王国再興物語〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

従者

「くっ!」
 林の中、アルフレッドの従者、セインは濃い霧の中、馬を走らせていた。
 後ろからは無数の騎馬の足音。
 林の中、ただひたすらに馬を走らせていた。
「あと、もう少し……で。」
 王都からワン公国までひたすらに駆け続けた。
 数多の仲間が犠牲になって行った。
 生死は定かではないが自分を、いや、アルフレッドを蘇らせる為に皆が一丸となっている。
 人を蘇らせられる神具、神樹の雫。
 神話によればそれは西の大陸からもたらされた物だ。
 どうにかして西大陸に行き、神樹の雫を手に入れることが出来れば再起を図れる。
 アルフレッドの仲間達は密かにアルフレッドを蘇らせる為、活動していた。
 しかし、その動きに気づいた現国王、アーロンはセイン達、アルフレッドの一味を捕縛し、アルフレッドの復活を阻止しようと刺客を放ってきた。
 その悉くはフレンやセラを始めとした武勇に優れる者達が対処してくれたが、アルフレッドを蘇らせる為に必要なアルフレッドの亡骸。
 アルフレッドの亡骸を消滅させるため、アーロンの放つ刺客はアルフレッドの亡骸へと狙いを変えたのだ。
 遺体の一部さえあれば蘇らせられるというが、セイン達は念の為に遺体ごと王都から脱出することを決めた。
 しかし、もう少しで安全なワン公国に着くというところで追手に追いつかれてしまったのだ。
 しかし、まだ距離はある。
 あと少しでワン公国国王、ジゲンが軍を引き連れ待機している国境に着く。
 そこにたどり着きさえすれば海路からアナテルへ行き、そこから西大陸へ行ける。
 アルフレッドさえ蘇れば今は仕方なくアーロンに付き従っている者達もこちら側に付き、戦況を一気に覆すことが出来る。
「ぐっ!」
 我武者羅に馬を走らせていたセインの肩に矢が刺さった。
 敵はすぐそこまで来ている。
 セインはアルフレッドの遺体が入った袋を抱えている。
 つまり、二人分の重さである。
 馬はいつも通りの速さを出すことは出来ない。
「……仕方が無いか。」
 もう後は真っ直ぐ行くだけ。
 馬を勝手に走らせてもジゲンの元につく。
 だが、セインが乗っていては敵に追いつかれてしまう。
 セインは走りながらアルフレッドの遺体の入った袋を馬に縛り付ける。
「申し訳ありません。若。」
 縛り付け終わるとセインは馬を降り、馬の尻を叩き、走らせた。
「……ここまでか。」
 剣を抜き、後ろを向く。
 濃い霧の中、無数の騎馬兵が現れる。
「……貴様、何故馬に乗っていない?」
「答える義理は無いな。」
 目の前の騎馬兵は全てが、アーロンの兵だ。
 説得は不可能。
 セインは死ぬ覚悟を決めた。
 しかし、セインはあることに気が付いた。
 騎馬兵がセイン達を追撃し始めた時よりも少なくなっているのだ。
「……私の仲間達はどうした?」
「さぁな。出来る限り捕縛するように指示は出したが、抵抗するようなら殺しても構わないと指示を出した。今頃どうなってるかは知らんな。」
 セラや、フレン、イリスにゼノン。
 その他にも先の大乱で味方してくれた者達。
 まだ死んでいないかもしれないという希望が見えた。
 ここで時間さえ稼げればアルフレッドは蘇る。
 既にゼノンが信頼の置ける冒険者達に依頼を出してくれた。
 その冒険者達の元へ無事届けられればこちらの勝ちだ。
「……ここからはアルフレッド様の側近。セインがお相手する。ここより先、簡単に通れるとは思わない事だ。」
「ふっ、面白い。時間さえあるのならば一騎打ちと行きたい所だったが、今は時間が惜しい。取り囲め!」
 騎兵の隊長の号令で、セインは囲まれる。
 もはや何処にも逃げ場は無い。
(若。申し訳ありません。お先に失礼します。)
「かかれ!」
 隊長の号令で囲んでいた兵達が一斉に襲いかかる。
 その日、剣戟の音が林の中に響き渡っていた。
 後日、アルフレッドの一味はその全てが消息不明と発表された。
 しかし、アルフレッドの遺体を運んだ馬は無事にジゲンの元にたどり着いた。
 この大乱はまだ始まったばかりである。

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