王国再興物語〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

戦仕度

「各方面に許可とれました。それとアナテル国が援軍を派遣してくれるようです。神聖帝国も予定を変更し、防衛に専念するとのことです。」
 ジョナサンが戻ってきて報告する。
「それはありがたいわね。ありがとう。じゃあ一度状況を確認しましょうか。」
 ヤンの方へ目配せし、地図を広げさせる。
「まず、儂らはここ。あずまの国の西端にいます。ここより東に数キロいった所に元王都だったところがあります。」
 地図に目印となる駒を置いていく。
 青は味方で赤は敵だ。
 自分達の拠点部分には青の駒が置かれている。
 元王都の部分は赤の駒が置かれた。
「この地方の特性として、山岳地帯が多く、基本的に人口が少ないので、動かせる兵力も少ないです。そして、平原も少ないので大兵力を動かすには不向きと言えましょう。」
 確かに地図を見ると平原の部分は全体の3割と言ったところだろう。
 元王都はその数少ない平原に位置していた。
「そして、数多の勢力がおり、敵味方はとても複雑で全てを把握しきれておりません。ですが、我らの周囲の勢力とは皆、友好関係を築くことができております。」
 青色の駒を置いていく。
「そして、今王都を治めているのはかつてクーデターを起こした者の子孫で剛の者と知られるマトウと言われる者の勢力下で、その周囲の者も付き従っておりますが、の者の求心力は低く、纏められていない状況です。」
 元王都の回りへ赤の駒を置いていく。
「この地方は未だ王家の威光は高く、今、若が名乗りを上げれば多くのものが付き従うでしょう。しかし、最も近くの敵勢力がとても巨大で、今確実に味方になると思われる勢力のみでは少々、心元無いですな。」
 先程青の駒をおいた近くに、大きな赤の駒を置く。
 兵力の数もそうだろうが、そこは大きな平原があり、かなりの兵力を動かせる土地だった。
 つまり、単純な兵力差で負けており、且つ平野での野戦となると流石に分が悪い。
 するとジョナサンが口を開く。
「アナテルからの援軍はまだ数日かかります。その前哨戦としてこいつらを叩いておけば、周辺の日和見を決めている勢力もなびき、援軍も難なくこちらに来ることが出来るでしょう。こちらが用意できる兵力はおおよそいくらぐらいでしょうか?」
 するとヤンはしばらく考え込む。
「……そうですな。多く見積もって1500。少なくても1000は集まるでしょう。敵は3000から3500は見ておいた方が良いでしょうな。」
 つまり、倍の兵を野戦で打ち破らなくてはならないというわけだ。
 こちらの兵は一騎当千の強者だが、いくらなんでも無理な気がする。
「なるほど、この敵の近くで我らと友好的な勢力は?」
「この敵勢力を挟んで一つ。ですが、抱える兵も少なく、弱い。それにこの戦場へは少し距離があるので来ることは出来ないでしょう。」
 青色の駒を先程おいた赤色の駒の敵を挟むように置く。
「なるほど。……セラ様。」
「は、はい!」
 急にふられる。
 思わず敬語になってしまった。
「後は任せました。私は少々外します。」
 そう言うとそのまま外へと出ていってしまった。
「ちょ、ちょっと!あ、ローゼン殿!連れ戻して来てください!」
「……ぐぅ。」
 寝ている。
 今度は呼び掛けても起きない。
「……もういいや。」
「……大変そうですな。」
 ヤンに同情される。
「ふぅ。アルフレッド様の気持ちが少しは理解できた気がします。」
「あなた方の主でしたか。さぞや立派な方なのでしょうな。」
 すると隣で話を聞いていたジゲンが興味を示す。
「そのアルフレッド殿の話を聞かせてくれ!同い年でどれ程の死線を潜り抜けてきたのか気になる!」
 このジゲン殿は長らく隠されてきた存在なので、外の世界には憧れが強いのだろう。
「えぇ、良いですよ。」
 私は全てを話した。
 フレン様から聞いていたことも含めて知っていることを全て。
 しかし、待っていたのは少し意外な反応だった。
「急な高熱?まさか……。いや、流石にそれは……。」
「ジゲン殿?」
 声をかけると我に帰ったようだった。
「あ、あぁすまない。気にしないでくれ。なんにせよ、一度話して見たいな。」
「ふふ。きっと仲良くなれると思いますよ。」
 そして地図へと視線を移す。
「では、この戦いをどうするか考えましょうか。」
「そうですな。我々は野戦の経験どころか部隊を指揮したことがあるものが少ない。こういったところはそちらに任せましょう。」
 地図を見る。
 やはり、何もない平原で、数が不利、地形的にも隘路あいろもなく少数で打ち破るような策は思い付かない。
「では、こうしましょう。やはりこういう数的に不利な場合。敵の総大将を討つのがセオリーでしょう。まずは、最精鋭部隊500を編成します。これはここの里の者と私達で編成されます。この部隊を中央に配置し、両翼に残りを均等に分けて2つ。合計3つの部隊を配置します。」
 青の駒を置き、説明する。
 つまり中央500。
 両翼に250〜500となる。
「相手がどういった戦略をとってくるかは細かくはわかりませんが、恐らく数に物を言わせて、包囲殲滅しようとして来るでしょう。」
 赤の駒を置いていく。
「ですが、こちらは中央が厚く、両翼が薄い、相手にとっては包囲しやすい陣形です。が、中央がかたいので、敵も中央が疲弊しやすくなり、敵両翼は後退するこちらの両翼を追撃し、次第と戦線が薄くなっていくでしょう。そこで頃合いを見計らって中央、もしくは敵軍の薄くなっている部分を突破し、後方にあると思われる敵本陣を撃破します。」
 駒を動かしつつ説明する。
 正直口下手な方なので、わかってくれたかどうか心配だったが大丈夫なようだ。
「なるほど。それなら。」
「すごいですね!セラ殿!流石です!」
 そこまで誉められるとは。
 まぁ、総大将を狙うのは王国脱出戦の時のアルフレッド様の策を真似たものなのだが。
「しかし、当日相手がどういった陣形をとるかどういった行動をとってくるかは不明です。勝てるとは言えません。恐らくこれが最善の戦い方でしょう。」
 最後に保険をかけておく。
 流石に責任重大すぎるからだ。
「そうですな。我らも準備に移りましょうぞ。」
「あぁ。そうだな。」
 2人はそのまま外へと出ていった。
「はぁ。疲れた。」
「……ぐぅ。」
 隣を見ると気持ち良さそうに寝ているローゼン。
 流石に腹が立ったので、腹を一発殴っておく。
「がはっ!」
 流石に目が覚めたようだが、何も言わない。
 しかし、ローゼンも状況を理解したようだ。
「これは、すまない。」
「もう知りません。」
 しかし、これでもローゼンは我らの大事な切り札である。
 この失態の分を次の戦で取り返してもらうとしよう。

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