出張!異世界研究所!〜異世界犯罪解決します〜

中村幸男

違和感の正体 2

 その日は何事もなく夜を明かすことが出来た。
 翌日、朝食の時にシャルの目に隈があったが、寝られなかったのだろうか。
 取り敢えず指定された時間までかなりあるのでこの辺りの調査をしておこうという話になった。
 有事の際にこの辺りの地理について詳しく無ければ対応が出来ないかもしれない。
 それに、この辺りの歴史についても知っておくべきだ。
 何かあった場合、それらを知っておくことで対応が可能になる可能性がある。
 と、言うことで。
 時間までシャルと町を見て回ることになった。
 シャルは何やら1人でぶつぶつと言っている。
「なんでこんなデートみたいな事になってんの……。ていうかなんでこんなに緊張してんの私……。こんなんじゃまるでこいつの事が……。いや、あり得ないから!」
「大丈夫か?シャル?」
 先程からずっと独り言を呟いている。
 所々聞こえなかったがやはり年頃の娘とこういうことするのは軽率だったか。
「あー、やっぱ別行動に……。」
「しなくて大丈夫だから!」
「あっはい。」
 なにやら余計な気遣いだったようだ。
「じゃあこの町の町長に話を聞いてみよう。そのほうが手っ取り早いからな。」
「わかったわ。」


 町長の家を訪ねると快く通してくれた。
 自分達の素性を明かすと、なんの躊躇いもなく対応してくれたのだ。
 かなり広い家の居間に通され、お茶を出された。
「で、なにを知りたいのですかな?」
「そうですね、この町の成り立ちを軽く知っておきたいです。」
 町長の話によると、昔あった内乱で人口が減ったこの地域に、内乱を鎮めた初代国王が行った屯田兵政策によって見事に復興を果たしたそうだ。
 それまでは小さな村だったらしい。
 しかし、屯田兵政策は新国王に反発的な者が僻地に追いやられたという背景もあり、治安はそこまで良くは無かったらしい。
 屯田兵政策の名残りがあの駐屯地であり、あそこに所属する者はその子孫が大半とのことだ。
 つまり、現政権に対しても不満を持っているということになる。
 この町の治安自体はかなり昔に来た異世界研究所の人達が警察と協力して対処してくれたので、解決したらしい。
 先程の良い対応はそれが原因だったのか。
 だが、治安の悪化は軍が大きく影響しているだろうから軍の連中にはよく思われていないだろう。
 今日のこの後の予定も気を付けなければならないな。
「にしても現在の研究所があなた方のような兄妹によって運営されていたんですね。」
「兄妹?」
 なるほど。
 自分とシャルが兄妹に見えたのだろう。
「あ、自分達は兄妹じゃ……。」
「兄妹じゃないです!」
 シャルがテーブルに手をついて前のめりで全力否定する。
 そこまで否定されると少し傷つくのだが。
「……あーなるほど、そういうことですか。まぁ、頑張って下さい。応援しますよ。」
 町長はシャルの真っ直ぐな眼差しを見て何かを察したようだ。
「……ありがとうございます。」
 シャルは取り敢えず落ち着き、座った。
「取り敢えず、情報感謝します。何かお困りのことが御座いましたら協力可能な範囲でお手伝いするのでいつでもご連絡下さい。」
「ありがとうございます。今後の調査も頑張って下さい。何かあればいつでも頼ってください。」
 握手を交わした後。町長の家を出る。
 まだ、時間はある。
 少し早いが昼にしようか。
 シャルも少し疲れた様子だ。
「昼飯休憩にするか。」
「そうね。少し早いけどお昼にしましょう。」
 シャルの同意を得られた事だし、どこか食堂を探そう。
 さて、次は何を調べようか。

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