王国再興物語〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

教団の産物

「しかし、不思議だな。」
 敵のあの行動はこちらが次弾装填するその隙を狙ってのものだった。
 つまりは敵は大砲を知っていると言うことだ。
 こんなことなら弾を入れて撃てばよかった。
 実は弾と火薬が勿体なくて試射していないのだ。
 暴発する危険性を考えて、試射も兼ねて火薬だけにしたのだ。
 上手く行けば攻めてこないと思ったのだが。
 それに、音を聞かれれば警戒される可能性もあった。
 敵の対応の早さから、銃の音をきいて、大砲があることを想定して作戦を組んでいたのだろう。
 つまり敵は銃も大砲も知っているということになる。
「敵が来るぞ!」
 そうこう考えていると敵が接舷してきた。
「応戦しろ!敵を乗り込ませるな!」
 もはや混戦状態である。
 船員達は槍や弓でもって乗り込ませないよう応戦している。
 敵も乗り込もうと必死である。
「装填完了しました!」
「良し!放て!」
 轟音が鳴り響く。
 ほぼゼロ距離で撃ち、敵の船に穴が空きその部分から浸水し、船が傾いていく。
 敵が乗り込もうと片側に集まっていたので余計にバランスを崩し、転覆する。
「よっしゃ!」
「やったぜ!」
 船員達がは喜んでいる。
 しかし、そうは上手く行かないようだった。
「敵の後続が来るぞ!」
「備えろ!」
 報告を受け、指示を飛ばす。
 敵の船が転覆した船を押し退け接舷してくる。
 そして、そこであることに気づく。
「あれは!」
 レイン達の船から火の手が上がっているのが見えたのだ。
「くそ!ゼイル殿!ここは任せた!」
「え!?りょ、了解した!」
 ゼイルは困惑しつつも乗り込んできた敵を3人ほど切り伏せる。
 敵が少しずつ乗り込んできているが、ゼイルの指示の元、撃退に成功している。
 俺はロープを使い、ターザンのように隣の船へと飛び移る。
 隣の船は味方の船に接舷している敵の船だ。
 レインの船は3隻ほど後ろの所にある。
「な、なんだ!こいつ!」
「殺せ!」
 飛び降りる地点に丁度敵がいた。
 敵の船に乗り込み当然攻撃されるが、難なく敵の攻撃をかわし、反撃する。
「くっ!強い!」
 あっという間に無力化し、味方の船へと移る。
 全員を倒す必要はない。
「無事でいてくれ!レイン!」


「これよ!これを待ってたのよ!」
 レインは乗り込んできた敵を残らず切り伏せていた。
 マインや他の船員はなにもできずにいるほどに。
 一応戦ってはいるのだが、レインが目立ちすぎている。
「これでも食らえや!」
 敵が火矢を放ち、瞬く間に帆に燃え移り船が燃え始める。
「消化しろ!」
 マインが消化の指示を飛ばす。
 が、船が燃えていようが構わず、薙刀を振り回すレイン。
 敵は乗り込むのをためらうほどである。
「くっ、くそ!」
「化け物め!」
 敵は乗り込んでこない。
 それどころか、船を下げようとしている。
「ダメよ!つまらないじゃない!」
 するとレインは自ら敵の船に乗り込んだ。
「ひぃ!」
「に、逃げろ!」
 レインに恐れおののき、海へ飛び込む者。
 腰を抜かす者。
 もはや、戦意を喪失していた。
「レイン!無事か!?」
 するとアルフレッドが船へと乗り込んできた。
「あら?どうしたの?」
「どうしたって船から火が出てたから……。」
 するとアルフレッドは船を見る。
 もはや、火は消火され煙がすこし上っているだけだった。
 そして、周りの敵の様子を見て少し呆れた様子を浮かべる。
「まぁ、無事ならいいか。」
「ええ、でも心配してきてくれたのは嬉しかったわ。」
 無邪気な笑顔を見せるレイン。
 こんな所だと言うのに、相変わらずである。
「よし、一度後退し陣形を整える。船の残骸でもう敵も容易には突っ込んでこれないだろう。」
「分かったわ。」
 レインは自分の船へと戻っていく。
 アルフレッドも自分の船へと戻っていくのであった。


「くそ、奴等め白兵戦が目的では無かったか。」
 下がってから様子を見てみると船が中央から砕け、浸水し沈没した物がいくつかあった。
 中世の船にはラムといって船首につける突撃によりダメージを与えるための物がある。
 全ての船についていたわけではなかったが、ついている船は船体の中央へと突撃していたのだ。
 そして、この世界にラムというものは存在しない。
「ゼイル殿。以前敵が転生者を集めていると言っていたな。」
「ええ、教団により確保された転生者は数多くおり、その後どうなったかは分かっておりません。」
 しかし、今回のこの戦で相手がなぜ転生者を集めていたのかがわかった。
「それがいつ頃から始まったのかは知らないが、なぜ集めているかはわかった。」
「それは?」
 教団は歴史的な偉人ばかりを集めていた。
 いや、厳密には女神は偉人を転生させていた。
 それも軍事に関係するものばかりだ。
 それを教団に保護させ、こちらの世界の軍略や技術を研究、発展させる為だったのだろう。
 科学者等の偉人がこちらに来ないのは軍事に関係ないと思われているからだろう。
 あの双子の女の方が持っていた銃もその通りだし、下手すれば竜騎兵による制空権の概念なんかもその産物かもしれない。
 これでは、他の戦線も苦戦するだろう。
 その事をかいつまんで説明した。
「なるほど。確かにそれなら帝国の軍が強力なのも頷ける。」
「敵が来るぞ!」
 見張りの声が響く。
「総員!構え!よく狙え!」
 今度は全艦隊装填完了している。
 敵が残骸を突破して突っ込んでくる。
「放て!」
 号令と共に弾が飛んでいく。
 かなりの数が命中し、何隻か速度が落ちる。
 沈み始める船もある。
 なんとなくだが、T字戦法を真似てみたつもりだ。
「次弾装填急げ!射撃手!撃ち続けろ!」
 銃も撃ち続けさせる。
 あの突撃を何度も繰り返されればたまったものではない。
「よし!帆を張れ!」
 頃合いを見て船を前進させる。
 敵が突撃してくる前に船体を縦に向けるのだ。
 敵の船に速度がついた時点で船を動かすのだ。
 速度がついた船は、急速に向きを変えることは出来ない。
 案の定敵の横腹が丸見えである。
「放て!」
 今度は弾が良く命中する。
 敵は残りわずかである。
「今だ!斬り込め!」
 近くの船が接舷し、船員が乗り込む。
 すぐさま無力化される。
 ここまでやればもはや趨勢は決した。
 敵もそれがわかったのか、残った敵船団は引いていった。
 残りはわずかなので驚異にもならないだろう。
「まぁ、なんとか勝てたな。」
「正直冷や汗物でしたね。」
 確かに今回はなんとか勝てたが、敵が更にこちらの世界のデータを研究しているのならば他の戦線は更に厳しいものになるだろう。
「ま、全員一騎当千の強者達だ。なんとかなるだろう。」
 希望的観測で、不安を押さえつつ上陸戦の用意をするのであった。

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