振り返れば婚約者がいる!~心配性の婚約者様が、四六時中はりついて離れてくれません!~
4
「クロエ、実は来週から、少し忙しくなりそうなんだ……」
当り前の顔をして我がレノックス伯爵家で夕食を食べながら、アーサーが言った。
わたしはポークソテーを一口大に切りながら、「そうですか」と生返事をする。
アーサーが忙しいと言って本当に忙しくなったためしはないのだ。今までの経験上、せいぜい、昼間にわたしの側に張り付けなくなる程度のことなのである。その程度のことを、世間一般には忙しいと言わないと思う。
「でも君がどこかへ出かけたいときには絶対に予定をあけるから、何かあったら必ず言うんだよ? 一人で家を出てはいけないからね。庭もダメだよ」
つくづく思うが、わたしは三歳の子供だろうか。
一人で家を出るどころか庭にも出てはいけないなんて、どれだけ心配性なのだろう。
わたしは助けを求めるようにお父様を見たけれど、アーサーに負けず劣らず心配性のお父様は、至極真面目な顔で大きく頷いた。
「クロエ、アーサー君の言うことをよく聞いて、彼がいないときは部屋の中でおとなしくしておくんだよ」
これである。
わたしは今度はお母様を見たけれど、お母様も愁いを帯びた顔で「この子の部屋に鍵をかけておこうかしら」と言い出した。
最後にすがるようにお兄様を見ると、こちらもこちらで「窓に板を打ち付けた方がいいかもしれないな」と言っている。
わたしは口をへの字に曲げて、大きめのポークソテーを頬張った。
どいつもこいつも、わたしを幼児か何かだと勘違いしているのではなかろうか。わたしはもう十八。いつ結婚してもおかしくない年齢なのだ。
……そう言えば、わたしが社交デビューをして三年もたつのに、まだ結婚式の話しも出てないわ。
周囲の友人たちは、次々に結婚している。
それなのにアーサーと来たら、結婚の「け」の字も言わない。
これは本気でわたしのことを、危なっかしい幼児だと思っているのかもしれなかった。
わたしはもごもごとポークソテーを咀嚼しながら、何気なく自分の体を見下ろした。特別胸が大きいわけでもないけれど、それなりに大人の女性の体つきのはずだ。
婚約したのがわたしが八歳の時のことだから、アーサーはわたしのことを女だと思っていないのかもしれないけれど、そこはお父様やお母様が口添えしてくれてもいいはずなのに、二人ともわたしの結婚について何も言わない。
「クロエ、夜には戻ってくるから、それまでいい子にしてるんだよ?」
っていうか、結婚しているわけでもないのに、アーサーは何故当たり前のような顔をしてこの家に帰ってくるのだろうか。
アーサーが毎日のようにこの家に帰ってくるから、これまた当たり前のようにアーサーの部屋が用意されているが、同居しているわけではない(はずである)。
第一、アーサーと結婚しても、アーサーが我が家に入るわけではない。
アーサーのウィリアムズ侯爵家は彼のお兄様が継ぐけれど、アーサーはアーサーで、ウィリアムズ侯爵家に付随しているハワード子爵の名をもらってすでにその名を名乗っている。だから、アーサーと結婚したら、わたしはハワード子爵夫人になるのだ。
「わたくしだって、一人でお出かけくらいできますわ。小さな子供ではないんですもの」
「だめだよ!」
「そうだぞ、クロエ。アーサー君の言うことを聞きなさい」
この家には、誰一人としてわたしの味方はいないらしい。
わたしはぷうっと頬を膨らませたが、わたしの小さな不満など、誰も理解してくれなかった。
当り前の顔をして我がレノックス伯爵家で夕食を食べながら、アーサーが言った。
わたしはポークソテーを一口大に切りながら、「そうですか」と生返事をする。
アーサーが忙しいと言って本当に忙しくなったためしはないのだ。今までの経験上、せいぜい、昼間にわたしの側に張り付けなくなる程度のことなのである。その程度のことを、世間一般には忙しいと言わないと思う。
「でも君がどこかへ出かけたいときには絶対に予定をあけるから、何かあったら必ず言うんだよ? 一人で家を出てはいけないからね。庭もダメだよ」
つくづく思うが、わたしは三歳の子供だろうか。
一人で家を出るどころか庭にも出てはいけないなんて、どれだけ心配性なのだろう。
わたしは助けを求めるようにお父様を見たけれど、アーサーに負けず劣らず心配性のお父様は、至極真面目な顔で大きく頷いた。
「クロエ、アーサー君の言うことをよく聞いて、彼がいないときは部屋の中でおとなしくしておくんだよ」
これである。
わたしは今度はお母様を見たけれど、お母様も愁いを帯びた顔で「この子の部屋に鍵をかけておこうかしら」と言い出した。
最後にすがるようにお兄様を見ると、こちらもこちらで「窓に板を打ち付けた方がいいかもしれないな」と言っている。
わたしは口をへの字に曲げて、大きめのポークソテーを頬張った。
どいつもこいつも、わたしを幼児か何かだと勘違いしているのではなかろうか。わたしはもう十八。いつ結婚してもおかしくない年齢なのだ。
……そう言えば、わたしが社交デビューをして三年もたつのに、まだ結婚式の話しも出てないわ。
周囲の友人たちは、次々に結婚している。
それなのにアーサーと来たら、結婚の「け」の字も言わない。
これは本気でわたしのことを、危なっかしい幼児だと思っているのかもしれなかった。
わたしはもごもごとポークソテーを咀嚼しながら、何気なく自分の体を見下ろした。特別胸が大きいわけでもないけれど、それなりに大人の女性の体つきのはずだ。
婚約したのがわたしが八歳の時のことだから、アーサーはわたしのことを女だと思っていないのかもしれないけれど、そこはお父様やお母様が口添えしてくれてもいいはずなのに、二人ともわたしの結婚について何も言わない。
「クロエ、夜には戻ってくるから、それまでいい子にしてるんだよ?」
っていうか、結婚しているわけでもないのに、アーサーは何故当たり前のような顔をしてこの家に帰ってくるのだろうか。
アーサーが毎日のようにこの家に帰ってくるから、これまた当たり前のようにアーサーの部屋が用意されているが、同居しているわけではない(はずである)。
第一、アーサーと結婚しても、アーサーが我が家に入るわけではない。
アーサーのウィリアムズ侯爵家は彼のお兄様が継ぐけれど、アーサーはアーサーで、ウィリアムズ侯爵家に付随しているハワード子爵の名をもらってすでにその名を名乗っている。だから、アーサーと結婚したら、わたしはハワード子爵夫人になるのだ。
「わたくしだって、一人でお出かけくらいできますわ。小さな子供ではないんですもの」
「だめだよ!」
「そうだぞ、クロエ。アーサー君の言うことを聞きなさい」
この家には、誰一人としてわたしの味方はいないらしい。
わたしはぷうっと頬を膨らませたが、わたしの小さな不満など、誰も理解してくれなかった。
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