王国再興物語〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

刀の誓い

「はあっ!」
 こちらが繰り出した槍は難なく避けられた。
 すると狙っていない方の敵が上段から攻撃しようと振りかぶっているのが見えた。
 咄嗟に後ろに退き距離をとる。
 やはり手練れである。
 一対一なら勝てるレベルの相手だっただろうが、2人になると連携をとられ一気に不利になる。
 最強の名は伊達では無いようだ。
 こちらも竜騎兵隊の副長としてかなりの実戦と経験を積んできたはずなのに、この調子では後続の部隊も被害は甚大だろう。
 隣の2人もかなり苦戦しているようである。
 いや、ジョナサンは辛うじて優勢のようだ。
「隙あり!」
 等と考えていると今度は相手から仕掛けてきた。
 2人の同時攻撃。
 槍を薙ぎ払い牽制する。
「ジョナサン!結構きついんだけど!?」
「私も同じ状況です!ここはローゼン様に賭けましょう!私達は現状の維持を!」
 向こうも向こうで善戦はしているようだが、決められていないようだ。
「ふふ、久々だ!こんな強者とやりあえるのは!」
「えぇ、儂も少々本気で行かねばならないようですな。」
 ローゼンの状況はというと、まだ小競り合いのような状態で互いに本気を出していないようだった。
 しかし、そう思った瞬間、相手の老人の方が一気に距離を詰め、ローゼンに斬りかかる。
 ローゼンはそれを難なく斧で受け止め、老人の腹に蹴りを入れようとするが、後ろに退かれかわされる。
 間髪入れずに今度はローゼンの方が距離を詰め、何度も攻撃するが全て防がれている。
 老人とは思えない動きである。
「ぐっ!」
 すると老人がローゼンの腹部に一発拳を入れると、ローゼンが一瞬怯んだ。
 その隙を見逃さず反撃する老人。
 しかしローゼンも一旦下がり距離を取る。
「これは、手加減していられないようだ。」
「では、こちらも本気で行かせてもらいましょうかな。」
 互いに殺気を放つ。
 周りの者もあまりの殺気に気付き手を止める。
 恐らくこのままぶつかればどちらかは死ぬだろう。
 そう思える程の気迫である。
「爺!」
 遠くから声が聞こえ、老人の方の殺気が消える。
 それに気付きローゼンも殺気を収めた。
 すると向こうから馬にのった若者が現れた。
「その方法は駄目だと何度言ったらわかるんだ!?」
「しかし、これは必要なことです。」
 老人は刀を納めそちらへと向く。 
 周りの者も全員武器を収めた。。
「だからその考え方は古すぎる!」
「しかし……。」
 すると若者はこちらの視線に気付いたのか、馬を降りて近づいてきた。
「申し訳ありません!傭兵として、依頼主の実力を計るため、このようなことをすると言う決まりらしく、いつもこのようにやっているのです。やめるように言っているのですが……。」
 するとジョナサンが近づいてきた。
「構いません。それは分かっていたので、幸いにも死者は互いに居ないようですしね。それより、貴方は?」
 どうやら事前にこういう状況になることは予想していたようである。
「あ、申し訳ありません。私は……。」
「若!」
 名乗ろうとしていた若者の言葉を遮り、老人が割って入ってくる。
「立ち話もなんですし、まずは我らの拠点へどうぞ。ご案内します。」


「ここが神刀派の拠点ですか。」
 山間の中に無数の畑と家屋が立ち並んでおり、平原の多い帝国や王国では決して見られない風景だ。
「ええ、ここの歴史は古く、500年近くにはなるそうです。」
 老人の紹介を受けつつ町へ入っていく。
 かなり古い。
 恐らく大陸では一二を争う歴史の深さだろう。
「では、こちらです。」
 少し大きめの館へ案内される。
 言われるがままに入る。


「では、自己紹介致しましょう。儂は神刀派の棟梁。ヤンともうします。」
 自己紹介を受け、こちらも自己紹介とこちらの事情を軽く話した。
「なるほど。帝国相手に……。」
「はい。そのためにはあなた方のお力添えが必要なのです。」
 ジョナサンが積極的に話を進める。
「私は反対だ。」
「若。」
 するとヤンの隣に座っていた若者が口を開く。
「あ、あの。」
「何かな?セラ殿?」
 手を上げ、ヤンに質問する。
 別に手を上げる必要はないのだが、上げておく。
「若って、呼ばれてますけどどう言うことなんです?」
 するとヤンはため息をついた。
「仕方はありません。説明致しましょう。」
 ヤンの説明によると。
 50年程昔、この辺り一帯は東の国として1つの国があったそうなのだ。
 歴史も深く、多数の武装勢力を家臣として抱え、活躍に応じ、土地を与えるという制度で続いていたそうなのだが、少し前に更に東にある国から侵略を受け、防衛には成功したものの、戦に出た武装勢力達に与えることが出来る土地を新たに手にいれたわけでは無いので、家臣たちの不満が爆発。
 有力家臣たちが謀反を起こし、国王が殺されたという。
 その後は群雄割拠する、荒れ果てた時代になり、この一帯はもはや国としては成り立っていない状態で、他国からはいい的なのだが、山間にある土地ということで欲しがるものもおらず、長年この状態が続いていたらしい。
「そして、私はまだ、幼き頃、最後の王にお仕えしていた小姓でありました。ここにいるジゲン・ワン様はその王族の末裔であります。」
 ヤンの説明によると。ジゲンの母は最後の王の孫娘だったらしく、遺言により、国が滅ぶ際に城から連れ出し、自分の出身地である現在地まで、逃げ延びてきたというのである。
「私達には刀の誓いと言われる儀式があり、こう刀の鍔と鞘をぶつけ音をならすというものがあり、我らはこれをしたら必ず約束を果たします。」
 刀を鞘から少しだけ出し、そして戻す。
 すると、かちゃんと音がなった。
 これを刀の誓いというらしい。
 最後の王に対し刀の誓いをしたらしく、生きている間は必ず王族を守ることを誓ったらしい。
 なるほど。守り抜くため、周りに生きていることを知られないために先程は名乗らせないようにしたのか。
「私は最後の王族として、私の手にこの国を取り戻したい。今はその準備で忙しいのだ。そなたらに手を貸すことは出来ん。」
 するとジョナサンはとんでもないことを言い出した。
「では、その東の国の再興、我々も助力しましょう。我々への協力はその後はということでどうでしょうか?」
「え?ジョナサン?流石にそれはアルフレッド様とかフレク様とかに許可を……。」
「そのような暇はありません!それにこれは我々の目的のデモンストレーションにもなりそうなので、意味のないことではありません!私は直ぐに遠話水晶で事の次第を皆様に伝えて来ます!」
 するとジョナサンは立ち上がり部屋を出ていった。
「あ!ちょっと!」
 この場には私とローゼン、そしてヤンとジゲンのみが残された。
「まだ、向こうの返答を聞いてないんだけど……。」
「えぇ、まぁ、こちらとしては願ったりかなったりなので、ありがたいのですが?爺、良いよな?」
「ええ、構いませんとも。」
 隣のローゼンを見るとしっかりと……寝ている。
「……ローゼン殿?」
「……あ、いや。起きてます。起きてますとも。それで、あの手練れの老人の名前がヤンでしたな。では、隣の若者は?」
 最初から寝ていたようだった。
 この2人のまとめ役は骨が折れそうである。

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