出張!異世界研究所!〜異世界犯罪解決します〜

中村幸男

助手見習い 3

「変わったこと?」
「はい。ほんの少しでも気になったことはありますか?」
 今は村で一番の物知りのおばさんのところへ顔を出している所だ。
 かなりの噂好きで有名なので情報を持っているだろうと予測したのだ。
「あぁ、そういえばあんたらが、連れ回してた男達ね、あんたの両親が旅行に行くちょっと前に見たんだよ。良い筋肉してたからよく覚えてるよ!」
 確かにあの男達は実働部隊だからか、やたらたごつかった記憶がある。
 だが、それ以上に気になることを言った。
「……え?待ってください、自分の両親がどうしたって言いました?」
 すると、おばさんは不思議そうな顔をする。
 クレアさんの様子はいつも通りだ。
 クレアさんにとっては予想の範囲内なのだろうか。
「え?旅行に行ったって聞いてたけど違うのかい?」
「それ、誰から聞いたんですか?」
 すると、おばさんは異世界人達が拠点にしている建物の方を見た。
 どうやら奴等は自分の家族が消えたことに不信感を抱かれないように根回しをしていたのだろう。
「あそこの人たちだよ。いやーほんとあの人達の持ってくるものは良いものばっかだよー。あんたもどうだい?」
 するとおばさんは懐から、首からぶら下げるような紐のついた小さな緑色の石を取り出した。
 よく見るとおばさんも首からぶら下げていた。
「いや、この石をつけてからね、良いことばっかりでさ!このお守りあんた達もどうだい?」
 それを受け取ろうとすると、クレアさんから止められる。
「割って入ってすいませんね、その話はまた今度聞かせてください。その他に買った物ってあるんですか?」
「ん?そうだね。この懐中……電灯?とか言うのも便利だね。すぐに灯りが手にはいる。それなりにいい値段はしたけどそのかいはあるね。ああ、因みにこの石は無料だよ。ほら、どうだい?」
 やけに石を渡したがるな。
 懐中電灯というのも気になるがこの石に何かあるのかもしれない。
「いえ、せっかくですがお断りします。では、ありがとうございました。また何かあればよろしくお願いします。」
 そのままそそくさとその場を離れる。
 その後、他の家にも話を聞いて回ったが奴等の息がかかった家はどこの家も例の石を渡そうとしてきた。
 それに、全員が首からその石をぶら下げていた。
 やはり何かあるらしい。
 調べるために受け取ろうかとも考えたが、やはりクレアさんに止められた。
 他に、新しい異世界人が数名増えた事も判明したが、そこについては詳しくは分からなかった。
 どうやら新しい異世界人は気が付いたら村にいたようで汽車を利用した訳では無いようだ。
 他にめぼしい情報は無かったが、これである程度の推測は出来そうだ。
「で、君の考えを聞いておこうか?」
「そうですね……。まず両親はここから東の村の方へ連れていかれたと推測します。やはり、風車の人が言っていた大きな荷物は両親だったと推測します。おばさんや他の人から見せてもらった商品を見てもそこまで大きな物では無かった。大きい荷物ということはやはり自分の推測通り人の大きさ程の荷物なんだと思います。」
 クレアさんは腕を組んで静かに話を聞いている。
「あと、話を聞いて回った人達は殆どの人があのお守りをつけていました。そして、石を持っている人はその全ての人が商品を持っていた。逆に言うと風車の人や商品を持っていなかった人はあのお守りを持っていなかった。」
「うん、で?」
 そこから先が分からない。
 何か関係があるのだとは思うが流石によく分からない。
「……分かりません。聞いても良いですか?」
「うん、多分だけどまずあのお守りの石を村人に渡して幸運が訪れたと感じさせるんだ。」
 つまりは芝居をうったということか。
 運良くお金を拾ったりとかくじが当たったとかを、首から石をぶら下げてる人を目印にやっていたということだろう。
 確かに奴等が来てからよく懸賞だったりくじだったりが流行っていた。
 あれは流行っていたのではなく流行らされていたということか。
「そして、お守りの石の効果を信じ始めて、村人に受け入れられた頃に彼らが作ったという粗悪な品を高値で売り付けるんだ。首から石をぶら下げている人だけにね。更にお守りを知り合いに配ったら何割か割引になるとかそういった特典をつけていたんだろうさ。そうして始めてあれらの商品を買うことが出来るんだ。」
「あの懐中電灯というやつですね。」
 すると、クレアさんは頷いて肯定する。
「そうだ。あれは異世界では当たり前のように流通している品だ。この世界では電気という概念自体まだ広まりきっていない。こんな田舎では特にね。そして、粗悪品だろうと異世界の道具はかなり使える。高値だろうと売れるだろうさ。」
 あまり田舎と言われると悲しくなってくるので言ってほしくは無いが、今は黙っておこう。
 実際田舎だし。
「確かに他の物も見たこと無いものばかりでした。大体は明かりがつくものでしたね。他にはバリカン?とか電池とか言うものでしたけど。」
「うん、この村に必要な物を普及させているんだね、バリカンは髪を剃ったりすることが出来る物だし、電池はそれらの動力源になるんだ。」
 しかし、そこで1つ疑問が浮かぶ。
「でも、それでは彼らは自分達に良いものをくれてるってことですよね?」
「ああ、だから彼らへの警戒心が余計に薄れていく。そして奴等の息がかかった者が増えてきて彼らは収入を上げることが出来る。悪徳な商法だと言えるね。異世界で流行っているのをこっちの科学の発達に合わせて調整したんだろう。それに彼らはこれ以上収入が得られそうに無かったら即座に別の村へ移るだろう。そうすれば電池が得られ無くなり、買ったものは全て無用の長物となる。」
 確かに。
 だが、やはり疑問が浮かんでしまう。
「ですが、ずっとここで電池を売り続ければ継続的に収入が得られると思うんですけど。」
「まぁ、そうだろうね。でも、商品自体が高値で売られてるからいずれここの住民から巻き上げられる金が無くなる。それに、電池の値段は安い。商品が普及しきったら安い電池しか売れなくなる。そうなったら次のところでいちから始めた方が儲けは良いだろう?奴等の組織もそこまで大規模じゃない。だったら早く捨てた方がいいのさ。」
 確かにそう考えれば利にかなっている。
「では、この村の異世界人は……。」
「うん、ほっとけば居なくなるね。」
 では、この村の心配は減ったな。
 勿論早く出ていって貰うのが最善だが、今は両親が心配だ。
 それに、電池の仕組みを理解して自力で作ることが出来ればこの村の暮らしは豊かになる。
 有効活用させてもらうとしよう。
「じゃあ、日を改めてから東の村へ向かってみますか?そこまで遠い距離では無いので一日もあれば着きます。警察もまだ時間がかかるそうですし、日をおいてから聞き込みをすれば更に状況は変わってるかもしれません。」
「そうだね。そうしようか。」
 どうやら、今日の活動は及第点のようだ。
 この事件を解決するには異世界についての知識が必要不可欠だ。
 その辺りもこの人から聞いておいても良いかもしれない。

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