王国再興物語〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

二人目の無理ゲーオタク

「……はぁ。」
 緑。
 目の前には視界いっぱいに草原が広がっている。
 実は姉達には剣の素振りをしろと言われたが、まるでやる気が起きない。
 と、言うものの実は前世の記憶を思い出したのだ。
 毎日毎日ゲームのコントローラーを握っていた。
 そして、トラックにはねられ、気が付けばこの世界で暮らしていた。
 どうやら転生というものらしい。
 そんなドがつくほどの定番な死に方で異世界に来て、目が覚めたら剣の素振りをしろと言われる。
 目が覚めて何が何やら分からない俺に対して空気を読まずに『風邪が治ったんなら剣の素振りでもしなさい!体が鈍ってるでしょ!?』とか言って来た。
 ゲームしかしてこなかった俺がいきなり剣を振れと言われても無理がある。
 言われるがままにここまで来たが、段々この体の記憶が蘇ってきた。
 父親はS級の冒険者。
 俺はその実の息子で、姉達は親父が拾ってきた孤児達だ。
 親父は転生者の孤児を保護しているので、俺には兄妹が沢山いる。
 その殆どは大きくなったら出て行ったが姉3人だけは家に残って冒険者となった。
 そして、驚きなのがその姉達の前世が歴史上の偉人だったのだ。
 レオニダス一世、ハンニバル・バルカ、楠木正成。
 全員が全員、ソシャゲならSSR位のレア度の人物だと思う。
 それぐらい凄い人物だ。
 何故こんな姉ばかりなのだろうか。
 自分の平凡さが身に沁みて分かる。
 因みに俺を剣の素振りに行かせたのはレオニダス一世が前世の、1番歳が近い姉である。
 色々考えるのが面倒なのか、俺が異世界の記憶を思い出したと考えなかったのか剣の素振りに行かされた。
 脳筋過ぎる。
「あっ!いた!」
 遠くから声が聴こえ、そちらの方に顔をやると1番上の姉がいた。
 1番上の姉はハンニバル・バルカの生まれ変わりで、前世の影響は強く受けていない様子だ。
 記憶がある程度の影響だ。
「クルシェ姉さん。どうしたの?」
 クルシェ姉さんは青みがかった長い髪を一つに纏め、いわゆるポニーテールという髪型にしている。
 体型も年齢にそぐわず、凹凸が激しい体型だ。
 都会に行けば引く手数多だろうに。
「何してるの?向こうでレオが探してたわよ。」
 レオとはレオニダスの生まれ変わりの一番近い姉である。
 前世の影響を強く受けており、元々持っていた名を捨て、新たにレオと名乗ったのだ。
 レオニダスだからレオって……。
 正直1番苦手な姉である。
「良いんだよ。別に。」
「良くないでしょ。ほら、行くわよ。」
 首根っこを捕まれ、立たされる。
 クルシェ姉さんも見た目にそぐわず怪力だ。
「……ん?」
 立ってみると気が付いた事があった。
 ここは眼の前が少し上り坂になっており、1番端まで行くと、崖になっており、その先は海になっている。
 そして、立たされて初めての崖の下の海岸線が見えたのだが、そこに見慣れない物が落ちていた。
「……人?」
「え?」
 クルシェ姉さんも俺が凝視していた方向を見る。
 海岸の砂浜に確かに人の様な物が見える。
 ここで少し冷静になろう。
 このまま見なかったフリをしてレオ姉さんの元へ行くか海岸の人のような物を見に行くか。
 どちらが面倒臭いだろうか。
 ……よし、海岸に行こう。
「よっと。」
「あ!ちょっと!」
 クルシェ姉さんから離れ、海岸へ向け走り出す。
 クルシェ姉さんも後を追ってくるが、足の速さには自身がある。
 これだけはどの姉にも負けていない。
 逃げ足の速さが俺の強さだ。
 あっという間目的地についた。
「これは……。」
 遠目だったので見間違いかとも思ったがやはりそれは少女だった。
 だが、少し普通の人とは違うのだ。
 長い髪の少女はまるで絵画かのように美しい顔をしている。
 だが、そこではない。
「はぁ、やっと追い付いた。ってあれ?その人の耳……。」
 そう。
 耳が普通の人とは違ったのだ。
 何というか、尖ってる?
 普通の人よりも長いのだ。
 それはまるで神話に登場するエルフのような。
 その時はまだこの少女の存在がこの国を大きく揺るがす事になるとは誰も思ってもいなかった。

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