王国再興物語〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

束の間の休日 宿屋編その2

「では、アルフレッド様、お湯の用意が整いましたのでお風呂へどうぞ。」
 流石はセラである。
 用意がとても早い。
「ありがとう。では入ってくるよ。」
 そう言い、風呂へと向かう。


「はぁー。生き返るぅ。」
 つい情けない声を出してしまう。
 しかし仕方ない。
 ここ数日まともに風呂に入れていなかったのだから。
「しかし、セラやセインももう少し砕けた感じできてほしいんだけどなー。」
 前にも言ったが俺にとってはもはや家族のような存在である。
「アルフレッド様。」
「は、はい!」
 つい敬語で答えてしまった。
 先程の言葉を聞かれていないことを祈る。
「お背中お流し致します。入ってもよろしいでしょうか?」
「駄目です!」
 セラは相変わらずである。
 先程、家族のようなものだからと話したばかりなのに。
 まぁ、それがセラのいいところでもあると思う。
「な、何故でしょうか?」
「さっきも言ったけど俺に対してそういうのはしなくていいから!本当に!」
 セラに裸を見られたら恥ずかしくて100回は死ねる。
 というかセラに男性経験がとかって言ったけど実年齢40近い俺が女性経験無いんだから何も言えなかったわ。
「そ、そうですか?」
「そうです!」
 なんだろうセラと暮らしていると心労が絶えない気がする。


 風呂を上がると軽い食事が用意されていた。
 セラは本当になんでもできる。
 ただ恋愛に関しては少し、いやかなり疎いようだ。
「アルフレッド様、お食事が出来上がっております。もう夜遅いので、軽いものになりますが。」
「ありがとう。でも本当にそんな気を使わなくていいから。俺達は……仲間なんだから。」
 言葉に気をつける。
 家族と言ったら先程はパニックになってしまったからな。
「畏まりました。」
 本当にわかっているんだろうか。
「じゃあ頂きます。」
 食事はすぐに作れる簡素なものだが、一つ一つがしっかりと作られており、とても美味しいものであった。
「うん、とても美味い!」
「ありがとうございます。」
 箸が進む。
 いや、箸はこの世界に無いのだが。
 あっという間に食べ終わってしまった。
「ごちそうさま。美味しかったよ。」
「光栄の限りにございます。」
 やはり、そのスタイルはやめられないようである。
「じゃあ俺はちょっと用事があるから外に出るよ。」
「では、お供します。」
 武器を取り、ついてこようとする。
「今回はついてこないでくれ。」
 セラを静止する。
「しかし、護衛もつけずに……。」
「大丈夫。少し夜風にあたって来るだけだから。」
 セラも武器を置き、納得したようである。
「左様ですか。」
「うん。セラは風呂にでも入ってゆっくりしてるといいよ。」
 そう言い残し部屋をあとにする。
 恐らくセインの手勢が遠くから見守ってはいるはずだから心配はいらないだろう。
 まぁ、本当は夜風に当たるだけではなく、宝物庫の情報を集めるためなのだが。


「ただいま。」
 まるで嫁が待つ家に帰ってくるかのように挨拶する。
 が、返事はない。
 部屋を見回すとどうやら風呂に入っているようである。
 セラのことなら扉の前で待っているかとも思ったのだが。
 まぁ、それなりに時間がかかったからな。
 しかし……。
「風呂か……。」
 まずい。
 色々と想像してしまう。
 サ○ラ大戦シリーズなら体が勝手に風呂へと向かうのだろうが、流石にそれはしない。
 が、男たるもの覗きたくなってしまう。
「いやいや。流石にそれは駄目でしょ。」
 俺は荷物を置き、寝る準備に入る。


 セラも風呂から上がり、今日はもうすることがなくなったので、寝ることになった。
 しかし、風呂上がりのセラと一緒のベッドに入るなど、緊張して全く寝付けないでいた。
「アルフレッド様。」
「は、はい!」
 急に声をかけられびっくりした。
 しかも互いに背を向けているので相手の状況がわからないのも影響しているり
 もしや緊張して眠れないことがバレたのか?
「神樹の雫のことなのですが、本当に効果はあるのでしょうか?」
「あぁ、そのことか。」
 俺も流石に女神の言うことを鵜呑みにするのもどうかと思い自分でも調べた。
「俺も実は調べてみたんだ。今更だが流石におとぎ話を信じて命をかけるのもどうかと思ってな。調べてみるとどうにもおとぎ話で済ませられる内容じゃないんだよな。」
 神樹の雫に関する記述についてはこうだ。
 はるか昔、西の大陸から開拓民として俺等のご先祖様が来て、この大陸に入植した。
 この大陸はとても厳しい環境だったらしく、入植は中々うまく進まなかったらしい。
 そのことを不憫に思った西の大陸にいるという神が様々な道具を貸し与えてくださった。
 矢を放てば必ず当たるという弓、刃こぼれすることは絶対にない、一振りで大木を切り倒せる剣、どんな病も治す薬。
 この貸し与えてくださった道具を人々は神具とよび、神聖化した。
 その神具により、開拓はどんどん進んだという。
 しかしある日開拓民のリーダー、そして象徴でもあった人物がある日魔獣に食い殺されたことがあった。
 皆のリーダー的存在であり、尊敬の対象でもあったリーダーを失ったことと、飢饉が続いた事により、士気が下がり、開拓を諦める雰囲気が出てきたとき、神が現れ、その手に持っていた瓶から1滴そのリーダーの亡骸にかけるとたちまち傷が治り、目を覚ましたという。
「そして、そのリーダーという人物がエルドニア王国の初代国王になった。実際に家系図を辿っていくとその人物に当たるんだ。それに、その逸話にあるような神具も王国にはあるんだ。」
「なるほど、神話と現実が重なっているから信憑性があるというのですね。」
 実際には他にも神樹の雫に関する資料は出てきたのだが、そこまで話すと夜が明けてしまう。
「納得出来たか?」
「はい。ありがとうございます。」
 元々納得はしていたのだろうが、やはり確かめておきたかったのだろう。
「さ、明日も明日でやることはある。早く寝よう。」
「はい。おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみ。」
 と言いつつも全く眠れないのであった。
 セラは寝られているのだろうか。

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