぁ、ちょっとチカチカするくらいだ。」
 即座に振り返るがもうすでに敵はいなかった。
「くそっ!どうする……。」


「隊長!まずいですよ!」
「あぁわかってる!」
 二人を支援していた歩兵部隊はとある場所へ向かっていた。
「整備はどうなっている!?」
「まだ、完璧ではありませんが動かすことは出来ます。ですが損傷箇所の確認や修理もほとんど出来ていないので……。」
 歩兵部隊は先程足場を崩し無力化したパワーメイル89式の元へと向かっていた。
 先程無力化したと同時に整備しておくように命令していた。
「動けばいい。すぐに出るぞ。」
「は、しかし……。」
「二度も言わせるな!出るぞ!」
 そう言うと隊長はパワーメイルのコックピットへと乗り込み起動させる。
「やはり、各部に異常は発生しているようだな。」
 モニターを見ると主に下半身部分に異常を知らせるアラートが表示されていた。
 だが、そのすべてが行動不能を示す赤ではなく、異常を知らせる黄色で表示されていた。
「動くなら、行ける。」
『隊長!お気をつけて。』
「あぁ行ってくる。」
 そう言うと機体は立ち上がり、戦闘音が鳴り響く方へと進んでいった。 


「せめてこいつだけでも……。」
 新日本軍の斉木は焦っていた。
 自分がこの任務を立案し実働部隊のリーダーにも任じられ、この任務を達成すれば昇任が約束されていた。
 しかし現状は敵の歩兵に翻弄され、しかも新型まで出てきて、味方は壊滅状態、運良くこちらの歩兵部隊は損耗が少ないが、このままでは無駄に死なせてしまうだけである。
 そしていま目の前にはこちらの計画を完膚無きまでに壊してきた敵の新型がいる。
「こんなところで終わるわけには!」
 そう言いながら敵のガラ空きの後頭部を直接殴る。
 右手には主武装を持っていたので左手で殴り、即座に離脱する。
 モニターには左腕が黄色の文字で警告が表示されるがそんなことに構っている余裕はない。
 今はなんとしてでも目の前のこいつを倒さねばならない。
「俺の計画を邪魔した罰だ、精々苦しめてから殺してやる。」


「畜生!何にもできねぇ!」
 あれから少し時間がたったが一向に状況は好転していなかった。
 隼人にも焦りが見え始めていた。
「落ち着け!ビルを背後にして敵が来る方向を絞るぞ!」
「わ、分かった!」
 即座に移動しビルに背中を預ける。
 しかし、依然敵がどこから来るかは全く分からずどうしようもなかった。
 モニターにはあちこちでエラーを表示している。
「来たぞ!」
 左の方を見ると敵が腕を振り上げている様子が見えた。
 すかさず反撃しようと右手に持っていた機銃を向けようとするが、敵に叩き落される。
「クソ!」
 隼人が即座に後退しようと動かそうとしたが出来なかった
 背後をビルに任せたせいで即座に後退出来ない。
「調子に乗ってるんじゃねぇ!」
 空になった右手で思い切り頭部を殴る。
 眼の前を見ると敵はふらつきながらもとどめを刺そうとしているのか、右手の機銃はこちらのコックピットに向いていた。
「やられる!」
「くそ!」
 すると突然眼の前の敵がバランスを崩し倒れそうになっていた。
 しかし撃つ寸前だったこともあり敵は発砲、バランスを崩していたこともあり、狙いがズレたのか、こちらの左前脚部に被弾。
 バランスを崩しながらも敵に何が起きたのか確認するとボロボロの89式が敵を組み倒しているのが見えた。
『間に合ったようだな。』
「まさか歩兵部隊の隊長ですか?」
『あぁ、自己紹介が遅れたな俺は対パワーメイル部隊隊長の朝倉信景だ。』


「ありがとうございました。朝倉さん。」
「一か八かの賭けだったが、何とかなってよかったよ。」
 先程の戦闘後、歩兵部隊も合流し敵の機体からパイロットを引きずり出し捕縛し、俺たちも救出された。
 パイロットもあの衝撃で気を失っていたようで、決着がついていた。
「他の敵歩兵部隊もほとんどは投降してきた。この戦いは俺たちの勝利だ。」
「そうですか。何とかなってよかったです。」
「いやー、まじで今日は死ぬかと思ったわー。」
 隣で隼人が笑いながら言う。
「痛っ!!」
 するといきなり隼人が後頭部を殴られた。
 殴られた方を見ると、夏目が涙目でこちらを向いて立っていた。
「何するんだよ!?」
「何するんだよじゃないでしょう!!」
 どうやら夏目はブチギレというやつらしい。
「危なくなったら戻ってこいって言ってたのに、朝倉が来なかったらあなた達二人共死んでいたでしょ!無茶しすぎ!そもそも左腕やられた時点で撤退すべきだったでしょう!」
 隼人と顔を見合わせる。
「すまなかった、順調に敵を倒せたのが嬉しかったのが原因かまだ行けると思ってしまった。本当にすまない。」
「俺も謝るよ、死ぬかと思ったなんて笑いながら言うもんじゃないよな。ごめん。」
 素直に謝ったのが以外だったのか夏目はキョトンとしている。
「ま、まぁわかってくれたんならいいんだけどね。」
「姫。」
 俺らが話していると、隣から朝倉が夏目に話しかけた。
「二人が無力化した82式のパイロットも抵抗せずに投降したとのことです。今回捕縛した敵兵の処遇についてお聞きしても宜しいでしょうか?」
 すると夏目はスイッチを入れたのかというくらい態度を変えて答えた。
「そうですね、基本的には全ての者に対して我々に協力を促す形で説得してみようと思っています。ですが、まずは敵の指揮官を説得します。自分達の隊長がこちらに来たとなれば多くの者がこちらに付くでしょう。あとこちらに付かなかったとしても殺すのは無しです。」
「了解しました。そのように致します。」
 そう言うと朝倉は夏目に敬礼しその場をあとにした。
「そうでした。二人に言いたいことがあったのでした。」
 夏目はこちらを向いて言う。
「ありがとうございます。誰も殺さず、戦闘を終えてくれて。」
 頭を下げる。
「いや、顔を上げてくれ。俺達はこれからもこの戦い方を変える気は無いしな。」
 そう答えると夏目は顔を上げる。
「俺達は新日本とは違う、平和のために戦ってるからな。」
「ありがとう。これからもよろしくね。」
「あぁ!もちろん!」


 この一件から日本はさらなる混乱に進んでいくことになることを今はまだ誰も知らない……。

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