王国再興物語〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

開戦の狼煙

「それにしてもすごい数だな。」
「あぁ。」
 俺は今、ジゲンと共に陣を見渡している。
 因みにジゲンとジョナサンにはしっかりと問いただしておいた。
 向こうにはマトウ軍の主力1万。
 対するこちらは1万5千。
 数の上ではこちらが勝っているように見えるが、実はそういうわけではない。
 レイン率いるアナテル軍は5千。
 そしてレイン方面の敵軍は1万。
 元々つれてきたアナテルの援軍は1万だったのだが、半分をこちらに持ってきて、こちらを主力にして敵主力を打ち破り、レイン方面の敵を挟撃するという手筈だ。
 同数同士が戦えばどちらも負ける可能性がある。
 しかし、片方に戦力を集中させれば、片方は勝てる。
 それに、レインには防衛に徹しろと指示を出してある。
 レインの実力は確かだしすぐに全滅は無いだろう。
「おお!あの旗印は神刀派に並ぶとも言われる武刃派のものだ。あっちに見えるのは歴史ある派の甲義派か。」
「こちらもよくこんなに集まってくれたよな。」
 さまざまな旗印がならんでおり、中々壮観である。
 それぞれの派のリーダーが最前線で戦ってくれるのはとても頼れるものである。
 この地方は王族による統治が無くなってからは各領主がそれぞれ自分の派閥を作り、好き放題やっていた。
 傭兵として活躍するものや他の国に仕えた者、戦から離れ自分の所領に引きこもった者等様々である。
 そんな者達がここに集まってくれたのだ。
「アルフレッド様!」
「おお!これは遠路はるばるありがとうございます。ジゼル殿!」
 緑がかった髪をした彼はアナテル国の陸軍大将である。
 実力はすさまじく、レインの武術の指南役だったらしい。
 因みにレインの元には海軍大将のマインがついている。
 女ながらにして、海軍大将まで上り詰めたとして、アナテルでは、有名人である。
 レインは軍略についてはマインから教わったそうだ。
 因みにレインは軍を総括する立場の上級大将となっている。
 それほどの実力が彼女にはあるという。
「いえいえ、姫の婿殿のためでしたらどこへでも行きますとも。」
「ありがたい。ですが、エルドニアが無い今、その約束が生きているのかどうか。」
 正直国が無くなった以上、婚姻同盟の意味もないので、それがまだ効力を持っているのかは謎である。
「何をおっしゃいますか!姫より相思相愛と聞いていますぞ!」
 一体レインは何を言ったのか。
 今度問いただしてみよう。
「まぁ、取り敢えず今は目の前のことに集中致しましょう。」
 こちらは中央には神刀派や、我々の手勢を筆頭としてセラ、ジョナサン、ローゼンの3人を配置し、右翼にジゼル、左翼にヤン殿を配置している。
 作戦としては中央の突破力をもってして、敵陣を突破し、敵陣後方より、両翼と連携し、敵を挟撃するというものである。
 シンプルだが、あの3人なら可能だと判断した。
 因みにセインは傷が深い(自業自得含め)ので本拠地にて待機、イリスは後方にて負傷者の手当てを行っている。
「では、挨拶も済ませたので私は陣へ戻ります。」
「ええ、では。」
 走り去っていくジゼル。
 寝返りについては不安だったので、セインに手勢を使って調べさせ、既に白だということはわかっている。
「いよいよだなジゲン。」
「あぁ。前世で果たせなかったお家の再興を今度こそ果たして見せるぞ。」
 ジゲンは刀を抜き、天に掲げる。
 そしてそれを一気に振り下ろした。
「全軍!かかれ!」


「そら!」
 ローゼンの斧の一薙ぎで複数の敵が倒れる。
「はあっ!」
 それに負けじとセラも前線で槍を振るう。
 結局アルフレッドとセラがどうなったのか聞けずじまいだったが、この戦が終わってからで良いだろう。
 それに、大体予想はつく。
「ジョナサン!後ろ!」
 セラの声が聞こえる。
 しかし、声がする前から敵が来ていることは気づいていた。
「大丈夫です。」
 しかし、後ろの敵が攻撃することはなかった。
 既に倒れている。
「もう斬りました。」
「す、すごい……。」
 こちらは一応剣豪将軍足利義輝の生まれ変わりだ。
 もうあまり記憶は残ってはいないのだが、剣術は体が覚えていた。
 まぁ、完璧ではないが。
 これまではあまり注目を浴びたくないので、控えめに戦っていたが、もう隠す必要もないだろう。
「……気になるな。」
「どうした!?ジョナサン殿!?」
 ローゼンが近づいてくる。
「いえ、少しうまく行きすぎている気がして。相手は教団がついてますし、ルーゼン殿が指揮をとっていると考えると何か相手に策があるのではないかと。」
 予めの調査で神聖帝国襲撃を企んでいた教団の部隊は一部がこちらに合流していることは判明していた。
 するとローゼンはしばらく考えてから口を開く。
「おう。難しいことはよくわからねぇが確かに兄貴なら、何か仕掛けてくると思うぜ。ここは俺達に任せて、お前はアルフレッド様の所へ行ってきな。」
 なるほど、弟であるローゼンが言うのなら本当に何かあるかもしれない。
 急いで向かうとしよう。
「ありがとうございます。では。」


 順調すぎる。
 中央はうまく敵を押し、もうすぐ突破出来そうな勢いだ。
 両翼も上手くやってくれている。
「どうした?アルフレッド?」
「いや、少し違和感が……。」
 だが、一体何があるというのだろうか。
 俺が敵なら……。
「っ!まさか!地図をくれ!」
 近くにいた者に地図を持ってこさせる。
 地図を見て、最悪の事態を想定する。
「いや、流石に……。だが……。」
「おい!一体どうしたと言うんだ!?」
 流石にこちらの様子が気になったのかジゲンが疑問を口にする。
「伝令!レインの方はどうなっている!?」
「はっ!にらみ合いが続いており、まだ、戦は始まっておりません!」
 レインの方には遠話水晶で適時連絡を取れるようにしていた。
 そして、まだ戦闘が始まっていないというのならもはや確定だろう。
「ジゲン。敵はこちらと同じことを考えてるぞ。」
「どういうことだ?っ!まさか!」
 戦場を見渡す。
 敵中央はもはや崩れはじめており、圧倒的優勢である。
「あぁ。相手もアナテル方面の部隊をこちらに回してきているぞ。」
 しかも敢えてタイミングをずらし、兵が疲弊したタイミングや、この本陣と味方部隊が引き離されたタイミングで挟撃しに来る。
 まだ、現れていないが必ずや来るだろう。
 なぜならこのような手口を俺は知っている。
「くそ!セイルズめ!」
「一体どこから現れるんだ!?」
 ジゲンも地図を見る。
「わからん。候補地が多すぎる。だが、この本陣を動かして対応して時間稼ぎをすれば、勝てる。本隊と合流すれば敵の別働隊よりも兵力は勝るはずだからな。」
「なるほどな……。」
 しかし場所がわからない。
 一か八かで動かすのはリスクが高すぎる。
 かと言って現れてから動いたのでは遅すぎる。
 一体どうすれば……。


「急げ!」
 林道の中を走る。
 違和感を感じ、そのことをアルフレッドに伝えるために少数の手勢を率いて走っていた。
「ジョナサン様!一体何が!?」
「恐らくだが、敵も部隊をこちらへ回している!」
 恐らく今がベストタイミングである。
 挟撃するならば本陣と主力が離れた今がチャンスだ。
 アルフレッドがそのことに気付いていない可能性もある。
 だから急いでいるのだ。
「っ!誰だ!」
 すると先頭を走っていた者が馬を止め、左の林を見つめる。
 剣に手をかけている。
 馬を止め、そちらの方を見ると林の中に無数の人影があった。
「ちっ!気づかれたか!全くツイてない!」
「ですが隊長!敵は少数です!全滅させましょう!」
 林の中に隠れていた無数の敵が出てきた。
 恐らく挟撃しようとこちらの方面に来た敵の別働隊だろう。
「おい。今すぐ全員で散らばってこのことをアルフレッド様に伝えろ。もし、本陣にたどり着けなさそうなら火でも放てば嫌でも気づくだろう。それに運が良ければ敵も死ぬ。」
「ジョナサン様は!?」
 馬を降り、剣を抜く。
「全員。短剣のみを携帯しろ。剣は地面に刺しておけ。ここは俺が食い止める。」
 仲間達は戸惑いを隠していない。
「良いからいけ!早くしろ!」
 すると仲間たちは多少戸惑いつつも剣を地面に刺し、馬を走らせた。
「逃がすな!追え!」
「させん!」
 弓を構えた敵兵に剣を投げて殺した。
「あいつらを追いたければま俺を倒してからいけ。ただではやられ無いがな。」
 背負っていた弓も地面に置き、地面に刺さっていた剣を抜き、構える。
「全員で囲んで殺せ!」
 敵の少し太った隊長が号令を出すと即座に囲まれた。
(では剣豪将軍の本気を出すとしようか!)

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