レジスタンス 〜日本興亡史〜

中村幸男

すべての始まり

「これは一体何処に向かってるんですか?」
 先程のヘリに回収され、目的地も言われず空の旅をしている。
 もう1機のヘリはどうやら護衛用の戦闘ヘリのようだ。
「まぁ、それはついてからのお楽しみだね」
 いい笑顔で柏木先生が言う。
 ちなみに隼人は高所恐怖症らしく縮こまっている。
「隼人ビビりすぎー笑」
「う、うるせー!」
 夏目が茶化す。
 隼人はヘリという狭い空間でお目当ての柏木先生が近くにいるというのに本気でビビっている。
 これは確かに茶化したくなる。
「間もなく到着します。」
 ヘリのパイロットが教える。
 外の景色を見るとその建物はどこかで見たことあるものだった。
「そうか、あそこか。」
「分かったみたいだね。」
 あのとき藍染明から貰った地図の場所と一致する。
「あそこは旧日本軍の拠点になってるんだ。」
「と、言うことは困ったらここにいけって言っててそこが旧日本軍の拠点だということは……。」
 一人で思考を巡らす。
 ということはこの旧日本軍の倉庫には……。


「各機準備状況送れ。」
『2番機いつでも行けます。』
『3番機同じく。』
 状況は全て後手に回っている。
 誘い出したつもりが誘い出されたのはこちららしい。
「いいか!敵は我々がパワーメイルを出してくることも予測しているはずだ!敵がこのような局地戦で虎の子の戦車を出してくるとは思えん!偵察部隊の情報では敵は歩兵のみだということだが、これは敵は奇襲作戦によりパワーメイルを撃破するつもりだということが分かる!敵のあからさまな誘いや挑発には気をつけろ!」
『『了解!』』
 2番機、3番機から返事が帰ってくる。
「パワーメイル隊出撃!散開し、敵を撃破しろ!」
 号令とともにパワーメイル輸送用トラックの荷台から89式2機と自分の乗る82式が出撃する。
 人類初の2足歩行型兵器で第1世代パワーメイルの64式とは構造が大きく違う。
 4脚で各脚部にタイヤがついていた64式では起伏の激しい土地の多い日本ではスペースを取りすぎて、森林地帯や山岳地帯では適正が低く、まともに戦闘は出来ずにいた。
 それの解決案として2足歩行にすることにより複雑な地形にも対応可能としている。
『こちら2番機!敵は装甲車を保有している模様!土塁を用い防衛戦を構築している模様!撃破します!』
 市街地内で土塁でパワーメイル相手に防衛戦というのは明らかにおかしい。
「待て!それは罠だ!後方を警戒しろ!」
 そう言うとともに爆発音が鳴り響いた。
「2番機!損害報告!」
『異常なし!外部装甲が傷ついただけです!後方に無反動砲を搭載した小型車両確認!追撃します!』
 装甲を削った89式でも大したダメージは入らないということが分かった。
 敵も見立てが甘かったということか、この戦い勝てるな。
『隊長!敵を見失いました!捜索に入ります!』
「了解。油断するなよ。」
 そう返信すると同時にかなり大きな爆発音とともに2番機の反応がロストした。
「2番機!応答しろ!」
 ダメ元で呼びかける。
 もちろん応答はない。
「くそ!一体何があったと言うんだ!」


「よし!成功だ!」
 旧日本軍の拠点となっている倉庫内では歓喜の声が鳴り響いていた。
「やはり戦車がなくてもやれますね。」
「あぁ、しかし一々ガソリンスタンド爆破していられないし、敵も気づくだろうから同じ手は何度も使えないぞ。」
 旧日本軍はガソリンスタンドを爆破しパワーメイルを撃破した。
 ガソリンスタンド側にはすでに許可を取ってあり、爆発も最小限で済むように不要な分は抜いてある。
 勿論付近の住民はすでに避難しており、自治体にも許可を取っている。
「お、来たようですよ。」
 副官と思しき男が振り返り言う。
 ヘリの音とともに2機のヘリが外に降りてきていた。
「総員気をつけぃ!!」
 リーダーと思われる男が号令をかけると付近にいた整備員や作業中だった者たちもヘリの方に注目していた。


「なんだこれ。」
「わからん……。」
 俺と隼人は豪勢な出迎えに萎縮していた。
 それに身近な所にこんなところがあったことも初めて知った。
 夏目と柏木先生は平然とヘリを降りていく。
 柏木先生がこちらを見てついてくるように催促する。
 俺達も恐れ多い感じを出しつつ付いていく。
「捧げぇー!銃!」
 リーダーと思われる男が号令をかけると銃を持っている者は全員捧げ銃をしている。
 銃を持っていない人は挙手の敬礼をして出迎えていた。
「ご苦労。楽にして。」
 夏目が答える。
「立ーてぇ!銃!」
 再度号令をかけると全員銃をおろし夏目に注目している。
「お疲れさまです。姫様。」
 リーダーと思われる男が近づいて来て、夏目に挨拶する。
 そしてそのリーダーと思しき男は見覚えのある顔だった。
「ご苦労。戦況はどうなっていますか。」
 平然と冷静に戦況を聞く夏目。
 先程まで柏木先生に抱きついていたとは思えない振る舞いだった。
「はい。現在敵のパワーメイルを1機撃破。現在も戦闘を継続中です。」
「分かりました。被害が大きくなりそうだったらすぐに撤退しなさい。」
「了解です!」
 すると夏目は柏木先生と共に奥の方へ進んでいった。
「久しぶりだな。二人共。」
 そう言われて振り返るとそこには先程のリーダーと思われる男が立っていた。
「親父……。」
 そこに立っていたのは隼人の父親で藤原家の当主だった藤原修ふじわらおさむがいた。
 しかし彼は自分の父とともに10年前の混乱の中、新日本に処刑されたと聞いたし、公式で発表もされていた。
「そうだよな、何で生きているのか気になっているって感じだよな。」
「そうだよ!なんで生きてるんなら連絡くれなかったんだよ!」
 珍しくいつもは冷静な隼人が取り乱している。
 しかし彼が生きているということは自分の父も……。
「すまない。だが今は詳しく説明してる暇は無いんだ、こっちへ来てくれ、君達の機体がある。」
「機体?」
「あぁこっちだ。」
 そそくさと連れて行かれる。
 奥の方へ連れて行かれるとそこには布をかけられたなにかを横に夏目と柏木先生が整備員と思われる人と話していた。
「では、もう出られるということですね?」
「はい!いつでも大丈夫です!」
 整備員は気をつけの姿勢で夏目と話している。
「では君たちにはこの機体に乗ってもらいたい。」
 布が剥がされ中に隠れていたものがあらわになる。
「これは……。」
 下半身部分は64式と同じだが、上半身部分が大きく違っており、64式に見られた主砲が無かった。
 しかも両方の腕部については64式は3本の指がついたアームだったのに対し、五本指のマニピュレータがしっかりとついていた。
「これは我々旧日本軍が開発した実験型パワーメイル、名前はクトネだ。」
「クトネ?」
 聞いたことのない言葉だ。
「あぁアイヌの叙事詩にクトネシリカという宝刀の話があるんだが、この機体は様々な技術の実験機ということで兄弟機に当たるものが開発中でな、そっちはシリカだ。」
 なるほど、北海道ならではの名前ということか。
 しかし……。
「俺達の機体で乗って欲しいってことは……。」
「あぁ、君たちにこの機体で戦闘に参加してほしい。」

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品