ファーストキスはピリッと魔法の味 ~キスは世界を救うか!?~
2. 悲しき見事な嘘
直後、重機関銃の重い銃声がビル街に響きわたり、魔物が吹き飛んだ。応援の装甲車がビルの影から魔物たちを狙い撃ちにしたのだ。
再び盛り上がるコメント欄だったが、それも長くは続かなかった。
ゲートから真っ赤な巨体の【オーガ】と呼ばれている魔物が出てきたのだ。世界各地で甚大な災厄をもたらしてきた筋骨隆々とした体躯はまさに赤鬼。まるで重機のように一歩歩くたびにズシンズシンと地響きを鳴り響かせながら装甲車に迫る。重機関銃を集中砲火させる自衛隊だったが、オーガにはすべて弾かれて全く効果が見られなかった。
急いで撤退し始めた装甲車だったが、オーガは全身に力をこめ、身の毛がよだつ雄たけびを上げると口から閃光を放つ。
パウッ!
鮮烈なレーザー光が撤退中の装甲車を貫き、爆発炎上。激しい爆炎がもうもうとビル街に上がっていった。
お通夜のようなコメント欄。
オーガは調子に乗り、次々とレーザー光を辺りに放ちだした。雑居ビルはレーザー光で斜めに切り裂かれ、崩落しながら爆発炎上していく。次々と火の海に沈んでいく駅前のビル群。
その時だった。小さな雑居ビルの一階の本屋が映像に映り、中で人影が動く。英斗は思わず息をのんだ。それは英斗が子供の頃から通っていたなじみの本屋である。お店のおばちゃんは気さくな人で、いつもおまけをたくさんくれた。英斗はこのおばちゃんのおかげで本好きになり、今や英斗を構成する血肉になっている。まさに原点ともいえる聖地だったのだ。
それがオーガのレーザーを受け爆発炎上し、火の海に沈んでいく。
「お、おばちゃん!」
英斗は真っ青になった。失ってはいけないものが目の前で燃え上がっている。それは心の奥の柔らかいところを容赦なく激しくえぐり、英斗の存在そのものを揺らした。
直後、絶望に震えるスマホの映像に、銀色に煌めく影が横切る。すると、急にオーガが苦しみだした。
え……?
一体何が起こったのか分からず、コメント欄も書き込みが止まる。
ガクッとひざをつくオーガ。
次の瞬間カメラが映し出したのは銀色のジャケットを着込んだ女の子だった。女の子はオーガから距離を保ちながら軽やかに跳び回り、手に持った棒からカチカチカチと光の筋を無数発射してオーガに当て続けている。
銃機関砲すら跳ね返す強靭な皮膚もこのレーザーには無力なようで、当たったところは焼け焦げて青い血を吹きだしていた。
『え?』『は?』『誰これ?』
コメント欄にはたくさんの『?』マークが流れていく。過去の襲来ではこんな女の子が出てきたことはなかったのだ。
女の子は仮面舞踏会で使うようなマスクで顔を隠しているが、英斗にはすぐにわかってしまう。紗雪だった。そのプリッとした紅い唇は見間違いようのない、さっきキスしたばかりの唇そのものである。
「な、何やってんだ!?」
英斗は人間ばなれした紗雪の身のこなしに唖然としながら、無意識に唇をなでていた。
オーガもやられるばかりじゃない、紗雪が着地する地点を狙ってその辺りにレーザー光を斜めに流し打ちする。
「危ない!」
英斗は青くなって叫ぶ。しかし、紗雪を真っ二つに切り裂いたはずのレーザーは銀色のジャケットに跳ね返され、近くのビルに爆炎が上がった。
「見てらんないよもう!」
英斗は駆け出す。大切な人がこの街を守るために戦っているのだ。自分に何ができるか分からないが、最悪盾にくらいはなれるだろう。
自転車に跳び乗って英斗は駅を目指した。
その頃、オーガと紗雪の戦闘はクライマックスを迎えていた。
オーガはレーザーを乱射し、紗雪は軽快な身のこなしで何とかかわす。たまに被弾するが、ジャケットに守られてギリギリ事なきを得ていた。しかし、もうジャケットもあちこち黒焦げで猶予は無くなってきている。
紗雪は一か八か、オーガの動きを読み、一直線にオーガに迫る。オーガはすかさずレーザーを放ったが、それを両腕のジャケットではじき、そのまま頭の上を飛び越えざまに手に持っていた棒を後頭部に突き立てた。
機関銃を跳ね返す鋼鉄の筋肉も、後頭部は弱点なのだろう。断末魔の叫びを上げながらオーガは倒れ、地響きをあたりに響かせた。
『マジかよ……』『スゲェ』
自衛隊も歯が立たなかった怪物を、はかなげな美少女が一撃で倒してしまった。そんな現実離れした事態に日本中が騒然とする。
映像では引き抜かれた棒がアップで映し出され、先端からは青い血が滴っていた。
『シャーペン!?』『文房具?』『そんな馬鹿な……』
コメント欄には混乱したコメントが並ぶ。
確かにそれは赤いシャーペン、学生が良く使っている見慣れた文房具だった。
オーガが倒されたのを見た魔物たちは恐れおののき、急いでゲートへと逃げていく。
紗雪はそれを眺め、ふぅと大きく息をつくと駅舎の屋根へと軽やかに飛びあがり、そのまま駅の向こうへと消えていった。
英斗が駅前に来た時にはもう勝負はついていて、ただ、消えていく紗雪の後ろ姿だけが見えただけだった。
駅前には息絶えているオーガの巨体が転がっていて、そのおぞましさに思わずブルっと身体を震わせる。
「紗雪……、お前……」
幼馴染が魔法少女ばりの活躍をして街を守ったことに理解が追い付かず、英斗は頭を抱え、宙を仰いだ。
英斗は自宅に帰ると夕食も食べずにベッドにもぐりこむ。
強引にキスした後に超人的な力を発揮したことを考えれば、力のきっかけにキスが必要なのだろう。しかし、キスで力が出るというのは全くもって意味不明であり、その荒唐無稽さに英斗はめまいすら覚えた。もしかしたら自分は選ばれた人間で、自分とキスをすると超人的な力を得られるようになっているのかもしれない、とも思ってみたが、さすがにバカバカしすぎて苦笑してしまう。
それよりも……、
『ゴメンね、英ちゃんに酷いことしちゃった』
キスの後に真っ赤になりながらそう謝っていた紗雪の言葉を思い出す。『英ちゃん』とは仲良かった時の呼び方。四年ぶりに聞いたこの言葉には紗雪の本心が滲んでいる気がするのだ。さらに、あの紗雪のチロチロとした優しい舌遣い……。英斗は真っ赤になって毛布の中に潜り込む。
そして、続く言葉、
『これでみんな忘れるわ』
これを思い出して英斗は顔をしかめる。
あの変なスプレーで自分の記憶を消そうとした……、のだろうか?
だとしたら紗雪は、自分の記憶が残っているとは思っていないことになる。
英斗はスマホのメッセンジャー画面を前に考えこむ。なぜ自分にキスしたのか、あの超人的な戦闘力は何なのか聞いてみたい。しかし、どう聞いたらいいか考えるとなかなか文面が思い浮かばなかった。
紗雪が急によそよそしくなったことと、紗雪の秘密にはかかわりがある気がする。秘密を守るために本意ではなく距離を取った。そう考えるのが妥当だったし、英斗としてもそうあって欲しかった。
紗雪は何らかの考えで自分の記憶を消した。そこには重大な理由があるだろう。それがどういうものか分からないと聞き方が難しい。せっかく再びつながった紗雪との縁。これを壊さないような聞き方をするには情報が足りなかった。
うーん、どうしたら……。
どう聞いたらいいか、英斗はその晩いつまで経っても寝付けなかった。
再び盛り上がるコメント欄だったが、それも長くは続かなかった。
ゲートから真っ赤な巨体の【オーガ】と呼ばれている魔物が出てきたのだ。世界各地で甚大な災厄をもたらしてきた筋骨隆々とした体躯はまさに赤鬼。まるで重機のように一歩歩くたびにズシンズシンと地響きを鳴り響かせながら装甲車に迫る。重機関銃を集中砲火させる自衛隊だったが、オーガにはすべて弾かれて全く効果が見られなかった。
急いで撤退し始めた装甲車だったが、オーガは全身に力をこめ、身の毛がよだつ雄たけびを上げると口から閃光を放つ。
パウッ!
鮮烈なレーザー光が撤退中の装甲車を貫き、爆発炎上。激しい爆炎がもうもうとビル街に上がっていった。
お通夜のようなコメント欄。
オーガは調子に乗り、次々とレーザー光を辺りに放ちだした。雑居ビルはレーザー光で斜めに切り裂かれ、崩落しながら爆発炎上していく。次々と火の海に沈んでいく駅前のビル群。
その時だった。小さな雑居ビルの一階の本屋が映像に映り、中で人影が動く。英斗は思わず息をのんだ。それは英斗が子供の頃から通っていたなじみの本屋である。お店のおばちゃんは気さくな人で、いつもおまけをたくさんくれた。英斗はこのおばちゃんのおかげで本好きになり、今や英斗を構成する血肉になっている。まさに原点ともいえる聖地だったのだ。
それがオーガのレーザーを受け爆発炎上し、火の海に沈んでいく。
「お、おばちゃん!」
英斗は真っ青になった。失ってはいけないものが目の前で燃え上がっている。それは心の奥の柔らかいところを容赦なく激しくえぐり、英斗の存在そのものを揺らした。
直後、絶望に震えるスマホの映像に、銀色に煌めく影が横切る。すると、急にオーガが苦しみだした。
え……?
一体何が起こったのか分からず、コメント欄も書き込みが止まる。
ガクッとひざをつくオーガ。
次の瞬間カメラが映し出したのは銀色のジャケットを着込んだ女の子だった。女の子はオーガから距離を保ちながら軽やかに跳び回り、手に持った棒からカチカチカチと光の筋を無数発射してオーガに当て続けている。
銃機関砲すら跳ね返す強靭な皮膚もこのレーザーには無力なようで、当たったところは焼け焦げて青い血を吹きだしていた。
『え?』『は?』『誰これ?』
コメント欄にはたくさんの『?』マークが流れていく。過去の襲来ではこんな女の子が出てきたことはなかったのだ。
女の子は仮面舞踏会で使うようなマスクで顔を隠しているが、英斗にはすぐにわかってしまう。紗雪だった。そのプリッとした紅い唇は見間違いようのない、さっきキスしたばかりの唇そのものである。
「な、何やってんだ!?」
英斗は人間ばなれした紗雪の身のこなしに唖然としながら、無意識に唇をなでていた。
オーガもやられるばかりじゃない、紗雪が着地する地点を狙ってその辺りにレーザー光を斜めに流し打ちする。
「危ない!」
英斗は青くなって叫ぶ。しかし、紗雪を真っ二つに切り裂いたはずのレーザーは銀色のジャケットに跳ね返され、近くのビルに爆炎が上がった。
「見てらんないよもう!」
英斗は駆け出す。大切な人がこの街を守るために戦っているのだ。自分に何ができるか分からないが、最悪盾にくらいはなれるだろう。
自転車に跳び乗って英斗は駅を目指した。
その頃、オーガと紗雪の戦闘はクライマックスを迎えていた。
オーガはレーザーを乱射し、紗雪は軽快な身のこなしで何とかかわす。たまに被弾するが、ジャケットに守られてギリギリ事なきを得ていた。しかし、もうジャケットもあちこち黒焦げで猶予は無くなってきている。
紗雪は一か八か、オーガの動きを読み、一直線にオーガに迫る。オーガはすかさずレーザーを放ったが、それを両腕のジャケットではじき、そのまま頭の上を飛び越えざまに手に持っていた棒を後頭部に突き立てた。
機関銃を跳ね返す鋼鉄の筋肉も、後頭部は弱点なのだろう。断末魔の叫びを上げながらオーガは倒れ、地響きをあたりに響かせた。
『マジかよ……』『スゲェ』
自衛隊も歯が立たなかった怪物を、はかなげな美少女が一撃で倒してしまった。そんな現実離れした事態に日本中が騒然とする。
映像では引き抜かれた棒がアップで映し出され、先端からは青い血が滴っていた。
『シャーペン!?』『文房具?』『そんな馬鹿な……』
コメント欄には混乱したコメントが並ぶ。
確かにそれは赤いシャーペン、学生が良く使っている見慣れた文房具だった。
オーガが倒されたのを見た魔物たちは恐れおののき、急いでゲートへと逃げていく。
紗雪はそれを眺め、ふぅと大きく息をつくと駅舎の屋根へと軽やかに飛びあがり、そのまま駅の向こうへと消えていった。
英斗が駅前に来た時にはもう勝負はついていて、ただ、消えていく紗雪の後ろ姿だけが見えただけだった。
駅前には息絶えているオーガの巨体が転がっていて、そのおぞましさに思わずブルっと身体を震わせる。
「紗雪……、お前……」
幼馴染が魔法少女ばりの活躍をして街を守ったことに理解が追い付かず、英斗は頭を抱え、宙を仰いだ。
英斗は自宅に帰ると夕食も食べずにベッドにもぐりこむ。
強引にキスした後に超人的な力を発揮したことを考えれば、力のきっかけにキスが必要なのだろう。しかし、キスで力が出るというのは全くもって意味不明であり、その荒唐無稽さに英斗はめまいすら覚えた。もしかしたら自分は選ばれた人間で、自分とキスをすると超人的な力を得られるようになっているのかもしれない、とも思ってみたが、さすがにバカバカしすぎて苦笑してしまう。
それよりも……、
『ゴメンね、英ちゃんに酷いことしちゃった』
キスの後に真っ赤になりながらそう謝っていた紗雪の言葉を思い出す。『英ちゃん』とは仲良かった時の呼び方。四年ぶりに聞いたこの言葉には紗雪の本心が滲んでいる気がするのだ。さらに、あの紗雪のチロチロとした優しい舌遣い……。英斗は真っ赤になって毛布の中に潜り込む。
そして、続く言葉、
『これでみんな忘れるわ』
これを思い出して英斗は顔をしかめる。
あの変なスプレーで自分の記憶を消そうとした……、のだろうか?
だとしたら紗雪は、自分の記憶が残っているとは思っていないことになる。
英斗はスマホのメッセンジャー画面を前に考えこむ。なぜ自分にキスしたのか、あの超人的な戦闘力は何なのか聞いてみたい。しかし、どう聞いたらいいか考えるとなかなか文面が思い浮かばなかった。
紗雪が急によそよそしくなったことと、紗雪の秘密にはかかわりがある気がする。秘密を守るために本意ではなく距離を取った。そう考えるのが妥当だったし、英斗としてもそうあって欲しかった。
紗雪は何らかの考えで自分の記憶を消した。そこには重大な理由があるだろう。それがどういうものか分からないと聞き方が難しい。せっかく再びつながった紗雪との縁。これを壊さないような聞き方をするには情報が足りなかった。
うーん、どうしたら……。
どう聞いたらいいか、英斗はその晩いつまで経っても寝付けなかった。
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コメント
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コメントを書くブラックファントム
オーガも倒せるような力をどうやって得たのか続きが気になります。
主人公の推理で合ってるのかな?