レジスタンス 〜日本興亡史〜

中村幸男

陽はまた昇る

 西暦2064年日本は新型兵器に作業機械として流通していたワークアーマーを軍事に利用するとして発表した。
 名称はパワーメイル、日本語名では汎用人型戦闘機。
 様々な物が提案された中で日本が正式採用したものは元々のワークアーマーを少し改良したもので4つの足の先にタイヤがついており、4本の足を開いたり、閉じたりすることで高さを変えることが出来、戦車の弱点である上部からの攻撃を可能とした。
 それだけではなく、斜面でも4つの足により、安定した姿勢を取ることが可能となっている。
 元々のワークアーマーは上半身には3本の指がついた腕と操縦者が一人乗ることのできるコックピットがあるのみだったが、軍事利用するにあたり、移動しながらの戦闘も考慮して操縦者を移動専門と攻撃専門の2名とした。
 他にも武装を多数装備し、対空装備である12.7ミリ機関銃を背部に2丁、正面には戦車に使用していた古い75ミリ砲塔を真ん中に装備しており、それが標準装備となっているが用途によって装備を変更することが出来るようになっている。
 そしてその左右にパイロットが操縦するコックピットがあり、コックピット部分以外はほぼワークアーマーと同様のものとなっている。
 性能評価試験ではほぼすべての面において戦車を上回っており、各国もこの兵器を売ってくれという話が出ていた。
 しかしこれが原因で日本は困難に陥ることになる。
 同盟を結んでいる北米連合に売ろうとしたところ中華連合に売るべきだという軍部が猛反発した。
 軍部の主張としては、北米連合は日本を侵略し太平洋の制海権を握ろうとしており、北米連合は日本の敵であるとし、中華連合を始めとした、アジア諸国で連携し北米連合を打ち倒そうというのだ。
 軍部は勝手に中華連合にパワーメイルを提供することを約束するなど暴走し始め、それを知った北米連合も激怒した。
 そこから数年かけ軍部の説得を続けていたが次第に日、米、中の関係が悪化し始めたが、外交で解決しようと努力は続けていた。
 しかしついに西暦2082年日本で軍事クーデターが起きた。
 日本が財政難に陥り、国全体が落ち込んでいるこの国難は帝に原因があると言い、軍部が反乱を起こした。
 反乱軍はパワーメイル、64式と当時の新型である82式を奪取し、各地の正規軍を抑え帝の控える御所を電撃的に制圧。
 これにより大半の正規軍は降伏、日本は軍事政権が主権を握る新日本国が誕生した。
 まず新日本国はこれまでの体制を崩すべく帝を処刑した。
 新政府はパワーメイルの情報を中華連合に売り渡し日中関係を回復させた。
 しかし、降伏しなかった正規軍は残党として各地に潜伏、残党軍は北米連合の支援を受けるべくパワーメイルの技術を提供。
 世界情勢が日本を中心に動き出そうとしていた。


     〜北海道神川郡神川町神川高等学校〜


「以上。新型パワーメイルである89式の特集をお届けしました!」
「何が新型だよ……」
 テレビで新日本国で正式採用された89式の特集が放送されていた。
 2092年、現在日本は困難の中にある。
 軍事政権による革命は成功したものの、帝を処刑したことにより、民衆の反発は激しかった。
 反発する民衆はデモやテロ行為等で対抗したが、新政府はそういった者達を全て処刑。
 軍を導入し鎮圧するのを続けている。
 しかしそれでも民衆の反発は絶えなかった。
 そこでクーデターの主導者、大和武は自分は帝の遠戚に当たるものだとし、自らが帝となることで国をまとめようとした。
 しかしこれが裏目に出た。
 落ち着いた者たちも少しはいたが、残党軍がそれを許すはずもなく動きが活発化した。
 もともと新日本がなかなか手を出せずにいた北海道の第7師団を始めとした北部方面軍がレジスタンスとして活動しており、北海道の一部を奪取したとの情報もある。
 陸軍最強と言われる第7師団には新日本もクーデター時に手は出しておらず、ほぼ無傷の状態で残っている。
 本州各地でも残党軍の活発化が確認されている。
「おい!三郎!何を難しい顔してんだよ!そんなんで一時限目の体育大丈夫なのかよ!?」
「痛ッ!」
 急に背中を叩かれた。
 この朝からうるさいやつは山崎隼人。
 一応幼稚園、小中高と一緒の友人である。
 そして俺たちは旧日本の重鎮の息子として仲良くしていた。
 俺は帝の護衛を務める一族である近衛家の、こいつは日本の政治関係の管理を務める藤原家の息子である。
 つまり俺の本名は近衛三郎、こいつは藤原隼人ということである。
「うるせぇなー、朝からあんなニュース見たくねぇよ。」
「ま、そりゃわかる。あの89式ってやつ旧日本が作ってた82式を装甲削って低コスト化しただけだろ。機動力が上がったとか言ってるけど脆くなっただけ。新日本が金がないって言ってるようなもんだろ!」
「そして新しい武器に変えたせいで重量が増したらしいから機動力落ちてるらしいしな。」
「そーなの!?」
 そこまでは知らなかったらしい。
 教室のドアが開き担任の教師が入ってくる。
「じゃ朝のホームルーム始めるぞー、と言いたいところだが、唐突だが転校生を紹介する。入ってくれ。」
 扉が開き女性が入ってくる。
 高身長で長い髪を後ろでまとめている、正直どストライクと言ってもいい容姿をしている。
 しかし服の上からということもあるのか胸は大きくないように見える。
 そしてその姿を見たと同時に10年前の記憶を思い出した。
 山崎と3人で小学校の遊具で遊んだ記憶。
 おぼろげだがはっきりと覚えている。
(まさかな。)
「えー今日からこのクラスに転校してくる藍染夏目だ。」
「よろしくお願いします。」
 クラスの男女共に歓声が上がる。
 このクラスは女子の数が圧倒的に少なく、男子は美人の女子に歓喜し、女子は友人が増えることに喜んだ。
 そして名前を聞き俺たち二人は顔を見合わせていた。
 どうやら向こうも気づいたらしい。
(やっぱりか。)
「そして小田と山崎、お前らに客人だそうだ。職員室まで行って保健の柏木先生の指示に従え。」
 二人で目を合わす。
「俺等なんかやったかな?」
「まぁ行くしかないべ。」
 席を立ち上がり教室を出る。
 その時どこか転校生の藍染夏目が笑っている気がした。


「やぁ、君たちに客人が来ているよ。すでに応接室にてお待ちだ。」
 職員室に行き保健の柏木先生に会いに行く。
 柏木先生はみんなが憧れるような美人で人気がものすごい。
 そして出るとこはでて引っ込むところは引っ込んでいる。
「客人って誰なんですか?」
 山崎が聞く。
 お近づきになりたいという思惑が丸わかりの表情である。
「行けば分かるよ。」
 冷たくあしらわれる山崎。
 悲しい顔をした山崎と招かれるまま応接室へ向かう。


「君たちが小田三郎君と、山崎隼人君だね?」
 学校の応接室に招かれ客人と合う。
 相手はどうやら新日本の幹部職の人間のようだ。
 身なりがしっかりしている。
「私は藍染明。君たちのクラスに転校してきた藍染夏目の父親だ。」
 その名を聞き昔、俺と山崎、そしてあともう一人の3人でよく藍染家の家に遊びに行った記憶が蘇る。
 藍染家は藤原家や近衛家に並ぶ名門で日本の重鎮として知られていた。
 そして10年前のクーデターの時も最後まで帝のそばにいたと聞いている。
 てっきりその時に殺されたものだと思いこんでいた。
 今新日本の幹部としているということは寝返ったということだろうか。
 しかし藍染家は跡継ぎ問題に悩まされていたと聞いたことがある。
 藍染家に俺たちと同い年の娘がいたという記憶はない。
「その父親が俺達に何の用事ですか。」
 向こうとは何度か顔を合わせたことがあるが、向こうがこちらと初対面の振りをしているので合わせる。
「いやね、君たちには娘のことを面倒見てやってほしいんだよ。君たちはあの子と古い友人なのだろう?」
 なるほど、ということはやはりあの転校生は10年前共に過ごしたあいつであるということは間違い無いだろう。
 俺は近衛家という家柄上、子供ながらにして帝の館に頻繁に出入りしていた。
 帝の孫娘と俺は同い年ということもあってしょっちゅう遊んでいた。
 そこに俺の友人でもある藤原も混ざり、3人でよくつるんでいたのである。
 しかし10年前、突如として軍事クーデターが発生、帝の孫娘は徹底して秘匿されていたため、名前も知られていなかったのが幸いし、脱出できたということだろう。
 一般人の間でも帝の孫娘は生き延びており、レジスタンスとして再起を図っているという噂がながれていた。
(やはりあいつか。)
 そう、つまり藍染夏目は当時の帝の孫娘である夏目であるということだ。
「彼女は根っからの箱入り娘でね。中学、高校今まで通っていなかったんだが、ここに君たちがいると知ってから向こうからこの高校に通いたいと言い出してきてね。しっかりと面倒を見てやってほしいんだよ。」
「何故自分達がここにいると?」
「雑誌で見たよ。君達去年のパワーメイルレース大会、優勝したんだろ?」
 新日本は旧日本時代から始めていたがパワーメイルを使える人材を育成するため、中学、高校にて義務教育として組み込んでいる。
 内容は当日に乗るパワーメイルを渡され、それに乗ってわかりやすく言えば障害物競走をするのだ。
 妨害ありの危険なものでもある。
 中学の時の部活で全国大会を優勝したペアが俺たち二人というわけだ。
「分かりました。承りましょう。」
 即答する。
 隣から勘弁してくれよという視線がすごいが、無視する。
「いい返事だ。なにか困ったことがあったらここの倉庫に行きなさい。君たちの助けになるだろう。これはその倉庫の鍵だ。」
 そういわれ地図と鍵を渡される。
 だが、何故か鍵は2つある。
(予備か何かなのか?)
「では、失礼するよ。よろしく頼んだよ。」
 そう言うと藍染明は席を立ち上がり部屋を出ようと歩き始めた。
「はい。分かりました。任せてください。」
「ああ、それと。」
 こちらに振り返り笑顔を向けてくる。
「君たちが元気で本当に良かった。心の底からそう思うよ。」
「こちらも元気そうで何よりです。」
 そう言うと藍染明は部屋を出ていった。
「おい三郎!いいのかよ受けちまって!?」
 部屋を出ていったと同時に立ち上がり声を上げる。
「良いんだよ。多分だけど大体は理解できた。」
「どういうことだ?」
「恐らくだが藍染明は帝の孫娘である夏目を養子として受け入れ、保護している。そして新政府はその行動に疑問を持っており、調査しているのだろう。新政府は死にものぐるいで帝の孫娘を探しているからな。つまり俺達にあいつの護衛を頼みたいってことだろ。あと多分盗聴器かなにかあいつの服にでも仕込まれていたんだと思う。そうでもなければ素性を隠して接する必要もないからな。そしてこれは完全に憶測で確かな証拠はないんだが……。」
 顎に手を当て考える。
「何だよ。」
「多分残党軍と通じてる。」
「何でそう思う。」
 もう少しオーバーなリアクションを想定していたが、意外と冷静だ。
「単純さ。帝の孫娘である夏目を匿うってことは新日本側の人間じゃないってことだ。ということは必然的にな。」
「なるほどな。」
 これはもはや直感に近いが可能性は高いと思っている。
 残党軍がまともに戦えているのは何者かが資金援助かなにかしているということだろう。
 そして藍染家はかなりの財産を持っていると言われている
「ま、何にせよまずはやることがあるな。」
 珍しく隼人から動き出した。
「ああ、そうだな。」
「せっかくの10年ぶりの再会なんだ。楽しくやろうぜ。」
「あぁ、それに俺は近衛家の人間だからな。役目は果たして見せる。」
 ただ、少し気になることがある。
 最後に初対面のフリをしていた俺達に元気で良かったといった。
 まぁ誤魔化せなくもないが、裏がありそうなのでこちらも元気そうで何よりと言っておいた。
 何もないことを祈りながら部屋を後にする。


「ちょっといいか?」
 教室に戻ると早速夏目に声をかける。
 すでにホームルームは終わっており、1時限目の準備の時間になっていた。
「もうすぐ1時限目が始まりますけど?」
 かなり他人行儀に冷たい目で対応される。
 少し心に傷をつけながらもこちらも他人行儀に返す。
「なら、昼に少し話がしたい。」
「まぁ、それなら良いですけど。」
 昼に話をつける許可を取り付けた。
 周りが少々騒がしいが高校生ともなると思春期真っ只中なのでそういう話に繋げたがるのは無理もないだろう。
「おい!もう授業始まるぞ!早く体育館行くぞ!」
 また、後ろから背中を叩かれる。
 結構強めに叩くのが隼人の悪い癖だ。
「だから叩かなくても分かるからいちいち叩くなよ!」
「細かいことは気にすんな!」
「細かく無い!」
 などとじゃれ合いながら教室をあとにする。
「全く……変わらないな。」
 教室の中からなにか聞こえた気がするが隼人に引きずられながら体育館へ向かう。


 昼休みになり、約束通り夏目と話をしようと思っていたが……。
「何故いない……。」
「お前と話すのが嫌なんじゃないか?」
 しかしあいつがあの頃と変わっていないなら約束を破るとは考えにくい。
 いや、あの頃と変わっていないなら……。
「よし、あそこに行こう。」
「いやどこだよ。」
「いいから付いてこい!」
 説明が面倒なので首根っこをつかまえ、無理矢理隼人を引っ張り教室をあとにする。


「なるほど、たしかにここに居そうだな。」
 引っ張られてきた隼人が納得したのはこの学校の屋上に向かっていることが分かってからである。
 それまでは色々文句を言っており、非常にうるさかった。
「あぁ、あの頃と変わってないならな、というかそろそろ自分で歩け。」
 10年前は遊ぶと言ったら学校の屋上に集まっていた。
 屋上は進入禁止の場所であるが、10年前は普通に行けた。
 だが、この高校はそもそも鍵がかかっている。
 屋上の扉の前まで行くと座り込んでいる女子生徒がいた。
「何してんだよ……。」
「だって開いてると思ったんだもん……。」
 扉の前で夏目は半泣き状態だった。
 この様子だと夏目は屋上に来るのをかなり楽しみにしていたようだ。
「相変わらずツメが甘いねー。」
 隼人が笑いながら茶化す。
 そして夏目に睨まれる隼人。
 これはお前が悪い。
「ま、実はこっちは鍵かかってないんだけどな。」
 そう言い、横にあった少し大きめの窓を開ける。
 十分人が通れる大きさだ。
 夏目の方を見ると急に顔が明るくなっていた。
 それを後に窓から屋上へ行く。
「ほら、行こーぜ。」
 手を差し伸べる。
「うん。でも大丈夫、一人で行けるから。」
 隼人が夏目に先行し屋上へ行く。
 後ろを見ると夏目もしっかりとついてきている。
「それで、何でここに来たんだよ?」
「二人なら私がここにいるってわかってくれるって思ったから。」
 無垢な笑顔で答える。
 正直まぶしすぎるくらいの笑顔だ。
「で、この学校に来た理由は?」
 夏目が落ち着いたところで質問する。
「行方が分からなかった幼馴染み達が生きていて近くの学校に通っているってわかったら普通会いたくなるでしょ?」
「あぁ、でもさ……。」
 隼人が口を開く。
「この10年一体何をしてたんだよ?」
「なんにも、新日本の追手から隠れながら密かに生きてきただけ、そのせいで学校にも行けなかったからね。」
 夏目が言うには10年前のクーデターの際、かろうじて生き延び、旧日本軍に匿われて北海道まで逃げてきたらしい。
 身分が身分なだけあり、世にも出れず旧日本軍の潜伏地点で暮らしていたとのことで、最低限の知識は旧日本軍所属の教育免許を持っている者に敎育を受けていたとのことだ。
「まぁ色々隠蔽工作してたけど急に世に出てきたから連中の捜査網にも引っ掛かったみたいだけどね。」
 何か最後重要なことが聞こえた気がする。
「捜査網に引っかかった?」
 このタイミングで呼び出しの放送がなる。
『1年F組藍染夏目さん、至急職員室までお客様がお待ちです。』
 しかし夏目は動かない。
「行かないのか?」
「多分行ったら死ぬからね。」
 笑顔で言う。
「諜報局の人間がすぐさま接触を図るだろうから数日は何もするなと言われているの。」
「いや、でも転校初日だし本当に学校の何かかもしれないぞ?」
 隼人が珍しくもっともらしいことを言う。
「まぁ、確かにそうかもしれないけど絶対に動くなって、命に関わることだからやりすぎなくらい慎重になれって義父上が。」
 義父上とは藍染明のことだろう。
「それにほら。」
 夏目が指をさした方を見ると黒服の男達が校門から入ってくるのが見えた。
 数はざっとみて25人以上はいそうだ。
 校門には3台のトラックが停まっているのが見える。
 荷台にはシートがかけられているが、かなり大きなものが乗っていることがわかる。
 するとここでまた、放送がかかる。
『全校生徒の皆さん、私は新日本国北部方面軍諜報局所属、斉木少尉である。現在この学校に不穏な反乱分子が潜んでいるとの情報が入った。学生、教員の方々は決してその場を動かず、我々の指示に従ってください。従わない場合、逃げようとした場合や騒ぎを起こそうとした場合は命の保証はしない。しばらくその場で待機するように!』
「よし、逃げよう。」
 即断する。
「まぁ、そうだよな。幸いここの敷地は塀で囲まれてないからな。外周囲ってる林の中からこっそり逃げられるだろう。」
 隼人の言うとおり、この学校には塀というものがなく出ようと思えばいつでも出れる学校だ。
「とはいえ相手もノーマークだとは思えないし用心していこう。」
「まぁ、まずは屋上からどうやって玄関まで行くかだね。」
 などと話していると突如として銃声が鳴り響いた。
 悲鳴もあちこちで聞こえてくる。
「まさか!」
 ここでまた、放送が流れる。
『全校生徒に告げる一部の学生と教員が我々に対し反抗的な態度を示した。これによりこちらのものが負傷する事案が発生した。なのでこれより少しでも反抗的な行動を起こしたものに対しては即座に発砲する。全員調査が終わるまでその場で大人しくしていてもらおう。』


 西暦2092年新政府が統治する日本に新たな動きが起こり始めた。

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