レジスタンス 〜日本興亡史〜

中村幸男

初陣

「敵機目標地点まで誘導完了しました。」
「よし!爆破!」
 大きな爆発音が鳴り目の前を前進していたパワーメイルの足元が突如として崩れ落ちていく。
「第3小隊前へ!パイロットを捕らえろ!」
『了解!』
 指示とともに歩兵部隊が落ちていったパワーメイルのもとへ駆け寄っていく。
 下半身が埋まり身動きが取れなくなっているパワーメイルのパイロットはハッチを開け脱出しようとしていたが付近に展開した歩兵部隊に取り押さえられていた。
 82式と89式は2足歩行がゆえに関節部に負荷がかかるので異常が発生するとすぐに動けなくなる。
 それを狙った足場の崩壊であった。
「やれますね。」
「あぁ、だがこのまま全てうまくいくとは限らんしな、用心しておけ。それに敵も他の策を使ってくるはずだ、俺達はアレが到着するまでの時間稼ぎに移行する。」
「はい!」


「劣勢か……。」
 残るは指揮官機のみとなり、敵は何処にいるかももはやわからない。
「全軍に通達。予備機も出し敵を殲滅する。歩兵部隊も全てだせ!」
『了解。』
 こうなったらこちらの被害は気にせず殲滅することを優先する。
 予備機は64式だが無いよりはマシであるし、市街地戦闘ならばこちらのほうが対人装備は無いが有利ではある。
『発進準備整いました。』
「よし!4番機、5番機、敵は歩兵がメインだ。街に被害が出ても構わん、徹底的にやれ!」
『了解!』
 
「つまり俺達に人殺しに加担しろと?」
「……そうなるな。」
 この戦闘に参加し新日本軍と戦うということは戦争に参加しろということだ。
「ふざけるな!生きてたと思ったら今度は人殺しに加担しろだって?いい加減にしろ!」
 隼人がついにキレる。
 まぁ、気持ちは分かる。
 すでに死んだと思っていた父親が生きていて、旧日本軍で戦っていて、そしてそれに参加しろという。
「まぁ、落ち着け。」
 隼人の肩をポンと叩き制止する。
「いくつか聞きたいことがあります。」
「何かな?」
「あなたが生きているということは自分の父も生きているのですか?それと何故あなたは生きていたのに隼人に連絡をしなかったのか、教えていただきたい。」
 そう言うと少し間をおいて答える。
「1つ目の質問に対してははっきりとしたことは言えないが生きている可能性は大いにある。公式では処刑したと言われるがうちの諜報部隊が調べると遺体を処理したという記録がどこにもなく、他にも怪しい点が多いのでな。そして2つ目については……。」
 隼人の方に目をやり答える。
「言い訳に聞こえるかもしれないが、こちらも生きていると知られれば無事ではいられない身分だ。大々的には動けなかった。だから気付いていなかったと思うが少しでも君たちのためにと思って一般市民に紛れた護衛を派遣していた。これまで君達に接触できずに本当に申し訳ない。」
 深々と頭を下げる。
 周りの者達は少し驚いた様子で見ていた。
 それもそうだ、ここでの実質的なリーダーが頭を下げているのだ、驚くのも無理はないだろう。
 だが、自分の非を認め、謝罪できる指揮官というのはなかなかいない。
「分かりました。自分は貴方達に協力します。元々自分は近衛家の人間です。帝をお守りするのが使命なので元より断るつもりもありませんでしたが。」
 隣の隼人の方に目をやるともどうやら落ち着いたようで、深呼吸したあとに答える。
「こいつが行くなら俺もついていく。俺の大事な相棒だからな。」
 俺に任せろとでも言いたげに胸をどんと叩き自信満々にこちらを見てくる。
「俺がお前を守ったことのほうが多い気もするんだが?」
「うるせーよ。」
「ありがとう。本当に感謝する。」
 そう言うと頭を上げる。
「藍染明殿から頂いた鍵を持っているな?それはクトネの鍵だ。どちらも同じものだからどっちでも構わないよ。」
「それと君達に伝言だよ。」
 後ろから声をかけられ振り返ると柏木先生がそこにいた。
「伝言?」
「そう。その機体の開発者から、その機体のAIには君達の競技用パワーメイルの稼働データが組み込んである、君達が操縦しやすいようになってるよ。あと申し訳無いけど機体の開発でいっぱいいっぱいで武装の開発はできていないから汎用型の物を装備してもらう。それとマニピュレータや各関節部が強化されてるからこれまで難しいとされていた格闘戦も少しなら出来るようになってるってさ。」
 メモを読みながら言う。
 たしかにこれまでの機体は関節が弱く格闘戦をしようものなら、こちらの機体が保たないので格闘戦は不可能だと言われていた。
 しかし格闘戦ができるということは敵の意表を突く行動ができるということだ。
「本当ならちゃんとした近接戦闘武器を用意したかったんだけど用意できなかったからこれまで通りに頑張ってねだって。」
「まぁ、無いなら無いでこれまで通りにやればいいだけだろ?」
「まぁな。」
 整備員の案内に従いクトネへと乗り込む。
 64式は真ん中の主砲を挟んでパイロットが二人乗るものだったが、この機体は主砲が無い分前後に乗れるようになっているので、横幅が少しコンパクトになっている。
 64式は戦車としての意味合いが強かったが、これは機動兵器としての意味合いが強いようだ。
 これで上半身だけなのだから下半身がついた完成形のクトネシリカが楽しみだ。
『いいか?現在市街地で戦闘中の対パワーメイル専門部隊は撤収を開始している、敵が本格的に戦力を投入し始めたからな。君達が前線に到達したら再度出撃し支援についてもらう予定だ、その際には通常の歩兵部隊に支援させる。君達はパワーメイルに専念してくれ。』
 無線が入り藤原修の声が聞こえてくる。
「了解しました。」
「任せとけ!」
 返事をすると向こうから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。。
『あ、聞こえますか?私です夏目です。すみません唐突にこんなことに巻き込んでしまって。』
「大丈夫だ。別に気にしてない。」
「まぁこいつはお前のためなら喜んで何でもするだろうからな。」
 隼人が笑いながら言う。
 よし、後でしばこう。
「ところでいつまでそんな畏まった喋り方なんだ?」
 すると向こうから笑い声のあとから返事が帰ってくる。
『だって立場上こんな砕けた喋り方できないじゃない?結構大変だったんだけど。この喋り方。』
 いつもの調子に戻り始めた。
「まぁ、俺たちの前ではいつも通りでいろ。その方が気が楽だろ?」
『ありがとう。じゃあこれからはそうするね。』
 そう言うと少し深刻な声音で帰ってくる。
『だから、少しでも危ないと感じたら絶対に無理しないで帰ってきて。せっかく10年ぶりに再会できたのに、また別れるのなんて絶対に嫌だからね。』
 少し泣きそうな声で言ってくる。
「任せとけってこっちも死ぬつもりなんか微塵も無いって!なぁ、三郎!」
「あぁ!勿論だ。」
『うん。頑張ってね。』
 そう言うと無線が切れる。
「さてと、やりますか。」
 隼人が肩を回し準備運動のようなことをしながら言う。
「行くぞ。」
「あぁ!」


「くそ!どこに行った!?」
 あれからかなりの時間が経ったが旧日本軍を見つけられずにいた。
『こちら第5班!目標地点に到達、敵は居ません!』
『こちら第7班!同じく!』
 先程から無線から聞こえるのは歩兵部隊の発見出来ずの報告のみ。
 このままでは甚大な被害を出して敗北したとしてこの地位も失ってしまうだろう。
『こちら4番機!所属不明機を確認!対応を……。』
 そう言うと無線が切れてしまった。
「おい!4番機!応答しろ!」
 所属不明機?まさか敵がパワーメイルを出してきたというのか?
『こちら5番機!所属不明機確認!敵は64式?いや、少し違う……か?』
「5番機!映像を取れるか!?」
『りょ、了解!』
 映像が送られて来たので確認すると、鮮明ではないのでしっかりとはわからないが下半身は確かに64式だが上半身は圧倒的に違う。
 そうしていると5番機の信号が途絶し、やられたことがわかる。
「歩兵部隊は捜索を続行しろ!所属不明機には私が当たる!」
 こんなところで終わるわけには行かない。
 そう思い、僚機の反応が途絶した地点へと向かう。

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