束の間の休日　宿屋編その1

「ごめんねぇ今は部屋が１つしか空いてないんだよねー。」
　俺とセラの２人は近くの宿に来ていた。
　俺はともかくセラは帝国の人間なので正体がばれそうなので、フードつきの外套を着てもらっている。
「そうですか、では別の宿を……。」
「何故ですか？」
　セラが真顔で聞いてくる。
　一緒の部屋は流石に無理だろう。
「いや、流石に一緒の部屋は不味いでしょ。」
「何故でしょうか？護衛もしやすいので最適かと思いますが。」
　どうやら本気で言っているらしい。
　流石に若い男女が２人きりで同じ部屋で寝泊まりするのはよろしくない。
　そういえば母上はセラと同じ部屋で暮らしていたと聞いた事があるが、それと同じ感覚なのだろうか。
　というか俺が耐えられなさそうである。
「女将さん。確認ですけどベッドは１つですよね？」
「まぁ、そうだね。」
　と聞くと流石のセラも気づき始めたようである。
　顔がだんだん赤くなってきている。
「な？一緒のベッドで寝るのは流石に……。」
「いえ、私のわがままでアルフレッド様の身に危険が生じてはフレン様に顔向け出来ません。ここに泊まりましょう。」
　そう言うとセラは懐から金を取り出しカウンターへと置く。
「これで泊まれるだけ。用事が済んだら出ていくからそのときにお釣りはもらいます。」
　そう言うとセラは階段を上っていく。
　後ろ姿からでも恥ずかしがっているのが分かる。
　耳が真っ赤である。
「ま、毎度。あ、部屋は305号室だよ！ほら鍵！」
　もう既にセラはいない。
「あ、自分がもらいます。」
　そして鍵を受け取り、セラを追う。


　部屋に入るとまた、１つ問題が生じた。
　ここの宿はかなり高級らしく一部屋に１つトイレと風呂が用意されている。
　ということは。
　セラがすぐそこで裸になるということである。
　駄目だ。
　想像しただけで頭がくらくらしてくる。
　前世から合わせれば中身は40近い童貞のおっさんには少しきつい。
　まだ、ベッドをどうするかとかも決まっていないのに。
「では、ベッドついてはアルフレッド様がお使いください。私は床で寝ますので。」
「え、いや待ってくれ。」
　荷物を置き、落ち着き始めようとたセラを制止する。
「流石に女の人を地べたに寝かせるのは……男として許せない、セラがベッドで寝てくれ。」
　もしや自分が床で寝れば大丈夫と思って強行したのだろうか。
「いえ、主を床に寝かせるなど従者としてありえません！どうしてもというのなら……。」
　待て。
　何かとんでもない事を言おうとしている気がする。
「二人で寝るしかありません！」
　何だかセラももう既にヤケになっている気がする。
　こう言えば俺が引くと思ったのだろうか。
　セラの両肩に手を置く。
「セラさん。落ち着きなさい。」
「は、はい……。」
　顔が真っ赤になりつつも落ち着きを取り戻したようである。
「いいか？もはやお前やセインは俺にとっては無くてはならない旅の仲間であり、家族も同然だ。もちろん無理して家族のように接しろとは言わない。ただ、家族がそんな辛い目に合うのをよしとは出来ないんだ。」
　結構真面目に誠意を持って話した。
　話したんだがセラの様子がおかしい。
　まだ顔が真っ赤である。
「か、家族……私とアルフレッド様が……つまり……。」
「セラさん！？」
　セラにこの手の話題は少し早いようだ。
　いや、でも20歳だよな？
　流石に男性経験がなさすぎじゃないか？
　……いや、人の事は言えないんだが。


　結局話し合いの結果二人で寝ることになった。
　セラも落ち着きを取り戻したようで大人しくなった。
　しかし意識し始めてしまったせいで少しぎこちない。
　寝るときはできる限り距離を取り寝ることになった。
　まぁ、こちらとしては嬉しい限りではあるのだが。