振り返れば婚約者がいる!~心配性の婚約者様が、四六時中はりついて離れてくれません!~
3
「例の件だが、ようやく尻尾が掴めそうだ」
城の一角。
軍部のある棟の会議室で、アーサーの直属の上司――第三騎士団長のクライドが言った。
騎士団には五つの団に分かれており、それぞれに役割がある。
第三騎士団は主に国内で起こった犯罪の捜査や摘発を担当しており、構成されている団員の多くは貴族出身だ。犯罪の摘発ともなれば、武術だけではなく法にも詳しくある必要があり、経済環境により教育にばらつきの出やすい平民よりも、学ぶことも義務とされる貴族出身者が集まりやすいためだ。
会議室には一から五までの団長と副団長が揃っていて、難しい顔をしてクライドの話しに耳を傾けている。
「十年か……長かったな」
「ああ。上手く潜伏していたようだが、最近になって動きがあった」
「というと、十年前のあの要求は、たわごとではなかったわけか」
十年前――
アーサーは机の上に視線を落として眉を寄せる。
十年前、当時、十歳だったこの国の第二王子が、何者かに殺害された。
まだ第三騎士団の副団長の立場ではなかった十七歳のアーサーは、あの日、第二王子の護衛として側にいた。
第二王子は、母である第四妃とともに、王都から少し北にある第四妃の実家にいた。
名目上は避暑としてだったが、本当の理由は別にあった。
十年前、王都では不審な事件が立て続けに起こっていた。
それは貴族――それも高位の貴族の子息ばかりを狙う殺人事件だった。
殺害現場には決まって、一枚のメッセージカードが残されていた。
そこに書かれていた文面はすべて同じ。
――ヴェレリー王家に栄光あれ。
文面から、国王以下重鎮たちは、前王朝ヴェレリー王家の復権を望む過激派一派の仕業だと推測した。
ヴェレリー王家は百年ほど前に滅んだ王家で、最後の王は悪政の末に現在の王家フェレメント家に滅ぼされた。
そのときに国内にいた直系王族はすべて処刑されたはずだが、ただ一人、国外に嫁いでいた第二王女は無事だった。その第二王女の子孫を、再びこの国の王に担ぎ上げようとする一派がいることも、当時の時点でつかんでいた。
殺害された貴族の子息たちも、フェレメント王家にゆかりのある家の子らばかりで、王はそのうちに王子や王女たちに矛先が向くことを恐れ、事件が落ち着くまで王都から遠ざけることにしたのである。
当時、事件は王都でしか起こっていなかった。だからだろう、王都から出れば安全だと、そういう先入観が働いていた。
そして、事件は起こった。
結果的に、それが最後の事件だった。
母方の実家で過ごしていた第二王子が、何者かに誘拐されたのだ。
慌てて捜索し、見つけたときには、王子はすでに殺害された後だった。
王子が発見された場所は、打ち捨てられた古い貴族の館で、駆けつけたときには邸に火が放たれていた。
現場には王子のほかにもう一人、王子の婚約者だった少女がいた。
少女は生きていて、燃え広がる炎の中から助けることができたけれど、王子の遺体を邸の中から運び出すことはできず、火が鎮火されたのち、焼け焦げて炭化した、顔の判別もつかない子供の遺体だけが出てきた。
状況から見てそれが第二王子であることは疑いようのない事実だった。
一緒にいた婚約者の少女は煙を吸って気を失っていたけれど、一枚のメッセージカードを握りしめていた。
そこに書かれていたのは、これまでとは違う言葉だった。
――十年後、王位をいただく。
その後、貴族の子息を狙った殺人事件はぱたりとやみ、犯人であろう過激派の尻尾もつかめないまま十年の月日が経過した。
「俺たちは十年前、みすみす犯行を許してしまった。あのような失敗は、もう二度と犯すことはできない」
ダン! と机の上を殴って、クライドが言った。
「今度こそ犯人を捕まえ、この国の平和と、そして失墜した我らの信用を取り戻すのだ!!」
クライドの号令に、各団の団長と副団長が「おう!!」と声を張り上げる。
アーサーは、ほかの団長と副団長とともに「おう!!」と叫びながら、そっと、目を伏せた。
城の一角。
軍部のある棟の会議室で、アーサーの直属の上司――第三騎士団長のクライドが言った。
騎士団には五つの団に分かれており、それぞれに役割がある。
第三騎士団は主に国内で起こった犯罪の捜査や摘発を担当しており、構成されている団員の多くは貴族出身だ。犯罪の摘発ともなれば、武術だけではなく法にも詳しくある必要があり、経済環境により教育にばらつきの出やすい平民よりも、学ぶことも義務とされる貴族出身者が集まりやすいためだ。
会議室には一から五までの団長と副団長が揃っていて、難しい顔をしてクライドの話しに耳を傾けている。
「十年か……長かったな」
「ああ。上手く潜伏していたようだが、最近になって動きがあった」
「というと、十年前のあの要求は、たわごとではなかったわけか」
十年前――
アーサーは机の上に視線を落として眉を寄せる。
十年前、当時、十歳だったこの国の第二王子が、何者かに殺害された。
まだ第三騎士団の副団長の立場ではなかった十七歳のアーサーは、あの日、第二王子の護衛として側にいた。
第二王子は、母である第四妃とともに、王都から少し北にある第四妃の実家にいた。
名目上は避暑としてだったが、本当の理由は別にあった。
十年前、王都では不審な事件が立て続けに起こっていた。
それは貴族――それも高位の貴族の子息ばかりを狙う殺人事件だった。
殺害現場には決まって、一枚のメッセージカードが残されていた。
そこに書かれていた文面はすべて同じ。
――ヴェレリー王家に栄光あれ。
文面から、国王以下重鎮たちは、前王朝ヴェレリー王家の復権を望む過激派一派の仕業だと推測した。
ヴェレリー王家は百年ほど前に滅んだ王家で、最後の王は悪政の末に現在の王家フェレメント家に滅ぼされた。
そのときに国内にいた直系王族はすべて処刑されたはずだが、ただ一人、国外に嫁いでいた第二王女は無事だった。その第二王女の子孫を、再びこの国の王に担ぎ上げようとする一派がいることも、当時の時点でつかんでいた。
殺害された貴族の子息たちも、フェレメント王家にゆかりのある家の子らばかりで、王はそのうちに王子や王女たちに矛先が向くことを恐れ、事件が落ち着くまで王都から遠ざけることにしたのである。
当時、事件は王都でしか起こっていなかった。だからだろう、王都から出れば安全だと、そういう先入観が働いていた。
そして、事件は起こった。
結果的に、それが最後の事件だった。
母方の実家で過ごしていた第二王子が、何者かに誘拐されたのだ。
慌てて捜索し、見つけたときには、王子はすでに殺害された後だった。
王子が発見された場所は、打ち捨てられた古い貴族の館で、駆けつけたときには邸に火が放たれていた。
現場には王子のほかにもう一人、王子の婚約者だった少女がいた。
少女は生きていて、燃え広がる炎の中から助けることができたけれど、王子の遺体を邸の中から運び出すことはできず、火が鎮火されたのち、焼け焦げて炭化した、顔の判別もつかない子供の遺体だけが出てきた。
状況から見てそれが第二王子であることは疑いようのない事実だった。
一緒にいた婚約者の少女は煙を吸って気を失っていたけれど、一枚のメッセージカードを握りしめていた。
そこに書かれていたのは、これまでとは違う言葉だった。
――十年後、王位をいただく。
その後、貴族の子息を狙った殺人事件はぱたりとやみ、犯人であろう過激派の尻尾もつかめないまま十年の月日が経過した。
「俺たちは十年前、みすみす犯行を許してしまった。あのような失敗は、もう二度と犯すことはできない」
ダン! と机の上を殴って、クライドが言った。
「今度こそ犯人を捕まえ、この国の平和と、そして失墜した我らの信用を取り戻すのだ!!」
クライドの号令に、各団の団長と副団長が「おう!!」と声を張り上げる。
アーサーは、ほかの団長と副団長とともに「おう!!」と叫びながら、そっと、目を伏せた。
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