依頼者　4

「じゃあ、まずは君の部屋を見てみよう。」
「自分の部屋ですか？」
　自分の両親を探すというのなら先ずは両親の部屋が先だと思うのだが、何故だろうか。
「ああ、もしご両親が誘拐されたのなら次に狙われるのなら君の可能性が高い。敵が潜んでいるとしたらそこだろうね。」
　誘拐、と言ったのだろうが
　さらに敵と言ったがいまいちよくわからない。
　自分だけが状況を掴めていないようだ。
「私も人の気配を完璧に察知出来るほど熟達しているわけではないからね。敵が気配を消すのが得意なのであれば分からなくても当然さ。」
「ま、待ってください！両親の靴はありましたし、家も綺麗ですよ！荒らされたような形跡はありません！」
　すると、クレアは少し驚いた様子を見せた。
　が、すぐにいつも通りの状態に戻り、解説を始めた。
「そう、綺麗すぎるんだ。まるで人が生活していないかの如くね。」
　そう言われてみると確かに生活感が無い。
　まったく無いという訳では無いが綺麗すぎるのだ。
　それに考えてみれば両親は客が来るからと言ってこんなに綺麗にはしない。
　確かに違和感は覚える。
「勿論、私は君の家の普段の状態は知らない。君の家は普段ここまで綺麗にしているのかい？」
「い、いえ、流石にここまでは。」
　確かに家に入ってから違和感は感じていた。
　だが、物の配置だったりは全ていつも通りなのだ。
　しかし、床や玄関がまるで新品かのように綺麗なのだ。
　これは少しおかしい。
「おそらくだが、賊は普通に訪ねて来るフリをしてこの家に無理矢理土足で上がり込み、君の家族を誘拐した。そして、最後に君を誘拐する為に警戒させないように床の足跡等の痕跡を消して君の部屋辺りにでも隠れているんだろう。」
　なぜ、両親を誘拐する必要があるのかは分からないが、この人は恐らくある程度は予測がついているのだろう。
「……自分の部屋はこっちです。」
　そして、自分の部屋へと案内した。
「いいかい？敵が潜んでいるとしたらこちらの存在にも気付いているはずだ。扉を開ける瞬間から気を付けるんだ。私は後ろからついていく。」
　コソコソと小さな声で話しかけられる。
　今この瞬間もどこかに敵が潜んでいるかも知れないのだ。
　そして、部屋の前についた。
　クレアにドアを開ける、と目配せをし、ドアを開ける。
　いきなり襲いかかってくる可能性も考慮して身構えていたがそこにあったのはいつも通りの部屋だった。
「ふむ、予想は外れたか。」
　後ろからついてきていたクレアも部屋に入ってくる。
　自分の部屋には隠れられるような所は無い。
　いきなり襲撃されることは無いだろう。
「ん？これは……。」
　すると、机の上に一枚の紙が置かれていることに気づく。
「ほう、なるほどね。」
　自分の机を覗き込み、納得した様子を見せた。
　紙には両親を誘拐したこと、助けてほしければ２日以内に一人で村外れの洞窟まで来るようにと書かれていた。
　もし、彼女を連れていけば両親はただではすまないということだろう。
「相手も馬鹿じゃないようだ。私が手練れの可能性を考慮して、安全策をとった訳か。どうする？」
「勿論、一人で行きます。」
　答えは決まっていた。
　両親を助けるためならば悩む事は無い。
　自分もある程度は鍛えているので、ちょっとやそっとの事ではやられない自信はある。
「うん、その意気だ。ところで、ここの警察組織はどうなっているんだい？こんなことを見過ごすとは思えないけど。」
「警察も奴等の虜になってます。でも、自分の家族は村の人達とは仲が良かったし、次の村長って話も出てる位なので、ここの村の人が関わってるとは思えません。多分ですけど奴等の単独犯だと思います。」
　するとクレアは驚いた顔を見せたが、やはりすぐにいつも通りの顔に戻った。
「うん。そうだね、恐らく発言力のある人物を排除したかったんだと思うよ。それほど奴等には君と君の家族は警戒されてるって事だね。」
「警察にこの強盗のことを言ってみたらどうなりますかね？」
　クレアはすこし考えると直ぐに返答してくれた。
「証拠がほとんど無いからまともに掛け合ってくれないんじゃ無いかな。下手したら外部に助力を願ったとして、君の両親が危険な目に会うかも知れない。やめておいた方が良いね。」
「……そうですよね。」
　すると、自分が落ち込んでいるのを見て、自分の肩に手をおき励ましてきた。
「大丈夫。私に考えがあるから、任せてくれ。」