王国再興物語〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

終わりの悲鳴

 数日前。
 アナテル国にて。
「向こうの状況は?」
 レノン王は遠話水晶にて各方面の状況把握を行っていた。
 しかし、特に何が出来るわけでもなかった。
 主力は東の国の方へ出払っている中、動かせる手勢が近衛しかいないのだ。
「優勢と聞いております。」
 優勢ならば良い。
 そもそもアルフレッドがついているのだ。
 負ける訳もない。
 しかし、今調査していることの方が気になる。
 セインが出会ったという双子。
 そのうちの片方が聞くところによると銃を使ったとのこと。
 この世界に銃は無い。
 恐らく教団か、あの女神辺りがこの世界にもたらしたのだろう。
 自分の手駒である教団のみに。
 銃があるとないとでは、今後の作戦も大きく変わってきてしまう。
 そもそもアランの立てた策は銃が無い前提の作戦だ。
 アランの前世の時代ではまだ銃は作られていないし、その時はこの世界に銃があること自体知らなかったので、仕方無いのだが。
 なので、今やるべきことは牢にいる、ジェラルドとスロールの尋問だ。
 恐らくジェラルドはスロールの金魚の糞だろう。
 本題はスロールだ。
 話によれば奴は首謀者の疑いのあるセイルズに近い人物だという。
 教団についてもよく知っているだろう。
「さて、行くか。」
「何処に行かれるのです?」
 玉座を立つ
 妻であるネロが聞いてくる。
「少し牢の2人の様子を見て来るだけさ。」
「そうですか、ではこちらは任せてください。」
 私が席を離れる時は妻が仕事を代理でこなしてくれる。
 私には勿体無い女性だ。
「ではな。」
「ええ。お気を付けて。」
 そのまま部屋を後にする。
 前世が海賊だったので、尋問のような荒事に抵抗はない。
 まぁ、レインが嫌がるので避けるようにはしているが必要ならやる。
 などと考えながら歩いていると突如爆発音がした。
「な、何だ!?」
 爆発は地下から聞こえた。
 地下には牢があった。
「くそ!まさか!?」
 そのまま地下牢へと向かう。


 数刻前。
「おい。交代だ。何か話したか?」
「おお。なんにも話さねぇよ。こいつ。」
 地下牢にて拘束しているスロールとジェラルド。
 尋問を繰り返しているが、一向に口を割る気配が無かった。
 ジェラルドは近寄ると危険なので、ほとんど何も出来ていないが、スロールにはちゃんと尋問している。
「おーい。教団との繋がりとかお前の知ってること話してくれよー。そしたら楽にしてやるからよー。」
 見張りの兵達は笑い合っている。
 スロールは既にあちこちを骨折しており、目も片方潰れている。
 もはや生きているのが不思議なほどだ。
「……ふふ。」
「あ?」
「何笑ってんだこいつ?」
 スロールから笑い声が聞こえた。
 頭がついにおかしくなったのだろうか。
「ふはははは!」
「おい!」
 鉄格子を叩き、威嚇する。
「まだ笑う余裕があるみたいだな。」
「いや、すまない。貴様らがあまりにも憐れでな。」
 おかしなことを言う。
 憐れなのはそちらだというのに。
「何だと!?」
「いやいや、これから死ぬんだ。これが憐れで無くてなんとする?」
 いまにも消え入りそうな声で言う。
「こいつ何言ってんだ?」
「さぁ?」
「じゃあな、お前ら。精々苦しんで死んでくれ。」
 こいつ何かする気だ。
 そう気づいたときにはもう遅かった。
「おお女神よ!今あなたの元に行きます!」
「おい皆下がれ!」
 するとスロールの腹部が光り始めた。
 そう思った時には大きな音と共に辺りは火に包まれ、肉片が飛び散り、仲間達は倒れていた。
 即死だろう。
 1番遠くにいた俺は死んではいなかったが、重傷だった。
「な、何が……。」
「スロール殿。見事だったな。」
 すると隣の牢から大きな影が表れる。
 牢は既に鉄格子も壁も無く、すぐに出てこれる状況だ。
 それが何なのかすぐにわかった。
「ひっ!ジェ、ジェラルド!」
 ただの一般兵にもこれの恐ろしさは知られている。
「ほう。不運にも生き残ったか。だが、それではもう助からんだろう。」
 気が付くと血溜まりの中におり、それが自分の血であると気付くのにそう時間はかからなかった。
 そして、自分の体も至る所から血が吹き出していた。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
「気付いていなかったか。だが、貴様らがスロール殿に与えた痛みを考えれば当然の報いだろう。」
 そのまま牢を出てきて、地下牢を出て行こうとする。
「ま、待て!」
「ほう。その体でまだ抗うか。だが、俺だけに構っていて良いのか?」
 気が付くと周囲に人影があるのに気づく。
 それは収容していた囚人達だった。
「ひぃ!」
「じゃあな。」
 地下牢に悲鳴が響く。
 その悲鳴はアナテル国の終わりを告げる悲鳴だった。


「陛下!敵です!敵が出ました!」
 側近の一人が玉座の間に走り込む。
 しかしそこにあったのは無数の死体であった。
「こ、これは……。」
「王様ならいないぜ。」
 玉座に見覚えの無い人物が座っていた。
 フードを深くかぶっているので顔はよく見えない。
「王妃様ならここにいるんだけどな。」
 声に聞き覚えはない。
 テンションは低そうだ。
「き、貴様!何者だ!?」
 剣を抜く。
 誰かは知らないが味方ではない事は確かだ。
 それに王妃は見当たらない。
「ハハ!馬鹿だよな!国王の友人だって言ったらすんなりここまで通してくれたぜ!この王妃様も何も疑わなかったしな!ここの国の奴らは馬鹿ばっかだな!」
 突如としてテンションの高い感じになった。
 すると男は何かをこちらに投げてきた。
 コロコロと転がり、足に当たる。
「っ!ネロ王妃!」
 足に当たった物はネロ王妃の首だった。
「いやーでもすげぇわ。この部屋に入っていきなり近衛の奴に斬り掛かったらすぐに対応し始めたからな。相手が俺じゃなかったらヤバかったかもな。」
「貴様ぁ!」
 走り込み、斬りかかる。
「……おっそ。」
 しかし手応えはなく、相手は後ろにいた。
「くそ!」
「だから遅いって。」
 振り返り、剣を横に薙ぐ。
 が、気がつけば剣を持っていた右手は手首から先が既になかった。
「ぐっ!」
 膝をつき腕を押さえる。
 もう立つことも出来ない。
 いや、立ち上がっても何も出来ない。
「貴様……名前は?」
「お!泣き喚かない!いいね!いいねぇ!じゃ、ご褒美に、俺の名前を教えてやるよ。名前も知らない相手に殺されたんじゃ王妃様に顔向けできねぇもんな!」
 すると男は自己紹介を始めた。
「俺は帝国隠密部隊、陽炎隊が隊長、バイゼル!覚えておいてくれよ!」
 剣を腹部に刺される。
 が、左手で相手の剣を持っている腕を掴む。
「あん?」
「名前を言ってくれてありがとうよ。そして王が無事ということもわかった。」
 血反吐を吐きながら言う。
 そして、手首から先の無い右手で顔面に殴りかかる。
 が、かわされる。
 だが突然のことで対応が遅れたのかフードを取ることが出来た。
「てめぇ……。」
「貴様は俺をただの雑魚だと思い込み、圧倒的上だとして、油断した!」
 血反吐を吐き続ける。
 もう長くはないだろう。
「お前はネロ王妃はここにはいるんだがなといった。つまり、王の行方を貴様はまだ知らないということだ!そして、貴様は勝ったと思い込み、名乗った!ここには有事に備えて至る所に遠話水晶が置かれている。こちらの様子を見ることの出来る高性能な物だ!この水晶の向こうにはお前の顔と名前が知れ渡ったぞ!」
「クソが!」
 バイゼルは剣を抜こうとするが、抜けない。
「貴様は俺との戦いには勝った!だが、頭を使った勝負では俺に負けたんだ!名前も知らない雑魚にな!お前は名乗ったが、俺は決して名乗らないぞ!もう一度言ってやるお前は名前も知らん雑魚に負けたんだ!」
「……調子にのんな!」
 顔面を殴られる。
 流石に手を離してしまう。
「……お前のことはレイン様とレノン王が必ずや殺す。ネロ王妃を……ここで殺した時点で……貴様の死は……確定したんだ。」
 もう意識が無くなってきた。
 流石に無理をしすぎたようだ。
 だが、最後にもう一度言ってやる。
 こいつに負けを味あわせてやる。
 人生最高に最悪な負けを
「何度でも言ってやる!貴様は!名前も知らない雑魚に!まけ……。」
「もう黙れや。」
 気付けば首と胴は繋がっていなかった。
「ちっ!気分悪りぃわ。」
 その言葉を最後に俺の意識は消えていった。

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