依頼者　3

「おそらく、それは異世界で使われている犯罪の手口の一つ、ねずみ講かマルチ商法というものだね。」
「……はい？」
　村へと向かう汽車へとのりつつ、クレアと話をしていた。
　今聞いた物はまるで聞いた事が無い。
「ロイ君、この事件は少々ややこしい。早めに手を打たなければ面倒なことになるかもしれない。まあ、もう手遅れかもしれないけど。場合によっては荒々しいことにもなるけど大丈夫かい？」
　ネズミ講やマルチ商法について聞いておきたかったが、後にしておこう。
　荒々しい事というのが気になるが、答えは決まっている。
「勿論です！自分に出来ることなら何でもします！」
　すると、クレアは笑いかけてきた。
「その言葉を待っていたよ。」
　すると気が付けば見慣れた風景が目に入ってきた。
　この人と話していて気付かなかったが、既にそれなりの時間が経過していたようだ。
「あ、もうすぐ着きますよ。」
「おお、やはりこっちの方の風景は格別だね！首都じゃ見られない景色ばかりだ。」
　クレアさんはこちらに来たことがあるのだろうか。
　確かにこちらの地方は首都とはかなり違う。
　この地区の大半が山岳で出来ており、人々はその山間に暮らしている。
　数少ない平野部は人口の多い都市として発展しており、こういった田舎の人達もそちらへ移住してしまうので過疎化が進んでいる。
　それは自分の村も例外ではなかった。
　唯一の救いは線路が開通し、交通の便が良くなり、様々な物が流れてくることくらいだが、それが人口減少を加速させてもいる。
（……それにしても。）
　目の前に座るクレアを見る。
　彼女は彼女からしたら珍しい、いつもとは違う景色を楽しんでいるようであった。
（正直、異世界とか胡散臭いけど、この人で大丈夫かな……。）


　そんな事を考えてしまう。


「さあ、着きましたよ！ようこそ、ジントー村へ！」
　村以外の人ははっきり言って珍しいので、来てくれるだけでも相当に嬉しかった。
　あの異世界人の集団が来たときも最初は嬉しかったものだ。
「ま、取り敢えず君の家に行って見よう。君の家族は大丈夫なんだよね？」
「はい！案内します！」
　村の景色はいつもどおりだ。
　だが、チラホラと見慣れない人達が増えている。
　あの転生者の集団だ。
　全く見たことのない人もいるので、自分がいない間に更に仲間を連れてきたのだろう。
　しかし、いつもなら村の人が出迎えてくれたりもしたのだが、やはり彼らのせいだろうか。
　そして、村の中心部から少し離れた所にある自分の家についた。
「ここが自分の家です。どうぞお上がりください。」
「では、お邪魔します。」
　そして、自分は靴を脱ぎ家に入って行く。
「あぁ、そうか。この地方では靴を脱ぐのか。」
　すっかり忘れていたが首都のある地方では靴を脱がないらしい。
　クレアは靴を脱ぎ、揃えて置いていた。
　気の所為かもしれないが初めてでは無いように見えた。
「……おかしいですね。いつもなら母がそろそろ出てくる頃なんですが。」
「ふむ、さっきから感じていたが人の気配が無いな。」
　だが、玄関に両親の靴はあった。
　家の様子もいつも通りだが、クレアさんが来るのを見越してか綺麗にされている気がする。
　一体どういう事なのだろうか。
「少し家の中を探してみようか。」
「はい！」