王国再興物語〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

一騎討ち 決着

「なんだ?」
 アルフレッドの動きが変わった。
 よくは分からないが、雰囲気もどことなく違う。
「はぁ、いきなり無茶振りしてくるな……。」
 アルフレッドはなにやら独り言を言っている。
「どうした?頭でもおかしくなったのか?」
「あ?うるせぇよ。デカブツ。」
 するといきなり剣が顔の横を通りすぎていく。
 アルフレッドが投げた剣は壁に突き刺さっていた。
 自分の顔からも血が出ていることが分かる。
「ちょっと今忙しいんだよ。」
「……ふざけるな!」
 一騎討ちで剣を投げ捨て、罵倒までされればおとなしくしているわけには行かない。
 すぐさま距離を詰め、斬りかかる。
「忙しいって言ってるだろ!」
「がはっ!」
 しかし、気付けば腹に一撃を受け、剣を手放してしまう。
「ふむ。鍛練は欠かして無いか。でも、体が傷だらけなのは許せないな。」
「ち、畜生っ!」
 諦めずに殴りかかるが軽くかわされる。
「あー、剣を投げたのは失敗か。」
 アルフレッドの回し蹴りが顔面に命中する。
 これまでの攻撃の中でも一番のダメージだ。
「まぁ、殺せるからいいんだけど。」
 アルフレッドが近づいてくる。
 肩のダメージが無ければもう少し上手くやれていたかもしれない。
 いや、言い訳だろう。
 よくは分からないがこの状態になる前に殺しておくべきだった。
「さ、あいつと同じ考えなのは腹が立つが、簡単には殺さねぇぞ。」


「くっ!」
「さっきまでの威勢はどうした?」
 レインは先程までは優位に立ち回っていたのだが、徐々に不利になりつつあった。
 相手が魔道具頼りの戦い方をやめたのだ。
 それに、速さを上げる薬も効果が切れたのか、動きは遅くなっている。
 だが、明らかに先程よりも強い。
 これが本当の力なのだろう。
 これでは純粋な武力の勝負である。
「このやり方ならば、こちらが有利になるのは分かってたさ!」
 バイゼルの攻撃を薙刀で受ける。
「さぁどうする!?一思いに殺してやりはしねぇぞ!俺を侮辱しやがって!覚悟しろ!」
 しかし、レインは笑みを浮かべる。
 まるで、この状況を待っていたかのように。
「そう。それを待っていたの。」
「あ?」
 バイゼルは何を言っているのかわからないと言った様子だ。
「これで、回りくどい戦い方をしなくてすむってことだからね。」
「何!?」
 つまりは相手が見えている先よりも後に攻撃が当たれば良いのだ。
 1秒先が見えるなら2秒後に攻撃が当たるようにすればいい。
 相手が見るのをやめたなら、いつも通り全力で戦えば良いというだけということだ。
「はぁっ!」
 鍔迫り合いの状況から蹴りを繰り出されバイゼルは体勢を崩す。
 そしてレインはすかさず薙刀を振り下ろす。
「くっ!」
 バイゼルはレンズを使い、先を見たが腕を斬られる未来しか見えない。
 それでもバイゼルはかわそうとするが、若干遅くやはり右腕を切り落とされる。
「ぐぁっ!」
「あ、避けてくれてありがとうね。うっかり殺しちゃう所だったわ。」
 するとレインは近付いてきて薙刀を突きつける。
 純粋な武力ではレインの圧勝だったのだ。
「絶対に簡単には殺さない。皆が受けた痛みを味あわせてやる。」


「おい!リン!何やってんだよ!」
 ランはセラの猛攻を受け、防戦一方である。
 これを覆すにはリンと連携する必要がある。
「まぁ、待ちなって。もうすぐだから。」
 レノン王は変わらずリンを追い詰めているように見えるが、徐々に動きが遅くなっているのがわかる。
 やがてレノン王は膝を付き、攻撃をやめた。
「レノン王!」
「よそ見してて良いのかよ!お姉さん!」
 すると一瞬の隙をつかれ、反撃される。
 直撃はしなかったが、少しかすり傷を受けてしまった。
 そして、リンがこちらに銃を向けているのが見えたので急いで横に飛び退き、逃げる。
 が、少し遅く肩に弾を受けてしまう。
「ぐっ!」
「ったく!遅ぇよ!リン!」
「仕方無いでしょう。予想ではもう少し早くくたばる予定だったんだから。」
 リンが近づいてくる。
 レノン王は膝を付き、血を吐いている。
 流石に限界が来たようだ。
「もう無理だよ。お姉さん。諦めて蜂の巣にされなよ!」
 リンに銃を頭に突きつけられる。
 この腕では槍を持つことも厳しい。
 もう諦めるしか無いのだろうか。
 そこでふとアルフレッドの事が頭をよぎる。
「……よ。」
「え?何?」
 リンが疑問を口にする。
「まだよ!まだ、死ぬわけには行かない!」
 思い切り立ち上がり、腰に携えていた短剣を引き抜く。
 リンは咄嗟に引き金を引くが、既に銃口は外れている。
 弾は虚空を貫く。
「嘘!?」
「はぁっ!」
 セラの短剣はリンの首を貫く。
 リンは血を吹き出しながら倒れる。
「リン!」
 ランが咄嗟に攻撃してくる。
 流石にあの大剣を受け止めることは出来ない。
 もう終わりだろう。
(……申し訳ありません。アルフレッド様。私はここまでみたいです。)
「クソ!死ねぇ!」
 しかし、大きな音と共にランの攻撃が止まった。
 レノン王が銃を撃っていたのだ。
「……油断したな。」
「な……。」
 立て続けに発砲音が響く。
 そしてその全てがランの背中へ命中していく。
 ランは血を吐きながら倒れる。
「……リ……ン。」
 満身創痍だが、なんとか勝てた。
 しかし、この結果ではアルフレッド様に怒られるだろう。
 だが、勝ててよかった。


「皆、無事か!?」
 ゼイルとマインが大聖堂の扉を開け入ってくる。
 後ろにはアナテルの兵や、冒険者まで見える。
 そして、ゼイルが目にした光景は驚くものであった。
「こ、これは……。」
 気絶したジェラルドを殴り続けるアルフレッドに、もう既に息絶えているであろうバイゼルを剣で刺し続けるレイン。
 そして、血溜まりの中に倒れるレノン王と片手で応急処置を続けるセラ。
 その近くには双子が倒れている。
 何も知らずに見たゼイルからすれば凄まじい光景であっただろう。
「あー、これは色々と遅かったか。」
「……取り敢えずレノン王を治療してきます。」
 マインが衛生隊を連れてレノン王の元へ駆け寄る。
 取り敢えずまだ味方には死者は出ていないようだ。
 取り敢えずは良かったと言えるだろう。

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